ペルソナァ!って無性に叫びたくなるよね え?ならないですかそうですか   作:みもざ

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話を聞かない奴ほどムカつく奴は居ない

「な、なによ……こいつら!」

「俺が……知るか! いいから逃げるぞ!」

 

 霧で満たさせたテレビの(・・・・)中の(・・)世界(・・)。無闇に動くのは危険だと判断を下した裕也達は、落ちたその場所で地面に腰を下ろし来るかもしれない(来るはずも無い)助けを待っていた。

 

「……化け物よ」

 

 しばらくすると、裕也から少し距離を開けて座っていた山野 真由美が辺りをキョロキョロとし始めた。

 不審に思った裕也は真由美にどうかしたか? と聞くと、真由美は視線を感じる……と呟くと不意に立ち上がり、何かいると前方を指差した。

 指差した場所を注意深く観察すると、確かに何かが居るように影が揺れている。

 

 その何かは、異形の化け物(・・・・・・)だった。泥に手と目と口を付けたような、まさに化け物。ソレが10や20では聞かない程の数で居た。

 

 

「はぁ……はぁ……なん、なのよ! アレ! 化け物、化け物よ! なんなのよ!」

「……知るか、俺が知りたい」

「それも……そうね。ごめんなさい、情けない所見せちゃったわね」

「……いや」

 異形の怪物から咄嗟に逃げ出した裕也たちは近くにあった、建物に逃げ込んで居た。

「裕也君は、冷静ね」

 真由美のそんな言葉に、そんなことは無いと返しながらも周りを警戒する裕也。

 真由美は混乱している、混乱している人間が近くにいると人は冷静になれるらしい。裕也は平時以上に落ち着いて居た、寧ろリラックスしている節もある。

「この場所……」

 真由美の呟きに、どうしたと裕也が返すと、「あり得ないわ……でも……」とブツブツと何かを呟きながら奥へと一人で歩いて行ってしまった。

「おい、待て………………はぁ」

 声を掛けても止まらずに奥へ消えてしまった真由美の背中にため息をつき、裕也はゆっくりと周りを警戒しながら真由美追いかけて奥へと進んで行った。

 

 奥へ、奥へと進んで行く途中。裕也は違和感に気づいた。疼くのだ、己の中にある"ナニカ"が。

 こう言うと中学二年生が発症する病気に見られるかもしれない。実際、裕也はその病気が未だに収まり切れていないが……。それでもこの違和感は本物だ、本当に己の中にナニカが存在しているのだ。そして、ソレが暴れている。『出せ』と『俺を出せ』と叫んでいるのだ。

 だが、裕也は眉を少し寄せる程度で全くの無表情。無反応。気にしないのだ。

 何故なら。

「(今日は妄想が激しいな……)」

 勘違いだと、勘違いしているからに他ならない。

 己の中に居るナニカと脳内で激闘を繰り広げながら、更に奥に進む事数分。裕也は遂に足を止めた。

「……階段?」

 其処には、不自然に設置させられた階段があったからだ。

 まるで、設計の時では付ける予定のなかった階段を後から付けたような不自然さ、なんだか言いようのない気持ち悪さを裕也は覚えた。

「……気にし過ぎか」

 覚えただけで、裕也は気にせず階段を登って行った。

 

 

 二階は一階の雰囲気とは違い、生活感の溢れる場所だった。と言うかマンションの廊下だった。

 廊下に扉が等間隔についており、何処からどうみてもマンションかホテルと言う感想を覚えるだろう。

 そんな、有る意味君の悪い廊下を裕也は扉一つ一つを開けながら進んでゆく。裕也はRPGでは隅々までマッピングしながら進めていくタイプなのである。

 そんな中、一つの扉のノブに手を掛けた時に裕也の身体は止まった。

「……?」

 本能が警戒を挙げている。この扉は開けてはいけないと、何かがこの扉の向こうにいると。

 其れと同時に、裕也の中で騒いでいた"ナニカ"が一層強く騒ぎ始めた。まるで、自分の待ち望んでいた場面(シチュエーション)が目前に迫っているとでも言うように。

 ノブに掛かって居る、手にジワリと汗が滲む。

 ゴクリと我知らず喉が鳴る。

「…………」

 肩幅に足を広げ、なにが出て来ても対応できるようにする。

「よし」

 息を吐き捨て、扉を開ける。

 

「はぁ?」

 扉を開けると──

「な、ななななななにクマかぁ!?」

 クマのキグルミらしきナニカが、物陰から此方を伺って居た。

 拍子抜けである。何処か裕也の表情も呆れたような顔をしている。さっきまで騒いでいた"ナニカ"もガッカリしたように静かになった。

 しかし、未だに己の本能は、あのクマのようなキグルミに警戒を挙げて居た。

「や、やろうってのか! く、クマはこう見えても強いクマよ! プリチーな見た目に反して凶悪な爪を隠し持ってるクマよ!」

 クマようなキグルミは、ファイティングポーズを取りシャドウボクシングをしながら威嚇をしている。物陰に隠れながら。

「…………」

「クマっ……クマっ……クマっ」

 キグルミの布擦れの音だけが静まり返った部屋に暫く響いて居た。

 >そっとしておこう。

 裕也は、回れ右をして部屋から出て行った。

 

 

「ちょぉっと待つクマァ! ナぁニ、クマのこと華麗にスルー決め込んじゃってんクマか!? 少しは驚くなり何なり反応して欲しいクマね」

「……」

 さぁて、山野さんは何処行ったかなぁ。

 

 

「……クマァ……クマ泣いちゃう、だってさみしんボーイなんだもん」

「……」

 こっちの部屋かな?

 

 

「もしかして、クマことが見えてないクマね! まったくもう、最初からそう言って欲しいクマ!」

「……」

 あれ? こっちの部屋か?

 

 

「ほ、本当にクマの事が見えてないのクマか?」

「……」

 ふむ、ここにも居ない。

 

 

「………………クマ」

「……」

 あ、階段だ。

 

 

「……………………」

「…………ひっ!」

 急に静かになったことを不審に思った裕也は盗み見るように背後に居る、クマのキグルミらしきナニカを見と無表情──キグルミに無表情と言うのは変だが、無表情としか表現出来ない表情をしたキグルミが其処に居り。何か得体の知れない恐怖を感じた裕也は変な悲鳴をあげてしまった。

「みぃ〜たぁ〜なぁ〜クマ」

「……」

 冷や汗をダラダラ流しながら裕也は、先ほど見つけた階段をやや足早に登って行った。

 

 二階成果→謎の生物発見。

       竹刀入手。

 

 

「クマはクマだクマ」

「俺は鳴海 裕也だ」

「よろしくクマね」

「あぁ……」

 どうしてこうなったのだろう。現在裕也はクマと熱い握手を交わして居た。

 階段を冷や汗をダラダラ流しながら登り切り、三階にたどり着くとクマらしきナニカ──クマからの威圧感が若干減ったため、ホッと一息ついているとクマは右手──右前足(?)──を差し出しながら自己紹介をして来た。咄嗟のことに頭が真っ白になりながらも、卒なく裕也も名乗ると、そのままクマの右手を握る。クマも握り返して来たのでどうやら正しい選択だったようだ。

「ユウヤはどうしてここに居るクマ?」

「……落とされた」

 正直に答えると、そんなことするなんて許せないクマ! とプリプリと俺を落とした犯人への怒りを露わにする。案外いい奴なのかもと裕也はクマの評価を上げた。

「そう言えば、ユウヤはさっきから何を探してるクマ?」

 クマの疑問に、山野が消えたと答えるとクマは「女の子が一人で居るクマか!? 今日はシャドウが騒がしいから危ないクマよ!?」と返して来た。

「シャドウ?」

 聞き覚えの無い言葉に裕也はクマに聞き返す。

「そうクマ。ほら其処らにうじゃうじゃいる」

「あぁ──アレか」

「アレ、クマ」

 どうやら、裕也たちを襲って来た怪物はシャドウと言う名称らしい。

「どうすれば倒せる?」

「人間じゃ無理クマね、あっ、もしかしたら同じ存在なら……」

「そうか……」

 今は倒せない。其れが分かっただけでも収穫だ。と裕也はクマを一撫でし、山野探しを再開した。


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