少し冒頭残酷描写入りますが、艦娘は一切酷い目にあわないのでご安心下さい。
なお、今回アクセルと愉快な艦娘達は出てきません。
とある荒れ果てた大地の中に作られた湖。
その湖に浮かべられた、超技術の結晶である潜水艦ジャガンナートの上で誰も知る由もない決戦が繰り広げられていた。
「グルァァァァァァ!!」
「ゴァァァァァァァァァ!!」
片方は、紅い鬣と巨大な牙。そして両腕の鋼鉄すらも紙のように切り裂く牙が印象的な二足歩行の紅獅子。
そしてもう片方は、湖面から三つ首を出した異形の水竜であった。
紅獅子は体のあちこちに裂傷に火傷、更に凍傷まで作った状態で。
水竜もまた、首や胴体に砲撃痕や銃痕をつけ傷からは血を噴き出した状態……。
二匹ともが先ほどから繰り広げ続けている戦闘によって満身創痍の状態であった。
しかし、その事で二匹が戦いをやめるかと言えば……宿敵同士である以上、そのような事はけしてありえず。
咆哮を上げながら水竜へ飛び掛かる紅獅子を、水竜は口から吐き出した雷撃の吐息で弾き飛ばし……。
更に動きを止めるべく絶対零度に等しい温度の吐息を紅獅子へ吹きかける。
しかし紅獅子は咄嗟に、『変身する前に』跨っていた半身ともいえる相棒であるバイクの残骸を持ち上げて吐息を受け止めると。
氷塊に近い状態と化したソレを、爆音がごとき咆哮と共に水竜の頭部めがけて放り投げ……砲弾と見間違う速度で三つある水竜の頭部の一つに飛来し。
元バイクの氷塊が直撃した水竜の頭部が、肉片や骨格をぶちまけながら木端微塵に爆散した。
「ギィガァァァァァァァァ!!」
『かつて人間だったモノのなれの果て』である異形の水竜は痛みにのたうちながら咆哮し、傷を再生すべく残った首の口から治療用のナノマシンの散布を始める。
が、しかし。その獰猛な瞳に殺意を漲らせる紅獅子がむざむざと相手に治療する事を許す筈もなく……。
激しい戦闘によってボロボロになってきている潜水艦の甲板を蹴るように飛び出し、ナノマシンを散布すべく無防備な口内を晒している水竜の首の一つへと飛びつき。
残ったもう一つの首からの攻撃を受けるよりも早く、その巨大な爪を水竜の口内へねじ込み。舌を引き裂きながら腕を全力で空へ向けて振り上げた。
「ゴォァァァァァァァァァァァ!!!」
容赦ない紅獅子からの追撃でもたらされた痛みに、首が残り一つと化した水竜はその瞳に憎悪と狂気で塗り潰すと。
自らへのダメージを顧みる事なく、腕を空へ振り上げた紅獅子に自らの首の残骸ごと食らいついた。
「グルゥ、ガァァァァァァァァァ!!」
水竜が持つ、紅獅子の爪並の硬度を持つ凶悪な牙が紅獅子の体に深く食い込み。
その体から、紅獅子が持つ鬣のように真っ赤な血を噴き出させる。
しかし、紅獅子もまたただ噛みつかれる事はなく……。
噛み付かれ、宙吊りとなった姿勢のまま水竜の眼めがけてその爪をねじ込む。
「グルルゥゥァアァァァァァァ!!」
「グォォォォォォォオオォォォ!!」
片方は噛み付かれ、内臓すら水竜の牙で裂かれ咆哮をあげながらも爪で水竜の頭蓋を抉り。
もう片方は、紅獅子の爪で頭蓋を抉られながらもその牙で紅獅子を両断すべく食らいつき続ける。
二匹にとっては永遠に続くと思われた戦い。
しかし、その幕切れはあっけないものであった。
「グ、ゥゥ、ォォォォォォォ………!!」
紅獅子の爪が水竜の頭蓋の致命的な所を破壊したのか、水竜は断末魔のうめき声を上げると。
ゆっくりとその首を倒し始め…………。
「グルァッ!」
轟音と共に、紅獅子にかみついたまま潜水艦の看板にその首を横たえ。
その時の衝撃で、力が抜け始めていた水竜の牙から解放された紅獅子は……血を垂らしながらも立ち上がると。
紅獅子以外、誰もいない湖の上で勝利の雄叫びを上げ。
ゆっくりと、二足歩行の鍛え抜かれた体躯の紅獅子から……紅獅子の鬣と同じ髪の色を持つ、青年へとその姿を変えると。
精根尽き果てたかのように、甲板へと崩れ落ちた。
青年の名前は、ドラムカン。
冷血団と呼ばれる悪党共を狩り尽くす、ジャッジメントバレーと呼ばれた地域を代表する凄腕のモンスターハンターであると同時に。
かつて、ブレードトゥースという名で人々からおそれられた化け物であった。
青年は、激戦による損傷で各所から爆発を起こし……動力炉の暴走によってこの世から消えようとしている潜水艦の甲板にて。
血を流し過ぎた事で、朦朧とする意識の中思ったこと。それは。
死ぬことへの恐怖ではなく、追い続けた仇をこの世から抹消できた喜びでもなく……。
カスミという名の元ソルジャーの女性に預けてきた、とある少女と交わした『生きて帰る』という約束を破ってしまう罪悪感であった。
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とある小島。
かつて、その小島の近辺で大掛かりな作戦が行われたが……。
名残は最早ほとんど残っていない、そんな見るものも何もない島の浜辺を。
フラフラと、一人の女性が歩く。
白く長い髪が特徴的なその女性は、何を探しているわけもなく何となく浜辺を歩いていた。
その女性の瞳は紅く、また頭の左右からは小さい三角の角が見え隠れしている。
女性の名は『中間棲姫』。
かつて、提督が率いる艦娘達を相手に骨肉の争いを繰り広げた深海棲艦の姫級の一人であり。
今は、艦娘達に撃破された時に中途半端に思い出した記憶によって、深海棲艦側に戻れず。しかし人間側にも行けない。
そんな、あやふやな存在であった。
「……──♪」
短いフレーズしか思い出せなかった、かつて良く聞くか口ずさんでいたような気がする歌を口ずさみながら。
海の近くにいれば、もっと記憶が戻る気がしていながらも……。
海に出る事で深海棲艦や艦娘に撃沈されるかもしれない、という恐怖に襲われている中間棲姫は。
何日も何週間も続けてきた時と同じようにフラフラと、浜辺を歩き続ける。
そして、今日も何事もなく終わる。その筈であった……が。
「…………?」
中間棲姫は、浜辺に昨日までは無かった何かがそこにはあり。
ソレは、襤褸切れを纏った紅い髪が特徴的な人間であった。
好奇心だけを胸に、中間棲姫はソレに近付く。
ピクリとも身じろぎしないソレは、遠目に見てわかるほどに傷だらけであり……。
どう見ても、死体でしかなく。埋葬くらいはしてやろうか、程度に中間棲姫は考えていた。
ソレの顔を見るまでは。
「っ…………」
うつ伏せに倒れていたソレを、持ち易くするために中間棲姫はひっくり返し。
倒れていたソレ、死体と思っていた男の顔を見た時。彼女はその目を見開き驚愕する。。
一つ目は、明らかに致命傷と思しき傷具合なのに眉毛をかすかに動かし生きているそぶりを見せたこと。
二つ目は、中間棲姫の目の前で男の傷が塞がっていく事。
そして、三つ目は……。
「……私ト、同じ……」
深海棲艦にも、艦娘にもなりきれない中途半端な存在である中間棲姫。
そんな彼女と同じ匂いを、今中間棲姫に抱きかかえられている男が放っていた事であった。
そして、その事を解した中間棲姫は……。
ひっくり返した時に比べ、格段に丁寧に未だ意識を戻さない男を抱きかかえて立ち上がり。
自分と同じ中途半端な存在の匂いを持つ男が目を覚ました時、どんな事を話そうかと頭を巡らせながら。
通常の青年男性に比べ遙かに重い男を軽々と運びながら、気持ち心を高鳴らせてねぐらへの道を急いだ。
決戦の果てに、ドラムカンさんジャガンナートの大爆発に巻き込まれて次元の壁を乗り越える。の巻。
そんなわけで、夏イベが結構前に終わったこの世界。中途半端に記憶が戻った上死にきれなかった中間棲姫さんにドラムカンさん拾われました。
この後彼はどうなることやら。
なお、ここのドラムカンはコーラを救出した後復讐心を押し殺し、コーラをカスミの元へ送り届けてから単身グラトノスとの決戦に向かいました。