ただでさえやりたい放題書いてるのが、更に酷い事に……!
敵陣深く切り込み、ド派手な奇襲をかけることで大きな打撃を与えたアクセル達。
更に主犯のアクセルに至っては、反応が鈍かった被り物が印象的な深海棲艦。ヲ級を一撃で戦闘不能に追いやるというトンデモっぷりを発揮。
だがしかし、快進撃といえる展開はここまでだった。
「あだ、あだだだだだ?!」
エリートでもなんでもないとはいえ、正規空母のヲ級を戦闘不能に追いやった人間と思しき生命体。
そんな存在、戦術行動が執れる深海棲艦達がフリーにさせる理由などあるわけがなく。
「ちょ、おま、卑怯だぞコラァ!?」
最近仲間となった、詳細不明のアメンボ兵器や最近生産が開始された無人戦車を盾に徹底したアウトレンジ戦法を展開。
攻撃によりマイクロバスも動きが取れない中、戻る事のできない哀れなチンピラメカニックは砲弾と銃弾の雨あられの中に晒される羽目となった。
その中の何発かが直撃しているはずなのだが、死ぬ気配が欠片も見えないナマモノに深海棲艦は警戒レベルをハネ上げ。
「なんだこの小さいラジコンみてぇのは……ギャー!?」
港湾施設のリーダー的存在である、フラグシップ・ヲ級は忌々しい艦娘用に秘蔵していた最新型の航空機すらも全機投入。
ここで生かして帰すのは危険すぎると決断し、なんとしてでもここで目の前の人間とは思えないナマモノを仕留める決意をする。
一方洒落にならないのはアクセルの方である。
最初の奇襲でバッグの肥やしになっていた大型手榴弾のDDパイナップルは使い切っており、ブーメランスパナを投げて攻撃するも敵の数が多すぎて焼け石に水でしかなく。
必死に回避を続け、たまに当たる直撃に悲鳴を上げるしかない状態となっていた。
不幸中の幸いとしては……装備の耐久力と、仲間達と共に超えてきた死線とレベルメタフィンで鍛えられた肉体のおかげで今のところ致命傷の心配が無いことだろうか。
「クソがっ、逃げれそうにねぇ……こうならヤケだコラァ!」
チンピラとしか思えない悪態と共に回避行動をとめたアクセルは、懐から取り出した錠剤とカプセル錠を口に放り込んで噛み砕き。
周囲の動きが緩やかになると共に体の痛みが嘘のように消えていくのを感じながら……スパナを手に持ち、顔の前で両手をクロスさせ。
金色のオーラを放つ敵のリーダー、フラグシップ・ヲ級の居る方向へ突撃を仕掛ける。
「……ヤケニナッタカ、愚カナ人間?メ」
目標の行動に、人形めいた顔の口元に嘲笑を浮かべ。
部下達に目標への一斉射撃を命じ、命じた射撃は間違いなく目標へと着弾。
下手な艦娘どころか、戦艦クラスの艦娘でもひとたまりもない飽和攻撃。
さすがの化け物も、この攻撃を食らえば死ぬ……はず。もしくは無力化できるはずとフラグシップ・ヲ級は思考した。
が。
「グガッ……クソがぁ!!」
化け物は生きていた。
サングラスは砕け、額からは血を流し。その体には間違いなく幾つもの風穴が開いているというのに。
「キサマ……本当ニ人間カ!?」
あまりの理不尽さに悲鳴の混じった叫び声をあげるヲ級。
その間も走り続けてくる化け物の接近は続き、後僅かで敵の攻撃範囲に差し掛かる。瞬間。
アメンボ型兵器がアクセルの膝を銃撃、踏み込んだ足に力が入らなくなったアクセルはそのまま前のめりに滑るように転がる。
(あー、くっそやべぇ。とっとと尻尾巻いて逃げるべきだったか、こりゃぁ)
痛みがないおかげか、自分を包囲し確実なトドメを刺そうとする敵を見てそんな悠長な事を考えるアクセル。
やりたい放題の特攻に巻き込んだ妖精達に、自分勝手に心で侘びを入れ彼は腹を括りまもなく訪れるそのときを覚悟する。
しかし、どうやら運命は彼をまだ見捨ててはいなかったようで。
マイクロバスがある方向からではありえない方角から砲撃音が響き、アクセルを取り巻く包囲網の一角に着弾し爆発。
浮き足立つ敵たちを、何者かが瞬く間に蹴散らしていく。
「おい、そこのお主。まだ生きてるかの?」
激しい砲撃音が響く中、鈴を転がしたかのような声がアクセルにかけられ。
体に蓄積されたダメージで声を出すのも億劫な男は、うつ伏せに倒れたまま片手を挙げて生きてる事をアピール。
「……初春、コレほんとに人間クマ? 正直新型の男型深海棲艦って言われた方が納得できるクマ」
「戯けた事を言うより先に、砲を動かさぬか」
「先任殿は後輩の扱いが荒いクマー、もう粗方片付いたクマー」
「もっとも、フラグシップヲ級には逃げられちゃったけどね」
修羅場をくぐって来たつもりの自分でも梃子摺った連中を、かつての仲間の女ソルジャーよりも若い声音の少女達が撃破したという事実に軽くショックを受けつつ。
状況を少しでも把握すべく、血まみれの腕を動かして奇跡的に無事だったベルトポーチからドリンク剤を取り出す。
「ちょ、ちょっと! そんな大怪我してるんだから動いちゃダメよ!?」
先ほどまで聞こえてきた声よりも、更に幼く聞こえる声の少女が自分を制止する声を聞きながら。
慣れた手つきでドリンク剤の蓋を何とか開け、体を転がして倒れたまま中身を一気に飲み干す。
「あ、あの……いったい、何を……?!」
転がした事でちょうど真正面に見える形になった、ワンレンの少女が少し引きながらアクセルへ問いかけ……彼の体に目に見えて起きた変化に絶句する。
それもそうだろう、何せ風穴だらけだった男の体が目に見えて理解できる速度で塞がっていったのだ。
得体が知れないどころの騒ぎじゃない男にドン引きし、自然と距離を空ける艦娘達。
「……あー、死ぬかと思った。助けてくれてありがとな」
「う、うむ。まぁ、ともかく生きていて何よりなのじゃ」
先ほどまでの大暴れ、そして大怪我が嘘のようにニカっと笑みを浮かべてアクセルは自らを取り巻く少女らへ頭を下げる。
困惑するのは艦娘側である。
何せ、自殺行為としか思えないくらいの特攻をぶちかまして自分達でも撤退を決意するくらいの陣容に大打撃を与えて浮き足立たせ。
先ほどまで死に掛けていた男が、ケロっとした調子で頭を下げてくるのだから。
「もっとも、今ちょいと礼に渡せるようなモノも持ってねぇのが申し訳ねぇな……本当にすまねぇ」
「き、気にしなくてもよいと思うんだけどなぁ」
見た目はチャラく、チンピラにしか見えず受けた屈辱は絶対に忘れない男なアクセルであるが。
同時に受けた恩にはなんとしても報いようと考える程度の良識は持っており、自らの命を救ってくれた少女らに何か礼がしたいと考えていた。
とはいえ困るのは少女らであり、彼女らの心を代弁するかのように。口元を引きつらせた瑞鳳が苦笑いをしながら答え。
「いや、何も礼をしないのは俺の流儀に反す……ルゥ!?」
見た目以上に頑固なアクセルが、何としても礼をしようと頭を回転させようとした次の瞬間。
煙を吹いていたマイクロバスから飛び出してきた、ねじり鉢巻に半被を着た妖精……応急修理女神が額に青筋を浮かべ。
弾丸のごとくアクセルの脳天にドロップキックを叩き込み。
さらにワラワラと出てきた妖精達に袋叩きにされていくアクセル。
その光景を見て、思わずさわやかなな青い空を見上げた初春を咎めるような人物は。
今この場には、どこにもいなかった。
『唐突な解説』
周囲の速度が緩やかになる薬=スピード・タブ:使用したキャラクターのすばやさが戦闘中一時的にあがるクスリ。
しかしぶっちゃけ、ゲーム中はあまり使わない。むしろ攻撃力が増加するドーピング・タブのほうが需要がでかい。
痛みがなくなる薬=オイホロカプセル:痛み『だけ』を消す薬。
HP回復効果などなく、フレーバーでしかない薬だが…作中に中毒症状を訴えるNPCが居る程度にはヤバイ薬だったりする。
噂によると、この薬の痛みを消す成分がゲーム中に出てくる回復アイテムに含まれているらしい。
見る見る内に傷が消えたドリング財=満たんドリンク:作品によっては店売りされていないHP完全回復アイテム。
MM2では普通に店売りしてるので、とにかくアホみたいに買い込む事になる。
とある鬼畜ボスが戦闘中に使ってくるのは内緒である。
フラグシップヲ級ちゃんの『必ずぶち殺すリスト』入りしたアクセル君。
彼の明日はどっちだ!