ペルソナァ!って無性に叫びたくなるよね え?ならないですかそうですか   作:みもざ

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ヤマノ マユミ ノ 章
真面目に書こうとしたけど真面目に書いたら酷かった。


 誰にでも人に見られたくない、醜い反面がある。

 情愛、嫉妬、怒り、憎しみ、羞恥、嫌悪――感情とは、どうしたって綺麗なままではいられない。

 そんな誰にも見られたくない汚い感情に、臭い物には蓋をして、人は仮面(ペルソナ)を被って外見を見繕って生活をしている。

 誰にも見られたくないから仮面を被る。別に何処もおかしくない、至って普通。人に見られたくない物なんて沢山あるのが人間だ。

 でも、見たくない物から目を背ける(・・・・・)ことは間違っていると思う。

 自分で自分を。自分の醜いモノを理解(わか)って、受け入れて、直視してこそ。隠し通せるのではないか? 何時か自分の汚さが露見してしまうのではないかと怯えて暮らすのは御免だ。自分で分からない物は隠すことは出来ないのだから。

 

 人は無意識の内に仮面(ペルソナ)を被っている。

 

 其れを理解した物だけが、己の心の闇(シャドウ)を従えて、己の(ペルソナ)とすることができる。

 

 

 

◆◇ ◇◆

 

 

 

 

「(ようやく、帰ってこれた。)」

 

 八十稲羽駅──。よくある田舎の質素な創りの、悪く言えばボロい駅に1人の男が降り立った。

 年の頃は、18〜20辺りの少年から青年に成ったばかり程の青年だ。

 

 青年は中学まではこの八十稲羽に住んでいたのだが、高校に上がる前に親の都合で都会の方へ引っ越したのだ。そんな彼が、何故今になってこの辺鄙な田舎(八十稲羽市)へ帰って来たのか。それはとある少女との約束を果たすために他ならない。

 そして、他にも理由はあった。それは、

「……空気が、うまい」

 彼は田舎スキーだったのだ。

 

 

 青年は大きな伸びをすると、自分以外誰もいない質素な駅から出て、すぐに在る階段を軽い足取りで降りてゆく。

 階段から降り、周りを見渡すと青年は近くにある自販機に向う。肩にかけていたバッグを地面におろし、ケツポケットから財布を取り出すとコインを数枚投下し、適当な飲み物のボタンを押す。出てきた炭酸の缶をプシュっと開け、そのまま口をつける。その動作の何処にも無駄が無かった。

「んぐっ……」

 腰に手を当て、グイッと飲み込むその姿は銭湯で良く目にする牛乳を飲むおっさんのそれだった。まさに無駄に洗礼された無駄のない無駄な動きである。

「あのぅ?」

 炭酸の効いたジュースで喉を潤していると、不意に背後から声が掛かる。

 青年は特に慌てる様子でもなく、見る人がいれば優雅な動作で背後を振り向く。彼はこの年にして、微妙に中学二年生のような思考をしている。

鳴海(なるみ) 裕也(ゆうや)くん?」

 声の主は、青年──裕也と同い年ぐらいの女性だった。

「…………?」

 裕也は彼女に覚えが無いのか、微かに首を傾け、必死に思い出そうとしている。と言ってもポーカーフェスは忘れない裕也なので、旗から見ると真顔で小首を傾げる変な奴なのだが、本人は気づいていない。

「ほらほら! 中学の時隣の席だった!」

 そこまで言われてやっと裕也は気づく。あー同級生か、と。と言っても名前迄思い出せるような使い勝手のいいHDDを裕也は積んでいないようだが。

「裕也君は何時こっちに帰って来たの?」

 裕也は、今だに目前に佇む女性の名前を思い出そうと頭を捻っているが、件の女性は既に違う事を裕也に話しかけていた。

「……いま、着いたところだ」

 格好を見て、この場所を見て分かれよ。とは言わない所が裕也のいい所だ。ヘタレとも言うが。

「えっほんとぉー? 私もね昨日こっちに帰って来たの!」

 へー、と適当に相槌を打つ裕也だが心中では、此奴なんであんまり親しくない俺にこんなに絡んでくるんだ? と若干女性を鬱陶しく思い始めていた。

「裕也君はさぁ、何処に泊まるの? 実家?」

 裕也の家は、裕也が高校に上がる際に家族総出で引っ越しをしたので、既に無い。あったとしても知らない人が住んでいる事だろう。

 しかし、裕也は何も心配していない。此方でいい物件が見つかる迄、ここの1番の旅館『天城屋旅館』に予約をしているからだ。

「……天城屋旅館」

「へー、そぅなんだぁ」

 裕也がボソリと答えると、彼女は興味なさげに答える。なら聞くなとは口が裂けても言えないのが、裕也クオリティ。

 今だに名前が思い出せない彼女は、腕に嵌めてある時計をチラリと見ると、そろそろ仕事だから〜と手を振りながら何処へと消えて行った。

「……嵐みたいな奴だな」

 そう呟く裕也の顔は満更でもなさそうだった。

 

 

 

 

 何某(同級生)が去ってから、裕也は1人、呆然としていた。

 この八十稲羽駅から目的地の天城屋旅館迄は結構な距離があり、歩いて行くには少し遠かったりする。

 そのため、駅から旅館迄のバスが通っているのだが、ここに来て田舎あるあるが裕也の行く手を阻む。

 田舎あるある『1日に走っているバスの数が少ない』

 バスは四本あり。一本目が朝の8時、二本目が10時半、三本目が14時、ラストが16時半。

 駅にある時計をチラリと見ると、ちょうど17時になった所。つまり、

「…………田舎バスェ……」

 旅館迄の足が無いのだ。

 

 じっとしていても、バスは来ないと考えた裕也は確か商店街にもバス停あったな……と思い出し、目的地を商店街に変更する。と言っても、商店街のバス停も同じバス会社の路線なので期待は薄いが、最悪昔の知り合いの内に頼み込んで車なりバイクなりを貸して貰おうと、歩を進めた。

 

 意気込んで、歩き始めた裕也だったが、自分の記憶よりもあっさり商店街に着いてしまった。

 以前住んでいた時には無かった大型ショッピングモール『ジュネス』の影響か、商店街は活気がなく、シャッターのしまった店もチラホラと点在していることに悲しみながらも、バス停に書かれてある時刻表を確認する。

「……次は、18時15分」

 携帯を取り出し時刻を確認すると、17時半。時間が余ったので裕也は商店街を見て回ることにした。

 

 

 

 

 

 

『ラッシャーセー!』

 

 

 周りをキョロキョロと見ていると、本屋の隣にあるガソリンスタンドのアルバイトと目があった。

 彼は、一瞬キョトンとしていたが、すぐに面白そうな物を見つけたとばかりにニコニコした表情に変わった。

 そんな、彼の雰囲気に言いようも無い懐かしさ(・・・・)を感じた裕也は、彼に吸い寄せられるようにガソリンスタンドへと近づいて行った。

「ねぇ、君。あまりここらじゃ見ない顔だね。観光?」

 彼は裕也が近づいてくると、和かに話しかけた。

「いや……今日引っ越してきた」

 和かな雰囲気の彼に対をなすように、裕也はブスッとした態度だ。実際、持病のコミュ症を発症しているだけだが。

「へぇー……都会から?」

「あぁ……」

「こんな田舎だと、都会に比べると何にもなくて退屈じゃ無い?」

「……ここは俺が生まれ幼少を過ごした街だ。自然豊かで素晴らしい街だと感心するが、何処もおかしくないな」

 噛まずに言えた長文に裕也は、微妙にドヤ顔をするが、彼は気にした様子もなく和かに裕也を見つめている。

「そっかぁ、じゃあ『おかえり』だね」

「……あぁ」

 彼から差し出された右手の意味を図り兼ねていると、彼は苦笑をしながら、「握手だよ、しぇいくはんど」と言いながらも急かすように、右手の位置を少し上にあげる。

 ようやく、右手の意味を理解した裕也はゆっくりと自分も右手を出し、しっかりとした握手をかわした。

「……へぇ」

 初対面の人との過度の接触(コミュニケーション)に頭が真っ白になっていた裕也には、艶かしく笑う彼は見えていなかった。

「今アルバイト募集してるんだ、よかったらどう?」

「……余裕ができたら、な」

 

 

 

 

──ガソスタ店員の日記(?)

 

 

 

 今日、私は面白い者と出会った。その者は、他の力を分け与えた者たちとは何もかもが違った。

 ふふふ……思い出しただけで笑みが止まらない。

 見た目は何処にでもいる普通の青年だが、私にはわかる。アレ(・・)は幾百もの死線を掻い潜って来た戦士のモノだ。

 其れにあの目、あの目は色を写しているようで、全くの違うものを写している。絶望ではなく、悲しみ。怒りではなく、慈悲。

 まるで己は()であるかのように、人の業に深い悲しみを抱いている者の目だ。

 あんな目をした人間は数百年ぶりだ。

 其れに何よりも私が気になるのは、彼の特異性。私が力を分け与えた者達は、何の抵抗もなく受け取ったのにも関わらず、彼はほんの一部とはいえ私の力を(・・・・)掠め取っ(・・・・)て行った(・・・・)

 背筋が震えた。久しぶりだ、昔は神に届きうる英雄と呼ばれるもののふが居た。久しぶりだ。

 あぁ、楽しみだ。早く私にたどり着いておくれ。

 

 

 

 

「──うおっ……」

 ガソスタ店員(ラッシャーセー)が愉悦に頬を朱に染めている頃、裕也は言いようのない悪寒に襲われて居た。

 裕也はこの悪寒の正体を知っている。

「薔薇の……花が咲いたな」

 都会には、少なからず進み過ぎた(腐った)女子が居るものだ。

 

 

 

 

 

 

「ようこそいらっしゃいま──え?」

 天城屋旅館のエントランスで予約のお客様をお出迎えにきた、話題の女子高校生女将こと、天城(あまぎ) 雪子(ゆきこ)はお客様の顔を見て固まってしまった。

「…………お兄……さん?」

 本来ならば、その行為は接客業で一番してはいけないことだろう。

 しかし、今回ばかりは仕方が無い。

 何故なら。

「あぁ……、雪子……大きくなったな」

 雪子と裕也は4年ぶりに合うのだから。

 

 もともと八十稲羽市に住んでいた裕也が天城屋旅館を此方の仮の住まいに選んだのはひとえに雪子の実家だからだ。

 人見知りの気が在る裕也は、少しでも知り合いの居る場所をと選んだ時に、そう言えば天城屋旅館には雪子が居るじゃん、と思い出し即予約したのだった。

 

「……久しぶり?」

「……あぁ、ただいま」

「えっと…………うん、おかえりなさい」

 

 

 

 

 

「──ふぅ」

 時計の短針が真上をとおに過ぎた頃。裕也はタオルを首にかけ、牛乳片手に廊下を歩いていた。風呂上がりである。

 部屋で繕いで居ると部屋の電話がなり、電話に出ると相手は雪子であり。その内容は『今ならお風呂誰もいなと思う』と言うものだったので、そう言えばまだ風呂行ってないなと思い出した裕也はすぐに支度し、軽い足取りであの有名な天城屋の風呂へ向かったのだった。

 

『人を呼ぶわよ!』

「ん?」

 廊下を歩いて、部屋に戻る途中で女性のヒステリックな叫び声のようなものを偶然耳にした裕也は、穏やかじゃ無いな、と思いながらも声の元へと歩き出す。

 やや早歩きになりながら、声の元へと歩くと、開けた場所で男女がなにやらただならない雰囲気で向き合っていた。

「あー、うるさいうるさい。あんたさぁ──」

 どうやら、スーツをだらしなく着崩した男性が一方的に知的なイメージを抱かせる女性に言いがかりをつけて居るようだ。

 気がつけば、裕也は男性に声をかけていた。

「おい、何をやってる?」

「──一度怖い思い……ってなに? 今さ、僕らお取り込み中なんだよね、見てわかんないかな」

 邪魔をされて癇に障ったのか、苛立ちを隠そうともせず男性は裕也の方へ振り向く。

 女性も同時に此方の方を向く。女性の顔には有り有りと『たすかった』と書かれていた。

「て、言うかさ。君、一般人だよね? 駄目だよ、ここは関係者以外立ち入り禁止だから。ほら帰った、帰った」

 男性はめんどくさそうに、しっしっと手を振ると再び女性の方へ身体を向ける。

「……迷った」

「へ?」

 女性へ意識を向けた男性は裕也の思わぬ科白に間抜けな声で返してしまう。

「…………あー御免ね、なんて言ったかなちょっと聞こえなかった」

「……迷った」

 嘘だろ、と裕也に聞き返す男性に3度目となる同じ言葉で返す。

「はぁ……まぁいいや、どうせこいつも消せばいいだけだし」

 男性の言葉の意味がわからなかった裕也は頭を傾げて居ると、脱兎の如き速さで男性は女性に近づき、女性の後ろにあったテレビへ女性を突き落とし(・・・・・)てしまった(・・・・・)

 目の前で突然起きた、あまりの出来事に唖然として居ると、興奮気味の男性に自分もテレビに突っ込まれそうになっていた。

 落とされまいと必死になって抵抗する裕也だが、抵抗虚しく頭部への衝撃とともに意識が薄れかけ、その隙に男性によってテレビに落とされてしまった。

 裕也は薄れゆく意識の中、男性の馬鹿にしたような笑い声を聞いていた。

 

 

「いったぁ! 何よあいつ! 何処よここっ!? って言うか、あんた助けるならちゃんと助けなさいよ!」

 テレビの中に落されて気絶して居ると、ヒステリックに叫ぶ女性の声で意識が覚醒した。

「──ん……」

「っ! 起きたの、こんな時に昼寝なんて大層なご身分ね」

 俺が起きたことによって、ヒステリックは収まったが代わりに嫌味が飛んできた。

 顔は良いのに嫌な女と思いながら上半身を起こすと、まだ頭がグワングワンする。

「……どうかしたの?」

 俺が、右手で顔を抑えたままジッとしていると、女性が心配そうに声をかけて来た。なんだ『ツンデレ』か。

「……頭を殴られた」

「えっ? だ、大丈夫なの?」

 俺が頭を殴られたと言うと女性は心配そうに近づいてくる。

 良い人だ。この人、良い人だ。と心の中で先ほどの『嫌な女』発言──心の中で──を悔いていると彼女は、黙り込んでしまった俺を余計心配して顔を覗き込んでくる。

 こんな霧だらけで、訳もわからないテレビの中(・・・・・)などと言う状況で余計な心配をかけてはいけないと思い、出来るだけ平然を装い顔を上げる。

「……問題ない。…………俺は、鳴海 裕也だ」

「えっ…………あぁ、私は山野(やまの) 真由美(まゆみ)。アナウンサーをやってるわ」

 八十稲羽(こちら)に来て1日も立っていないが、成長した俺は今までの裕也では想像も出来ない行動をした。

 それは──

「……ん」

「はいはい、握手ね」

 握手である。フレンドリーなガソスタ店員の影響である。

「……山野 真由美と言うと、あの政治家との?」

「政治家の秘書、ね。……ええ、そうよ。その山野 真由美で間違いないわ」

 自分から聞いといてなんだが、あまり興味のない話なので「へー」としか答えられない。すると山野さんは、目を見開いて俺を見ていた。え? なして?

「何も、聞かないのね」

 あー、はい。それね。だってさ「……興味ない」んだもん。って、また山野さん目を見開いてびっくりしてる、今回は口も空いてるよ。まさに『あんぐり』。

 もしかして、声でちゃってる感じ俺。

「貴方は──「裕也で構わない」──そう、じゃあ裕也君は何をやって居るの?」

 一度はいって見たかった科白、○○(名前)で構わないが言えて俺はもう満足です。え? なになに? 俺の職業? そんなの決まってるじゃん。

「……無職」

 ハイ、無色ですのよ俺。

「へ、へー……」

 ほら、山野さんも引いちゃってるよ。どうするよ俺。

「ま、まぁ頑張れ?」

「ここから出れたらな」

「…………」

 せっかく励ましてくれたのに俺の口ってば、ばかっ! 山野さん黙り込んじゃったじゃん。

 

 


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