そんなわけで、24話をお送りいたします。
宴会回は25話に持越しとなりました、申し訳ありません。
作戦の目標である愛宕の救出が完了した連合艦隊。
周囲の敵戦力もほぼ撃滅し、何人かの提督が連れてきていた明石達が修理に奔走する中。
伊達提督に船に呼ばれたアクセルは……。
「アクセル殿、本当に助かったよ」
「君が居なければ、いったいどうなっていたことか……」
「大本営に真っ当なパイプがある、是非とも君に勲章を贈りたい」
元帥の階級章を下げた百戦錬磨のオーラを放つ提督達に囲まれ。
口々に賞賛と感謝を述べられていた。
「あーいや、俺はあくまでダチの助けに来ただけでなぁ」
「なんという今どきの若者とは思えない謙虚さか!」
「見た目は奇抜じゃが、一本筋の通った男じゃのう」
しょぼくれた爺さんの相手は慣れていたアクセルだが、ここまで真正面から賞賛されることになれていなかったチンピラメカニックは。
非常に珍しく、しどろもどろになりながら応対に苦慮し……。
多少親交のある伊達提督に目で助けを求めるも、苦笑いを浮かべられ目を逸らされる。
そんな伊達の仕草に、プチ報復をいつかするとアクセルは心に誓いつつ。
チンピラメカニックが静かな報復を誓っている間にも、アクセルへ賛辞と感謝を送っていた老人提督達の会話が段々とヒートアップしていく。
「どうだねアクセル殿、横須賀に来ればもっと良い設備で君のサポートをしてあげれるのだが」
「待て待て横須賀の。呉も良いとこじゃぞ、メシは美味いし工廠は横須賀なんぞよりも技術も高い。なんて言ったってあの大和の故郷じゃからな!」
「いやいやいや横須賀のに呉の、黙ってれば好き放題言うてくれるじゃないか。確実かつ丁寧な実績がある舞鶴を忘れてもらっては困る」
「「駆逐艦しか作ってないところは黙っておれぃ!!」」
「よろしい、貴様ら全員水底に沈めてくれるわぁぁぁぁ!!」
そしてアクセルへの勧誘がヒートアップしすぎるあまり、元帥の階級章をぶら下げた3人の爺が船の艦橋にて勃発。
中々に良い御年の男たちが取っ組み合いを始める。
「……なぁ伊達さんよぅ、アレほっといていいのか?」
「あの御方たちが顔を突き合わせると大体こうなるからな、問題ない」
「……艦娘だけじゃなく、提督って人種も変わり者多いんだな」
老人と思えぬ気迫と熱意に気おされていたアクセルがげんなりと呟き。
その呟きに対して、伊達提督は帽子を目深に被り沈黙で返し。
色々と、少々グダグダになりつつ。
めぼしい戦利品の回収と、損傷が著しかった艦娘の応急修理も完了し。
殴り合いの果てに、とりあえず横須賀にアクセルを招いて歓待するという結論に至った年を考えない爺たちの勢いに押され。
アクセルとアクセルが率いる愚連隊は横須賀へと向かうこととなった。が。
「夕張ー、とりあえず何かメシ奢ってくれるらしいから横須賀行くぞ。 ……は? マイクロバスのエンジンから破滅の音がした後に煙出てきた?」
夕張に通信機で通信したアクセルの耳に、愛車であるマイクロバスに起こった悲劇が届く。
「……伊達さんよぅ、マイクロバス載せる余裕この船にあるかい?」
「ああ大丈夫だ、弾薬と資材を入れていた貨物部がほぼ空だ。戦利品の敵の残骸を積み込んでも十分余裕はある」
「助かるぜ……夕張、とりあえず伊達さん方が乗ってる船に乗っていこうぜ」
呑気にマイクロバスに乗っていこうと考えていたが予定が崩れ、少し悩むアクセルに伊達提督が提案し。
その提案に悩むことなく飛びついたアクセルは、通信にてその旨を夕張へ伝える。
この時アクセルは知る由もなかった。
かつていた世界のように数時間で行けるようなものではなく、何日もかかるという事実を。
・
・
・
・
・
「はー、こんなでっけぇ船があるもんなんだなぁ」
「そういえば、前いた場所だと小さな連絡船しか無かったですもんね」
死闘を繰り広げた海域を出発して三日目。
宛がわれた部屋でぐーたらしたり、次々とやってくる提督達との会話に飽きてきたアクセルは……。
同室の夕張と一緒に、船の中をぶらぶらと探検していた。
なお……夕張とアクセルが同室になる事について、主に扶桑とヲ級から苦情が飛び出たりしたが。
少しでもリードしたい夕張は、自分がアクセルの秘書艦という事にして半ば強引に同室にしたというお茶目な裏話が存在する。
「しかし、これで三日目だぜ……どんだけ時間かかるってんだよ」
「えーっとですね……今このあたりだから、まだまだかかりそうですねー」
「マジか……」
半ば愚痴めいた呟きを漏らし、アクセルのその言葉を聞いた夕張が懐から海図を取り出して広げると。
おおよその現在地をアクセルへ示して見せ、まだまだ時間がかかるということを実感したアクセルがげんなりとした表情を浮かべる。
「でもアクセルさん、ついてきた私が言うのも何ですけど……勝手に出てきて良かったんですか?」
「多分大丈夫じゃね? 伊達さんも出るな、とは言ってなかったしな」
「いいのかなぁ」
夕張が心配そうに口にし、まるで子供のような屁理屈を口にするアクセルに夕張の口元が引きつり冷や汗が浮かび。
そんな、割と和気藹々と船の通路を歩く二人の耳に賑やかな声が聞こえてくる。
「お、なんだか賑やかだな。行ってみようぜ」
「もう、アクセルさんったら……」
ウキウキとした様子で歩みを早めるアクセルの様子に、夕張は苦笑いを浮かべて小走り気味にその後を追う。
食堂、と銘打たれたプレートがかかった部屋から声が聞こえているようで……アクセルと夕張がひょい、とその中を覗き込むと。
「あんさん、ええ乳してまんなぁ……」
「ヒャ、ヤ、ヤメロ……!」
「ヲ級ちゃん、腰が細いからなお際立つんだよねぇ……」
「ズ、瑞鳳マデ?!」
瑞鳳の衣装を借り、持ち主の許可のもと改造したソレを着ているヲ級の豊満な胸を。
独特な飛行甲板の持ち主である……軽空母龍驤が据わった目をしたまま揉みしだき。
さらに、割と親交の深い兵藤艦隊の瑞鳳が龍驤と同じような目つきで背後から更にヲ級の胸を揉みしだいていた。
「……………」
「……………」
覗きこんだ姿勢のまま、アクセルと夕張が互いに目を見合わせ。
とりあえず、じゃれあいっこと判断して見なかったことにした。
その時、アクセル達に気づいたヲ級が助けを求めようとしていたことも。
ついでに、食堂の隅でその光景を写真に収めようとして隣に立っていた川内に折檻を受けていた提督がいたことも。
合わせて、アクセルと夕張は見なかった事にした。
「そういえば、伊達さんが呼んでいたな。急がないと」
「そんな大事なこと忘れないでくださいよー」
若干乾いた口調でわざとらしくアクセルは、都合よく思い出した用事を口にし。
夕張もまた似たような口調でアクセルを窘めつつ、アクセルに付き従う形でその後を歩いていく。
・
・
・
・
・
そして、そんなに距離を歩かずに到着した艦橋にて。
「すまないな、アクセル殿」
「いいってことよ、で。用件は何ですかね?」
急な呼び出しを詫びる伊達提督に、割といつもの調子でアクセルは返事を返す。
「ああ、兵藤大将の愛宕だが……診断の結果特に後遺症もない事が判明してな」
「そりゃ目出度い、良いニュースだな」
「それと、アクセル殿の水上戦闘車両に目を付けた陸軍が通信でしつこく聞いてきてな。戦車の改造を依頼したいらしい」
「まぁそっちが本業だしな俺、横須賀ってとこについてからでいいか?」
「ああ、次々とすまない……」
「気にすんなって、やりたい事やってるだけだし」
次々と厄介事をアクセルに押し付けてると思っている伊達提督は、アクセルにその頭を下げ。
特に厄介事を押し付けられてる自覚がないアクセルは、軽い調子で笑い飛ばした。
なお、まがいなりにも元帥である伊達提督へのアクセルの言葉遣いに、後ろに控えている夕張はかなりヒヤヒヤしていたりする。
しかし、そんな夕張の内心をアクセルは気づく事もなく。
「そいや伊達さん、今回結構損害出てるみてぇだが……大丈夫なのか?」
「ん? ああ、問題ない……そもそも今回の作戦は戦死した元帥殿と中将殿がごり押したものだからな」
「と、言うことは?」
「最後まで、彼らに責任を被ってもらうと言うことだ」
「死人に口なしってか、アンタも中々に悪人だねぇ」
アクセルの問いに、軍帽を目深に被り目元を隠した伊達提督は静かに答え。
その回答がツボに入ったアクセルは、ケラケラと悪党臭い笑い声をあげた。
嘘艦娘図鑑No.3
レアリティ:☆☆☆Sホロ
艦種:正規空母
名前:鹵獲艦 空母ヲ級
装備適正:通常の正規空母と同じ
特製:非常に高い錬度(Lv70)に到達するとフラグシップ化し、夜戦でも航空攻撃が可能となる。
入手条件:遠征『敵空母と決闘し勝利せよ!』達成時初回報酬(非常に高いレベルと能力値の艦娘一人だけで挑む遠征、2人以上で自動失敗となる)
『解説』
中々にむちましい体つきを、少し改造した空母娘の衣装で覆ったヲ級。
被り物は健在だが、少し表情が敵の時に比べてやわらかいのが特徴。
そんなわけで、アクセル横須賀へ行く。の前準備回でした。
今回出てきた3人のジジイ提督はまた出るかもしれないし、もう出ないかもしれません。