なんとか次エピソードでアインクラッド編はまとめられそうかな、と思います。
ではでは、どうぞ。
「ハチマン!」
「ササマル、大丈夫だったか?」
「ハチマンのおかげだよ。けど……ハチマン、俺のせいで……」
「気にするな。遅かれ早かれ一人くらいは間違いなく殺ってたろ。お前のせいじゃない。俺が勝手にやったことだからな」
「でも……」
「俺は、お前を助けられた良かったと思ってる。お前のせいで殺してしまったってなら、殺さなければお前が死んでたんだ。せっかく助かったんだから、そんな風には思わないでいてくれ」
全部終わって、アジトらしき場所の前で泣きそうなササマルにため息を吐いた。
戦ってる時から、よく物語とかにある興奮とかも特にない。けれど、俺のやったことは間違いではない、とも思えない。間違いとわかって、それでも選択した。
「悪いな、一人にさせてくれ」
「あ、うん。ハチマン、本当にありがとう」
「俺からも礼を言うよ。ハチマン、ササマルを助けてくれてありがとう」
ケイタとササマルに片手をあげて、俺は二人に背を向けた。
キリトは……凄いな、ちゃんと事後処理を手伝ってるのか。
「……っは」
少し離れたところで、俺は誰にも見えなくなってから木に寄りかかった。……やった。
この手で、人を殺した。血も飛ばない、消えるだけの現実感のない死だけど、それでも、俺は人を殺した。
「小町、お兄ちゃん人殺しになっちまったよ」
これで本物の外道だ。四人も殺せば言い訳もできないだろう。
誰かが肯定したって、俺が否定する。クラディールだけでもいいはずだった。それなのに他に殺したのは、間違いなく俺に殺意があったから。あいつらに対して、尋常でない不快感と怒りを感じたから。
本当に、理性の化け物が聞いて呆れる。
「ハチくん……?」
「……アスナか」
「あっち、なんか凄く騒がしくて……私はそういう気になれなくて離れてきたの。ハチくんも、ここにいたんだね」
祝勝ムードと言うか、討伐隊は勝ちに盛り上がってはいた。
ラフィンコフィンを潰せたのは確かに大きいが……向こうは10人を、こちらは5人を超える死者が出てるのは素直に喜べない。
「……ごめんなさい、まさかクラディールがあんな……」
「こっちこそ、お前のとこの人間を殺しちまって悪いな」
「ハチくんは悪くない! ハチくんが悪かったら、私は……裏切り者を連れてきて、何もできなかった私はどうなるの?」
「無理に何かをする必要もない。いいんだよ、それで」
こいつもすぐ責任を感じて重く考えてしまうタイプらしい。
俺のことは俺の問題で、誰かのせいだなんて思うつもりはないってのに。
「……お、おい、アスナ……?」
不意に、正面から軽い衝撃を受けた。アスナに、抱きつかれているらしい。
「それでも、何かをしなきゃって思うの。人を殺すとかじゃなくても、何かしなきゃって……じゃなかったら、私は自分に嘘をついちゃうから。そうしなきゃダメなの」
「そ、そうか……」
「ハチくん、キミは否定するかもしれないけど、私はキミを肯定する。キミの正しさを肯定する。もちろん、悪いことは怒るけどね」
「……お前も変わり者だな」
「これでも血盟騎士団の副団長ですから」
間近で俺を見上げるアスナは、少し泣いていたようだった。
……そろそろ、限界だな。
「さて、アスナ」
「なに?」
「離れてくれ。俺は女にこうやって貼り付かれることに耐性がない。ぶっちゃければ、こういうの、無理だ」
「ええー……そこでそんなこと言っちゃうの……」
「何を言って欲しかったんだよお前は」
「そ、それは……」
何故そこで顔をそらす。
「……まぁ、幾分か気は晴れた。俺は戻るから、離れてくれ」
「……うん!」
人殺しになってしまったことは忘れられない、が。やはりどういうことか、俺はここではぼっちにさせてもらえないらしい。
……多少は慣れてきたがな、こういうのも。
―――――
「影纏い君」
戻った先で、オウルに話しかけられた。結局、こいつは役に立たなかったな。
死ななかっただけ御の字か。死んでたら、負けてたのは俺らだった。こんなのが大将ってのがそもそもおかしいんだが。
「ありがとう、君が率先して敵を倒してくれたおかげで戦線を回復できたよ」
「誉められることじゃねぇから気にしなくていい」
「相変わらずだな、君は。にしても、血盟騎士団から裏切り者がでるとはねぇ」
「あんなもん、交通事故みたいなもんだ。今もし俺が裏切り者なら、お前は俺に殺されてるんだぞ」
「なるほど、理屈はわかる。が、周りはこれをどう評価するかな」
「……どうでもいい。じゃあな」
ダメだ、この期に及んでなお自分への評価を気にするこいつは、絶対に先になって障害になる。
……あー、しばらく刀も持ちたくないし、引きこもりたい。
いつもよりも沈んだ調子で、俺はため息を吐いたのだった。
ちょっと攻めたアスナさん。
八幡がわりと平気でいられてるなーって思った人。こういう後悔は後からじわじわ来るんですよ……多分ですが。
一つの山を終えて、アインクラッド編の終わりに向けて最後の山である軍について。
次回からこちらへも切り込んでいくので、終わりまでお付き合いよろしくお願いします。