そんな、宿敵との戦いをごらん下さい。
なお、今回は更にいろいろとひどい事になってます(予防線)
唐突な話ではあるが、空母という兵器に戦車が単独で挑んで勝利できるかどうかという話がある。
無論状況にはよるだろうが、それでも大半の人間からは空母が勝利するという回答を得られるであろう。
そしてソレは、艦娘と深海棲艦が日夜激戦を繰り広げるこの世界においても何ら違うところなどなく。
常識的に考えれば、空母ヲ級……ソレもフラグシップが相手となれば戦車には万に一つも勝ち目など存在しない。
だが、一つあえて言うならば。
3台の戦車と1匹の犬が揃えば、超兵器満載の空母すらもぶちのめす輩がいる世界。
そんな世界から来た人物ならば、可能性はあるかもしれない。
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「だー! 今度は連撃18cm単装砲吹き飛びやがった! 夕張、ハンドル持っててくれ!」
「え?え? ちょ、アクセルさーーん!?」
続いて襲い来るヲ級が放つ爆撃に、機銃に続いて主砲である連撃18cm単装砲も大破。
スーパーハープーンも弾切れな以上、武装が破壊されてはジリ貧でしかないとアクセルは判断し。
運転席から器用に這い出し、爆撃を掻い潜って窓に足をかけてマイクロバスの天井へと駆け上がる。
「クソッタレ、こいつぁヒデェ!」
勢いよく砲身や銃身がひん曲がった機銃と主砲を見てはき捨てるように叫び、時折爆撃をくらいながら修理を続けるアクセル。
そんな男を見て、ヲ級が思わず叫ぶ。
「キサマ、本当ニ人間ナノカ!?」
「あぁ? どう見ても人間だろうが!」
苛立ちを込めたアクセルの返事にヲ級のこめかみに怒りを示す青筋が浮かび。
戦艦すらも当たり所が悪ければ大破に追い込まれる、大型爆弾を搭載した艦載機を複数機射出しようとするも。
「はっ、やらせっかよ!」
明らかに他の艦載機と様相が違うソレにアクセルの第六感が警鐘を鳴らし。
右手に構えたブーメランスパナで、今にも艦載機が飛び出ようとしていたヲ級の頭部艤装の片側を狙い破壊に成功する。
「グゥッ!」
「……サイバネティック連中に近いと勝手に思い込んでいたが、艦娘と割と近いのか?」
煙を吹いた箇所を押さえよろめくヲ級に、戻ってきたスパナを受け止めながらアクセルは呟く。
しかし考察を続ける余裕などあるわけもなく、武装の修理を再開し。
「おっしゃぁ、夕張。ぶっぱなせぇ!」
「はーい!」
取り急ぎ連撃18cm単装砲の修理を終えたアクセルが叫んで夕張へ合図を送ると同時に。
車内からマイクロバスの武装とリンクした夕張がヲ級めがけて砲撃を開始。
2連続で放たれた砲弾は確かに目標であるフラグシップヲ級に着弾、しかし。
「くそったれ、殆ど効いてねぇ!」
「そんなーー!?」
白いボディスーツのようなモノに煤をつけただけで、目標であるヲ級は未だ健在。
更に。
ヲ急に随伴するように、赤いオーラを纏った重巡洋艦……エリートリ級が2隻合流してしまう。
絶句するアクセルと表情を強張らせる夕張が乗るマイクロバスに、その2隻は砲撃を加えようとし……。
ソレを、フラグシップヲ級が手をかざして中止させる。
「……何のつもりだ?」
不可解なフラグシップヲ級の行動に困惑を隠せないアクセル。
そんな青年に、表情のない美貌に確かに嘲笑を浮かべながら。
フラグシップヲ級はアクセルらへと通告する。
「大勢ハ決シタ、無様ニ命乞イヲスルナラバ。見逃シテヤッテモイイゾ」
突撃をしようにもここは海の上、更に頼みの綱のマイクロバスの砲撃は有効打となりえない。
そして、トドメにエリートクラスの重巡リ級が2隻。
これだけの状況にヲ級は勝利を確信し、かつて自分に惨めな恐怖を刻み付けた男を屈服させようとしてきたのだ。
通常ならば、この状況にまで追い込まれれば敗北を覚悟するしかないであろう。
生き延びることを優先して命乞いするか、己の誇りを抱いて自害するかはたまた特攻するか。
どちらにせよ、ここまで来たならば『通常』は敗北は免れることは出来ない。
そう、『通常』ならば。
そして、今……屈辱的な投降勧告を受けたカラフルな頭をしたチンピラメカニックは。
「……あぁん?」
どう考えても、『通常』の範疇には含まれなかった。
「ナンダ? ソノ目ハ?」
面白くないのは空母ヲ級である。
どう考えても敗北しかありえない状況で、長距離爆撃を区もなく成功させるヲ級の目に映るアクセルの目には。
明らかに、折れた意志を感じられなかったのだから。
「……夕張、もしかすると死ぬかもしれんが。ノるか?」
「データのバックアップがないのが不満ですけど……ノります」
遠くに見えるヲ級を真正面から睨み付けながら、車内にいる夕張へと問うアクセル。
問われた方は、強張った顔に乾いた笑みを浮かべて承諾。
彼女の頭の上に乗った応急修理女神はやれやれ、と肩を竦め……アクセルと妖精がついでに作っていたとんでも装備を共に担ぐと。
車両上部にある妖精専用ハッチを開け、アクセルの足に何やら取り付け始める。
「……! 一斉射撃!」
そんなアクセルらの様子に、前に感じた事のある似たような悪寒を背筋に感じたヲ級は。
随伴艦である2隻の重巡リ級へ一斉射撃の指示を下し、ソレと同時に水上マイクロバスが急発進。
時折砲撃や爆撃が車体に刺さり、砲撃が作り上げる水しぶきで大きく車体を傾けるも。
黒煙を吐き出し続けながらソレは走行を続け。
「こん、のーーーー!」
ヤケクソ気味な夕張の雄叫びとともに、マイクロバスの巨体がヲ級らへと迫り……。
大きな衝突音共に、避けそこなったリ級とヲ級を庇ったリ級が跳ね飛ばされ……二つの大きな水音を立てて海面に沈む。
が、しかし……。
「フ、ククク……惜シカッタナァ、人間!」
一瞬目を見開き呆然とするも、煙を吐いて動かなくなったマイクロバスに満面の哄笑をヲ級は浮かべ。
運転席から見える夕張ごと、マイクロバスを爆撃で沈めようとして。ふと違和感に気付く。
そう……。
アノ『男』ハ、ドコニ行ッタ? と。
違和感に気付いて、何かに追いたてられるように爆撃機の発艦をヲ級は急ぐ。
そうあの時、水音は『二つしかしなかった』のだ。
そして、その恐怖にも似た焦燥は。
「よーぅ、ようやく射程範囲内だな」
「ッ!?」
ポン、と華奢なヲ級の肩を何者かが背後から気遣うように優しく叩く。
隠し切れない恐怖を表情に浮かべたヲ級が見た、そこには。
「命乞い、すれば見逃してくれるんだったっけ?」
「ナ、ナ……!」
人間であるはずのアクセルが、海面に浮いていた。
種を明かせば、何の事はない。
艦娘の脚部艤装を基に自分も海面走れねぇかな、などとのんきに考えたアクセルと悪乗りにノった妖精が作り上げた代物。
ソレを足に装着し、かつ肩に乗せた応急修理女神の補助を受ける事によって。
今この瞬間、荒野と瓦礫と退廃の世界から来た男は……海面に立ったのだ。
しかし、そんな事情をヲ級は当然知る由もない。
ならば彼女にとって、目の前の男はどう映るか……ソレは。
「シ、沈メ! 沈ンデェ!!」
おびえと恐怖をもたらす存在でしか、なかった。
そして、最早人類に害を為す何かからまるで化け物に怯える少女にまで落ちたヲ級に。
「……おせぇよ」
『男気パンチ』を叩き込むでもなく、ヲ級の至近距離で両腕がかき消えるほどの速度で腕を無造作に振るい。
次の瞬間。
ヲ級の頭の艤装が、襟元の歯を象った装甲が弾け飛ぶようにバラバラに分解された。
「あ、ヤベ」
勢い余ったのか不可抗力か……。
ヲ級の白いボディスーツ状の装甲と共に。
Q.なんでアクセルはヲ級ちゃんの背後から現れたの?
A.マイクロバスの車上から放り出され、勢いあまった結果上手い位置に着水しました。
というわけで、結構引っ張ろうと思いましたがスパっとヲ級ちゃんとアクセルの戦いに決着が着きました。
アクセルが最後にぶっぱなしたのは、メタルマックスシリーズにてメカニックが覚える必殺技とも言える特技。『解体』です。
使う相手によっては、かなりスクラップになるかもしれない。そんな特技でした。
なお、メカオンリーの敵にしか通常は効かない模様。