日陰者たちの戦い   作:re=tdwa

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――和平会談は予定通り失敗したけれど、予定が違った人もいる。

白鳥兄妹にとっては、当然寝耳に水的なお話であったりするのだが。

話してみると案外あっさり納得したらしい。実際起きたことだしね。

 

白鳥さんを撃とうとしたのも、なんと実は彼の親友であるらしく。

木星の内実も、こちらが予測したものと大きくは外れてないそうだ。

…………親友が済まないことをしたと謝られてもね、どうしろと。

 

撃たれた時に、同時進行でナデシコもまた唐突に攻撃を開始され。

ヒナギクとエステが逃げ出してくるまでは、大変だったそうだ。

特にナデシコと逃走中の援護を頼まれたホシノさんとかを中心に。

 

当初の予定的には俺が内部でナビするはずではあったからねぇ。

しかしその俺がダウンしたので、役割がホシノさんに飛んだのだ。

恐らく大変だったろうが、謝ったら案外どうでもよさそうだった。

 

援護に駆けつけたカキツバタと一緒になんとかその場を潜り抜け。

追って来ないまで逃げ出している間に、俺は治療されたりした。

固定用のサポーターで、振り向いたりするのが出来なくて煩わしい。

 

……イツキさんとユキナさんは、正直俺にはもうよく判らない。

さっき二人とすれ違った時は、特に俺に何かをいうことはなかった。

このまま有耶無耶に出来ないかなって思う。絶対無理だろうけど。

 

そして今。俺はエリナさんたちに呼ばれてカキツバタに来ている。

他に来ている人としては、艦長とテンカワさん、イネスさんである。

それに加えて、俺たちを送ってきてくれたスバルさんがいた。

 

エリナさんアカツキさんイネスさん。彼女らに呼ばれる理由なんて。

それこそ俺には、あのボソンジャンプの件しかないんだけれども。

何か判ったということなんだろうけど、いい知らせであればいい。

 

そうでなくてもこう、ジャッジメントタイムといいますか。

自分が一体どうなっているのか、凄くビクビクしてしまうというか。

あんまり特別であることに好意的に見れなかったりする俺である。

 

努力の結果とか、生来持ち合わせている身体精神的な特徴とかで。

それで評価されるのはいいんだが、こういうのは俺は別にいらない。

ナデシコに乗れる程度には、そっちで自尊心は満足してるのだ。

 

とにかく、カキツバタに来たのはいいんだけど。

格納庫には誰も迎えに来ておらず、エリナさんも通信してきただけ。

イネスさんも凄く珍しいことに、説明は後でするといいだした。

 

――その数秒後に、身体、というかかなり広範囲が変な感じがした。

何か膜に包まれたようなと思い、直感的にジャンプフィールドと判る。

大体、そう大体。カキツバタ全艦を覆い尽くす大きさだろうか。

 

艦長とテンカワさんに、火星のことを考えてと言ったイネスさん。

その身体は幾何学的な光の線を放ち、存在が霞んで見えた気がした。

ボソンジャンプ。俺の脳はその出現場所はこの近くだと示した。

 

それに追うように、動揺したままの艦長とテンカワさんからも。

同様の光のラインが放たれて、俺の脳裏にまた同じ場所が算出される。

カキツバタの中、だろう。追いかける様にウィンドウを場所指定。

 

「――そこですか?」

「ええ。

 カキツバタの展望ドームね」

「俺も行きましょうか」

 

俺の言葉にイネスさんは小さく頭を振った。通信でいいのか。

まあ、俺が行こうとしたら艦内マップを出さなきゃいけなくなるし。

多少面倒臭いから、行かなくていいならそれでも俺はいいのだが。

 

展望ドーム。イネスさんたちの隙間から見えるのは外の光景か。

ジャンプフィールドで不思議な色合いの世界が、ゆらゆらと揺れる。

その色合いに何故か脳の思考が活性化されるような感覚を覚えた。

 

「ねえ、タキガワくん。

 カキツバタはジャンプするけど、どうかしら」

「……場所ですか?」

「それもあるけど。

 みんなが無事に飛べると感じてる?」

 

意識を外の光景に向けていた俺に、イネスさんが切り替える様に。

俺に事前予測を要求してくるので、取り敢えず俺は従うことにした。

何せカキツバタには俺も乗っているので、俺も危険な訳である。

 

ただ、それ程危機感はわかない。何故か俺は大丈夫と思っている。

目を閉じて見ると、フィールドに情報が伝わっているのを感じる。

目的地、そしてジャンプするもの。その入力がされているのだろうか。

 

目的地は、恐らく先程イネスさんが言っていた、火星。

その中でも何処かと思い浮かべて、火星世界地図を脳裏に広げる。

……ああ、ここか。拡大さらに拡大。ユートピアコロニーだ。

 

そこに跳ぼうとしてるのは、俺を含めてカキツバタの全員丸ごと。

何というか、保護シートみたいなものが貼ってあるというか。

全員にセーフティが掛かってる感じで、大丈夫だと直感で感じた。

 

「……大丈夫な気がします。

 恐らくユートピアコロニーに無事に行けるかと」

「そう、全員が?」

「はい。なんか保護されてる感じです。

 確実じゃないですけど、俺に不安はありません」

 

そう、確実じゃないんだけど。俺の中に何故か妙な自信があって。

俺の命も掛かってるはずなんだけどその自信が不安を打ち消す。

下手な俺の判断よりも高い確定事項の様に、俺は感じてるのだ。

 

やっぱりね、とイネスさんが呟く。その理由は一切不明だけど。

その口調から、どうやら俺についての調査もかなり進んだと判る。

ま、何についての機能か当たりがついていれば、それも普通か。

 

それから10秒も経たない内に、カキツバタはグラグラ揺れた。

ボソンジャンプに成功した。そういうことなのだろうと俺は思った。

艦内放送が流れて、格納庫、周りは少しだけ騒がしくなっていた。

 

 

 

 

 

極冠遺跡。ネルガルが火星極冠で見つけた、古代文明の遺産。

チューリップクリスタルと同じ組成で、現在も稼働が確認できる。

……そう、ボソンジャンプが発生した時に、活性化が見られる。

 

要は、ボソンジャンプのコントロールシステムと推測されるが。

ネルガルはずっと、その遺跡を求めて火星を狙っていたとのことで。

そして恐らくは、木星連合もきっとその積もりであるのだろうと。

 

そのシステムを解析すれば、ボソンジャンプを独占的に使用でき。

この戦争どころか、人類にとって大きなブレイクスルーになる。

規模的には、ナノマシンに匹敵するレベルの変化になるはずだ。

 

現在は遺跡を木連軍が占拠しており、無人兵器でいっぱいで。

確保するなりどうにかするなり、とにかくそいつらを退かすこと。

ま、木星のものにさせるわけにも行かないのは、同感である。

 

その為に、カキツバタはナデシコを和平会談まで助けに来て。

ボソンジャンプによって火星に飛んだカキツバタをナデシコが追い。

そして、俺たちはその遺跡確保に共同戦線を張ることになった。

 

地球連合軍は残存している戦力を結集、あと半日で火星まで到達。

木星連合も移住の為の都市艦も含め、大艦隊があと半日で火星到着。

時間はなく、戦力もそれなりどまり。やれることには限度がある。

 

ネルガル側カキツバタより出された方針提案は、基本的に確保。

しかし確保が出来ないのなら、その際は放棄も視野に入れるという。

判断と方法については、ナデシコの指揮に従うとのことである。

 

「ネルガルで確保が一番だけど。

 最悪、誰の手にも入らなければそれでいい」

「……珍しいですね。

 宗旨替え、といった所ですか?」

 

プロスさんの質問に俺も内心で頷く。アカツキさんらしくない。

基本的に、取れる限りはテイクスオールの人だと思ってたが。

そんな重要らしきものの放棄を、先に言い出すだなんて珍しい。

 

何か理由があるのかと思って、すぐ気づいた。問題はその遺跡だ。

遺跡が木星に狙われているなら、確保しても狙われてしまう。

それはきっと、和平とかの話になってからも変わらないことだ。

 

木星がネルガルに所在を追求して、連合軍がそれを知ったとき。

遺跡の所有者というか、誰が研究するか泥沼になるのは違いない。

……それでも確保が一番にくるあたり、重要性もわかるけれど。

 

「ここで確保したら。

 所在を追求され続けるから、ですか?」

「まあ、それもあるけどね」

「他にも?」

「……タキガワ君、君だよ。

 ボクたちが遺跡を確保しない理由は」

 

――俺か。それ程意外って感じもしないのは、あれだろうか。

ネルガルが現状掴んでいる、ボソンジャンプの有力な情報の内で。

俺のデータの解析が一番早く結果を出しそうだから、だろう。

 

そして、アカツキさんはそのまま俺とみんなに説明をした。

あの一連のデータ郡、そしてその基礎となってる演算プログラム。

どうやらそいつら、ボソンジャンプの解析機であるらしいのだ。

 

まだ翻訳は完全ではないらしいが。それでも大体のことはわかる。

ボソンジャンプの入力者。対象。目標。これは定形であるらしい。

カワサキシティでの、あの連続予測があったから判明したとのこと。

 

その内、目標については、非常に構文が様々で一定してないが。

しかしそれも今後データを積み重ねていけば、解決の余地がある。

十分に機能するレベルと推測される解析性能を持った、観測機。

 

……まあ確かに。観測できるなら上手く入力する方法も調べうる。

元がプログラムなのもいい。きっと、本物の解析機も作れるだろう。

何れは遺跡の翻訳機能を持った、入力機も作れるかもしれない。

 

「今回のジャンプで確信を得た。

 君は、ボソンジャンプの人間解析機だ」

「……ええ、それで」

「いつ追求されるか判らない遺跡より。

 ボクたちは、協力してくれる君に賭けたんだ」

 

なるほど、と。俺が言っていいのかは判らないけれど。

実際遺跡よりランクは下がるけど、その分俺の方がお手軽である。

背負いきれないリスクよりは取りうる最善策なのかもしれない。

 

俺自身としても、ネルガルがそういう楽で安全な選択肢を取るなら。

別にアカツキさんに協力するだけなら、まあいいかなとも思うし。

やっぱり多少、身の安全的な不安を感じるのはどうしようもないが。

 

しかし。なんというか、この俺に集まる視線に色々と耐え切れない。

数時間前には、イツキさんとユキナさんの件もあったというのに。

何か連続で俺に視線が集中しており、もうそろそろ穴が開きそうだ。

 

それ程大した人間でもないのに、こうもスポットライトが当たると。

どうにかしてあんまり真剣じゃない雰囲気にもって行きたくなる。

……つまりこう。なんとなくボケなきゃいけない世界の必然を感じた。

 

「――酷いっ!

 俺の身体だけが目当てだったんですね?!」

「……ああそうだ!

 君のその力をボクの為に活かしてくれたまえ!」

「何やってんのよあんたら」

 

修羅場ごっこである。大抵の男子大学生が基本スキルでもってる芸だ。

とはいえ何となく解れた雰囲気に、こそっと紛れる俺の自己主張。

アカツキさんとは友達だから、このノリなら協力するという意思表示。

 

確実にそれは受け止められた。にやりと笑う視線に俺も同じ表情を。

突っ込む提督も呆れたようで、どこか見守ってくれるような顔をする。

……うん。この選択肢は、間違いでなかったと信じていきたい。

 

極冠遺跡に巣食った無人兵器たちも、相転移砲の前では敵じゃない。

カキツバタを囮に、位置を調整された無人兵器たちは質量を消されて。

相転移砲を持ってるナデシコの、最強の証明にしかならなかった。

 

けれど、火星全体で考えるとまだまだ木星トカゲさんは大量である。

ここにナデシコがいる以上、彼らも無尽蔵に湧いてくるわけなので

艦長は即座に遺跡の破壊の為、相転移砲の発射を指示したが、無力化。

 

ディストーションフィールドじゃ防げないはずの相転移砲ですら。

防いでしまう古代火星文明ってのは、やっぱり底が知れないけれども。

少なくとも遠距離攻撃での破壊ってのは出来なかったのである。

 

……しかしその時、イネスさんからナデシコカキツバタの両艦に。

最重要通信枠で、なぜなにナデシコの最終回が通信されてきたのだ。

それも極冠遺跡の最下層、その本体があると推測される場所から。

 

イネスさんが説明したのは、ボソンジャンプの基礎的な原理。

電波の発生時、時間を順行する遅延波と時間を逆行する先進波が発生。

普段なら遅延波によって、先進波は打ち消されるが、しかし。

 

遅延波と干渉しない粒子、イネスさんによりレトロスペクトルと仮称。

その粒子に変換された物質と情報は、過去へと向かうことが出来る。

そしてその物質はこの遺跡によって現在へと更に送り返されるのだと。

 

現在から過去に、そして現在に送り返されるレトロスペクトル。

その現象こそがボソンジャンプ、詰まるところ時空転移であるらしい。

遺跡はその演算を、時間を越えて延々と繰り返しているそうだ。

 

この遺跡は時間を超えて存在している。これを壊せば全てやり直し。

今までのボソンジャンプは全てなかったことになり、歴史もやり直し。

ここにいる俺たちも、一体どうなるかは判らないということだけど。

 

イネスさんはそんなことよりと切り捨てて、テンカワさんを呼んだ。

遺跡で迎えなきゃいけない人がいるということだが、果たして。

勿論それが誰であるかとか、イネスさんの目的も気になる所だけど。

 

テンカワさんがエステバリスで遺跡に向かい始めてから、数分後。

上空より落下してきた巨大物体――チューリップの中より、艦隊出現。

ナデシコとカキツバタはそっちの対応もしなくてはいけなくなった。

 

 

 


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