P3―希望ノ炎―   作:モチオ

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1-11 6月の満月

 夜の学校ってのはなかなか乙なもんだと思ったけど、これがタルタロスとなるとそうも言ってられない。ひと足お先の肝試し大会一つでも、出てくるお化けがシャドウに変わるってのは笑うに笑えない。しかしまあ、と通信の切れた通信機を確認し終わると、気兼ねなく召喚器の引き金を引いた。

 

 これで一つ目の目標はクリアだと、向かってきたシャドウに向かって思う存分ペルソナを暴れまわることにした。

 

 現在オレたちはタルタロスにいる。階は不明だ。ただ、美鶴先輩の通信が届かないくらいの深度というのは間違いない。それにオレたちといっても今いるのは一人。というのも、この状況になったかは少し説明が必要になる。

 

 荒垣サンから風花の事実を知らされた翌週の月曜、オレたちはE組の担任である江古田のいる職員室へと向かった。そこにいたのは江古田と桐条先輩ともう一人の女子生徒だった。名前を森本と言ったその女子生徒は自分のしたことを、ポロポロと何かが剥がれるかのように吐き出していった。

 

 きっかけはほんの些細なこと――遊びのつもりだったらしい。一日体育倉庫に閉じ込めて、それで終わりのつもりだった。だから閉じ込めた風花が間違っても自殺しないようにに一人が夜中に彼女の様子を見に行ったものの、その子は帰ってこずに次の日に校門で倒れているのが発見された。焦った森山は風花を助けようと体育倉庫の鍵を開けるも、そこには既に誰もいなかったらしい。それで彼女たちは夜な夜な風花を探しに行ったが、その度に行った子は帰っては来ずに、皆次の日に最初の子と同じく校門で発見されるようになった、と。

 

 森本の独白が終わった後、桐条先輩が江古田の行っていた虚偽の報告に対し詰め寄っていたが、それはオレの与り知るところじゃない。そして放課後に生徒会室で作戦会議が開かれ、風花がタルタロスに迷い込んだ同じ場所、同じ方法で中に入ることが決定した。風花が失踪して10日ほど経ってはいたが、影時間に取り込まれ、隔絶した空間にいる彼女の経過時間はそれほど経っていないらしいからだ。ただ、その方法はあくまでイレギュラーであり、正規ルートを辿らなかったため、皆がタルタロス突入時にばらけてしまって、今に至る。

 

「ふう、こんなもんかな」

 

 周囲に広がるのは破壊しつくされたフロアと焼き焦げた床だった。これは全てオレのペルソナであるトリストメギストスが起こしたもの――今まで封印してきた上位呪文や上位スキルの爪痕だった。

 

 どうやらペルソナの力自体は最終決戦の時と同じくらいだろう。比べる対象がいないせいか曖昧だが、多分大きくは外れていはいないだろう。正直この時期にこのレベルはオーバースペックすぎだと自分でも思う。ただ、回復能力だけは向上していたのに、他の力が据え置きというのが妙に気になった。

 

 久々に全力を出したせいか、時間を忘れるほどに熱中していたみたいだ。もうそろそろ真田サンと理に合流しないと最下層にいる桐条先輩とゆかりッチが危ない。そう思って駆け出そうとすると、後ろからとてつもないプレッシャーを感じ、振り向いた。

 

「マジかよ……」

 

血塗られた漆黒のロングコートに2丁拳銃。ジャラジャラと不吉な音を響かせる鎖。タルタロス探索で最も気をつけなければならない存在である刈り取る者だ。

 

 牽制か、それとも命中させるつもりなのか。とにかくいきなり銃口を向け発砲してきた。風きり音が聞こえ、すぐ横の壁に成人男性の頭サイズの穴があいた。バッっと一気に駆ける。いくら強くてもアレにはオレ一人じゃ力不足だ。もし手の中に最終装備があれば別かもしれないが、今オレが持っているのはせいぜいコモンレベルの釘バットのみ。適度に後方へ中位魔法を放ちながら走り続ける。右。左。次はまっすぐ。一度でも行き止まりになったら即終了の恐怖を味わいながら、足だけは動かし続けた。それからしばらく走り続けると幸運にも仲間を見つけた。

 

 ひい、ふう、みい、と人数を数える。大丈夫、きちんと風花は保護されている。ぐったりとダルそうにしている風花をこれ以上の過酷な状況に追い込むのは、罪悪感がハンパなかったが、命あっての物種と割り切ってもらおう。あらん限りの声で叫んだ。

 

「今すぐ階段かターミナルに! デカイやつが来てます!」

 

 オレを追いかけているドデカイ奴には幾つかの法則がある。その内の1つが、同階層に現れたソイツは次の階へと登れば一旦消える、だ。倒すことが出来なければ逃げることことだけが正しい選択となる。それを瞬時に理解したみんなは、戸惑う風花の手を取り走り始めた。

 

「もう見つけている! コッチだ」と真田サンが先導を切る。

 

 目的地はすぐらしい。少し走っただけで目的地はあった。小型ターミナルだ。最下層のロビーに直接繋がるターミナルに最初に風花と理が、次に真田サンが。そして最後にオレが消えていく。消える間近に見えた刈り取る者は2つの銃口を冷静にコチラを定め、今、まさにその引き金を引こうとしている姿だった。鉄と鉄が軋み合う音と鋭い光がオレを襲うが、それは転送されていく半透明のシルエットに吸い込まれ、しかし、そのまま背後の壁に向かって通過していった。


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