艦これMAX   作:ラッドローチ2

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お待たせしました、超難産だった38話です。
明日、むしろ今日から仕事だというのに……こんな時間に……w


38 消し得ぬ過去への咆哮

 

 

 唐突であるが、潜水艦という艦種は他の水上艦に比べて運用法がかなり特殊である。

 

 艦の機能の限界から潜航可能時間があるとはいえ、相手の死角から一方的に目標を叩く事が出来、隠密性にも優れており……実際の戦場でも絶大な効果を挙げた実例もある。

 

 但し、ソレは正しい運用を行ったからであり潜水艦という艦には制約もまた多い。

 

 潜航して活動する関係上ペイロードに余裕はなく、水上艦ならばまだ行動可能な損傷すらも致命傷となる場合があり……。

 

 ソレは艦娘になっても、同様であった。

 

 

『こちら伊58、今のところは順調でち』

 

「了解した、何かあったらすぐに連絡してくれ。無理はするなよ」

 

『アクセルさんもっと言ってあげてよー、ゴーヤ機械群見つけるたんびにケタケタ笑いながら魚雷ぶっ放して怖いんだからー』

 

『えー? ゴーヤ普通だよぉ?』

 

『普通の艦娘は、魚雷受けて沈んでく敵見て邪悪な愉悦ヅラ浮かべないと思うのね……』

 

『ひどいよぉ!』

 

「……あー、仲が良いようで何よりだ。そして苦労かけてスマン」

 

 

 他の艦隊から派遣されてきた潜水艦娘と共に行動し、先行偵察しつつ大物を沈めていく伊58から通信を受け。

 

 通信機の向こうからキャイキャイと聞こえる黄色い声に、少し顔をしかめつつも苦労を掛けている僚艦の潜水艦娘に詫びを入れ。

 

 アクセルは伊58へ無理無茶無謀しないよう念入りに釘を刺し、伊58は通信機の向こうで了解とだけ返して通信を切る。

 

 

「ここまでは順調ですね、アクセルさん」

 

「そうだな……」

 

 

 作戦が開始されてから結構な時間が経過している中。

 

 主力艦隊からめまぐるしく状況が推移している内容の通信を受けながら、アクセル艦隊は進撃を続け……。

 

 今のところ、大きな損害や脱落者を出す事なく艦隊を進める事に成功していた。

 

 

「けども、こんなに必要なのかなーって思ってたんですけど……持ってきて正解でしたね、資材」

 

「だろ? 念には念を入れておけば割となんとかなるしな」

 

 

 移動式補給基地と化しているマイクロバスを牽引している夕張が、作戦開始時に比べ随分と軽くなった車体に思わず乾いた笑い声を上げ。

 

 アクセル自身、実は思った以上に早く減ってるなぁ。などと思ってる事などおくびにも出さず不敵に笑う。

 

 

「作戦行動中でも、燃料や艦載機の心配をしなくて良いのは助かるわね。瑞鶴」

 

「でもさー翔鶴姉、コレ使おうと思ったらアクセルさんの所の夕張みたいに訓練した娘いないと無理っぽいわよ?」

 

「私達の艦隊にも欲しいんだけど……夕張さん、引き抜くわけにもいかないわね……」

 

 

 なお、そんなマイクロバスの便利さに……別艦隊から派遣されてきた、きわめて錬度が高い五航戦姉妹もご満悦である。

 

 最も、今も元気にマイクロバスを牽引し更に平然とした顔で戦闘行動を行う夕張みたいな、ある意味でネジが外れた艦娘が必要な為少し物干しそうだったりもする。

 

 

「はい、私はアクセルさん専用ですから!」

 

「まぁ……」

 

「おい夕張、思い切り誤解招くような事言ってんじゃねぇ!?」

 

 

 そんな姉妹の会話を聞いていた夕張は、とても良い笑顔でハキハキと宣言。

 

 夕張の発言を深読みした翔鶴は、その顔を真っ赤にして身悶えし……。

 

 不穏当すぎる夕張の発言に、アクセルは思わず全力で突っ込みを入れる。

 

 

「ほれほれ、仲が良いのは別に構わぬが先へ進むぞ」

 

「……ああそうだな。行くぞてめぇら!」

 

 

 そんなアクセル達の様子に、この中で一番戦闘経験が豊富な初春がため息交じりに声をかけ。

 

 頼りになる先任の言葉に気を取り直したアクセルは、照れ隠し気味にキャッキャウフフとガールズトークに花を咲かせ始めた夕張達へ喝を入れた。

 

 今はうら若き乙女の姿であるとはいえ、そこは艦娘。

 

 錬度が低い娘ならまだしも、今ここにいるのは一部の例外を除けば殆どが激戦を潜り抜けてきた猛者でもある為。

 

 花咲き始めたガールズトークを即座に中断、すぐに作戦に専念し始めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 そして、あれからアクセル艦隊が複数の敵艦隊を殲滅し……先行している潜水艦は潜水艦で大物を幾つも沈めた頃。

 

 状況の変化は、唐突に訪れる。

 

 

「っ! 鬼鮫の群がこっち来てるの!」

 

 

 搭載してきた電探に反応した、複数の敵影に……その速度から敵艦種を割り出した伊19が叫ぶ。

 

 

「これは、敵も本腰入れたみたいですね」

 

「イク、何匹くらい来てる?」

 

 

 普段のらりくらりとしている伊19の只ならぬ様子に、伊8はぼんやりとしつつも若干顔をしかめて呟き。

 

 伊401は、春嵐を飛ばすかどうか悩みつつ。真っ先に反応した伊19へ問いかける。

 

「合計6匹、その内1匹が特に早いの……!」

 

 

 伊19が何故慌てているか。

 

 ソレは、鬼鮫……Uシャークという機械群の戦闘行動が関係している。

 

 通常Uシャークという化け物は、陸上からの砲撃を潜航することで回避し。相手の隙をついて浮上して砲撃を加え、時には尻尾で起こした波で攻撃をするのだが……。

 

 水上艦の艦娘には、飛び掛かって食いついてくる事すらあるUシャークらにとって、水中を往く潜水艦娘は獲物でしかなく。

 

 潜水している目標への攻撃が、現状困難な戦艦娘らにとってUシャークは……。

 

 決して硬くない彼女たちの装甲を、その凶悪な牙で食い破ってくる水中の死神とも言うべき存在であった。

 

 

 

 故に、伊19の言葉に決して錬度が低くないとはいえ……彼女たち潜水艦娘らに動揺が走る事もやむを得ないのだが……。

 

 

「く、くくく……」

 

 

 今、この潜水艦隊を率いている。アクセル艦隊所属の伊58に関しては少し話が違う。

 

「ご、ゴーヤ。大丈夫?」

 

「大丈夫だよぉ。 皆、あいつら全員ゴーヤが仕留めるから指揮権はイムヤに渡すでち」

 

「は?! 何言ってんの!?」

 

 

 昏い笑い声を上げる伊58に、伊168は心配そうに声をかけ……。

 

 返ってきた伊58の言葉に、思わず素っ頓狂な声を上げる。

 

 

「問答してる時間はないよぉ? イク、そいつら振り切れそう?」

 

「む、難しいと思うの……あいつら、真っ直ぐこっちに来ているのえ……」

 

「ね? だから一番アイツラを狩り慣れてる伊58が残るのが一番だよぉ」

 

 

 しかし、伊168の言葉に。伊58は淀んだ光を瞳に浮かべて虚ろな笑いを浮かべながら応え……真っ先に敵に気付いた伊19に、そのまま問い返す。

 

 鬼気迫る伊58の貌を見た伊19は、先ほどまで少し取っ付き辛くはあるも十二分に頼れる姿を見せていた、伊58の変貌ぶりに言葉を詰まらせつつ正直に答える。

 

 その返答に、これが一番の作戦だと言わんばかりに伊58は伊168へ向き直って宣言した。

 

 

「……わかった、わ」

 

「え、ちょ、ちょっとイムヤ。ゴーヤちゃん置いてっちゃうの!?」

 

「それが一番だからしょうがないよぉ、だってゴーヤはあいつらを」

 

「ただし!!」

 

 

 不承不承、と言った口調で言葉を吐き出した伊168に。伊401は納得がいかないとばかりの表情で叫び。

 

 自分のために怒ってくれている伊401に、伊58は申し訳なく思いながらも。どこか壊れた笑みを浮かべ……そんな伊58に伊168は声を荒げて、伊58の言葉を遮る。

 

 そして。

 

 荒々しく、自らの前髪を止めている髪紐を解いて伊58の手首へ巻き付けた。

 

 

「え?」

 

「これ、貸したげるから。絶対返しなさいよ!」

 

「あ、イムヤずるいのね! じゃあイクはリボンつけるのね!」

 

「……じゃあ、はっちゃんは魚雷補給しておくね。同じヤツ使ってるし」

 

「私は後で飲もうと思ってた燃料缶上げるね!」

 

 

 今この時も敵が迫ってきているというのに、悲壮感なんて知った事じゃないとばかりの僚艦達の様子に。

 

 伊58は、今この時はその瞳から淀んだ光を消し、きょとんとした顔でなすがままにされていく。

 

 

「すぐにアクセルさん達連れてくるから! 絶対に無事でいるのよ!?」

 

「アクセルさん達にはとっくに通信済みなのね! 後で説教するって怒ってたから覚悟しておくのね!」

 

「……無理しちゃダメだからね? 作戦が終わったら、みんなでシュトーレン食べよ?」

 

「その後はお風呂入ろうね!」

 

 

 伊168が、伊19が、伊8が、伊401が……思い思いの言葉、そして気持ちを告げてアクセルを呼ぶ為に、そして伊58の足手まといにならない為にも最大速度で離脱していく。

 

 そんな彼女たちを、伊58はどこか呆けた表情で見詰め……消し得ぬ過去の象徴でもある、自らの体に刻まれた傷跡へ触れる。

 

 傷跡に触れるたびに、いつもであれば機怪群への消えない憎悪が伊58の小さな体を駆け巡っていた。しかし今この時だけは。

 

 

「……今度は、伊58が皆を守るばんでち」

 

 

 憎悪でも、憤怒でもない、暖かく確かな気持ちがその体を満たしていた。

 

 そして、少女はその小さな体で。その姿を現した6匹の鬼鮫と向かい合う。

 

 6匹の内5匹は、まるで鮮血のような紅い色をしていて。

 

 唯一違う1匹に至っては、今まで屠ってきた鬼鮫とは違い……巨大な砲であるはずの角が、全てを刺し貫く槍のような形状をしていた。

 

 

「だから……」

 

 

 けれども、伊58には恐れも怯えもなかった。

 

 そして。

 

 

「お前達なんかに、殺されてやるもんかぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 少女は一人、己を奮い立たせる咆哮を上げながら。

 

 単身、鬼鮫の群へ突撃する。

 

 




『思い出したかのようなメタルマックス用語辞典』
砲身が角みたいなUシャーク……MIXI、もしくはハンゲであったメタルサーガ・ニューフロンティアに出てきた鬼鮫。
 凄く紛らわしいのですが、原作ではオニサメと言えばこっちだったりします。
 砂漠の方のインペイラーって名前の方は、生身の人を即死させる恐れがある程度に危険でしたが戦車に乗れば余裕だったりします……が。
 海の方に出てくるコイツは、ガチでヤバかったり。廃人にとっては余裕だったりするのは内緒。


というわけで、38話お送りしました。
伊58にとって、ある意味でトラウマを振り払うための戦い。しかし戦力差は絶望的。
はたして、伊58は生き残る事ができるか……!

ちなみに、潜水艦娘が鬼鮫とまともに戦えない、という部分については…。
艦これにて、潜水艦は互いに攻撃できないという部分から取ってきてたりします。

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