だがしかし、書いてるうちに筆が乗ったので出番は少ない。不幸だわ。
「ねーねー夕張、なんか慌しく妖精さん動き回ってるけど何か建造してるの?」
港湾施設のドックにて、艤装の調整をしている夕張を眺めながら。
何度も資材庫と建造ドックを行ったりきたりしてる要請を疑問に思い、瑞鳳が疑問を口にする。
「んー? ほら、前にヲっちゃんと遭遇戦になった時エライ目に遭ったでしょ?」
「あー、あの時アクセルさんズタボロだったもんねぇ」
初春と一緒になって、顎がカクンとなった……簀巻きヲ級を見たあの日の事を遠い目しながら思いだす瑞鳳。
件のヲ級はというと、今現在食堂にて兵藤と面通し中である。
「……て、ヲっちゃんってあのヲ級のこと? そんなに時間経ってないのに不思議」
「私も最初は面食らったけど、あの子アクセルさんの言う事絶対服従だからね。警戒する必要もないし、結構早く仲良くなれたのよ」
カチャカチャと音を立てながら、ドライバーで艤装の微妙な調整を続ける夕張。
本来は妖精さんに任せる部類の作業だが、個人的性分かアクセルの影響か……自分で使う装備は自分で調整する主義な夕張であった。
「そう言えばさ夕張、話変わるんだけど」
「何?」
「アクセルさんって……何者なの?」
雰囲気が少し変わった瑞鳳の様子に作業の手を止め、瑞鳳の方を振り向く夕張。
彼女の目から見た瑞鳳は、どこか不安そうに……燻り抱えていた疑問を口にした。
その言葉に、夕張は……。
「あー……うん、確かに心配になるわよね。けども大丈夫よ瑞鳳」
クス、と笑い。機械油にまみれた手をウェスで拭って瑞鳳の頭をクシャっと撫で。
「アクセルさんはね、確かにチンピラにしか見えないし口も悪いけど……誰かが強いられている理不尽に、本気で怒れる人なの」
夕張を建造する際に使われた装備から流入した記憶から、彼の人となりを知っている夕張は優しく微笑む。
「瑞鳳、私ね……『夕張』であると同時に。アクセルさんが持っていたオーバーテクノロジーな装備の記憶もあるの」
「え? ソレって、どういうこと?」
自分の目の前にいる、自分が所属している艦隊の夕張と少し違う変わった夕張が放った言葉に。
目を丸くしながら、瑞鳳は頭にハテナを浮かべる。
そんな瑞鳳に、夕張は自分が知っている範囲の彼が辿ってきた旅路と闘いを語り出す。
「私を建造する時に色んな資材と一緒に、アクセルさんが使ってた装備も材料になったのよ。冷凍光線銃とか」
「冷凍光線銃って……」
遠い目をする夕張の語る内容に口の端を瑞鳳が引きつらせるのも、やむをえないだろう。
最近は状況が変化してきたとはいえ、SFチックな武装に艦娘らが馴染みがあるわけないのだから。
そんな瑞鳳の様子にクスリと笑みを浮かべ、夕張は言葉を続ける。
「アクセルさんが居た世界はね、機怪群がどこにでも居て。海どころか地上も、空すらも危険な場所だったの」
「ソレって、人間が生きていけるの?」
夕張の言葉に、瑞鳳が素朴な疑問を浮かべる。
今現在は海が主戦場といえる状況のため、人類は危機に瀕していながらもまだどこか余裕があるといえる状態で。
その事が念頭にある以上、地上すらも危険でしかないという事は彼女にとって想像する事が難しかった。
「割と逞しく生きていたみたい。だけどやっぱり危険は多かったみたい……『人間狩り』ってのをするグラップラーって組織もあったし」
「人間狩り……?」
「若くて健康な人間を、男女子供関係なく攫う所業よ」
『人間狩り』を口にする瞬間、無意識に夕張は嫌悪を表情に出し。
その物騒な単語に、瑞鳳の言葉が無意識に震え。夕張の回答に絶句する。
「な、なんでそんな酷いこと出来るの?」
「色々あったみたいだけど……結局は、組織のトップが不老不死を得るための実験台。だったみたい」
最終的に、アクセルさんと彼の仲間達が組織も幹部もやっつけたけどね。と夕張は話を締め。
その内容に、瑞鳳は俯き話の内容を反芻する。
「……アクセルさんって、実は凄い人?」
「何を今更、あの人以上に強い人はたくさんいたかもしれないけど。それでも命が幾らあっても足りない闘いに最後まで付き合った人よ、アクセルさんは」
瑞鳳の言葉に、自分の事のように誇らしげに薄い胸を張りながら夕張は告げる。
そんな、若干内容が物騒なガールズトークを二人がしていると。
トコトコと走りよって来た一人の妖精が夕張の肩に飛び乗り、彼女に建造が完了したことを報告する。
「あ、そんなに話し込んじゃってたんだ」
視線をドックの壁にかけられた時計へ向けると、結構な時間が過ぎていて。
自分がそんなに語っていたのか、と今更になって夕張は理解する。
そんな夕張に、瑞鳳はポツリと問う。
「ねぇ夕張、貴方もしかして……アクセルさんが好きなの?」
「にゃっ!?」
熱の入った内容、そして話し振りにふと浮かんだ疑問を瑞鳳は問いかけ。
流れカミカゼボムが直撃したが如し衝撃を受けた夕張は、猫のような声をあげてビクッとした。
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そんなこんなしてる内にヲ級の面通しが終わったアクセルらもドックに来訪し。
「おー、ようやく出来上がったか……ってどうしたんよ夕張」
「な、なにもありません!だいじょうぶです!」
ちょうどタイミングよくアクセルと顔を合わせた夕張が顔を真っ赤にした様子に。
アクセルが訝しげに問いかければ、いつも通りハキハキとしつつ挙動不審に夕張は否定。
そんな少女の様子にアクセルは肩の応急修理女神に聞いてみれば、ハシカみたいなものさね。と返されて首を傾げた。
「まぁいいか、さてどんな娘さんが仕上がったかね。と」
「アクセルさん、君いつか刺されるかもね」
「いきなり何物騒な事言い出すんだよ、良介」
えと、ええと。と両手の人差し指をつき合わせながら煙を噴いてる夕張をスルーし建造ドックへ進むアクセルに。
思わず彼女が不憫になった兵藤が、サラリと物騒なことを告げ……。
その剣呑な内容に思わずジト目になるアクセル。
応急修理女神はというと、ウンウンと腕を組んで頷いていた。
「大丈夫カ?夕張」
「うん、だいじょうぶよ。もんだいない」
「コレハ大丈夫ジャナイ、問題ダ」
激闘の末にマブダチになる、そんな関係を結んだヲ級が夕張に構うのを横目に見つつ。
建造完了、と札が掛かっている扉の前にアクセルと兵藤は立つ。
「しかし、この扉の向こうで妖精達は一体どうやって艦娘作ってんだろうな?」
「僕達も詳しくは知らないんだよね、知ろうとした提督は行方不明になるらしいし」
「何ソレおっかねぇ」
アクセルが口にした素朴な疑問に、兵藤は怪談めい軽口っぽい真実を告げ。
冗談と受け取ったアクセルは、ソレを笑い飛ばす。
そして、その扉を音を立てて開くとその中には……。
「扶桑型超弩級戦艦……姉の扶桑です。妹の山城ともども、よろしくお願いいたします」
有体に言って、ものごっつい砲台を背中に背負った美女がいた。
これにはさすがのアクセルも目を丸くし、華奢な女性の体躯を確認した上で。砲台のデカさを二度見した。
「あー、アクセルだ。よろしく頼む」
後に兵藤大将は、取材を申し込んできた青葉に当時のアクセルの様子についてこう語っている。
いやー、アクセルさんが呆然としてるの初めて見たよ。と。
そんなワケで、皆大好き扶桑お姉さまの登場です。
彼女の劇的なんということをしてくれたのでしょう的改造案もすでに固まっておりますので、次回をお楽しみに!
そして、書いてるうちにあがっていく夕張のヒロイン力。
おかしい、こんなはずじゃなかったのに。