多分、この程度では怒られないと信じたいですが、お叱りが入った場合修正が入るかもしれません。
長い船旅をようやく終えて横須賀へ到着したアクセル達は。
色々と面倒くさい会談とかを幾つかこなし、たらふくただ飯をかっくらい……。
今、横須賀鎮守府名物ともいえる大型浴場にやってきていた。
「うわー、凄い広いじゃない!」
「それはもう、我が鎮守府自慢のお風呂ですから」
タオルで前を隠した夕張が、湯煙で全貌が霞んで見えないお風呂に感嘆の叫びを上げ。
同様に前をタオルで隠した、案内人としてついてきた大鳳が無い胸を張って誇らしげに答える。
「ヲ風呂、ヲ風呂」
「あ、こらヲっちゃん! ちゃんと体洗ってから入るのよー!」
「ワカッタ」
夕張の横を、その豊満な体をタオルで隠そうともせずにのしのしと歩いていくヲ級。
その頭にはいつもの被り物もなく、光を反射する銀髪が露となっており。
ついでに、とても大きく張りのある胸部装甲も腰のくびれも、むっちりとした腰部装甲まで丸見えであった。
「そして少しは隠しなさいよ!?」
「ヲヲ? 女ダケダカラ、必要ナインジャ?」
あまりのあけっぴろけっぷりに夕張が全力で突っ込み。
その言葉に、いまいち一般常識が欠け気味なヲ級は首を傾げ、素朴な疑問を口にするも……。
幸せそうにかけ湯をしているなじみ深い瑞鳳を、夕張は指差し。
「目の毒なのよ! それに絶望的戦力差で瑞鳳泣いちゃうでしょ!」
「なんでこっちに流れ弾飛んでくるの!?」
「……ソウダナ」
「そして納得しないでよヲ級ちゃんも!!」
割と容赦のない言葉でヲ級に慎みの大切さを教え、予期せぬ流れ弾に瑞鳳が思わず叫び。
夕張の言葉に納得の姿勢を見せ、いそいそとその体をタオルで隠したヲ級へ続けて叫ぶ。
「モウ、好キ放題揉マレルノハゴメンダ」
「……アレは悪かったって思ってるわよ」
変な気分になる、と呟くヲ級に冷や汗浮かべながら瑞鳳が詫び。
そんな二人をしり目に、夕張もまたかけ湯をし大鳳と一緒に湯船に浸かる。
「ん~~……やっぱり、足伸ばせるお風呂って最高!」
「港湾施設には大きいお風呂はないの?」
幸せそうに吐息を漏らし、湯船の中で体を伸ばして顔を夕張は緩ませ。
大きな風呂しか記憶にない大鳳は首を傾げ、幸せそうな夕張へ問いかける。
「扶桑がなんとか入れる程度のドックしかないのよねぇ、アクセルさんが拵えたドラムカン風呂も小さいし」
「想像つかないわね……」
「元々がちょっとした補給地点だからね、しょうがないわ」
夕張の口から語られる港湾施設の風呂事情に、大鳳は何とも言えない表情を浮かべ。
のんびりとだらけつつ、夕張は大鳳に言葉を返す。
「おお、夕張ではないか。どうじゃここの風呂は、中々に素晴らしいじゃろう?」
そんな夕張達に気付いた、千歳や隼鷹と共に湯船にお盆を浮かべて酒を楽しんでいた初春が……手にお猪口を持ったまま夕張へ声をかけ。
「何言ってんだよ初春、あんたラバウル所属じゃないかー」
「隼鷹、固い事言うでないわ」
へべれけ気味の隼鷹が初春の首に腕をまわし、その割と大きい胸を押し付けつつ酒臭い吐息を初春へ吹きかけ。
酒のせいか少々顔を赤くしつつ、初春はクフフ。と笑みを浮かべながらするりと隼鷹の拘束から逃れる。
「初めまして、かな? 浮島棲姫の撃破に貢献した夕張さん」
「あ、どうも。夕張です」
隼鷹と同じく、へべれけ気味の千歳がその豊満な胸部装甲を湯船に浮かべながら軽く手を振り。
その圧倒的戦力差にちょっとしたジェラシーを感じつつ、ぺこりと夕張は頭を下げる。
「先の戦い、私達空母部隊は役立たずだったのよねぇ……」
「あの雹の爆撃に加えて、迎撃戦のときゃ夜戦になってたもんねぇ」
くい、とお猪口の中身を飲みほした千歳が頬に手を当てて嘆息し。
隼鷹は自虐気味にケラケラ笑いながら、自分専用の一升瓶を湯船から引き揚げて蓋を開けると中身をグビグビと飲み始める。
なんとなく気まずい思いを感じつつ、夕張がふと隣を見てみると。
「良いじゃないですか、私なんて……特別でかい雹が何度も直撃して碌に発艦できなかったんですよ」
「……あー、アンタ特に運が悪いからねぇ」
そのまま湯船の底に沈んでいきそうなほどに、どんよりとしたオーラを大鳳が放っており。
気まずそうに苦笑いを浮かべた隼鷹が手に持っていた一升瓶を差し出すと、それを受け取った大鳳はぐびぐびとラッパ飲みを始める。
「夕張よ、この酔っ払いどもは妾が相手しておくから。早々に退散した方が良いぞ」
「そうね……ごめんね、初春」
そんなヤケ酒状態となった軽空母と装甲空母の様子に、小声で初春が夕張に絡まれる前に逃げるよう助言し。
初春の好意に甘え、夕張はそっと静かに酔っ払い時空から退避し……。
「……あれは……うちの扶桑、かしら?」
広い浴場の奥の方で、大和に武蔵と先の戦いで特に大暴れを見せた大和型姉妹に囲まれている扶桑を発見。
好奇心の赴くまま、夕張がそちらへ進めば。
「扶桑、さっきの戦いは凄かったじゃないか!」
「あの火力に精度、中々出せるものじゃないわよ」
「あ、ありがとう……」
既に出来上がっている武蔵に、きゃしゃな背中をバシバシと扶桑が叩かれ。
ほろ酔いといった様子の大和もまた、素直な賞賛の言葉を告げる。
困ったのは扶桑である、欠陥戦艦としてのコンプレックスの塊ともいえる自分が大和型姉妹に掛け値無しの賞賛を受けているものだから。
かなりテンパり気味になっていた。
「で、でも……アクセルさんの用意してくれた艤装のおかげ、ですし……」
「何を言うか! あの強力な連撃砲ならまだしも、大型のミサイルなどという私達の常識から外れた艤装などそう簡単に使えるわけなかろう!」
「アレを使いこなして、突破口を開いたあなたの実力は本物よ。誇れる事だわ」
「あ、あうあう……」
消え入りそうな声で扶桑が謙遜するも、その声をかき消さんばかりの大声で武蔵は扶桑を心から褒め。
大和へちらりと扶桑は視線を向けるが、大和もまた扶桑が使いこなし相手に甚大な被害を与えたストロングミサイルを思いながら賞賛。
褒め殺しともいえる状況に、儚げな美貌に困惑を浮かべた扶桑は視線を彷徨わせ……夕張に気づき、パァァとその顔に喜色を浮かべる。
そんな扶桑の様子に、夕張もまた苦笑を浮かべながら近づき。
「あんまりいじめないであげて下さい、うちの扶桑はまだ人付き合いに慣れてないんですから」
「アクセル殿のところの夕張か……むぅ、すまんな」
「ちょっと、舞い上がっちゃってたかしら。私達」
夕張に気付いた武蔵が、夕張の言葉に頬をかいて謝意を見せ。
大和もまた、頬に手を当てて扶桑が見せた大火力に舞い上がっていた事を自覚し。扶桑へ頭をさげる。
場の空気が緩んだ様子に、ついでとばかり夕張は大和と武蔵へ問いかける。
「あ、そういえば浮島棲姫の撃破に参加した霧島さんと北上さん知りませんか?」
「あの二人か? 霧島なら見たが北上は知らないな」
「何かあったのかしら?」
アクセルから受けた言伝の届け先である、戦友ともいえる人物の行方を聞く夕張。
しかし、霧島は目撃されていたが北上は見当たらないことに若干がっくりし。
そんな夕張に、大和が不思議そうに問いかける。
「アクセルさんが、ヤバい戦いに付き合ってくれた礼がしたい。って言ってて、リクエスト聞いてきてくれって言われたんです」
「リクエスト、だと……」
「それって……兵藤提督のところの川内が自慢してる夜戦が強くなるCユニットみたいに?」
「そうですね」
夕張の言葉に武蔵がポカンとした顔で呟き、大和がこめかみを抑えながら夕張へ問えば。
あっさりと夕張は肯定、さすがになんでも作れるわけではないだろう。とは思うがそれでも二人の胸中に一つの言葉がよぎる。
なんて、羨ましい! と。
「あ、で、でもお二人が撃破した母艦竜の残骸で扶桑が使ってる連撃砲以上のヤツが一つ作れるそうですよ!」
夕張の言葉に、落胆していた大和型姉妹が急きょ色めき立ち。
「武蔵、今回は私がソレもらっても良いかしら?」
「まぁ待て姉よ、母艦竜に一番打撃を与えたのは私だぞ?」
「アレの攻撃を一番引き受けたのは私じゃない」
ちょっとお淑やかとは言い難い、仁義なきプチ姉妹喧嘩が勃発。
やっべ地雷踏んだ、とばかりに夕張はおろおろしている扶桑の手を引いて戦域から離脱した。
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夕張達が女湯にてお風呂を満喫している間。
板一枚隔てた反対側にある男湯にて、伊達と一緒になってアクセルは風呂を満喫していた。
応急修理女神の方は、水没防止のために桶にお湯を張ってその中で寛いでいたりする。
「いやー、良い湯ですなぁ。アクセル殿」
「んだな、足伸ばせて入れる風呂がこんなに良いとは思わなかったわ」
そして、ふと周囲を見回し。
「そいや、スケベのヤツ見当たらねぇな」
「ああ、アイツは覗きの常習犯だからな。憲兵に監視されてあっちの方でおとなしくしているぞ」
アクセルが疑問を口にし、伊達が指さしたそちらへ視線を向ければ。
スケベと思しき男が、四方から屈強な男に監視されながら湯船に浸かっていた。
「……アレは、キツそうだなぁ。オイ」
「まぁ、あいつは前科が多すぎるからな……」
異様ともいえるその光景にアクセルが、温かい湯に浸かっているはずなのに悪寒を感じ。
伊達はと言えば、さもありなん。と頷く。
「とりあえず、幾つかの戦車の改造案と重要部分は明日からみっちり陸軍の技術者って連中に教えればいいんだな?」
「ああ、それで頼む。無理難題を言うようであればこっちに話を回してくれ」
「あいよ」
風呂に浸かりながら、世間話をするかのように仕事の話を二人は進め。
やがて、その話はとある艦娘達の話題へと至る。
「アクセル殿のところは、何人か艦娘を受け入れる余裕はあるか?」
「あるっちゃあるが……あのアホどもに使われてた艦娘達か」
「そう言うことだ、無理にとは言わないがな」
すれ違いざまに一瞬だけ見えた、目が死んだ表情の艦娘達を思い出してアクセルは嘆息し。
アクセルの言葉を、伊達は重苦しく肯定する。
「まぁ別に良いぜ、幸いにも受注が止まらないから養う余裕はいくらでもあるからな」
「すまないな」
「良いってことよ」
湯船に浮かべた桶に入った応急修理女神もまた、任せとけと小さな腕に力こぶを作ってみせ。
頼もしい返事に喜びと同時に、申し訳なさもまた感じた伊達はアクセル達へ頭を下げ……。
その言葉を、アクセルは笑って受け流す。
そして、微妙に重くなった空気を換える材料を風呂の中を見回してアクセルは探し。
「しかし、思った以上に少ないな。人数」
「まぁアレだ、今頃ケッコンカッコカリした娘と水入らずに過ごしている連中も多いからな」
何度か提督達と顔を会わせたアクセルであったが、顔見知りが何人か見えないことに首を傾げ。
伊達の言葉に、その表情に納得の意を浮かべる。
「そういう伊達さんはいいのかい? 水入らずの時間を過ごさなくて」
「私のケッコンカッコカリ相手は皆幼いからな、さすがにここで手を出すのはちょっとな」
「まず、手を出すこと自体に疑問を感じようぜ。伊達さんよう」
伊達のケッコンカッコカリ相手を知っているアクセルは、意地悪そうに笑みを浮かべながら問いかけるも。
思った以上にガチな伊達の返事に、冷や汗を浮かべて思わず呟き。
「ちょっと伊達元帥、お話が……」
「……まぁ、待て。私はやましい事は何もだな」
聞き耳を立てていた、スケベを監視していた憲兵がそっと音もなく伊達の背後に現れ。
ラバウルを色んな意味で代表する元帥を、そっと連行していった。
「……やれやれ、提督ってのは本当に変わり者が多いもんだ」
ため息をつきながら、風呂の湯の温度に体を弛緩させながら。
それが提督だからねー、と桶風呂につかりながら答える応急修理女神の頭をアクセルは指で撫でた。
実は、今までで一番文字数が多いお話になりました。
お風呂回だからね、しょうがないね。