なんとか、仕上がったので39話。お送り致します。
大口を開けて突進してくるオニザメの群。
ソレらに対して伊58が取った行動は……真正面からの突撃であった。
本来は自殺志願にしか見えないその行動、当然オニザメらは伊58をその大口で食い荒らそうと襲い掛かるが……。
「甘い、よぉ!!」
二匹のオニザメと交差する瞬間に伊58は身を捻り、両腰のシーハンターを発射し……。
伊58がオニザメらをすり抜けた瞬間、大口を開けたオニザメの口内に戦艦級の深海棲艦すらも沈める魚雷が、5本ずつ外れる事なく直撃し。
着弾と同時にオニザメ2匹の体が大きく膨張、次の瞬間機械部品と臓物をぶちまけて爆裂四散する。
「まず、2匹ぃぃ!!」
目を血走らせながら咆哮を上げる伊58。
続けて狙うのは、濃縮な血と油の臭い……そしてぶちまけられたオニザメの臓物によって鼻と視界の両方を潰された事で、ターゲットである伊58を見失ったオニザメ。
少女は一瞬の内に判断を終えると血煙の中で方向転換し、伊58を見失ったまま直進するオニザメと進路に交錯する形で進路を被せ、オニザメはその時になってようやく進路上にターゲットがいる事に気付くも……。
「死ねぇ!!」
憎悪と殺意の籠った伊58の叫びと共に、彼女が手に持ったハープーンキャノンから撃ちだされた炸薬付きの銛が射出され。
放たれた銛は、オニザメの回避行動すらも予想していた少女の予想通りの弾道を描いてオニザメめがけて飛来し……。
水中戦においては無用の長物とも言える、オニザメの額から生えた砲身の中へ直撃。その直後に爆発し、オニザメ自身が持つ弾薬に誘爆したソレは目標の頭部を粉微塵に爆発させた。
縦横無尽とも言える伊58の戦闘。
通常で考えれば自殺行為でしかなく、伊58自身がアクセルの手によって強化されたとはいえ……本来はここまでの戦果など挙げられるはずはない。
ならば、何故伊58がオニザメの群に対してここまで優位に戦えているのか。
ソレは……。
「お前達のその動きも、その回避行動もぉ!!」
立て続けに3匹を殲滅した伊58を狩り殺そうと、殺意をもって襲い掛かるオニザメらの動きを回避していく伊58。
時折、砲身を槍のような甲殻で覆ったオニザメ……後に槍オニザメと呼ばれるソレの角が少女の体を掠め、それによって少女の水着が傷ついていくも。
「全部、全部見てきたんだからぁ! 忘れる事なんて、できるもんかぁぁぁ!!」
かつて所属していた艦隊の、潜水艦娘達。
その中で最も錬度が低く、そして最後に配属された伊58を逃がす為に奮戦し……彼女の目の前で殺されていった姉妹達。
伊58は、その時の光景を未だ忘れることは出来ず、そして夢に見ては魘されていて……その度にどうやってヤツラを殺し尽くすか、徹底的に考え尽くしていた。
そして、机上の空論で……鬱屈した少女の心を癒す役目しかなかったはずのソレは。
アクセルの手によって強化され、戦う術を得た彼女自身の手によって。
絶望を食い破るための牙へと、昇華された。
「でやぁぁぁぁぁ!!」
再装填を終えた両腰の5連装シーハンターを、今にも食らいつこうと大口を開けるオニザメ2匹へ射出し、ソレが2匹の口内へ入っていくのを尻目に伊58は回避行動を取り、先ほどの焼き直しのように紙一重で敵の攻撃を回避していく。
しかし、次の瞬間。
「うぐぅっ! ま、まだ大丈夫でち!!」
何時までたっても捉えられない伊58を捕捉すべく、同族を捨石にした槍オニザメが回避行動をとった瞬間の伊58めがけて突進。
咄嗟に体を捻る事が間に合った伊58は串刺しにされる事こそ逃れられたが……。
突進そのものまでは回避しきれず、競泳水着を破壊されながら水中を吹き飛ばされてしまい。
ソレによって、少女の体格の割にそれなりに発育の良い胸が露になるが……。
「っ、シーハンターが……!」
命のやり取りに集中している今、自らの状況よりも突進の衝撃によって破壊され使用不能となったシーハンターの状況に少女は歯噛みする。
そして、槍オニザメは体勢を崩した伊58を確実に殺すべく襲い掛かろうとする、が。
苦し紛れに伊58が放ったハープーンキャノンを大げさに回避し、そのまま距離を取るかのように離れていく。
ある意味で仕切り直しとも言える状況の中、伊58は無言でハープーンキャノンの再装填を待ち。
槍オニザメもまた、確実に伊58を殺すべく泳ぎながら狙いを定め……。
まるで、互いに示し合せたかのように。全く同じタイミングで突撃を開始する。
槍オニザメは、上位存在からの指示を達成する為に。
伊58は……過去のトラウマと決別する為に。
そして。
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遠くから砲撃音が響いてくる海域。
それ以外は、波すらも殆どない静かな海域にアクセル達は到着する。
「アクセルさん、この辺りです……」
「……そうか」
途中から途絶えた信号に、逸る気持ちを抑えながら急行したアクセル達。
しかし、そこに到着したアクセル達の通信に答える伊58の声も姿も……彼女と戦っていたと思われるオニザメの姿すらも。
そこには、無かった。
「……あの、馬鹿……!」
崩れ落ちそうになりながらも耐えた夕張が、顔をくしゃくしゃにして涙をぽろぽろと流す。
彼女だけではない。
伊58に逃がされた潜水艦娘も、応援として来た翔鶴と瑞鶴もその瞳から涙を流し。
「……あの、愚か者めが」
「……また、雪風は……守れなかった……」
辛辣に言い放ちながらも、初春は忙しなく扇子を開いては閉じ。
雪風は、虚ろな声で呟きながらとめどなく涙を流す。
「…………ム?」
「……どうした、の? ヲ級……」
やるせなさそうにしつつも、哨戒機を飛ばしていたヲ級が何か反応を示し。
沈痛そうに瞑目していた扶桑が、ヲ級の様子に気付いて声をかける。
「……駆逐艦ガ一人、接近中。何カヲ曳航シテイル」
「どういうことだ……?」
一人、レッドウルフの中で拳を握りしめていたアクセルへ届けられるヲ急からの通信。
その内容にアクセルは散って逝った伊58に、やるせない気持ちを抱きながらも全員へ警戒するよう指示を出す。
そして、悲しみに耐えながらも警戒姿勢をとるアクセル達の前に現れたモノ、ソレは……。
「いそかぜ……さん……?」
「久しぶり、になるのかな。この場合」
上半身どころか、かなり際どいところすらも見えてしまっている伊58に肩を貸している。
両足の艤装が大型化し、右腕の前腕部が機怪群の兵器のようなモノの集合体と化した……異形の艦娘であった。
「……ゴーヤを、助けてくれたの?」
「任務に含まれない部分だからな」
感極まった、と言った様子でフラフラと磯風らしき艦娘へ近づいた雪風へ。異形の少女は伊58を押し付ける。
「磯風さんも、こっちに……!」
「すまないな雪風、ソレは出来ない。司令からの伝言もあるしな」
ぐったりとした伊58を抱き留めながら、雪風は磯風らしき艦娘を見上げて必死に訴える。
しかし、磯風らしき艦娘は悲しそうに目を伏せて断り……アクセルが乗るレッドウルフへ視線を向ける。
「ソレに乗っているのだろう? アクセル殿」
「……ああ、俺の名前知ってるって事は……てめぇの上司は、グラップラー四天王のアホ共か?」
「御明察、私の司令はカリョストロ様だ。そして我が司令殿から伝言がある」
名乗っていないのに自らの名を呼ばれたアクセルは、愛車の中で忌々しそうに顔をゆがめながら答え、そして確信を持ちつつも少女へ問いかける。
その問いかけに磯風らしき艦娘は、どこか虚ろな表情で頷いて見せ……。
「この先にはカリョストロ様率いる大艦隊が待ち受けている、是非楽しんでほしい。との事だ」
「……もし、俺がソレを無視したら?」
「その時は私の首が貴公の家に届けられるそうだ」
磯風らしき艦娘の言葉に絶句する夕張達。
そんな少女達の様子を尻目に、磯風らしき艦娘は振り返り……チラリと、一度だけ雪風へ視線を送ると、振り返る事なく来た道を通常の駆逐艦では考えられない速度で戻っていった。
余りにも唐突な会話と、その流れに沈黙が場に満ちる中。
アクセルは大きく溜息を吐くと、いつもの調子で言葉を吐き出す。
「とりあえず、まずは呑気に気絶してるそこのアホ娘を直して叩き起こすぞ」
「その後は?」
どんな説教してやろうか、と剣呑な声で愚痴るアクセルに夕張は問いかける。
その問いかけに、アクセルは……。
「あん? んなもん決まってるだろうが」
どっこいしょ、とレッドウルフから降車しマイクロバスの中へ伊58を引きずりこみながらアクセルは不機嫌そうに答える。
「あの陰謀家気取りのくそったれ野郎を、今度こそ地獄へ叩き込むに決まってるだろうが」
ついでに、あの艦娘も助けるとするか。と伊58を修理しながらアクセルは獰猛な笑みと共に戦意を示した。
ゴーヤ、Uシャーク絶対殺すレディとして無双する。の巻でした。
戦艦も一撃で仕留め得る魚雷を、直接口内にぶち込まれたらさすがのU-Uシャークも無力だったでござる。そんな話でした。
そして、磯風らしき艦娘によって救出されていた伊58。
本来であればもっと有用な使い道があったにも関わらず、アクセル達へ引き渡されました。
ソレもカリョストロの狙いか、はたまた艦娘としての意識が残っている磯風のささやかな抵抗か。
次回を、お楽しみに!