ハリー・ポッター -Harry Must Die-   作:リョース

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6.第一の試練

 

 

 

 ハリーは大きく息を吸って、ゆっくりと吐いた。

 選手が待機するために設営されたテントの中、ハリーは組み立て式の椅子に腰かけて気を落ち着けていた。

 第一の試練がドラゴンであることは、代表選手の間では周知の事実だ。

 フラー・デラクールは『魅了呪文』がうまく目に当たりますようにとぶつぶつ祈っており、クラムは『結膜炎の呪い』を確認しているのか、ときおり杖の周りに魔法式が構築されている。

 ソウジローはカーペットの上で正座して目を閉じ、瞑想しているようだ。ローズマリーは鼻歌を歌いながら、杖をガンアクションのようにくるくると回している。ふたりとも、気持ちが完全に水平になっているらしい。恐ろしい集中力だ。

 ブレオは椅子に座って机に脚を投げ出しながら、目を瞑って鼻歌を歌っている。セドリックは自身の杖を最後に点検しているようで、無言のままだ。

 常軌を逸して危険な魔法生物ではなかったことが救いだが、それでもドラゴンは十分に脅威である。そうでなければ、実在の魔法生物がマグルにまで知られているわけがない

 過去、魔法族が隠蔽しきれずマグルにすら被害が出ているということ。魔法族の手におえない危険な生物であることの何よりの証拠だ。

 

「ハリー、いる?」

「大丈夫かい?」

「ハーマイオニー? ロン?」

 

 テントの隙間から、ハーマイオニーとロンの呼び声が聞こえる。

 心配して来てくれたのだろうか。

 隙間を開いて見てみれば、やはり心配そうな顔を浮かべた二人が佇んでいた。

 

「ハリーなら大丈夫だと思うけど、でもドラゴンだろ? やっぱり心配でさ」

「危なくなったら棄権しても恥じゃないのよ」

 

 二人が来てくれたことで、ハリーは胸の奥がじんわりと暖かくなるのを感じた。

 にっこり微笑んだハリーは、心の奥から湧き出てくる優しい気持ちを込めて、力強い握り拳を二人に向かって突き出した。

 

「大丈夫。ぼくが負けるはずないだろ」

「もうっ!」

 

 ハーマイオニーがハリーを強く抱きしめ、その頬にキスをした。

 ロンも笑って、ハリーの頭をくしゃくしゃと撫でる。そんなロンを抱き寄せ、ハリーは愛しい二人を強く抱きしめた。勝機が見えているとは言っても、不安がないはずはないのだ。

 もし運悪く失敗したら、もし不運にも手違いがあったら。

 この暖かさを二度と得られなくなると思うと怖いが、それでも勇気が湧いてくる。

 

「若き恋人たち……。素敵ざんすわ」

 

 だからハリーは、その気分に水を差してきた新聞記者を殺してやろうかと思った。

 見るからに殺気を飛ばすハリーに怯んだのか、リータ・スキーターは息を呑んだ。

 しかし彼女も、悪意を浴びることにかけてはプロフェッショナル。なにせ殺意を抱かれるなど彼女にとっては日常茶飯事なのだから。

 

「若き少年少女の恋模様! 男の子一人に女の子二人……どろどろね! これはイイわぁ、記事が飛ぶように売れるザマス! んあ、もし競技が悲劇に終われば今の写真がトップを飾るわね」

「おい、女」

 

 どこか興奮した様子のリータ・スキーターに対して、クラムから低い声がかけられる。

 がっしりした体つきの男が睨みつけてドスを利かせた声で話しかけてくるのだ。

 さぞ恐ろしい事だろう。

 

「ここヴぁ選手関係者以外、立ち入り禁止のはずだ。友達は例外だがな。出ていけ」

「あらん……でも別にいいざんしょ、誰もが知りたいことを広めること。それこそがあたくしの使命ザマス」

「ダンブルドアを呼ぼうか」

 

 クラムの厳しい言葉に、適当な言を返したリータ・スキーターの顔が凍る。

 恐らくダンブルドアにバレるとまずいのだろう。あの老人ならば、子供の心を護るためという理由で一切の取材を認めず出入り禁止を言い渡すことくらいやりそうだ。

 苦々しげな顔をしたリータ・スキーターは、カメラマンらしき男を従えてさっさとテントから出て行ってしまった。

 それと入れ違いにやってきたのは、ダンブルドアとクラウチだ。

 

「選手諸君。競技内容を発表する」

 

 ダンブルドアが朗々と宣言する。

 その際にハリーの隣にいるハーマイオニーとロンをちらと見たが、黙認するようだ。

 ダンブルドアが何も言わないのでクラウチも何も言わない、といったところか。

 

「選手諸君らには、まずこの袋の中にあるミニチュア模型を手に取ってもらう。それが君たちの戦う相手じゃ」

 

 ダンブルドアの言葉と共に、クラウチが持っている袋がフラー・デラクールの前に差し出される。

 

「レディファーストだ」

 

 開けられた袋の口からは、なにやら小さな声でキシャーと鳴き声が聞こえ、何やら細い煙がゆらゆらとあがった。明らかに危険物が入っている。

 少し笑顔を引きつらせながらも、余裕の美貌を示しながらフラー・デラクールは袋にその手を滑り入れると、小さなドラゴンをその手の平に乗せていた。

 緑色の鱗を持つ、スタンダードな姿をした竜。

 

「ウェールズ・グリーン普通種だ。臆病な種だが、今回もそうとは限らんぞ」

 

 クラウチが脅し文句のような言葉を残す。

 屋敷しもべ妖精を解雇したことから堅物の役人だと思っていたが、イベントを楽しむくらいの気持ちはあるらしい。ハーマイオニーは苦々しげな顔でクラウチを見ていたので、彼女にとってあの件は随分とショックだったのだろう。

 そんな視線に気づかないまま、クラウチは次にローズマリーへ袋を差し出した。

 

「どうぞ、御嬢さん」

「ありがとうございますわ、ってか」

 

 適当なことを言いながら、ローズマリーは乱暴に袋へ手を突っ込んだ。

 なにやら袋の中で暴れる音と声が聞こえ、「痛ッて」と呟いたローズマリーの台詞から模型のミニチュアドラゴンは攻撃してくることが判明した。

 尻尾を握りしめながら取り出されたのは、メタルグレイの鱗を持った、随分と大きなドラゴンだった。

 

「ウクライナ・アイアンベリー種だ。世界最大のドラゴン種とされているぞ」

 

 ローズマリーが満足そうに笑う。

 血の気の多そうな子だとは思っていたが、世界最大だと言われて嬉しそうにするとは思わなかった。彼女はテンガロンハットを目深にかぶって、握り拳大のミニチュア竜の尻尾を掴んでプラプラ揺らしながら元の居場所へ下がる。

 さて、次はぼくか。

 そう思ってハリーが前に出ようとしたところ、クラウチは袋を持ってブレオの方へと歩いて行ってしまった。

 ……ひょっとしてまだ男の子にでも見えるのだろうか?

 もうショートヘアとは言えないくらいに髪だって伸ばしてる。服の上からでもハッキリ分かるほどに胸もちゃんとあるし、腰だってくびれているはずだ。むに、と自分の胸を持ち上げてみれば、それなりに重量を感じる。流石に見間違えるということはないはずだ。……では何故だ?

 ふとハリーが気づけば、ロンが頬を赤くして目を逸らし、ハーマイオニーから軽い殺気が漂っていた。セドリックが咳払いをしたことでハリーはそれをやめたが、よくよく考えれば破廉恥以外の何物でもない。ハリーは顔を赤くした。

 ブレオが口笛を吹きながら、袋からミニチュアを取り出す。

 

「おおう。ペルー・バイパーツース種だ。猛毒の牙に気を付けるんだぞ」

 

 今度はローズマリーのとは違い、銅色が光るなめらかな鱗の、ずいぶんと小さなドラゴンだった。確かあれは全ドラゴン中で最速だったはずだ。

 引きつった顔のブレオを置いて、クラウチは次にセドリックに袋を差し出す。

 ハンサムな笑顔が少し崩れているが、それでも堂々と袋に手を突っ込み、ミニチュアドラゴンを引っ張り出した。シルバーブルーの鱗だ。

 

「スウェーデン・ショート‐スナウト種。美しい炎に見とれていると焼かれるぞ」

 

 しゅー、とミニチュアが小さく吐いた炎は、確かに青く美しかった。

 嬉しいはずはないので、微妙な顔をしたセドリックがなんだか可愛かった。

 クラウチは次に、クラムのもとへ近づいて袋を差し出した。

 

「うぅぅーっ。チャイニーズ・ファイヤボール種だ。まさに東洋の神秘だな」

 

 奇妙な形をした深紅の鱗を持つドラゴンが、クラムの手の平の上でとぐろを巻いていた。まるで蛇のようだが、長い胴体のところどころに生えた手足と黄金に輝く角が竜種であることを主張していた。

 短く鼻を鳴らしたクラムは、黙って自分の元居た場所へ戻る。

 勝つのは自分だと心の底から信じている絶対の自信だ。

 その表情を満足げに眺めたクラウチは、ソウジローのもとへ歩み寄っていく。

 袋を開けられ、ソウジローは無言でその中に手を差し入れた。

 

「おおっ。ハンガリー・ホーンテール種だ。一番凶暴だぞ」

 

 黒い鱗を持った、刺々しいドラゴンがソウジローの手の平の上で吼えていた。

 ミニチュアなのにかなり怖い。これで本物と相対したら漏らしそうだ。

 しかし、最後になってしまった。

 クラウチが袋を持ってこちらへやってきたが、どうせ残っているのは一種類だけだ。

 

「……ん? なんだこれ?」

 

 手探りで袋の中に手を突っ込んだが、なんだか違和感がすごい。

 残り一匹しかいないはずなのに、複数のミニチュアに触っているようにしか思えない。

 とりあえず迷ったところで出すしかないのだからとハリーが袋から引き出した時。

 ハリーは困惑した。

 ダークパープルの鱗に、黄金の目玉。蛇のような造形だが、胴体に生えたがっしりした脚や太く逞しい尻尾などからドラゴンであることはわかる。だが、何といえばいいのだろう。

 

「それはヒドラ・ヘレネス種だ。半年前に発見されたばかりの新種だぞ」

 

 このドラゴン、()()()()()()()

 三頭犬だのクィレルだの、頭が複数ある者とは何度か相対してきた。

 だが一つの身体に頭が九つというのは初だ。むやみに記録を更新しないでほしい。

 それにハリーは知っている。

 たしかヒドラ……ヒュドラというのは、ギリシャ神話における怪物の名だったはずだ。

 しかも、不老不死の怪物。

 ……いやいやいや、ちょっと待て。

 無理だろ。

 

「競技内容はこうじゃ! 各々その手の中にいるドラゴンが守る《金の卵》を手に入れること! 無論、彼奴らとてタマゴを奪われそうになれば抵抗くらいする。それを潜り抜けて出し抜いて、どれほど鮮やかに金の卵を手中にできるかが問われる競技なのじゃ!」

 

 絶望的な顔をしていたハリーが、ようやく顔を上げる。

 なんだ、別に殺さなくてもいいのか。

 もしドラゴンの討伐を競うような競技だった場合、ハリーには始める前から敗北が確定してしまうところだった。

 しかし、そうか。卵を奪い取るのか。

 これは厳しいかもそれない。

 タマゴと言う名の何か人工物である場合なら、まだマシだ。ある程度乱暴に扱ってもいい。問題はそのタマゴが、本物だった場合だ。砕かぬように奪い去るのは至難の業だろう。

 

「諸君らの無事と健闘を祈る。大砲が鳴ったら呼ばれた者から行っ」

 

 ズドン、と。

 ダンブルドアの話を遮るかのように大砲が鳴った。

 大音量と共に観客となった生徒たちの歓声があがる。

 肩を竦めたダンブルドアは、「最初はフラー・デラクール嬢からじゃ」と言った。

 フラー・デラクールの顔色が青い。大丈夫なのだろうかと不安になるが、彼女は何度かロケットの中の写真に祈ると、意を決した顔でテントから出て行った。

 見事な銀髪を躍らせ、稀代の美少女フラー・デラクールが戦場へと舞い降りる。

 

 

 アンジェラ・ハワードは渋い顔をしていた。

 万が一があったときのための待機として、闇祓いが呼ばれたのはわかる。

 彼女がホグワーツを卒業して魔法省に入省、そして初任務から毎年ホグワーツに関わる仕事をしているので、まるで学生時代に戻ったかのような心境だった。

 だがそれによって上司から学生気分が抜けてないのでは、と嫌味を言われたのは心外だった。彼女自身は大真面目に仕事をしているつもりだ。動物まがい(フェイカー)の能力と狙撃魔法の腕を買われ、エリート中のエリートである闇祓いにもなれたのだ。

 そしてこの任務では、憧れの先輩であるアーロン・ウィンバリーとパートナーを組んだものである。なんでも彼からのご使命だそうだ。現闇祓いでも最強の男に指名されるなど、光栄の極みだ。

 何より異性としても憧れの先輩である。在学中は痺れるような恋はしたことなかったのに、卒業して就職してからこんなことになるとは思わなかった。トンクスには「一回りくらい年上なんだから考え直したら」と言われたが、彼女も同じく年上趣味なのにそんなこと言われたくはない。

 さて。

 今目の前で繰り広げられているのは、かの魔法学校対抗試合(ウィザード・トーナメント)の第一回戦である。

 ボーバトン代表選手のフラー・デラクールが杖に魔力を集めて、何かをしようとしている。

 桃色の魔力反応光が射出された。

 その速度を見て、ハワードは遅いと感じてしまう。

 しかし相手のウェールズ・グリーン種は総じて臆病な種なので、怯んだ隙にばっちり直撃してしまう。すると見るからに瞳がとろんとして、催眠にかかったのが見て取れた。

 

『おーっと! デラクール選手が放った魔力反応光が、タマゴを守護するドラゴンに命中! するとどうしたことか、ドラゴンがフラー選手に向かって尻尾を振っています。解説のスネイプ先生、あれは何の魔法なんですか?』

『どうして我輩がこんなことを……? まあ、うむ、あれは『魅了の呪も』

『おああーっと! フラー選手が勝利を確信して笑顔で手を振っております! お美しいーっ! おい見ろよなんだありゃ可愛いぜ! あ。解説ありがとうございました先生!』

『……うむ』

 

 リー・ジョーダンによる怒涛の実況に、解説の存在意義が危ぶまれている。

 スネイプには特に悪い思い出がないハワードにとって、あれはちょっとかわいそうだった。だがこうして明るい場に出ていれば、あの教師もいつかは根暗が治るかもしれない。

 こんなものかと思って目を逸らせば、隣に座っていたウィンバリーがとてつもなく悪い顔をしていた。この男がこんな表情をするのは、たいていろくでもないことが起きる時だ。

 

「アーロン?」

「見ろよハワード、面白れぇことが起きるぞ」

 

 言葉通りに見てみれば、ドラゴンが何やら激しく首を振っていた。

 魅了の呪文が解けたのだ。あまりにも早すぎる。

 観客席から誰かが悲鳴のように「危ない!」と叫ぶ。その声に慌てて振り向いたフラー・デラクールが見たのは、ウェールズ・グリーンのドラゴンが尾を振り回して自分を襲う姿だった。

 咄嗟に無言呪文で盾を張ったのだろうが、先ほど見たような技量では竜種の物理攻撃を完全に防げる盾など作れるはずがない。衝撃をダイレクトに喰らったフラー・デラクールの細い体は大きく吹き飛ばされていった。

 

『うわーっ!? きゅ、救急班急いでくれ!』

 

 実況の少年が大慌てで競技の中断を叫ぶ。

 それもそうだ、ドラゴンの尾の一撃をまともに受けてしまった人間が、無事で済むはずがない。

 

『いや、必要ないだろう』

 

 解説のスネイプがぼそりと呟く。

 その言葉を証明するかのように、宙高く放り投げられた少女の身体が、あわや岩山に叩きつけられるとなって観客席から悲鳴が上がった瞬間。

 彼女の腕が大きく膨張して、彼女の袖を引き裂いた。

 現れたのは、巨大な鍵爪。その鱗に覆われた手首から肩にかけて、鮮やかなシルバーの羽根が生えていた。まるで伝説上の怪物、ハーピィのそれである。

 フラー・デラクールはその翼を羽ばたかせ、宙にふわりと浮く。岩山に叩きつけられることはなく、彼女はそのまま甲高い裂帛の叫びをあげるとドラゴン目掛けて突進していった。

 彼女の美貌に溢れた顔は今や所々が鱗に覆われており、目は爛々と野生の輝きが宿っている。

 

動物まがい(フェイカー)!?」

「お前と同じだな。あのガキの親類もヴィーラだっつーじゃねえか、ならあれにも納得だぜ」

 

 ハワードはなるほどと納得した。

 動物まがい(フェイカー)動物もどき(アニメーガス)と違って、先天的な才能がかなり重要になる。それは血だ。

 ヴィーラという美しい女の姿と、鳥人の姿を持つ魔法生物の血が入っていれば、鳥類の動物まがいに目覚める素質を持っている。ハワード自身も、祖先の誰かがヴィーラである。それゆえの銀髪、それゆえの美貌。

 彼ら動物まがいは次世代の人類である。と評する魔法学者もいるくらいだ。

 だがこのイギリス魔法界において、純ヒト以外の肩身は狭い。

 半人半魔と呼び蔑む人間が多いのは、周知の事実だ。

 人は他者を貶すことで自尊心を満たし、快感を得ることのできる生き物である。ゆえに自分よりも弱い立場の人間を見つけると、まるで地に落ちたガムに群がるアリのようになる。

 

 ハワードにも、幼少期の酷い記憶がある。

 ヴィーラは激昂すると、鳥人状態へと変化してしまう特徴がある。その血を引いて動物まがい(フェイカー)になった人間にも、その特徴は当てはまる。

 幼い頃、ハワードはマグルの交通事故に遭った。瀕死となった彼女に合う血液が見つからず、やっと見つけた血液は混血(ヴィーラ・ハーフ)の物。しかし命には代えられないとして、ハワードの両親は泣く泣くその血液を娘に入れるのだった。

 そんな彼女は、自分を庇って脚が不自由になってしまった兄を馬鹿にされて、キレたことがある。自分の感情を制御する術を知らないほどに幼い少女だというのに、鳥人状態という恐ろしい形相になったハワードは、周囲から恐れられるようになった。

 化け物、半人半魔の人外、非ヒト族、まがいもの。

 数々の罵倒を受け、差別を受け、ハワードは魔法界の醜い部分を思い知った。アンジェラという名前が《天使》という意味であり、それがヴィーラに関係すると知って、嫌いになったのもこの頃だ。

 この差別は、ハワードが魔法省に入省した今でも続いている。彼女が闇祓いになる試験にトップの成績で合格した際、待ったを申し入れた役人が居たのだ。魔法省は人間の、純血魔法族がいるべき場所なのだからヒトモドキを合格させるべきではありませんわ、と。

 カエルのような顔の役人は、ハワードのように立場の弱い者をいじめる快感で醜く歪んでいた。その悪夢のような顔は、今でも鮮明に思い出すことができる。

 

 ハワードは少女を見る。

 ボーバトン魔法学校は、共学ではあるが女子生徒の方が比率は多い。

 女社会とは恐ろしいものだ。異物だと判明した者は、陰湿で過激なやり口で即座に排除される。女性は男性に比べると精神的な攻撃が得意であるといういい加減なうわさを聞いたことがあるが、ハワードはそれを疑っていない。

 そんな女社会の中で、彼女はいまでも応援を受けている。

 フラー・デラクールの正体に驚きどよめくホグワーツ生やディアブロ生が居る中、ボーバトンの少女たちは声を張り上げて母校の代表選手を応援している。

 奇声をあげながら、ドラゴンの顔に張り付いて執拗に眼球を攻撃しているフラー・デラクールの姿が見える。怪獣大決戦のような様相を呈する光景だが、あれは実に効果的な戦術だ。近接戦闘主体の魔法戦士が、ドラゴン相手によく用いるものだ。

 さぞ苦労したことだろう。

 ヴィーラという美の血を引いているために、嫉妬も受けたことだろう。

 

『おおおーっ! やりました! フラー選手、ドラゴンの目を潰して金の卵を掠め取りましたーっ! 競技終了ーっ! お見事! ヒューッ!』

『初手は失敗したものの、概ね悪くない戦いだった。高評価が期待でき』

『はい救護班はやく! 竜使いの人たちはあの暴れん坊を抑えてくださいね! ところで先生なんか言いました?』

『グリフィンドール一点減点』

『マジかよ』

 

 どうやら試合を終えたらしい。未だに羽根と鱗の残る顔で、フラー・デラクールは優雅に微笑んで金の卵を持った右腕を高らかに突き上げた。観客席の女子生徒たちから黄色い悲鳴があがり、男子生徒から野太い歓声があがる。

 スタイリッシュでスリリングなショーは、観客の心を鷲掴みにする。

 彼女はその逞しい鍵爪で、見事に彼らの心を掴み取ったのだ。差別心という薄汚い感情を乗り越えて、彼らを興奮と感動の渦に突き落とした。

 すごい、とハワードは思う。

 汗を流しながらも美貌を振り撒いて、輝く笑顔を浮かべる彼女がすごいと思う。

 

「カッコいい子ですねぇ……」

「そうかぁ?」

「ええ。すごいですよぅ」

 

 ハワードは隣で変な顔をしているウィンバリーの腕を取り、その胸に抱きしめた。

 にべもなく振り払われてしまったが、今はなんだかそうしたかったのだ。

 にへら、と笑顔を浮かべたハワードは、選手控え室に戻るフラーを優しく見送った。

 

 

 歓声があがる。

 下品に腰を振りながら、ハンサムな顔を出したのはバルドヴィーノ・ブレオだ。

 イタリア魔法学校《ディアブロ》の代表選手。

 この一ヵ月にも満たない期間で、すでにホグワーツの女性陣からナンパな男扱いされている恋多き青年である。

 にこにこと笑顔を振りまき、余裕綽々の態度でドラゴンの前に仁王立ちする。

 ドラコ・マルフォイは彼を見下していなかった。

 スリザリン生には節操のない下品な男と思われながらも、それでも生粋の純血であるブレオ家の出身であるためにいい顔をされている。

 だがドラコにとって、彼を評価するのはそこだけではなかった。

 恐らくこの勝負は一瞬で決まるだろう。

 

「『グンミフーニス』、縄よ!」

 

 鎖につながれているとは思えないほど、競技場内を素早く飛び回るペルー・バイパーツース種に縄魔法をかけるブレオ。

 目まぐるしく飛んでいるというのに、一撃でその小柄な体を拘束することに成功した。空中でがんじがらめにされた哀れなバイパーツースは、その身を地に叩きつけられる。

 よく見てみれば、わざわざ卑猥な縛り方をしているあたりブレオの高い技量がうかがえる。

 怒り狂ったバイパーツースが悠々とタマゴに歩み寄るブレオに対して、猛毒の牙を剥いて噛みつこうと首を伸ばす。しかしそれすら予測していたらしきブレオは、優雅に宙返りするとドラゴンの頭の上に着地した。

 杖を股間のあたりで持ち、下品に腰を振って魔法式を構築するというおふざけまで見せてきた。あまりにアホすぎるこの行動に、男の子たちからは大歓声、女の子たちからは大ブーイングである。

 しかし結果はアホという一言で片づけることはできない。

 馬鹿そのもののやり方にも拘らず、ブレオの放った催眠呪文は見事にバイパーツースの銅色の瞳に吸い込まれていった。

 二度と目覚めないのではと思わされるほどにぐっすりと眠りこけるドラゴンの目の前を歩いて通り過ぎ、金の卵を足の甲に乗せて蹴り上げ、キャッチ。

 歓声と爆笑と共に、ブレオはその競技を終わらせた。文句なしの最短記録である。

 その不敵な笑みは、ドラコにはまるで退屈しているかのように見えた。

 

 

 歓声が聞こえてくる。

 マクゴナガルから名を呼ばれたので、次は自分だ。

 セドリック・ディゴリーは、大きく深呼吸してから自身の頬を張った。

 自分の相手はスウェーデン・ショート‐スナウト種だ。細長い炎を吐いてくるので回避は比較的容易かもしれないが、しかしブレスを使えるというだけで脅威だ。

 怖くないと言ったらうそになる。だが代表に選ばれた以上、優勝する義務がある。

 大砲の音が鳴り響いた。

 もう行かなければ。

 

「セドリック」

 

 椅子から立ちあがり、さぁ行こうとしたところで鈴の鳴るような声がかけられる。

 ハリー・ポッターだ。

 関係者以外が追い出され、ロンとハーマイオニーが隣にいないながらも気丈に振る舞っている。緊張しているのは見て取れるが、それでも程よく自然体なのがわかる。

 まるでこれからクィディッチを行うかのような、適度な緊張感を見事にコントロールしているその姿には、素直に舌を巻く思いだ。自分より二つ年下の少女は、精神面においてかなり堅牢な鎧をまとっているらしい。

 

「なんだい、ハリー」

「気を付けてね」

 

 彼女はそう言って、右手を上げる。

 おそらく、全くその気はないのだろう。

 だけれどセドリックは自分の心が、一気に軽くなったのを感じた。

 ぱしんと手の平を打ちつけて、力強く、しかし優しくその手を握る。

 暖かく、そして柔らかい少女の手の平。

 自分の好きな女の子の手。

 

「ああ。行ってくるよ」

 

 好きな子に応援されて元気が出るなど、現金なものである。

 セドリック・ディゴリーはそんな単純な男だっただろうか。

 だが、ああ。

 悪い気分じゃない。

 今ならドラゴン程度、何をしてこようが全く怖くはない。

 

『さぁぁぁ来ました! 我らがヒーロー、ハッフルパフのハンサムガイ! セドリィィィ――ック・ディゴリィィィ――――ッ!』

 

 わっ、と歓声が巻き起こる。

 ちらほらと《セドリックを応援しようバッジ》を振り回している生徒が見えるのが、少し珠に瑕だが、歓声を背負うこの気分は悪くない。

 セドリックは杖を構えて、堂々とドラゴンの前に姿を現した。

 シルバーブルーの鱗がきらきらと陽光を反射して美しい光を放っている。

 だが彼の欲しいものは竜ではなく、それが守るタマゴである。

 魔力を充填させて、セドリックは自らの杖を真っ直ぐ突きだした。

 

「『エイビス』、鳥よ! 『エンゴージオ』、肥大せよ! 『モビリジェミニオ』、増えよ人形!」

 

 総勢十羽の鳥が、セドリックの杖先から飛び出して羽ばたいた。

 肥大呪文により、小鳥のようなサイズだったそれが一気にイーグルのような大きさに膨らむ。

 更に疑似生命増殖呪文をかけ続けることにより、倍々に鳥が増えてゆく。十羽から二〇羽、二〇羽から四〇羽、八〇羽、一六〇羽と、いまやとんでもない数になっていた。

 魔法で創造したまがい物の鳥ではあるが、大きさもそこそこ。さらにはこのような大群にもなれば、ドラゴンの気を惹くどころか食い尽くすことすら可能となる。

 さしものドラゴンも、まるで一つの巨大生物のような鳥の群れにどこか怯えたような目を見せている。

 だがセドリックは容赦しない。

 以前ならば手心を加えていたかもしれないが、ハリーとの交流の中で容赦は敗北に直結することを痛いほどよくわかっているからだ。

 

「『オパグノマキシマ』、襲い尽くせ!」

 

 総勢三桁もの鳥が、一斉にドラゴンへと襲い掛かった。

 スウェーデン・ショート‐スナウト種特有の細長い、青い炎が吐き出された。

 魔法製の鳥であるため、通常の鳥よりはある程度の耐久性があるはずだった。

 しかし一直線に消し去られていく様子を見て、セドリックは流石にドラゴンの強力さを思い知る。しかし自身の周囲に配置した鳥たちを無言呪文で増やし、そして増やした傍から突撃させてゆくために、ドラゴンから見ればほぼ無尽蔵に襲い掛かる群れを相手にしているようなものである。

 これはたまらない、とドラゴンが怯んだその隙を狙い、セドリックは複数の鳥を金の卵の方へと射出した。

 卵を食われると思ったのだろう、怯んだはずのドラゴンは自信が傷つくのも厭わず激昂に任せて青い炎を吐き出してきた。それによって複数の鳥が消滅し、金の卵も真っ赤に熱されてしまう。

 あのままでは持つことができないだろう。持ったとしても大火傷、下手をすれば手の平の皮膚が溶けてくっついてしまうかもしれない。これは仕方ないとはいえ、運の悪い事である。

 

「くっ! 『アグアメンティ』、水よ!」

 

 タマゴに向かって駆け寄りながら、セドリックは水を噴射して冷やそうとする。

 その隙を逃すドラゴンではない。

 全身に鳥をまとわりつかせながらも、彼に向かって突撃しに来た。

 これでは卵を手に取ったとしてもその直後にやられてしまう。

 覚悟を決めたセドリックは、ここで決めにかかる。

 

「『エクスパルソ』!」

 

 ひゅる、と複雑な軌道を描いた杖で鳥たちに指示を飛ばす。

 瞬間、ドラゴンの目の前にいた鳥たちが急激に膨れ上がって炎と共に爆発した。

 眼前で起きた破裂音と熱、そして鳥の破片が直撃してドラゴンが悲鳴をあげる。通常ならばあの程度の爆発はたいしたことはないのだが、一羽や二羽の爆発ではなく、一〇〇はくだらない数の爆発だ。さらに顔面付近で爆ぜたことにより、目を焼く結果にもつながる。

 痛々しい悲鳴をあげるドラゴンをよそに、セドリックは冷やしきった卵を手に取り、高く掲げた。

 

「は、ははっ! やったぞ!」

 

 歓声。

 セドリックが歓喜の声をあげ、竜使いがドラゴンを抑えるなか彼は悠々とテントに戻る。

 この感動と興奮を、一番にあの子に伝えてあげたい。

 テントの中でも歓声が届いていたのだろう、ハリーは笑顔でセドリックのことを待っていた。友人が無事生き残ったことと、評価されていることに喜んでいるのが丸わかりだ。

 やはり自分は単純な男だ、と自嘲しながらも、セドリックはハリーとのハイタッチで幸せな気分になったのだった。

 

 

 ロンとハーマイオニーは、観客席でハラハラしていた。

 フラー・デラクールもセドリック・ディゴリーも、高い技量を持ちながらも危ない場面が幾度かあった。二人がハリーが、優秀な魔女であることはわかっている。よく知っている。あれだけ命の危機を乗り越えてきたのだ、優秀でないはずがない。

 次の出番は、アメリカ魔法学校《グレー・ギャザリング》の代表、ローズマリー・イェイツだ。スタイル抜群で明るく元気、男勝りの気さくな美少女。そしてグリフィンドールの談話室に入り浸っているため、獅子寮生には彼女と親しいものも多い。

 ゆえに心配なのだ。

 いま目の前で獲物を今か今かと待っているドラゴンは、ウクライナ・アイアンベリー種という竜種の中でも最大のドラゴンである。

 尻尾が当たっただけでもその重量で消し飛んでしまいそうなほどの巨体である。ハリー曰く、重くて速いだけで脅威なのだとか。実体験に基づく事実だと言っていたが、なんのことやら。

 とにかく。

 おへそと胸の谷間を惜しげもなく露出させ、カウガールの格好をしたローズマリーが楽しそうにテントから飛び出してきた。

 健康的な色気もそうだが、彼女の人懐っこさによってホグワーツのみならず他の五校でも友達が出来たのだろう。親しげな歓声が大多数を占めていた。

 アイアンベリーが得物を見定め、いきなり飛び掛かっていった。生徒たちが悲鳴をあげる中、ローズマリーは全く動じていない。

 にい、と真っ白な歯を見せるようにして笑みを浮かべると、ガンベルトに吊るしてあった杖を素早く抜き取ると同時、二筋の魔力反応光を射出するという西部劇さながらの早撃ちを決めた。

 一瞬で目を潰されたアイアンベリーは、悲痛な声を長々と漏らして墜落する。約六トンもの巨体が落ちたのだ、会場全体をひどく揺らして、岩山には大きなクレーターと亀裂を作りだした。

 暗赤色の目が血で真っ赤に染まり、低く呻いて痛みに耐えているアイアンベリーに対して、ローズマリーは容赦をしない。

 

「『フリペンド・サウザンド』ォ!」

 

 ローズマリーが呪文を叫ぶと同時、彼女の杖の周囲に魔力で編まれた光の棒のようなものが複数現れた。棒はそれぞれが光のリングで繋がれており、ハーマイオニーからするとまるでマグルが戦争で使うガトリングガンのような見た目をしている。

 そしてその感想は、間違いではなかった。ぎゅいいい、という異様な音を立てながらリングと棒が回転すると、先ほど『射撃呪文(フリペンド)』で射出したような赤い魔力反応光が乱射されてゆくではないか。 

 それも普通の数ではない。大量に、それこそ一つの巨大な線のように見えるほど大量に。

 ドラゴンの皮膚には魔法が通じないようになっているが、衝撃まで無効化するわけではない。しかもこれだけ大量の射撃呪文によるシャワーを浴びせられたならば、相応の殺傷力はある。そうなればもはや、いくらドラゴンであろうと決して軽視できるようなダメージではないのだ。

 

「ヒャーッハハハハハハ! 踊れ踊れェ! 無様に尻尾振って逃げろよファッキントカゲちゃんよぉ! あははははは、ドラゴン狩りたぁ面白いなぁオイ!」

 

 ローズマリーのテンションも上がり続ける一方だ。このまま彼女の猛攻を受け続ければ皮膚が抉られるようになってゆくのは、いくらドラゴンでも簡単にわかることだ。

 野生というのは、力の上下関係の敏感である。

 自身より強いものにはへりくだり、プライドを切り売りして媚を売りつけ、自身の命を懸命に救おうとする。彼らにとって、生きていればこその命である。

 アイアンベリーは文字通り尻尾を巻いて逃げようとし、しかし鎖に繋がれているため試合会場の隅で尻を向けてうずくまってしまった。

 それを見たローズマリーはつまらなそうに唾を吐き捨てると、乱暴な足取りで黄金の卵に歩み寄り、大きな歓声と共に勝利の証を悠々と持ち帰ったのだった。

 

 

 ユーコ・ツチミカドは呆れたような目で会場を見下ろしていた。

 アメリカ魔法学校代表のローズマリー・イェイツ。なんともブッ飛んだ魔法を使うようだ。流石アメリカというべきか、何というべきか。

 彼女が獰猛な笑みを引っ込めて、さわやかな笑顔で選手用テントに去ってゆくローズマリー・イェイツの後姿を眺めながら考える。

 あれは敵か否かと。

 不知火魔法学校は毎年、日本警察や自衛隊に優秀な魔法使い魔女を輩出している。ヨーロッパの魔法界はどうやら《魔女狩り》といった歴史的背景から非魔法族(マグル)とかなり確執があるようだが、日本ではそうも言っていられない。

 日本魔法界において、マグルという言葉は差別用語である(日本はそういった方面には大変うるさい)。それに、そもそも日本には魔法界という明確な区切りがあるわけではない。都内に敷地を持つ普通に受験もできる高等学校が、実は竜脈の上にある非魔法族避け結界の張られた異能関係の学校でした。なんてこともあるのだが、ユーコにはあまり関係ないので割愛する。

 数ある日本の異能教育機関において、ラテン系の魔法を学んでいるのは不知火のみだ。ハリーたちの使うラテン語を用いた魔法だけではなく、陰陽道、忍術など、様々な異能を学べる学校は日本国内には不知火にしかない。

 ゆえに、今回の六大魔法学校対抗試合はいい機会だった。

 日本はまだラテン魔法において歴史が浅い。なにせ明治時代の文明開化まではそれを一切受け入れなかったのが原因である。だがこの一〇〇年余りで日本は異常なまでに魔法文化を吸収し進化し続けている。

 ユーコの実家、土御門家は元々は陰陽道の名家としてその名を日本全国に知らしめていた異能に対するエリート中のエリートだ。そしてユーコの祖母、サチコ・ツチミカドは革新的な思想を持つ人物であり、あらゆる異能をひっくるめて教える学校である《不知火》の二代目校長を務めている。明治時代にこの学校を創りあげたサチコの父親はとんでもない人物だと思うが、まあ今は関係あるまい。

 問題は、ヴォルデモートだ。

 ユーコの幼馴染にして婚約者であるソウジローが幼い頃、テレビでは悲惨な内容が報じられていたという。イギリスで次々と人が行方不明になったり変死体で見つかったり、当時の英国首相が悲痛な面持ちでその内容を読み上げていたりする外国のニュースだ。

 その頃彼は二歳か三歳くらいの幼子であったというのに、今でもうっすらと思い出すことができるくらいには、ひどくショッキングなことだったのだろう。

 ソウジローからその話を聞いた時は怖いこともあるものだとぼんやり考えていたが、ユーコも十五歳となって藤原家へ嫁入りするための教育を受けている今では、それがどういうことなのかよくわかる。

 ヴォルデモート卿という、英国史上最大の犯罪者。英国では優秀な魔法使いが生まれる傾向が多くあるが、中でもヴォルデモートという男は恐ろしいまでに凶悪なのだという。

 かつて、ゲラート・グリンデルバルトという闇の魔法使いが居た。

 英国最悪の犯罪者。彼の活動がダンブルドアによって早いうちに阻止されたのが大きいため、ヴォルデモート程の恐怖は抱かれていないが彼も十分以上に危険人物であった。

 ヨーロッパ魔法界において、非魔法族への差別は根強い。

 魔法族も人間である以上、遺伝上の問題は普通に起こり得る。それがスクイブ(当然日本では差別用語である)と呼ばれる、魔法族なのに魔法を扱えない人々のことだ。

 確かに、日本とて異能一族の中で異能が扱えない人間が出れば相応に厳しい人生を歩む者もいるだろう。跡取りが生まれたのに、異能を任せられないのでは落胆もされよう。

 だからといって殺すなどということはありえない。

 現に、ユーコの伯父はスクイブである。しかし叔父は現在、立花重工という会社の社長を務めて日本魔法省首相の夫として多忙な妻をしっかり支えている。なにも魔法が使えないだけで生きている価値がないなどと、そんなバカな話があるか。ユーコは恐らく日本の未成年異能者の中では、異能の扱いが一番うまいだろう。だがユーコにとってはそんなもの、自慢にもなりはしない。模擬戦などにおいてソウジローに勝ったことは一度もないし、策謀においても父親や伯父にしてやられてばかりだ。竪琴や舞など、そういった分野において母を驚かせたこともない。年の離れた兄達は勉強において幼稚舎の頃から常に一番を取り続けて今や二〇代にして政治家であるというのに、ユーコは今でも二番止まりだ。

 ゆえに魔法の才能など、血筋など、ちっぽけな問題にすぎないのだ。隣でさすがはイェイツ家の娘などという戯言を垂れ流している英国政治家どもの言葉など、どうでもいいのだ。

 

 話が、いや思考が逸れた。これは自分の悪い癖だと、ユーコは何度目になるか分からない自嘲をする。

 問題は、いま目の前で圧倒的な戦力を見せつけている代表選手たちの力量についてだ。

 ツチミカド家は、ダンブルドアに対して全面的に協力するつもりである。不知火における魔法関係の教科書に正確な内容が書けているのは、彼から援助してもらったからという理由が大きい。イギリスのみならず世界中の魔法文化発展にも尽力する彼は、英国魔法史だけでなく世界魔法史においても本当に偉人なのだろうと思わされる。

 祖母たるサチコも妖怪と言われるほどにとんでもない魔力と知識を持っているが、それでもダンブルドアにはかなわないだろうと確信できるほどに、彼は世界で最も素晴らしい魔法使いなのだ。

 ゆえに昨年、彼から相談事を受けた時は何事かと思った。

 父から正装してくるようにと言われ、土御門の家紋が入った立派な着物をお手伝いさんたちに着付けられて、一番上等な客間へ行ってみればそこに居たのは祖母の憧れアルバス・ダンブルドアだった。

 何故か藤原家次男のソウジローもその場に居たのも驚いた。慌てて彼の隣に正座して話を聞いてみれば、彼はかの暗黒時代、とあるレジスタンスを組織していたらしい。その組織に、協力してはくれないかとのことだった。

 そう、レジスタンス。暗黒時代においてはもはや悪こそが法であり、光がそれをひっくり返さねばならないと奮闘していたほどに厳しい時代だったのだ。それを、ダンブルドアは見事に成し遂げた。ヴォルデモートという巨悪を打ちのめし、束の間とはいえ平和を取り戻し法の光をヨーロッパにもたらした。

 それに貢献したのは、ハリー・ポッターという一人の赤ん坊。

 たった一人の赤ん坊によって闇の帝王はそのみなぎる力を失い失墜してしまったわけだが、それでもヴォルデモートは死んだわけではない。近いうちに哀れな少女ハリエットを必ず狙ってくるだろうと、ダンブルドアは確信していた。

 そしてダンブルドアが頼んできたのは、六大魔法学校対抗試合におけるハリーの護衛。

 彼は語る。ヴォルデモートが復活するのは、恐らく今年中なのだと。再び英国が、いや世界が闇の輩に呑み込まれる可能性は、今年こそが一番高いのだと。

 不知火魔法学校において一番戦闘力が高いのは、きっとソウジローだ。炎のゴブレットも、ほぼ確実に彼を選ぶことだろう。ゆえに、護衛役には彼が選ばれた。ユーコはそのサポートだ。口下手なところのあるソウジローを支え、またハリーの友達になってあげてほしいと。

 外国人の友達ができるのもわくわくしたし、何よりソウジローならば守りきれるだろう。好きな男の子にナイト役をしてもらえるという美味しい役目を関係ない女の子に取られてしまうのは癪だが、そこは仕事だ。仕方ない。

 

 そこで問題になるのが、ローズマリーが敵かどうかという話だ。

 ユーコは、おそらくもうこのホグワーツにはヴォルデモートの手の者がもぐりこんでいるだろうということを前提で考えている。ネガティブに過ぎる思考かもしれない。しかしダンブルドアは、この考えに賛同してくれた。

 考えられる可能性としては、三つ。

 まず一つ。六大魔法学校のうちホグワーツ以外の教師、もしくは生徒に紛れている。これが一番濃厚だ。ヴォルデモートがダンブルドアの目の前に送り込もう考えるほどの人材ならば、代表選手に選ばれるほどの実力を有しているのは当たり前だろう。その点で考えると、元死喰い人とはいえ下っ端もいいところだったイゴール・カルカロフは除外していいかもしれないが、疑って損はないだろう。しかし闇の帝王のことだ、他人を信頼するなど有り得ない。ならば優秀な人間を選ばない理由はない。つまり、代表選手か校長か。そのうちの誰かが死喰い人だ。

 次に考えられるのは、ホグワーツの誰かが死喰い人であるということ。教師陣にも怪しい人物はいる。セブルス・スネイプだ。彼はあまりにも闇の魔術に詳しすぎる。だが、彼は白である、誇り高き潔白であるとダンブルドアが断言した。ならば残るは誰か。当然、アラスター・ムーディが該当する。新任の教師だ、怪しさ満点である。元闇祓いだろうが、知ったことではない。人間、堕ちるときは堕ちるのだ。ゆえに、ホグワーツの誰かが死喰い人であるならばユーコはアラスター・ムーディがそうなのではないかと考える。

 最後に三つ目。これは一番考えたくない最悪の可能性だ。護衛として配置されている闇祓いや、ドラゴンの扱いのため呼ばれている竜使い(テイマー)たち、そして今後の試練に関係して呼ばれるだろう外部の人間だ。彼らがそうであるとするならば、特定など不可能に近い。だから可能性からは除外しておく。考えたところで無駄、後手になるのはわかっているからだ。

 つまり、ユーコが疑っている人物は十二人。

 ボーバトンのフラー・デラクールとマダム・マクシーム。ダームストラングのビクトール・クラムとイゴール・カルカロフ。アメリカのクェンティン・ダレルとローズマリー・イェイツ。イタリアのバルドヴィーノ・ブレオとレリオ・アンドレオーニ。ホグワーツのセドリック・ディゴリーとアラスター・ムーディ。そして、日本のソウジロー・フジワラとサチコ・ツチミカド。

 もっとも、ソウジローと祖母についてはあまり疑ってはいない。何より自分の最も信頼する祖母と、最も愛する青年だ。家族である(ソウジローは将来的にという意味で)から許されることだが、無礼にあたる事を承知で『服従の呪文』をかけられていないかどうか、毎朝調べさせてもらっている。ゆえに、今はシロだ。

 しかしそれでも十人。容疑者が多すぎる。

 自分(ユーコ)と接する機会の多かったセドリック・ディゴリーとローズマリー・イェイツは除外してもいいかもしれないと考えている。闇に通じた者特有の、ドス黒い目をしていないのだ。不知火の生徒として来ている生徒会役員(し の び)たちには徹底的に彼らの情報を洗ってもらったが、そのうえでシロだと判断してもいい。

 その点だけで言えばハリエット・ポッターが一番邪悪な目つきをしているし、最初に会った時は確実に邪道に堕ちた人間だと確信していたものだが、彼女に関してはダンブルドアから理由を聞かされている。到底信じがたいことだったが、彼が言うならば間違いはない……とは言い切れないが、害はないのだろう。

 

『お次のヒーローは、日本の不知火魔法学校代表選手、ソウジロー・フジワラァーッ! ニンジャ! サムラーイ! ニンポが見れるぞニンポ! みんな一瞬たりとも目を離すなよぉ!』

 

 と、思考の海から意識が引き上げられる。どうやらソウジローの出番らしい。

 竜使いたちが苦労して会場に運び込んだのはハンガリー・ホーンテール種。ソウジローの相手はどうやら、一番凶暴とされる種類のドラゴンらしい。

 だがユーコは、あまり興味がなかった。そんな様子のユーコを見て、隣の席に座っていたハーマイオニー・グレンジャーが心配そうに声をかける。

 

「ねぇユーコ、見なくていいの? せっかく旦那さんが戦うってのに」

「ま、まだ旦那じゃないよ。それに、いいの。どうせ一瞬で終わるもの」

 

 それはソウジローに寄せる絶対の信頼である。

 現にユーコは、この大会で優勝するのはソウジローだと疑っていない。

 不知火魔法学校は、それほどまでに戦闘技術に重点を置いた教育をしているのだから。

 

『フジワラ選手が入ってきました! タマゴの前で仁王立ちするホーンテールは彼のことを、卵を狙いに来た不届き者だと思って怒り狂っております! さーてどのような対処をするのか!』

 

 ソウジローの黒い瞳が、鋭い眼光を放ってホーンテールを見据える。

 その眼を見てしまったユーコは、これはヤバいと直感した。

 慌ててカバンの中から折り畳み傘を取出し、ワンタッチでバッと広げる。

 マグル製品に驚いたハーマイオニーの声を聴きながら、ユーコは親切心から呟く。

 

「嫌な思いをしたくないなら、傘に入った方がいいよ」

 

 ユーコの忠告に一瞬呆けたハーマイオニーは、嫌な予感がしてその言葉に従った。

 見れば、不知火の生徒が多くいるハッフルパフの席では他にも傘をさしている者がいる。

 ハーマイオニーがソウジローの方へ目を向ければ、そこでは彼に炎を吐こうと大口を開けているホーンテールと、低い姿勢で荒々しい光を纏った杖を握っているソウジローの姿があった。

 瞬間、ソウジローの右腕がブレる。

 杖から光が消えると同時、その刀身からは血が滴っているのが見て取れた。くぐもった声がホーンテールの方から聞こえてきたかと思えば、そこでは首なし死体が出来上がっていた。

 ごろりと地面に首が落ちると同時、その傷口から悪趣味なシャワーが噴き出る。

 阿鼻叫喚の地獄が出来上がった。

 ハーマイオニーは恐怖で顔をひきつらせながらも、成程と納得する。グリフィンドールの応援席はあのドラゴンと近い位置にあった。傘がなければ血まみれだったわけだ。

 血に濡れた黄金の卵を掲げたソウジローを見て、実況が引きつった声で彼の勝利を宣言する。

 試合会場からは未だに悲鳴が聞こえ続ける中、彼は涼しい顔で選手用のテントへと戻っていった。彼に血が付いた様子はなく、ユーコは満足げに彼の背中を見送るのだった。

 

 

 ルード・バグマンは興奮していた。

 三大魔法学校対抗試合だけでもエキサイティングだというのに、今年は六大魔法学校だ。それに、先ほどの日本人の少年がやらかした光景。実にクールでクレイジーだった。

 ウイムボーン・ワスプスというチームでビーターを務め、そしていまは魔法省で魔法ゲーム執行部に勤めている身としては、この大会を後押しした甲斐があったというものだ。

 賭けの勢いもよくなるというものだ。うしし。

 そう、ルード・バグマン。彼は大のギャンブル好きだった。それこそ身を滅ぼしてしまいかねないほどのギャンブル狂っぷりに、彼を知る者はみんな呆れ顔になる。

 クィディッチ世界大会での賭けは大失敗だった。絶対に勝てると思った掛けすら失敗し、いまは賭けに負けたことでウィーズリーのところの小倅たちに借金している状態なのだ。ガキだと思って舐めていたが、あんな大金をかけたギャンブルを成功させるとは。あの双子は末恐ろしいものがある。商才があるのかもしれない。

 だが、今回は優秀なブレインがついている。この度の駆けは負ける気がしない。何を隠そう、不知火の生徒会長、ユーコ・ツチミカドが味方してくれているのだ。

 いったい何が目的なのかは知らないが、選手たちの情報を渡すだけで彼女の優秀な頭脳の助けを得ることができるのだから乗らない手はなかった。きっと彼氏のためにライバルたちの弱点を集めようとしているのだろう。健気で可愛らしいことだ、まったくおアツいね!

 さてさて。

 今回までの賭けで、ルード・バグマンは全勝とまではいかないものの総合で大儲けしていた。特に、ソウジロー・フジワラの試合結果。あれは寸分の狂いもなくユーコちゃんが予想した通りの展開になった。さすがは彼氏彼女だ。いや違ったっけ?

 フラー・デラクールとバルドヴィーノ・ブレオの競技は、わざと外すことにした。確実でないならばイカサマを疑われないためにもハズした方がいいとのことだ。これを聞いた時、あまりの素人戦法に辟易したものだが、結果は従って正解だった。日本では女性が着物をはだけて「ハンカチョーカ!」と叫んでゴブレットを振り回す賭け事があるらしい。多分そのおかげで彼女も詳しいのだろう。

 セドリック・ディゴリーとローズマリー・イェイツは無難な儲けだった。ゴブリン相手の賭け事は、イチャモンをつけられやすい。それを聞いたユーコからの助言で程々にしておくようにとのことだったが、確かにその通りだった。審査員の点数まで当てられるか、ばかばかしい。

 

「さーてさってさて、クラムちゃーん。プロの先輩に美味しい汁を吸わせておくれよう」

 

 バグマンは揉み手をしながら、クラムがテントから出てくるのを眺める。

 子供を賭けの対象にして一喜一憂するなど、我ながら薄汚い最低の大人だと思う。だが、大人なんてそんなものだ。楽しいのだ。このスリルはやめられない。 

 相変わらず地上では猫背で歩きづらそうな男だ。だが、彼がひとたび箒に飛び乗れば現役時代の自分よりも華麗に素早く飛べることをバグマンは知っている。

 彼が箒を取り出して呪文を叫んだ時、バグマンは歓喜の叫びをあげた。

 

「『アクシオ』、ファイアボルト!」

 

 やった、ユーコの言った通りだ! これで五万ガリオンは俺のものだ!

 クラムがスペルを叫んだ瞬間、まるで空間を突き破るようにして深紅の箒、炎の雷(ファイアボルト)が現れた。魔法に優れた者の『呼び寄せ呪文』にタイムラグはないと聞いたが、ああして出てくるのかと感心させられる。

 観客の歓声と共に箒にまたがって空へと飛びあがったクラムは、まさに水を得た魚のそれである。

 若い頃の、全盛期の自分にだってできなかっただろう曲芸飛行をこなし、チャイニーズ・ファイヤーボールの注意をひきつける。クラムの飛び方は、美しいとまで言える。芸術的なプレーを見せつけられた観客の心は、引き寄せられて当然だ。

 バグマンは、知らずして自分の目から涙がこぼれたのを自覚する。

 ウイムボーン・ワスプスは楽しいチームだった。観客と選手がブンブン叫びながら相手選手をチクチク刺し回るいやらしくもスリリングなクィディッチ・プレー。会場のすべてと一緒になったかのような一体感は、いまでも思い出すことができる。

 危険なプレーによってケガをし、選手生命を断たれたことに後悔はない。そんなことで後悔をしていては、《危険な蜂野郎》などという名誉なあだ名は貰っちゃいない。

 後悔はしていない。だが、未練はある。

 今でこそギャンブルに狂ってしまっているが、後進のスポーツマンたちがのびのびとプレーできるようにと願いを込めて魔法省に入った時代もあった。

 そのことを思い出してしまう。

 本当にこのままでいいのだろうか。いつか大損をやらかして、全てを失ってしまうのではないか。

 

「……見事だよ、アーティスト・クラム」

 

 まるでブラッジャーのようにクラムを追いかけ回すファイヤーボールを出し抜いて、見事に金のタマゴを手中に収めていた。

 輝く汗を飛び散らせて、朗らかな笑顔で金のタマゴを掲げるクラムは、十代の少年らしい若さに満ち溢れていた。

 

「……よし。今回でギャンブルはやめにしよう。決めた、決めたぞ。バグマンおじさんは健全なおっちゃんになるぞ!」

 

 あのように眩しいものを見せられては、仕方ないじゃないか。

 姪っ子にうまいもんでも喰わしてやるのもいいかもしれない。たまには妹夫婦にサービスしたってバチは当たらんだろう。

 そうと決まれば、ゴブリンたちから五万ガリオンを貰って、さっさと次の試合をゆったり見ようじゃないか。次の試合は最後なのだから、ハリー・ポッターの出番だ。

 あの可愛らしいお嬢さんがどう頑張るのか。気になって仕方がない。

 そう思ったバグマンは、そこらで売っていたポップコーンを二クヌートで買って口に放り込んだ。ハンカチを探してポケットをまさぐれば、出てきたのはすっかり忘れていたメモ書きだ。

 

「なになに? 『次の対抗試合の内容は、私の予想では……お、おおお?」

 

 これはつまり、今回の助言をしてくれた手紙の二枚目か。

 ユーコからの助言は、どうやらまだ終わりではなかったらしい。 

 ……。……も、もう一回くらいならギャンブルしてもいいんじゃないかな?

 バグマンは鼻歌交じりに、誰へしているのかわからない言い訳を呟いて、席に腰を深く沈めるのだった。

 

 

 ハリー・ポッターは死にそうだった。

 ローズマリーやセドリックが背や頭を撫でて落ち着けてくれるものの、吐き気が止まらないのだ。なんだろうこれ、何が起こったのだろう。

 あまりに顔色がひどいのか、ブレオですら下心のない顔で心配そうに水差しを手渡してくる。ありがたく頂戴したそれを飲んでも、具合はよくならない。ソウジローからのタオルは遠慮しておいた。ちょっと血生臭い。

 ハッキリと具合が悪くなったのは、ソウジローの試合が終わった頃だ。血の匂いでクィレルを殺したときを思い出したのは確かだが、だが体調がひどくなるほどのトラウマではなかったはずだ。

 しかも嫌なことにこの感覚、月一のアレと似たような倦怠感を感じるのだ。だがあれはまだ二週間は来ないはずだ。下着も汚れていないと思う。まったくもって不可解なことだ。

 だが時間がない。出番が来てしまった。

 

「お、おいハリー大丈夫か? ちょっと待ってもらった方がいいんじゃねえの?」

「そうだよハリー。体調が悪いならちょっと待ってもらった方がいい」

 

 ローズマリーとセドリックが親切心から言ってくれるものの、ハリーにも意地がある。

 たかだか体調不良なんかでドラゴン程度から逃げ出したと思われるのは、業腹だ。

 こうなったらさっさと叩きのめすしかない。

 

「いってくる」

「き、気を付けろよ」

「ハリー、意識をしっかり持って臨むんだ」

「あいよー……」

 

 ふらふらとした足取りでハリーはテントから出ていく。

 彼女が姿を見せた途端、わっと観客が湧いた。

 ネームバリューだけならば、ハリーはクラムすら霞むほどの有名人だ。

 それもその評判は、「闇の帝王を倒したハリー・ポッター」である。ハリーが生まれて間もない頃のことだと知っているだろうが、それでも皆は期待してしまうだろう。

 もしかするとハリー・ポッターは、とんでもなく強力な魔法使いなのではと。

 しかし、現実のハリーはそんな立派なものではない。

 そこそこめりはりのある体つきに、スパッツの上でスカートがひらりと揺れる。

 どう見たって女の子そのものであり、今までハリーを男の子だと思っていた人々が一気にざわつく。他五校の生徒たちも、未だに信じきれないような目でハリーを見ているのがわかる。

 どうして《生き残った男の子》などという間違った情報が広まったのか、ハリーは知らない。知らないが、こういった目で見られるのはいささかいい気持ちではない。

 だったら今ここで知らしめてやるのも悪くはないんじゃないかな。と思ってしまうあたり、ハリーも緊張しているのだ。

 

「で、デカい……」

 

 テントから出てすぐ見えたのは、ヒドラ・ヘレネスの顔。

 今まで代表選手たちが相手にしてきたドラゴンたちと比べると、まるで深海魚のような造形をしているそれは酷く不気味だ。

 ぎょろぎょろとハリーを捉える飛び出した目玉に、口中に収まり切らないほど長く鋭い乱杭歯。乾いた皮膚は張り付き骨ばっており、頭蓋骨の形をはっきりと見せているのもまた気味の悪さを引き立てている。まるで効率的に不快感を与えるために創られたかのような醜さである。

 どうやら首は一本しかないらしい。

 プラナリアとかスライムみたいに斬れば増えるのだろうか?

 とにかくアレに対して不必要に刺激を与える必要はない。

 

「『アニムス』、我に力を」

 

 ぼう、とハリーの全身が淡い青の光に包まれる。

 いっそあのヒドラ・ヘレネスを無視して、全速力でタマゴを狙ってみるか。

 そう考えたハリーは、自身に身体強化を施してから高速で動き始めた。

 実況がなにやら驚いたようなことを言っているが、いまのハリーにはあまり聞こえない。

 相手がドラゴンだからと言って軽んじているつもりはない。

 一撃貰えば死につながるのは、この時もそれ以外の時でも同じだ。油断などする余裕はどこにもない。出来る限り身を低く、地を這う蛇のようにするりと駆け抜けるハリーを、しかしヒドラ・ヘレネスは見逃さない。

 だがハリーもヒドラの殺気を察知して、咄嗟にその場から飛び退く。果たしてそれは正解であった。今までハリーのいた位置には、どろりとした粘着質な液体が飛び散っており、それは会場に設置された岩山を、嫌なにおいを振り撒きながら溶解させているのだ。

 ぞっとする。だが、まぁ当たらなければどうということはない。

 

「『フリペンド・ランケア』!」 

 

 ひゅる。と杖を振るえば魔力が練り上げられ、三本の紅い槍がハリーの周囲に出現する。

 それらは彼女の号令と共にヒドラのもとへ投擲され、その骨ばった尾を地面へと縫い付けた。けたたましい悲鳴が聞こえるが、ハリーはそれを無視してタマゴへと一直線に向かってゆく。

 しかし。

 

「っく、うわ……!」

 

 ヒドラが掬い上げるように噛みつこうと迫ってきたので、高く跳んで避けるしかなかった。その時にハリーは見た。尾から槍を引き抜こうと噛みついている頭と、いま噛みついてきた頭。

 奴は、なぜか頭が既に二本生えている。

 一体どういうことかと思ったところで原理は分からないだろう。

 ならばあと、最大で七本は増えることを覚悟しながら戦わなければならないというわけだ。それは精神的な疲労に訴えかけてくるいばらの道かもしれないが、そんな道はいつものことである。

 森を通り抜けるには、棘だらけで傷ついてしまうような道を通る必要があるのなら。

 いっそ森を消し飛ばしてしまえばいいのだ。

 

「『アグアメンティ』、水よ!」

 

 ハリーの杖先から、鉄砲水のような濁流がヒドラ目掛けて飛び出してゆく。

 ただの魔力反応光ならばともかく、面制圧の水流に避ける術はない。

 しかもハリーは『水魔法』の魔法式を『書き換え』て、出現させる水の種類を変えた。

 いまごろ観客席にはつんとした嫌な臭いが届いていることだろう。

 マグル出身の者達からすると、実に馴染み深い臭いだろう。なにせ、

 

「『インセンディオ』!」

 

 ヒドラにかけたのはガソリンだからだ。

 ハリーの火焔呪文が着弾し、ヒドラの身体が赤く燃え上がる。

 長々とした悲鳴がとどろいて、観戦している生徒たちがうわぁと声を漏らす。

 操られたり眠らされたり鳥に襲われたり首を刎ねられたり、挙句の果てには火達磨にされたりと、まさに厄日。ドラゴンたちにとって本日は厄日である。

 苦しそうに長々と悲鳴をあげるヒドラを見て、ハリーは呟く。

 

「要は生かさず殺さずで、動きを封じればいいんじゃないかな」

 

 事実その通りであった。

 不死身の怪物を相手にするならば、その不死性を解除するか、もしくは身動きできない状態になるように封じてしまうか。今回ハリーがとったのは後者だ。それに、ヒドラ・ヘルメスがマグルの伝説と同じく本当に不死なのかも判然としていない。

 ゆえにこの方法を取ったハリーの判断は、間違っていなかった。

 問題があるとすれば、ヒドラ・ヘルメスの頑健さとその執念深さである。

 

「――――ッ!」

 

 ハリーは嫌な予感がうなじを舐めた感覚に反応し、咄嗟にその場を飛びのいた。

 身体強化が続いているので、軽く跳んだだけでも十メートルほどの距離を取ることができた。

 観客を保護するために会場を覆っている柵に掴まり、ぶら下がって眺める。

 先ほどまでハリーのいた位置は、奇妙な形に大きく抉れていた。直感に従っていなければ、言うまでもなく天に召されていたことだろう。

 ヒドラ・ヘルメスを見てみれば、ついに首が九本に増えていた。そのうちの五本くらいが大口を開けて、瓦礫の山を呑み込んでいるのが見える。こんなものを用意するとは運営側もえげつないことをするものだ、とハリーは楽しそうに笑った。

 ハリーが捕まっていたのはどうやらレイブンクロー応援席の近くだったらしい。そのうち一人の女子生徒――確かレイブンクロークィディッチ・チームのシーカー、チョウ・チャンだ――が心配そうにハリーへ声をかけてきた。

 

「だめよ、ハリー。棄権しないと。あんなの、規格外よ。勝てっこないわ」

 

 心底心配そうな声をかけてくれる彼女に、ハリーは嬉しくなって微笑み返した。

 彼女はクィディッチをするたびに、ハリーのことをずいぶんと敵視していたものだ。その理由としては、もしかすると彼女の意中の人物セドリックにあるのかもしれない。

 ハリーとセドリックは、親戚の兄妹のように仲がいい。セドリックも勤勉であるため根っこのところでは真面目なハリーと気が合い、二人とも向上心の塊でありクィディッチに恋をしてスニッチの尻ばかり追いかけている。さらに魔法への探究心を持て余していることも共通している。

 彼が何のために魔法を学んでいるのかは知らないが、ハリーは将来ヴォルデモートと戦うときのために無理矢理にでも知識を詰め込んでいる。最近は根を詰め過ぎてもいけないということで、今しか味わえない青春を楽しんでいるものの、それでも魔導を吸収することへの欲望を忘れたことはない。

 要するに、チョウはハリーとセドリックが男女の仲にあるのではないかと勘ぐって、嫉妬してしまったのだ。勘違いかもしれない、しかし本当だったら耐えられない。中国系イギリス人の彼女は、大変スレンダーな体つきをしている。年下のハリーに肉付きで負けているのもまた黒い炎に注がれる油になっているのだろう。

 恋する乙女の妄想、もとい想像力は絶大である。

 そんな彼女が、純粋にハリーを心配し、応援してくれている。

 セドリックという想い人も同じ競技に出ているにも拘らず、だ。

 

「ううん、平気だよチョウ。君にぼくの力を見せてあげる」

 

 微笑んで、ハリーは鉄柵を蹴ってヒドラ・ヘルメスへと一直線に飛んだ。

 ハリーの蹴り飛ばした柵が捻じ曲がっているのを見て、チョウは目を見開く。甲高い悲鳴が聞こえるとともに視線を向ければ、そこでは杖から伸びた白刃でヒドラ・ヘルメスの首を刎ねたハリーの姿があった。

 ヒドラ・ヘルメスの首が一本切り取られたかと思えば、青白い軌跡がヒドラの巨体を這うように高速移動している。あれはハリーだ。彼女の身体から漏れ出る魔力反応光が、まるで流れ星のように尾を引いているのだ。

 

「二本目ェ!」

 

 ぶつ、という鈍い音と共に、ヒドラ・ヘルメスの首がまた一本切り取られる。

 悲鳴と共に地に投げ捨てられた首が土煙を上げるころ、三本目が落ちてきた。

 畜生ながらこれ以上はまずいとでも考えたのか、ヒドラ・ヘルメスは脚に刺さった槍を無視して、力づくで体を揺すってでもハリーを振り落そうとする。長い首と赤い血を振り乱して暴れるその姿は、まさに手負いの獣そのもの。

 そんなものをハリーが逃がすわけがない。

 勢いのあまり放り投げられたハリーの身体目掛けて、複数の頭が下品な音と共に口から胃液を飛ばしてくる。つまりこれが先ほどの溶解液の正体だ。

 

「『グンミフーニス』!」

 

 ハリーは地面に縫い付けられて動けないヒドラ・ヘルメスの足に魔力で編んだロープを突き刺し、遠心力を利用して円を描く奇妙な動きで空中を移動する。

 液体はハリーと関係ない明後日の方へ飛んでゆく。ハリーはその間にヒドラ・ヘルメスの胴体に着地すると同時、その勢いのまま杖から伸びる白刃をヒドラの胴に突き刺した。

 ぎい、と悲鳴があがると同時、ハリーが叫ぶ。

 

「『インセンディオ』!」

 

 途端、ヒドラが狂ったように絶叫した。

 体内に荒れ狂う灼熱の炎。さぞ苦しい事だろう。

 無茶苦茶な動きでハリーを振り払ったヒドラ・ヘレネスは、その勢いのまま地面に倒れ伏す。砕けた瓦礫が自分の体に当たらないよう杖で払いながら、ハリーは嘆息した。

 

「しつこいな……」

 

 あれだけ痛めつけたにもかかわらず、この多頭ドラゴンは弱った足腰に鞭打つようにゆっくり起き上がってハリーに向かって殺意を迸らせているではないか。

 怒り狂ったヒドラ・ヘルメスはハリーに向かってその大口を開いて迫る。

 しかし五本ある首のうち真ん中だけが爛々とした眼でハリーを睨みつけたかと思うと、切り取られたはずの首が、粘液に塗れてゆっくりとその鎌首をもたげた。

 傷口のあった場所を境目に、少し細くなった首が新たに生えている。ここまでの回復力を持っているとは予想外だった。

 だがあれはマグルにおける神話上のヒュドラとは違って、不死身ではないと思う。ならばいくらでもやりようはあるのだ。

 

「『ラミナマグヌス』、大刀よ!」

 

 ハリーの杖の周囲に、白い魔力反応光が収束する。

 それは一つの刃を作りだした。ソウジローが先ほど似たような魔法を用いたが、アレには及ばないまでも、強固な身体を持つ生物を切り刻む程度には十分な威力を持っている。

 地面にひびを入れる勢いで跳びあがったハリーは、一直線に突き進むとヒドラ・ヘレネスの脳天に着地、同時に刃を深く突き刺した。

 金属をひっかくような不愉快な悲鳴をあげる頭を蹴り飛ばし、ハリーは青い尾を引きながら次の頭へと飛び乗った。

 すでに死体と化した頭を放っておいて、残りの首がチャンスとばかりにハリーを丸呑みにしようと襲い掛かってくる。空中に居る間は身動きが取れない。ならば、それを改善してしまえばいいのだ。

 ハリーは杖先から魔力を放出し、適当な強風に変換する。

 ヒドラの口が、ばくんと空を噛んだ。ハリーは自分を強風で吹き飛ばすことで空中に居ながらにして位置を変え、目的地へと到達したのだ。もいっちょ、とばかりに五本目の頭に刃を突き入れた。

 

「っ!」

 

 ハリーがヒドラ・ヘレネスの頭に攻撃すると同時、残った頭が一斉にハリー目掛けて溶解液を吐き出してきた。

 考える暇もなく、大急ぎでその場から飛び退く。どろりと融解してしまった頭を尻目に飛び降りて、ヒドラの胴体を足蹴にして着地。

 いい加減にとどめを刺さなければと思ったところで、首を狙う必要はないのではないだろうかと考えつく。首の一本一本を落としたところで再生されてしまうのならば、胴体に攻撃するしかない。

 だが、少々魔力を消費しすぎる。

 やりすぎるのではないかと心配になるが、たかがドラゴンされどドラゴン。油断していると殺されてしまうことはわかり切っているので、ハリーは一切の遠慮をやめることにした。

 杖から伸びる白刃を、ハリーがいまのっている足場(せなか)へ突き刺し、叫ぶ。

 

「『ランケア』、突き刺せ!」

 

 白刃が膨らんで紅い槍(ランス)へと変じると、傷口が広げられて血液が噴き出した。

 当然である。小さな傷口に大きな異物をぶち込んだのと同じことをしているのだから。

 そして、これによって狙っていた状況は完成された。

 あとは最後に仕上げを加えるのみ。

 ハリーはその白く可愛らしい頬に飛び散った返り血を舐めとり、獰猛に笑んだ。

 

「体の中から掻き回されちゃえ」

 

 ハリーの声と共に、紅槍が高速回転する。

 肉を削ぎ千切る水っぽい音と、おびただしい液体音、そしてヒドラの五つの首から発せられる悲鳴。歓声が全く聞こえない中、ハリーは口角を吊り上げておりまるで悪魔のような笑みを浮かべる。

 内臓のいたるところをぐちゃぐちゃに切り裂かれ、ついに耐えきれなくなったヒドラが長々と哀しげな悲鳴をあげて、その巨体をどさりと地に横たえた。

 先ほどはここから復活されたのだ、二度も同じことをする気はない。

 

「『エクスパルソ』!」

 

 ハリーはトドメだと言わんばかりに、体内に突っ込んで放置していた槍に向かって『爆破呪文』をかける。魔力で編まれた槍が体の中で膨張し、くぐもった音を立てて爆発した。

 残った頭の口から、どす黒い血液がごぼりと吐き出される。今度こそ体内をぐちゃぐちゃにされたのだ、無事であるはずがない。ぐるり、と白目をむいたかと思えば、ヒドラ・ヘレネスは今度こそその肉体を地に横たえたのだった。

 足場(ヒドラ)が地へ崩れ落ちる前に飛び降りたハリーは、黄金のタマゴの目の前に着地する。まるで大きなスニッチのように輝くそれを蹴り上げて、その小さな手の平でそれをキャッチ。

 事ここに至ってようやくハリーが競技をクリアしたことを理解したのか、小さい歓声から徐々に大きな歓声へと変わってゆく。

 猫がネズミを甚振るように、圧倒的な強者が弱者を屠る分かりやすい図。

 今まさにハリーが行ったことは、それに等しかった。

 どこか畏怖の声も混じっている声援に、ハリーはタマゴを掲げて応えてやった。

 

 

 ソウジローは、会場の中心でタマゴを掲げているハリーを見遣る。

 幼馴染のユーコより一つ年下の、黒髪の少女。エメラルドグリーンの瞳が汚泥のように濁っているのが特徴だ。顔の造形はかなり整っており、さらには年齢の割に成長が著しいというのに線が細く華奢であるため、同年代の男の子には目の毒だろう。

 とてもではないが、凄惨な過去と過酷な運命を背負った少女とは思えない。

 仮にも藤原家の次男であるソウジローは、類い稀な陰陽道の才能を持っている。既に亡くなっている兄には劣るものの、次期当主として十分すぎるほどの力を持っているのだ。ゆえに、光と闇を見分けることができる。

 基本的に、ここにいる者達は光り輝くきれいな心を有している。

 多少の乱れやくすみは見受けられるものの、ダンブルドアやマクゴナガルといった眩いほどに真っ白な教師達の影響を受けて、綺麗な光の心を持っている。

 しかし、目の前に見えるモノはなんだ?

 忍びたちに調べさせたおかげで、ハリー・ポッターの生い立ちは全て知っている。

 確かにあのような過去を持っているのならば、目が死んでいるのもおかしくはない。

 

「……おまえは」

 

 おびただしいほどにドス黒い、ヘドロのような心というわけでもない。

 かといって白く降り積もった雪のように美しい心というわけでもない。

 

「お前は何者なんだ、ハリー・ポッター」

 

 まるで、悪そのもの。

 ハリー・ポッターという少女の心は、異常なまでに悪に染まっている。

 それだというのに、彼女の心からは陽の光が漏れている。

 意味が分からないのだ。

 ソウジローも十七年間生きてきて、こんな人間は初めて見た。

 例えるなら、泥水が滴る闇の太陽。

 おぞましいモノであるはずなのに眺めていると安心感を得てしまう、摩訶不思議な存在。

 一体彼女は何者なのか。

 友を疑うことはしたくないが、ソウジローの中ではハリー・ポッターはいま最も危険な人物として数えられている。目を離してはだめだ。

 ハリー・ポッターという一人の少女が恐ろしい。

 自分の大事な人を奪っていきそうなこの少女が、ひどく恐ろしかった。

 




【変更点】
・ハリーの相手はヒュドラ。目指せワンダーボーイ。
・フラーが《動物まがい》化。ライバル強化月間。
・セドリックがお好きなのは年下の女の子。きたないぞポッター。
・原作ハリーの活躍はクラムにお任せ。
・ヒュドラさえ敵ではない。インフレの影響がこんなところにまで。
・ダーク☆ハリエット。

【オリジナルスペル】
『モビリジェミニオ、増えよ人形』(初出・41話)
・対象物を分裂させる呪文。双子の呪いとは似て非なる別物。
 元々魔法界にある呪文。魂のあるモノはどうしても増やせない。

「フリペンド・サウザンド、撃ち砕け」(初出・41話)
・射撃呪文の亜種。砲身を形成し、魔力弾をばらまく攻撃的な魔法。
 元々魔法界にある呪文。アメリカで生まれた若い呪文。

第一の試練は原作と変わらず、ドラゴンからタマゴを掠め取るだけの簡単なお仕事です。そして長い。最大文字数を更新した気がします。
今回は色々なキャラクターの視点でやってみました。色々な視点でみることで、ハリー以外の人の心境もきっとわかってもらえるはず。多分、きっと、メイビー。
第二からはオリジナル試練が入り始めます。頑張れハリー、ラストが一番大変なんだら今から躓いているとお辞儀する羽目になるぞ!

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