アクセル達が愛宕を救出し、浮島棲姫を撃滅したその時。
まるで作戦は失敗したとあかりに、大多数の深海棲艦と機怪群が撤退を開始し。
艦娘、そして提督達は……。
浮島棲鬼の砲撃で戦死した元帥と中将を除き、誰一人欠ける事なく生き残る事が出来た。
「いやー、思う存分夜戦しちゃったなー! 夕立の方はどう?」
「とっても楽しかったっぽい!」
「あんた達ねー……」
あちこちに煤をつけ、いくつもの艤装を大破させた川内と夕立が爽やかに笑いながらハイタッチをし。
そんな、鬼神がごとき大暴れをやらかした二人を、瑞鳳はじと目で眺め……ため息を吐き。
「くまー……どえらく、疲れたんだくまー……」
「とても厳しい戦いでしたからね……雷は大丈夫?」
「雷は大丈夫よ! と言いたいけど結構やられちゃったかな」
口から煙を吐きかねない勢いで、球磨が空を仰ぎながらため息を吐き。
球磨の言葉に神通も頷き、回避しきれずいくつか被弾してしまった雷に手を差し伸べ。
雷は差し出された手に捕まりながら強がり、体の痛みに少し顔をしかめながらも笑顔を浮かべ。
「ぅゅ~……やられたぁ~……」
「調子に乗ってるからだ、バカ」
B2マンタレイを撃ち落す瞬間まで回避を続けていた卯月であったが、撃ち落した瞬間に緊張が切れたせいか被弾し。
肌蹴た衣服を手でかき集めるようにして体を隠す卯月に、摩耶がため息を吐いて言葉の割にどこか柔らかい口調で彼女を窘め。
「長門、大丈夫?」
「ふ、ビッグ7の私を甘く見てもらっては困るな……あいたたた」
戦闘が終了するその瞬間まで、鬼鮫達からの攻撃を一身に引き受け続けていた長門に、高雄が肩を貸しながら容態を気づかい。
その言葉に長門も笑みを浮かべて答えるも、やはり痛むのか高雄に肩を貸してもらいながら痛みに呻き。
「こ、金剛お姉様ぁ……私、生きてますー?」
「しゃべれるなら大丈夫ネ! 榛名は大丈夫デース?」
「はい、榛名は……大丈夫、です……」
「榛名ァァァァァ!?」
母艦竜を筆頭に、軽巡竜を擁する敵の艦隊に側面からの攻撃を仕掛け続けていた金剛達に至ってはまともに稼働する艤装などほとんど残ってはおらず。
生きている自分が信じられないとばかりに比叡は呟き。
金剛の言葉に榛名は微笑みながら答え、そのまま海面に倒れこみそうになって慌てて金剛と比叡に支えられ。
「おや、敵は逃げるようだな。まだ暴れ足りんと言うのに」
「そうは言うけど武蔵、貴方結構酷い状態よ?」
「姉も同じような有様だろうに」
正面から敵の砲撃を受け、そしてその圧力を真正面から押し返し続けていた大和型姉妹に至っては……。
沈んでいないのが不思議、と言えるほどに艤装が歪み、損傷していて。
それでもなお、朗らかに笑い互いに拳を打ち付けあって生存を喜ぶ。
浮島周辺の海域で、戦いを終えた艦娘が思い思いに語り合い、健闘をたたえあい。
通信にて、愛宕の救出と浮島棲姫の撃破が完了したことが伝えられ。
水平線に朝日が見え始めてきた海に、艦娘達の歓声が響き渡った。
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そして、浮島内部から生還したアクセル達。
突入口として利用した入口から出た彼らを待ち受けていたのは。
「ちょうど、朝日が昇り始めていますねー」
「結構長い時間中にいたんだなぁ、俺たち」
マイクロバスの中の、普段弾薬や修復材を詰め込んでいるスペースに寝かされた愛宕が、応急修理女神の指示で妖精たちによって修理されているのを横目で見つつ。
バスをけん引する夕張の言葉に、水平線を照らし始めている朝日を見て。その眩しさにアクセルは目を細め。
「お、小型船が接近してきおるのう。どうやら妾らのとこの提督がやってきたようじゃのう」
初春の言葉にそちらにアクセルが目を向けると、小型ボートが水しぶきを上げてマイクロバスに近付いてきていて。
ソレはほどなくしてマイクロバスに横付けされ、妖精によって開けられた側面のドアから兵藤が中に飛び込んでくる。
「愛宕!」
「良介……さん?」
妖精たちの処置により、本調子とはいかないまでも意識を取り戻した愛宕が良介の言葉で薄らと目を開き。
愛宕が無事だったことに、兵藤は目に涙を浮かべ……愛宕の手を両手でしっかりと握りしめる。
「ごめんなさい、良介さん……私のせいで……」
「いいんだ、いいんだよ愛宕……僕こそ、君を一度見捨てようとして……ごめん……!」
苦しそうにしながらも上半身を起こした愛宕を、兵藤は支え。
愛宕の言葉に首を横に振り、兵藤は自らの判断を愛する女性を見捨てようとしたことを懺悔し。
今、そこに愛する女性がいることを確かめるかのように、愛宕の背中に両手を回し。
そっと、包み込むように愛宕を抱きしめた。
そんな二人をアクセルは見届け。
二人の時間を邪魔しないよう、物音を立てず肩に飛び乗ってきた応急修理女神とともにマイクロバスの運転席から車外へ出る。
「不思議ダナ、私デモ……彼女ヲ救エタ事ヲ誇ラシク感ジル」
「いい事じゃんかヲきゅっち」
「ええ、それにしても……最初は面食らったものですけども、中々に優しいじゃないですか。あなたも」
ヲ級が感慨深そうに呟き、そんなヲ級の脇腹を北上がうりうりと肘でやりながら合いの手を入れ。
霧島のまたヲ級の言葉に同意するように微笑み、眼鏡を押し上げながらもう片方の手で浮島内部の制空権を維持し続けたヲ級を労うように、被り物の上からヲ級の頭をぽふぽふと撫でる。
「アクセルさん、私……お役に立てましたか……?」
「おう、めちゃくちゃ役に立ったし助かったぞ。また荒事の時は頼むぜ」
「ふふふ……かしこまりました」
バスの車上で胡坐をアクセルはかき、そんな男に扶桑は不安そうに問いかけ。
アクセルからの返事を聞いて、ぱぁぁとその儚げな美貌に笑顔を浮かべ。
「アクセルさん、そっち行ってもいい?」
「おう? 別に構わんぞ」
けん引していた夕張の言葉に、朝日を見ながらアクセルは応え。
夕張は連結を解除し、敵からの砲撃であちこち穴や焦げ跡ができているマイクロバスの側面を上ると。
アクセルに寄り添うように、隣に腰を下ろす。
「朝日、綺麗ですね」
「そうだな……どこの世界でも太陽ってのは変わらねぇもんなんだな」
見た目以上にたくましいアクセルの肩に頭を預けながら、夕張は呟き。
荒野と瓦礫の世界の記憶を持つ同志ともいえる彼女の言葉に、アクセルは頷く。
穏やかに寄せては返す波音を聞きながら、夕張は勇気を出してアクセルの手の甲に自らの小さな手を重ね。
少女の行動にアクセルは、重ねられた手のひらを返し。夕張の手を握り返した。
言葉を交わすことなく、朝日を見る二人。
そしてその視線の先に、伊達らが乗る大型船が見え始め。
その船から伝わる通信が……絶望から始まった、この戦いが終わった事を告げていた。
愛宕さん無事生還、そして兵藤は愛する人を失わずに済みました。
後、夕張ちゃんが少し勇気を出した。そんな話でした。
次回は、この余韻を台無しにする大惨事な打ち上げパーティ回。
『今回の作戦の責任者? そこに二つの新鮮なミンチがあるじゃろ』をお楽しみに!