久しぶりに兵藤さんもちょろっと出てきます。
妖精が爆発で吹き飛んだり、伊58が毎回怪我して帰ってきて怒鳴られたりと賑やかな港湾施設。
そんな施設では今まで周辺海域の掃討や警備は、やってくる提督任せにしていることが多く……。
けして弱くはない周辺海域の深海棲艦や機怪群は、到達も困難な提督にとって大きな関門ともなっていた。
この事についてアクセル自身もどうにかせんといかん、とは考えてはいたもののいかんせん戦力が無かったのだからどうしようもない。
なんせ、常駐戦力がアクセルと夕張とヲ級、そして扶桑である。
そこに伊58と雪風も追加されたとはいえ……。
色々と何かがおかしい連中ではあるが、艦種として分けると軽巡洋艦と正規空母と航空戦艦、潜水艦と駆逐艦が一隻ずつでしかなく。
アクセルというイレギュラー中のイレギュラーを加味したとしても、どうにもならない数の問題がそこには横たわっていた。
「というわけで知恵袋お婆さん的な初春、何かアイデアくれ」
「はったおすぞこの無礼者」
時刻は午後三時ごろ、お茶を啜りながらおやつを齧りつつアクセルは初春へ問いかける。
ちなみに初春がなぜいるかというと、お使いと言う名のオヤツのタカリである。
「まぁ一番手っ取り早いのは新たに建造する事じゃろうな、何故ソレをせんのじゃ?」
「やっぱソレっきゃねぇかなぁ、地道に育てていくしかないかね」
「千里の道も一歩からじゃて」
初春の言葉にアクセルは嘆息し、大皿に最後に残ったせんべいへ手を伸ばし。
同じように手を伸ばしていた初春と、手が触れ合う。
そこで何かが芽生える、などと言う事はなく。
これは俺んとこの煎餅だぞ、遠慮しろよ。とアクセルが視線で牽制し。
婆呼ばわりされて傷心じゃからの、ここは女子に譲るべきじゃ。ともう片方の手で扇を広げて口元を隠しつつ初春も視線で牽制する。
そして。
「イラナイナラ、モラウ」
横からひょい、と手を伸ばしたヲ級が最後のせんべいを無造作につかみ。
二人が止めるよりも早くかぶりついた。
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「? ヲ級さんの悲鳴が聞こえた気がします!」
「気のせいじゃない?」
海上で敵影を探していた雪風が、双眼鏡から目を離して首を捻り……何も聞こえなかった夕張は首を傾げる。
「ぷはっ、海中も特に敵影は見えないよぉ。鬼鮫いないかなぁ」
「アンタねぇ、この周辺のUシャークあれだけ狩ったのにまだ足りないの?」
水音を立てて海中から伊58が顔を出して旗艦である夕張へ報告し、目当ての機怪群が居なかったことに口を尖らせる。
その発言に夕張は苦笑いを浮かべて問うも、当たり前だよぉ。と予想通りの回答を伊58から受けてそっか、とだけ返す。
彼女たち3人が何をしてるかと言えば、夕張の特訓を兼ねた周辺海域の安全確保任務である。
メンバー的に火力不足が弱点であるが、伊58と雪風にかかれば割となんとかなるレベルに収まっていた。
なお、火力担当の扶桑は修理作業が長引いている関係でまだ港湾施設で待機中だったりする。
「この辺りは大丈夫だと思うので、次行きましょうか!」
「了解、どんどん行くわよー!」
戦歴、技量ともに雪風の方がはるかに上であるが。
経験を積むために夕張が旗艦となっているので、雪風は必要以上にでしゃばろうとせず。
夕張もまた、雪風の意をくんで頷き。早く強くなってアクセルの力となるために夕張も張り切って次の海域へ進む指示を出す。
伊58もまた、特に意見を出したりとかはしないものの指示に反する事もなく夕張をフォローできる位置に張り付きつつ隊列を組んで進みだす。
「そー言えば、前に不思議なものを海底に見つけたよぉ」
「何々、古代アトランティス帝国の遺跡とか?」
「夕張さんが、なんで海底にある不思議なものって聞いてそれが最初に出るのか。雪風には理解できません……」
周囲の警戒を怠らず、ワイワイと女子トークに花を咲かせながら海域を進む3人。
「もー、違うよぉ。真っ赤で大きい戦車でち!」
「ほへー、真っ赤な戦車って珍しいですね」
「……ちょっと待って、真っ赤な戦車?!」
伊58の言葉に雪風がとても珍しそうな声を上げ、夕張は思わず屈んで伊58の肩を掴んで問い質す。
「ど、どうしたの?」
「その戦車、車体の側面にミサイルくっついてて。かつ砲塔にミサイルポッドついてなかった?!」
「ついてた気がする、かなぁ」
夕張の突飛な行動に伊58は目を白黒させ、そんな彼女の様子を無視して夕張は中々の剣幕で戦車の特徴を確認し。
夕張の気迫にたじろぎながらも、伊58は記憶を基に答える。
「こうしちゃいられないわ!沈んでる海域周辺を掃討してサルベージ計画立てないと!」
「まずこの付近しないとダメだよぉ!」
「アレが手に入ったら、機怪群もっと殲滅しやすくなるわよ!」
「急いで戦車周辺掃討でち!」
戦力増強しつつ、アクセルに褒めてもらう為に急いで戻る準備を始める夕張。
そんな彼女の様子に伊58は口を尖らせて窘めるものの、夕張からの返事に瞬く間に手のひらを返し。
二人して、ご意見番的ポジションの雪風に期待の視線を向け……。
「……全くもー、しょうがないですねー」
二人の視線に押し負け、ため息とともに雪風も一時撤退を承認。
その返事に夕張は顔をパァァと明るくし、アクセルへ向けて通信を開始する。
「アクセルさんアクセルさん! レッドウルフ見つけた!」
『マジか! どの辺りだ?!』
「えーっと……」
「ポイントは────でち」
興奮冷めやらない勢いでアクセルへ直通の通信機で夕張は通信使。
アクセルからの返事に一瞬目を泳がせ、伊58が見かねてポイントをアクセルへ報告する。
『俺が打ち上げられた砂浜に近いっちゃ近いな……』
「とりあえず、サルベージの為にも沈んでる海域制圧しておきますね!」
『ああ、頼む』
通信を終えるや否や、夕張と伊58は目的の海域へ向けて進路を取り……。
雪風は、ため息を吐きつつも柔らかな笑みを浮かべて二人を追いかけた。
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そして、日は流れてサルベージ計画当日。
大型のサルベージ船の甲板に、それは鎮座していた。
「これがアクセルさんの愛車、だった戦車かい?」
兵藤が見上げている『ソレ』は。
彼らが戦っている世界において、中東の方で運用されている重戦車に酷似していた。
「だった、って言うなよ。こんなもん余裕で修理可能の範囲内だ」
「アクセルさん、ほんとに人間?」
「失礼だな、てめぇ」
主砲は折れ曲がり、砲塔に搭載されているミサイルポッドは内部構造が丸見えで。
中には、元がどんな状態だったか想像つかないほどにボロボロになっている武装まであった。
「しかし、ホント助かったぜ。こいつ100t超えてるから生半可なやり方じゃ引き揚げれねぇんだよなぁ」
「このくらいなら幾らでも言ってよ、アクセルさんには返しきれない恩があるんだし」
「そう言うなって、また今度新作見繕って初春に渡しておくさ」
結局サルベージ計画については、どう頑張っても自分達のみじゃ引き揚げ不可能という結論に至った為。
コネという名の他人任せというプランを採用したアクセル達であった。
「ほへー、おっきい戦車です!」
「うふふー、データ取りが捗りそうだわ」
「ア、ナマリタケ発見」
常識の範囲外な威容を持つ戦車に雪風は目を輝かせて見上げ、夕張はいつもの悪い病気を発症してクツクツと笑い。
ヲ級はというと、車体に生えてたなまりたけを素手でもぎって美味そうに咀嚼していた。
「……ヲっちゃん、ソレ美味しいの?」
「割ト、美味」
「そう……」
深海棲艦って、やっぱり味覚も独特なのかしら。などと首を傾げる夕張。
実は一部の艦娘の間で珍味としてなまりたけが高額で取引されていたりするが……。
そんなこと、彼女が知る由もなかった。
なお、余談であるが。
「そういえば、アレからずっとベッタリだった愛宕が居ないけど体調崩してるのか?」
「いや、何か吐き気が酷いらしくて……」
「おいお前、それって……」
後日、全提督が引っくり返るおめでたい珍事が兵藤艦隊に勃発したらしい。
とある艦隊の武蔵さんは、サっと七輪であぶったなまりたけが好物らしいよ(嘘八百)
しかし、最後に思いついたのをそのままぶち込んじゃったが。これ大丈夫じゃろうか……。
提督これくしょんについてはしばしお待ちいただけると幸いです。