一部轟沈描写あるので、注意かもしれません。
北方AL海域、そこは生半可な力量で挑んだ場合は生還を望めない絶望の海域。
今、その海域には……確かに異変が起きていた。
「……龍田、気付いたか?」
「うん~、明らかにおかしいかなぁ」
最近手に入れた、アクセル印の艦娘用太刀にこびり付いた鬼鮫の血脂を拭いながら、天龍は隣に立つ龍田へ問いかけ……。
問いかけられた龍田もまた、天龍の言葉に首肯で同意を示す。
二人の違和感の理由、それは……。
「明らかに、機怪群が多すぎやしねぇか?」
「やっぱり天龍ちゃんもそう思う? ちょっと、偶然で片付けるには違い過ぎるよねぇ」
海域に突入してから、今この時までに明らかに深海棲艦との遭遇が少ない事。
それが二人に大きな違和感を与えており……天龍の呟きに、龍田は海面にしゃがみこむと今先ほど撃破した敵の残骸の確認をし始め。
特に目新しい何かが見つかるわけもなく、ため息を吐いて立ち上がる。
「どうするの天龍ちゃん、さすがにこれ以上の偵察は危険だと思うんだけど」
「そう言うなよ龍田、せめてこの異常の原因くらいは突き止めてぇんだしよ」
現状、未だ余裕がある状態での撤収を龍田は提案し。
天龍もまた、それなりに修羅場をくぐってきている経験から同意したいところであるが……。
提督に良いところを見せたい、という欲望で妹に拝み倒す。
そんな、姉の様子に龍田は……。
「うふふ……好奇心に殺されちゃうわよ? 天龍ちゃん」
柔らかく笑みを浮かべてそう口にし、あと少しだけだからね。と言葉を続ける。
「わりぃな龍田、今度間宮さんの羊羹奢るからよ」
「良い玉露も追加してね?」
「おうよ」
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松谷艦隊所属の天龍と龍田が北方AL海域の調査を進めている頃。
北方AL海域の主とも言える白い少女……北方棲姫は。
「ハァ、ハァッ……!」
「ふむ、随分と粘るじゃないか」
北方棲姫の目で視認できるほどに近付いてきた、超巨大戦艦からの砲撃で施設ごと薙ぎ払われ、時に小さな体躯を転がされ……。
それでもなお、少女は目に闘志を滾らせると無事な施設から艦載機を発艦。
余裕の表れか、海上に立つカリョストロをこの世から消し飛ばすべく爆撃を敢行する、が。
ソレらは目標に到達する事なく、カリョストロの傍に控える艦娘と機怪群が融合したかのような存在に迎撃されてしまう。
「司令、怪我はないか?」
「問題ないよ磯風」
北方棲姫の前で、悠然と会話をするカリョストロと……磯風と呼ばれた艦娘に似た『何か』。
その『何か』は、腰ほどまである長い黒髪に伏し目がちの目などの磯風と呼ばれている艦娘の特徴を幾つも持ち合わせていて。
しかし、その両足の艤装は大型のモノになっており、右腕に至っては前腕部が機怪群の兵器のようなモノの集合体へと変質していた。
「コレハ、マズイデスネー」
超巨大戦艦からの砲撃が逸れ、奇跡的に生き残っていたフラグシップ戦艦ル級が呟く。
深海棲艦側の攻撃は、艦娘のような何かの迎撃やカリョストロ自身が放つ雷撃によってほぼ無効化されるのに対し、敵側の攻撃は着実に深海棲艦側へ損害を与えていて……。
無機質な嗜虐的な笑みを浮かべたカリョストロ自身の指示か、甚振るような攻撃しか来ない事が深海棲艦達が全滅していない理由となっていた。
ソレらを分析して、他の深海棲艦に比べ強い自意識を持つフラグシップ戦艦ル級は考え、決断する。
「ンー、ショウガナイネー。ヌ級、リ級、北方棲姫様ツレテニゲルデース」
ル級は、手近な場所にいた……艦載機を全滅させられたフラグシップ軽母ヌ級と、フラグシップ重巡リ級へ指示を出し。
生き残っていた深海棲艦を率い、前面へ出始める。
「ハ、ハナセ! オネエチャンタスケルノ!」
「ダイジョウブデース、ワタシタチガシッカリタスケダシマース」
あちこちに煤をつけた北方棲姫をヌ級がしっかりと抱きしめ、リ級が後詰についたことをル級は見届けると。
二人に全速力の離脱を命じると同時に、もはや駆逐艦ぐらいしか生き残っていない艦隊でカリョストロ達めがけて突撃を開始する。
カリョストロからの攻撃、そして磯風と思しき何かや超巨大戦艦からの砲撃。
ソレらで次々と仲間が轟沈し、自らの装甲も砕かれていく中ル級は考えていた。
していない筈なのに、前も似たようなことをした事を。
ソレが何故か、その事の答えが出ようとした瞬間に。
「やれ、磯風」
「アァァッ!」
カリョストロの、嘲りの響きを込めた言葉と共に……磯風と思しき何かから放たれた魚雷がル級の脚部に着弾し、航行不能となってしまう。
何かの答えは出なかったが、しかし北方棲姫を離脱させるという目的を達成できたル級の心は晴れやかだった。
「フ、フフフ……ジカンハカセゲタ、デース」
無事な個所がない体から、血ともオイルともつかない液体を流しながらゆっくりと北の海に沈んでいくル級。
しかし、晴れやかな気持ちであったル級に……残酷な事実が告げられた。
「君がいくら頑張ろうとも、既にあの娘は助からんよ。既に網は敷いてあるからな」
沈んでいくル級を見下ろし、嘲笑を浮かべて告げるカリョストロ。
その言葉にル級は目を見開き、激昂の雄叫びを上げ折れ曲がった主砲を向ける、が。
カリョストロの傍に控えていた、磯風と思しき何かからの砲撃でそれも構わず……ル級は絶望と共に、沈んでいった。
水底へ引きずり込まれていくル級は、どこか他人事のように……自らが沈めた艦娘もこんな気持ちだったのだろうか、と考える。
そして、願った。せめて北方棲姫だけでも助かってほしい、と。
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沈みゆくル級の願い、それが通じたのかどうか定かではないが……。
離脱しようとする北方棲姫達を仕留めるべく包囲網を敷いていた機怪群。
ソレらが全力で捕捉していた場合、彼女らが助からなかったのは想像に難くないが、しかし。
「クソッ、なんでこんなに機怪群がわんさかいやがるんだよ!?」
「どうしよう天龍ちゃん、もう魚雷が尽きたわぁ」
彼女らにとって一つの幸運は、松谷艦隊の天龍と龍田が海域の偵察に来ていた事で……機怪群の目がそちらに引き付けられた事であった。
天龍達にとっては、不幸な事この上ない話であったが。
「へっ、この天龍様の天雷龍神剣のサビになりたいヤツはかかってきやがれぇ!」
「ソレ、セクシーソードって名前じゃなかった~?」
「そんなダセェ名前却下だ却下!」
背面に回り込んだゾンビサーファーを主砲で吹き飛ばし、その反動で身を回転させながら天龍は迫りくる機怪群を愛刀で切り裂き。
魚雷が尽きたと嘆いておきながら、龍田は龍田で手に持った薙刀でアクアウォーカーのカメラアイを貫いた瞬間に身を翻し……同士討ちさせた上で、疲弊した敵を確実に仕留めていく。
そして……。
そんな二人の脇を、北方棲姫を抱えたフラグシップ軽母ヌ級が駆け抜けていった。
「「え?」」
思わず自らの目を疑う天龍と龍田、そんな二人の隙を機怪群は狙い撃とうとし……。
マズイ、と天龍が気づいた瞬間。狙い撃とうとした機怪群が爆発四散する。
今度は何だと龍田がそちらへ視線を向ければ……。
あちらこちらから煙を噴いている、フラグシップ重巡リ級が魚雷で天龍と龍田を狙い撃とうとしていた機怪群を沈めていた。
「……あ、わりぃ」
理解が追い付かず、思わずそんな言葉を天龍は口にし。
フラグシップ重巡リ級はと言えば、良いって事よとばかりに手を振ってヌ級を追いかけて海域を戦場を駆け抜けていった。
「……なぁ龍田、今のアレ報告するだけでも十分成果になるよな?」
「なるんじゃ、ないかなぁ」
今度はしっかりと周囲に気を張り、手を動かしながらどこか疲れた声で天龍は呟き。
龍田もまた、似たようなトーンで同意した。
【思い出したかのようなメタルマックス用語辞典】
セクシーソード……初出はメタルマックス3の、女ソルジャー専用の白兵戦用単体攻撃武器。
攻撃力がそれなりに高く2回攻撃が可能なため、複数攻撃系特技と非常に相性が良い。
天龍ちゃんが装備してるのは、アクセルが作ったは良いけど扱いに困ってたブツを引き取った一品。
威力も使い易さも超気に入ってるが、名前だけが気に入らなかったので勝手に改名したらしい。
そんなワケで33話お送りしました。
天龍ちゃんじゃなく、どこかで見たような気がする戦艦っぽいル級さんが沈みました。
艦娘らの手によって沈められていれば、もしかすると金剛として復活できたかもしれない。その程度には自我が強かった娘さんでした。
磯風、と思しき何かは深海棲艦に成りかけていた磯風を機怪群が回収しちゃったことで生まれた存在です。
アクセルのところにいる、雪風の戦友『だった』娘でもあります。
(どうでもよい追記)
ある日突然、こちらの更新に差し支えない範囲で短編とかにょっきり投稿するかもしれません。
FTLとISのクロスとか、The Binding of IsaacとD×Dのクロスとか。