艦これMAX   作:ラッドローチ2

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お待たせしました、ようやく27話投稿できました。
今回は、ゴーヤと雪風のケアなお話になります。


27 心にまんたんドリンクは使えない

 

 

 

 雪風と伊58を迎えて早一週間が過ぎた港湾施設。

 

 二人艦娘を加えてそれなりに賑やかになってきた施設のドックにて……。

 

 

「アクセルさんアクセルさん!」

 

「なんだよゴーヤ」

 

 

 北上達にそれぞれ報酬として渡したとある艤装を見た、各所の提督からアホのように大量に舞い込んできた依頼。

 

 ソレに追われるように、てんてこまいになっているアクセルに対して。

 

 伊58が元気よく声をかけ……その声にアクセルはグラサンを押し上げながら振り返る。

 

 

「ゴーヤをもっと強く改造してくだちい!」

 

「改造って、お前……簡単に言うけどなぁ」

 

 

 強さに対して素直に貪欲な伊58の言葉にアクセルは作業の手を止め。

 

 どうしたもんか、とドックの天井を見上げる。

 

 勢いで扶桑の改造をやり、それが上手く結果を出せたが……。

 

 どちらかといえば、アクセルの故郷にあった賭博ゲームの大穴で勝ったようなものなわけで。

 

 

「ぶっちゃけ俺潜水艦ってもんに詳しくねぇんだが、何かリクエストとかあるか?」

 

「母艦竜とか一撃で沈めたいでち!」

 

「お前、ソレやろうとすると間違いなく海底に真っ逆さまだぞ」

 

 

 ストレートな伊58の要求にアクセルはこめかみをおさえ、ため息を吐き。

 

 アクセルの言葉に、伊58はうっと呻く。

 

 

「魚雷撃ったら、再装填に時間かかるんだよな。確か」

 

「うん、砲戦にはちょっと間に合わないんだよぉ」

 

 

 北上に報酬として渡した5連装シーハンターを思い出しながらアクセルは問いかけ。

 

 その言葉に、伊58は頷いて答える。

 

 ちなみに5連装シーハンターだが……。

 

 アクセルとしては車載装備の時と同じように連射性能を上げたかったところだが、妥協せざるを得なかった関係で非常に不服な結果だったりする。

 

 

「なんとか砲を積んだとしても、海上に浮上する必要あるよな」

 

「機怪群を皆殺しにできるなら、ゴーヤそれでもいいよぉ!」

 

「バッカかお前、ただでさえ装甲薄いてめぇに無駄なリスク負わせられっかよ」

 

 

 どうしたもんか、と呟くアクセルの言葉に伊58が危うい光を目に宿しながら頷くも。

 

 責任を持って預かっている娘である以上、危ない橋を渡らせるつもりが微塵もないアクセルは伊58の言葉を一刀両断し。

 

 

「いっそ龍田とかみたいに長物ってワケにもいかねぇしなぁ…………ん?」

 

「何か良いアイデアでたのぉ?」

 

 

 とある提督にくっついてきていた、途中で愛用の槍でマグロを捕ってきてくれた艦娘を思い出しながらアクセルは呟き。

 

 ふと、かつて一緒にUシャークを撃破した犬嫌いの船長のことが頭をよぎる。

 

 

「なぁゴーヤよぅ、一つアイデアが浮かんだんだが。どうだ?」

 

「本当でちか?!」

 

 

 ちょいちょいと忙しそうな、やらかし常習犯の妖精をアクセルは何人か手招きして呼び寄せ。

 

 手近な紙にがりがりと設計図を書きながら、伊58へ提案し……アクセルの言葉に少女はパァァとその顔を輝かせる。

 

 

「ただし、一つだけ約束してもらうことがある」

 

「な、なにかなぁ?」

 

 

 いつもの飄々とした表情を消したアクセルに、伊58は緊張しながら答え。

 

 

「簡単な話だよ、できる限り生きて帰るって約束しろ」

 

 

 アクセルから告げられた言葉は、伊58の心に大きな波紋を広げる。

 

 伊58にとって、自らの命は機怪群を抹殺するためにベットするチップでしかなかったのだから。

 

 

「そんな、こと……」

 

「……惨めなもんだぞ? 復讐の末路ってヤツぁ」

 

 

 自分たちに船を託してくれた、Uシャークへの復讐に燃えていた海の男。

 

 その後しばらく旅を続け、誰となく言い出してその男の様子を見に行った時には。。

 

 目的を達したその人物は急速に老け込み、苛烈だった人物とは思えないくらいに変貌し年老いた母を世話し、残された命を生きるだけの抜け殻となっていたのだから。

 

 

「惨めとか、そんなのあなたに言われたくない!」

 

「ま、そうだろうなぁ」

 

 

 アクセルの物言いに伊58は顔を真っ赤にし、吠えるようにアクセルの言葉に真っ向から噛みつく。が。

 

 のらりくらり、とアクセルは頬をかいて伊58の言葉を真正面から受け止め。

 

 

「だけどな、俺はむざむざ死なせる為に技術使うつもりもねぇんだよコレが」

 

「ッ!! だったら、もうあなたには頼まないでち!」

 

「まぁ落ち着けって、聞けや」

 

 

 続けて飛び出したアクセルの言葉に伊58の頭は沸騰し、失望しながら背を向けてドックから飛び出そうとし。

 

 そんな伊58の背に、アクセルは有無を言わせない口調で言葉をかけ。

 

 その言葉とアクセルの雰囲気に、背を向けたまま伊58は足を止め。

 

 背を向けたままの伊58に、アクセルは言葉を続ける。

 

 

「俺もな、前いた所ではダチ共の復讐に最後まで付き合ったんだけどな……」

 

 

 アクセルは、静かに語りかける。

 

 両親と育ての親を目の前で焼き殺され、自らも死の淵に追いやられ復讐に生きたとある少年の事を。

 

 アクセルは、静かに語る。

 

 何度も死の淵をさまよい、時には何度も死にながらもがむしゃらに戦い。唯一の家族である兄の仇を追い求めた山猫のような女性の事を。

 

 アクセルは……静かに語る。

 

 二人の共通の仇である、化け物という言葉が生易しい男を撃破した時の。

 

 一瞬、二人が見せた何もかもが抜け落ち虚脱感に支配された少年と女性の顔を。

 

 

「……それを、ゴーヤにきかせて、何になるの?」

 

「あー……色々脱線しちまったな、まぁ俺が言いたいことはだな」

 

 

 震える伊58の言葉に、アクセル自身も自分の感情が高ぶっていたことに反省しつつ。

 

 後ろ頭をがりがりと掻きながら、伊58に語りかける。

 

 かつての仲間達にかけ言葉を、少し変えて。

 

 

「復讐だけが生き方じゃねぇ、って事さ。俺はてめぇが死んだら悲しいし、夕張達も泣くだろうしな」

 

「…………」

 

 

 アクセルの言葉に、伊58は無言のまま立ち竦み。

 

 

「……よく、考えてから。返事するでち」

 

「おう、しっかり考えろよ」

 

 

 どこか力なく、ドックから出て行く伊58をアクセルは見送り。

 

 天井を仰いで大きく溜息を吐いた。

 

 

「こういうの、俺のキャラじゃねぇんだけどなぁ」

 

 

 ケンとかなら、復讐鬼同士上手い事やれたかねぇ。などと呟いたアクセルに。

 

 応急修理女神は労うように、その頬をぺふぺふと叩いた。

 

 

 

 

 

 

 伊58がアクセルに直談判を始めたころ。

 

 雪風はというと……。

 

 艤装の整備も、経験不足な扶桑と夕張への教導という名の訓練も終え。

 

 なんとなく、桟橋に腰かけ海を眺めていた。

 

 

「自由時間って、何したらいいんでしょうか……」

 

 

 波の音に掻き消えそうな声で、ぽつりと雪風は呟く。

 

 かつていた艦隊で建造されてから、自由となる時間などブリーフィングと食事に僅かな睡眠時間。

 

 そして、そんな中でなんとか作った僚艦との談笑。

 

 これ以外はすべて、遠征や出撃でひたすら戦い続けた日々が雪風の全てだった。

 

 

 

 何もやる事がなく……そしてやる気も出ず波音に身を任せるまま海を眺め続ける雪風。

 

 そんな、抜け殻のようになっている小さな少女の背中に近付く足音がし。

 

 その足音に雪風が振り返ると、そこには。

 

 

「ヲッ」

 

「……あ、ヲ級さん」

 

 

 何か、香ばしい匂いがし湯気を立てている袋を抱えたヲ級がそこに立っていた。

 

 ヲ級は雪風の言葉に答えることなく無造作に雪風の隣に腰かけると……。

 

 

 袋から、足と内臓を取ったイカに串を差し。醤油等の調味料を塗りながら焼いた料理。

 俗に、俗にイカのぽっぽ焼きと呼ばれる串焼きを取り出し。

 

 無言で雪風へ差し出した。

 

 

「え、ええと……?」

 

 

 そのどんぐり眼をきょとんとさせる雪風をよそに、ヲ級は自分の分を袋から取り出すと無言のままかぶりつき、頬張り始める。

 

 雪風はそんなヲ級に困惑しながら、ヲ級と押し付けられたぽっぽ焼きを交互に見。

 

 雪風は結論が出ないまま、ヲ級のように勢いよくぽっぽ焼きにかぶりつき……。

 

 そのシンプルながらも止まらない味に、リスのように頬を膨らませながら無心でイカを食べる。

 

 

「ドウダ?」

 

「美味しい、です」

 

 

 気が付けば二本目に突入しているヲ級の問いに、戸惑いながらも素直な感想を雪風は述べ。

 

 そのまま、波音の中黙々と二人して桟橋に腰かけたままぽっぽ焼きを食べ続け……。

 

 ふと雪風は、背を合わせ共に戦い……守りきれずに沈んでしまった姉妹艦や……。

 

 自分が遠征に出ている間に居なくなっていた後輩、自分の面倒を見てくれた先輩空母の姿が頭をよぎり。

 

 

(ああ、皆と。こんな風に色々と食べたかったなぁ)

 

 

 雪風がぽっぽ焼きを食べ終え、そう考えた瞬間。

 

 雪風の瞳から、無意識に滴が零れる。

 

 

「え? なんで? なんで?」

 

 

 自分でも理解できない突然の涙に困惑しながら、ぽっぽ焼きを持っていない方の袖で雪風は涙を拭うも。

 

 次から次に涙が溢れ、雪風の袖を濡らしていく。

 

 

「泣キタイノナラ思ウ存分泣ケ。誰モ笑ワナイ」

 

 

 ヲ級は二本目を完食し、無表情ながらどこか柔らかな感情を目に浮かべて雪風の頭にそっと手を乗せ。

 

 その言葉と、優しく雪風の頭に乗せられたヲ級の手にとうとう心が決壊し。

 

 

「ぅ、ぅぅぅ……ぁぁぁ……!」

 

 

 ヲ級の豊満な胸に顔をうずめ、縋り付きながら雪風は嗚咽を漏らし。

 

 やがて、その嗚咽は……守れなかった自責の言葉混じりの号泣へと変わった。

 

 

 

 

 

 

 

 雪風の号泣は、ヲ級が持ってきたイカのぽっぽ焼きが冷える頃には止まり……。

 

 目を真っ赤に腫らした雪風は、鼻を鳴らしながらヲ級から離れ。

 

 

「すっきりしました、ありがとうございます!」

 

 

 ぴし、と立ち上がるとヲ級へ深々と元気よく頭を下げた。

 

 

 

「……気ハ、済ンダカ?」

 

「はい、もう大丈夫です!」

 

 

 3本目をガサゴソと取り出し、頬張り始めるヲ級の言葉に雪風は溌剌とした声で答え。

 

 その言葉に、ヲ級自身も無意識に口元に柔らかな笑みを浮かべ。

 

 

「アソコカラ覗イテル二人モ、心配シテイタカラナ」

 

「覗いてる……?」

 

 

 ちら、とヲ級が動かした視線の先を雪風が見てみると。

 

 そこには、かなり大きめのドラム缶に身を隠した夕張と扶桑が心配そうな顔をして眺めていた。

 

 しかしながら、残念なことに隠れ切れてなかった。主に扶桑の艤装が。

 

 

「アノ二人、出ルタイミングヲ逃シタラシイ」

 

「……いいところですね、ここ」

 

「アア」

 

 

 何やらこそこそと話し合っている二人を見ながら、雪風が縋り付いてきた辺りから来ていた二人のことを話し。

 

 そんな、ぐだぐだでありつつもけっして不快ではない空気に。

 

 雪風は、この施設に来て初めて。柔らかな笑みを浮かべた。

 

 




そんなワケで、少ししんみりとしながらもゴーヤと雪風は少しだけ考えを変えて歩いていける下地が出来ました。
本質は中々変われないですが、それでも少し前進です。


次回、MM世界からとある人物がやってきます。
【28話 漂着したドラムカン】 を、お楽しみに!

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