そんな悲劇を乗り越えて、やっとこ21話完成です。
最初のとちょっと違う形になりましたけど、結果的に納得のいく仕上がりになったかもしれません。
夜闇に閉ざされた海域に、怪獣がごとき叫び声と砲撃音が響く。
巨大な軽巡竜、後に母艦竜と呼ばれるソレを擁する敵艦隊を迎え撃つのは……。
「戦艦大和、おして参ります!」
「武蔵、突撃するぞ!」
大鑑巨砲主義の集大成ともいえる、大和と武蔵。
そして、彼女たちを補佐すべく金剛、比叡、榛名が追従して大艦隊へ砲撃を加えながら突撃していく。
「金剛、私と武蔵で正面から抑えるから側面から叩いて!」
「Yes! 任せておくネー!」
大和は46cm三連装砲から発射される砲弾で次々と敵の数を減らしながら前進し、後ろに追従している金剛へ指示をだし。
ウィンクをして親指を立て、金剛が妹達を指揮しながら側面へ回り込んでいく姿を大和は砲撃を続けながら見送り。
自らを狙って飛んできた砲弾を腕で防ぎ、頬についた煤を指で拭いながら隣の武蔵へ視線を向け。
「かなり大変になると思うけど、大丈夫?」
「ふ、この武蔵を甘く見てもらっては困るな姉よ!」
敵の砲撃で若干ずれた眼鏡を、乱暴に腕で押し上げながら武蔵は歯を見せながら獰猛に笑い。
頼もしすぎる妹の様子に大和は戦場に似つかわしくない微笑みを浮かべて。
「敵艦捕捉、全主砲……薙ぎ払えぇ!」
腕を大きく振りかぶり、大和の代名詞ともいえる46cm三連装砲で一匹の軽巡竜に次々と風穴を開け、15.5cm三連装副砲で重巡を一斉射で海へと沈める。
「比叡、榛名、突撃デース!」
「ひ、ひえぇぇぇぇぇぇ?!」
「こ、金剛お姉様! 榛名はちょっと大丈夫じゃないです!!」
高速戦艦の名に恥じない速度で、この短い間に敵艦隊の側面についた金剛達の叫びと砲撃音が戦場に響き、ついでにちょっと泣き言が入った声も聞こえ。
「やれやれ、あの姉妹は相変わらず姦しいな」
「いいじゃない武蔵、悲壮感と絶望感で戦うのなんてもう懲り懲りだし」
「くく、ははは! その通りだな姉よ!」
弾幕という言葉が生易しく感じるくらいの砲火に晒されながら、まるで丁度良い温度のシャワーを浴びているかのような表情で武蔵は呟き。
妹の言葉に、大和は同様の弾幕に晒されながらもやわらかく微笑み。敵を撃ち続ける。
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浮島周辺の海域で激戦が繰り広げられている中。
浮島内部もまた、同様と言える状況にあった。
突入して水路を進み、隔壁じみた肉の壁を撃破しては先へ進んでいくアクセル達。
しかし、奥へ進むたびに敵の猛攻は激しく厳しくなり……。
進んだ距離的に、恐らく最後の隔壁と思しき箇所に到着したものの。
そこは、いくら敵を撃破しても底が見えない敵の生産工場がごとき様相を呈していた。
「きりしまっちー、魚雷あの壁にぶちこむから援護して」
「わかりました、私の計算通りで行けば後3回ほど魚雷を叩き込めば突破できるはずです!」
「さっきもそう言って、前の隔壁のとこで1発ほど余分に使ったよね?」
巨大な口に翼が付いたような化け物……グロウイントゥースを15.5cm三連装副砲で迎撃しつつ、北上がトレードマークともいえる魚雷発射管を生々しい色をした壁へ向け。
背中を敵に晒す形になる北上をカバーすべく、背中合わせになるような形で霧島が入り。次々と襲い掛かってくる深海棲艦と機怪群を迎撃していく。
「ほれほれ、その程度では当たってやれぬぞ!」
「ハツハル、高ブルノハイイケド少シハ背後モ気ニシテホシイ」
水路となっている、少し毒々しい色の水面を蹴るように飛び上がり。内壁すらも使って敵の攻撃をかわしながら初春が重巡リ級に頭上からスモールパッケージによるミサイルを叩き込み。
閉所でありながら、器用に航空機を発艦させたヲ級が次々と初春にとびかかろうとするグロウイントゥースを航空機で撃ち落していき。
「扶桑は敵が出てくる横穴を砲撃で吹っ飛ばせ! 夕張はグロウインアイを優先して迎撃しろ!」
「了解しました」
「了解!」
中心部にいるコアへ最大火力をぶつけるため、節約命令を出された扶桑が火星連撃3連装砲を横穴めがけて叩き込み。
アクセルの指示を受けた夕張が、連撃18cm単装砲とスモールパッケージを用いてグロウインアイを次々と撃ち落としていく。
「しかし、中々にぐろてすくじゃのうこやつら」
「そりゃお前、『グロ』ウインだからな」
「……洒落のつもりかのう?」
窓から身を乗り出してブーメランスパナで前衛を援護しつつ、初春の呟きにアクセルが答え。
踊るように戦場を舞いながら、初春はじと目でアクセルを見。好機と判断してとびかかってきたグロウイントゥースを振り向く事無く連撃12cm単装砲で撃ち落す。
軽口をたたきあいながらも、終わりが見えない状況に晒されていく中。
「お、開いた。やー、さすが艦隊の頭脳だねきりしまっち」
「さっきまで物凄く疑ってませんでした?」
こんな状況でありながらマイペースを崩さない北上の発言で、場の雰囲気が一変する。
「よっしゃ良くやった! すぐに中へ飛び込め!」
「い、言われなくてもー!」
指を鳴らしながら北上へ賞賛を送り、マイクロバスをけん引する夕張へアクセルが叫び。
言われる前から隔壁が開いた瞬間機関最大で突き進む夕張が、雄叫びとともに中へ飛び込む。
そこにあったもの、それは。
「っ! 夕張ぃ、緊急回避ぃぃぃ!!
「は、はいぃぃぃ!!」
一番に突入した夕張と、アクセルが乗るマイクロバスを無表情で狙う愛宕であった。
まるで、深海棲艦が使う砲台のようなソレは夕張にあたる事こそ無かったものの……。
「ぎゃーーー!?」
「あ、アクセルさーーん!?」
その車体の大きさから、夕張が回避した砲弾がマイクロバスに直撃し炎上。
砲弾によって出火した炎で焼かれ、火だるまになりながらアクセルがバスから転げ出……。
そのままの勢いで水路に転落した。
「だ、大丈夫ですか?!」
「ちょ、ちょっとちょっと洒落にならないよ色々と!」
あまりにも急で、衝撃的な光景が目の前で繰り広げられ。
アクセル達と付き合いがなかった霧島と北上が焦りの雹所を浮かべ。
ワラワラとバスから出てきた妖精が水路から水を汲んではあわててマイクロバスを消火している中。
まるでしょうがねぇなぁ、とばかりの表情を浮かべて応急修理女神も水路へと小さな水音を立てながら飛び込む。
「夕張、アクセル様ハ……」
「あの人がコノ程度で死ぬワケないでしょ!!」
「ソレモソウダナ」
霧島と北上が顔を青くする中、ヲ級が心配そうに夕張へ問いかけ。
愛宕とにらみ合っている夕張が怒鳴り返した内容に、それもそうかとヲ級も頷く。
「いいのかしら……」
「いや、明らかにダメだと思うんですけども」
「まぁ、アヤツはあの程度で死ぬような人間じゃないからのう。それよりも……目の前に集中すべきじゃな」
追撃がない、妙に動きの鈍い愛宕をにらみつつ初春は霧島と北上へ声をかけ。
注意深く、かつ瞬時に周囲を観察し。ふむ、と呟く。
「やれやれ、こりゃ厄介なじゃのう」
初春の視線の先、そこには……。
奥の壁面に、びっしりと目玉が生えた心臓のようなモノがあり。
その上には。
『ここまで来れたこと、褒めてあげるわ……けれど、貴方たちはここでお仕舞いよ』
浮島棲鬼に酷似した、しかし格が違うオーラを放つ存在。
浮島棲姫ともいうべき化け物が、そこにはいた。
「! 初春、アレ!!」
「うむ、どう見てもアレで愛宕は操られておるのじゃろうなぁ。本来は不要なのじゃろうけども妾達の動きが早くて、ああせざるをなかったのやもしれぬ」
愛宕とにらみ合っていた夕張が、愛宕の背中から奥に見える浮島棲姫まで伸びている肉の管に気づいて叫び。
その言葉に、初春もまた頷くことで同意を示す。
今、肉の檻ともいえる浮島の奥底で。
死闘が始まろうと、していた。
【思い出したかのようなMM用語辞典】
グロウイントゥース……グロウインの体内ダンジョンや島で出てくるバイオモンスター。
巨大な口に翼が生えているという異形なデザインの上、中々にえぐい攻撃力を持っている。
ただし、島の地上ではグロウインアイを攻撃したりしなければ襲ってこない。
グロウインアイ……グロウインの体内ダンジョンや島で出てくるバイオモンスター。
こいつは巨大な目に翼が生えているという、やっぱりグロいデザイン。
グロウインアイとグロウイントゥース共通して、レベルメタフィンというレベルキャップ突破アイテムを落とす関係で。
グロウイン討伐自体を後回しにし、強力な武器を揃えてじっくりとこいつらを狩り殺す鬼畜なモンスターハンターが大量に出現した。
生々しい肉の隔壁……MM2Rでは、本当は色に対応したモンスターを撃破しないと開かないというとんでもなく面倒くさい壁。
だがしかし、戦艦クラスの火力を持つ艦娘の火力の前ではイライラギミックは無力であった。
というわけで、お待たせしました21話です。
愛宕さん、チキチキされて敵となって出てきました。しかも撃破するとロストするという鬼畜仕様。
果たして、アクセル達は彼女を救い出すことはできるか!
なお、彼女の貞操的なアレやソレは無事であることを明記しておきます。