艦これMAX   作:ラッドローチ2

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新たに、二人の艦娘がアクセル率いる愚連隊に加入するお話です。
ブラック鎮守府からの移籍のため、若干重たい話かもしれません。


26 流されて港湾施設

 

 

 自らの栄光と引き換えに艦娘を酷使し、使い潰していく提督。

 

 『彼女』がかつて所属していた艦隊の司令官である提督は、まさにその典型的な例であり……。

 

 艦隊の古株とも言える、駆逐艦の『彼女』が今まで生き残れてきたのは幸運の賜物でしかなかった。

 

 しかし、『彼女』が生き残り続ける間にも……背を合わせて戦っていた姉妹艦が沈み、艦隊に所属している顔見知りもまた櫛の歯が抜けていくように消えていって。

 

 『彼女』……雪風が、機怪群が闊歩する中送り出された生還を顧みられない遠征から艦隊に帰還した時。

 

 彼女の提督が作戦で戦死し艦隊が解散する事を聞かされた。

 

 生き残った艦娘達に、大本営から通達された道は二つ。

 

 他の艦隊へ転属し、前線もしくは事務方として居続けるか。

 

 それとも……。

 

 

「いすずさんも、ですか……」

 

「ごめんね……置いてけぼりに、しちゃって」

 

「いいんです、雪風はへいちゃらです。それに……慣れていますから」

 

 

 俯く雪風に、黒い髪を電探を模した髪飾りでツインテールにした艦娘。五十鈴が雪風と同じように俯いて謝る。

 

 本来、五十鈴という艦娘が持つ溌剌とした空気も雰囲気も根こそぎへし折られた少女は……。

 

 引き留める雪風の言葉に後ろ髪を引かれながら、今も雪風の言葉と気丈に振る舞う姿に心を痛めながらも。

 

 同じ艦隊に所属していた僚艦と同様に、解体されて眠りにつく事を選んだ。

 

 

「本当に、ごめんね……」

 

 

 雪風を置いて行く事か、それとももう戦えない自分への不甲斐なさか。

 

 色んな感情を表情から滲ませながら、五十鈴は雪風に背を向け解体される為に食堂だった場所から出ていき。

 

 雪風は、その背中が見えなくなるまで見詰め続け……。

 

 食堂の扉が五十鈴によって閉められた瞬間、その大きな瞳から滴を一筋零し。

 

 その滴を袖で拭い、ガランとした食堂を雪風は見回す。

 

 他の提督からも悪名高かった元帥が、自らの見栄と力を誇示するために整えられたその食堂は。

 

 雪風を始めとする艦娘達にとって良い思い出はお世辞にもなかった、しかし。

 

 そんな中でも互いに励まし合い、支え合ってきた思い出は確かにそこにあったのだ。

 

 

「雪風は……」

 

 

 誰もいない食堂の中、雪風は声を震わせて呟く。

 

 

「雪風は……忘れません、皆の事……」

 

 

 鼻声になりながら、一度は拭った滴がまた目から零れてくるのを感じながら。

 

 それだけ呟くと、雪風は振り返ることなく食堂を出て行く。

 

 次の任地へ、向うために。

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻、戦死した中将が提督を務めていた艦隊。

 

 誰も居ない部屋で、一人の潜水艦娘が黙々と荷造りをしていた。

 

 彼女の艦隊は戦死した元帥の艦隊に比べ……比較的に解体を選ぶ艦娘が少なかった。

 

 そして、今黙々と転属の準備をしている彼女もまた……。

 

 

「ゴーヤ、そろそろ船出ちゃうわよ?」

 

「待ってほしいでち、後アレとコレと……」

 

「アンタ、どれだけ持ってくつもりなのよ……」

 

 

 ノックする事なく部屋の扉を開けて入ってきた、花飾りで紫色の髪をサイドポニーにしている艦娘……曙に声をかけられ。

 

 その言葉に急かされるように、ゴーヤと呼ばれた少女……伊58が明らかに大きいリュックサックに次々と荷物を詰め込んでいく。

 

 

「つか、明らかにアンタの私物だけじゃないわよねソレ」

 

「そうでち、ええっと……イムヤのスマホ、イクが愛用してた魚雷抱き枕に、ハッちゃんの本に……シオイの髪留めに……」

 

「そう……」

 

 

 肩口から覗く、ドックでの修理でも消えなかった大きな歯型が刻まれた伊58が次々と挙げる荷物の内容に。

 

 事情を知っている曙は、やるせなさそうに顔を歪ませ相槌を打つ。

 

 

「アンタ、本当にあの噂の男のところに行くの?」

 

「そんなの、決まってるよぉ」

 

 

 それよりも、私と一緒の艦隊に……と曙は言葉を続けようとするが。

 

 返事をしながらくるりと振り返った伊58の表情に、言葉を詰まらせ……その先を告げることが出来なかった。

 

 曙に向けられた伊58の表情は。

 

 

「イムヤもイクもハッちゃんもシオイも……みんな、みんなあいつらに殺されたでち。だから……今度はゴーヤがあいつらを皆殺しにするでち」

 

 

 人懐こい愛らしい表情など欠片も残っていない、瞳に光のない能面のような顔で。

 

 

「だから、ゴーヤはあいつらを殺す方法を一番知ってる人のところに行くでち」

 

 

 うっすらと口元に笑みを浮かべながら、荷造りがようやく終わったリュックサックの蓋を閉め。

 

 最後に、机の上に飾っていた……伊58を含む5人の潜水艦娘が楽しそうに写っている写真が入った写真立てを胸に抱き。

 

 

「曙、準備終わったよぉ」

 

「……じゃあ、行くわよ。念のため忘れ物ないか見たげるから先に行っておいて」

 

「ありがとでちっ」

 

 

 曙に笑みを浮かべてお礼を言うと、伊58は大きすぎるリュックサックをひょいと担ぎ。

 

 出発のために船へ向けて小走りでかけていき……。

 

 誰もいなくなった部屋を見て、曙は呟く。

 

 

「……ほんと、あのクソ提督。死ぬならせめてゴーヤの心ケアしてから死ねば良かったのに」

 

 

 提督であった中将が生きていようと叶う事など殆どありえない希望をやるせなさそうに曙は呟き。

 

 休みがない状態でコキ使われながらも、賑やかに過ごしていた今はいない部屋の主達を想い。

 

 ただただ、重い息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 そして大本営公認としてアクセルが半ば私物化している港湾施設の食堂にて。

 

 横須賀鎮守府での技術教育と、報酬についての一仕事を終えたアクセルは……。

 

 伊達から送られてきた書類を片手に呻いていた。

 

 

「……生き残り続けちまった駆逐艦に、機怪群への復讐に身を焦がす潜水艦か」

 

 

 あのクソ野郎ども、厄介事ばっか残して死にやがって。と物騒なことを呟きつつアクセルは嘆息し。

 

 応急修理女神が淹れたお茶を音を立てて啜る。

 

 

「あの時すれ違った娘達の殆どは、解体を選んだのですね……」

 

 

 書類を覗き込んでいた扶桑が、転属してくる艦娘の僚艦はほとんど解体を選んだという記述に。

 

 扶桑はあの時見た、目に光のなかった娘達を思い出しながら……頬に手をついて嘆息する。

 

 

「解体するとどうなるんだっけか、夕張」

 

「艤装を解除した後に、魂が還るって言えばよいのかな……ちょっと私も上手い表現ができないです」

 

「そうか……しかし、そいつの人格は無くなっちまうってことにゃ変わりねぇか」

 

 

 やるせなさそうに溜息を吐くアクセル。

 

 そんなアクセルに対して、黙々と茶菓子をほおばっていたヲ級は口を開き。

 

 

「……致シ方無イデショウ、生キル気力ガ無イノナラ」

 

「まぁ、そりゃそうなんだけどなぁ……」

 

 

 パイプ椅子をギっと鳴らしながら揺らし、アクセルは何度目ともしれないため息を吐き。

 

 

「ソレニ……解体ヲ選ンダ艦娘達ヲ想ウヨリモ、コレカラ来ル娘ニツイテ考エル方ガ建設的カト」

 

「お前、ほんと情緒豊かになったなぁ。褒めてやろう」

 

「ヲヲヲヲ」

 

 

 淡々と述べるヲ級の言葉に、確かになぁ。とアクセルは呟き。

 

 口元にお茶菓子のカスをつけたまま、ちょっと良い事言ったという表情をしているヲ級の頭をアクセルはぐりぐりと撫でる。

 

 割と乱暴に撫でられながらも目を細め気持ちよさそうに撫でられるヲ級に、夕張と扶桑は若干じと目になりつつ。

 

 とことこと食堂に入ってきた妖精から、転属してくる艦娘……。

 

 雪風と伊58の到着が伝えられ、思考をとりあえず切り替える。

 

 

「ほんじゃ、お客さんも来たことだし出迎えに行くべ」

 

 

 ヲ級を撫でまわす作業を中断したアクセルは席を立ち、のそのそと食堂を出て行き。

 

 夕張と扶桑がその後に続き、それに若干遅れる形で小走りでヲ級が3人を追いかける。

 

 

 

 そして、到着した責任者と書類を交わして雪風と伊58の転属処理を終え……。

 

 

「こんにちは!伊58です、ゴーヤって呼んでもいいよ!」

 

「陽炎型駆逐艦8番艦、雪風です!どうぞ、宜しくお願い致します!」

 

 

 上に着込んでいるセーラー服から覗いて見える首筋に残る大きな傷跡を持つ、どこか危うい光を瞳に宿した、伊58。

 

 小動物のような印象を与える外見でありながら、アクセルにもわかる程に歴戦の空気を放つ雪風。

 

 そんな二人の少女に対して、とりあえずアクセルは……。

 

 

「アクセルだ、提督でもなんでもねぇが……まぁのんびり宜しく頼むわ」

 

 

 難しい事を考えることをやめ、とりあえず自分らしく接する事にした。

 

 

 

 




トラウマを幾つも抱えてしまった歴戦の雪風と、機怪群絶対殺すレディなゴーヤの加入なお話でした。
北上様や霧島ネキ、大和姉妹への報酬艤装はまたの機会に出したいと思います。

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