機動戦士ガンダム00 変革の翼 2nd   作:アマシロ

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第3話b:アレルヤ奪還作戦(後編)

 

『――――腕を上げたな』

 

 

 派手に降下、海面ダイブを決めて防衛部隊の視線を釘付けにしたプトレマオス2からあらかじめ出撃していたらしいダブルオーガンダムとセラヴィーガンダムが後背から現れ、施設の防衛についていたティエレン高機動B型を悉く撃ち落としていく。

 

 それを予測していたかのように空中で待機していたアロウズの地上空母(というか空中母艦)から六機のGN-XⅢが飛び出していくのを眺めながら、GNフラッグカスタムⅡTYPE-S―――――通称、Sフラッグは岩場に隠れて“その時”を待っていた。

 

 

 

――――予想外の乱入者があったが。

 

 

 

 

「おっと、動かないで貰おうか――――…!」

 

 

 

 突如として岩場の影から現れたモスグリーンのガンダム――――ケルディムガンダム。

 反政府組織カタロンによる救出作戦を支援するべく、ちょうどこの岩場から狙撃をしようとしていたライルが、怪しいフラッグもどきを発見したためにその背後にスナイパーライフルを突きつけたのである。……一応、問答無用で撃たなかっただけ前回現れた際に刹那に味方したこの機体には配慮していたのだが――――。

 

 

 

『私の背後に立つとは――――破廉恥だぞ、ガンダムッ!』

「――――うぉっ!?」

 

 

 

 

 瞬間、擬似太陽炉のものなのか眩い赤い光がライルの視界を覆い尽くし、コクピットを揺さぶられる強烈な衝撃とともにケルディムが吹き飛ぶ。蹴飛ばされた、と理解が及ぶとともに咄嗟に引き金を引くが、目に映ったのはスナイパーライフルを奪い取り、空に向けて構える武者フラッグの姿だった。

 

 

 

『――――暫し借り受ける!』

「なっ!?」

 

 

 返しやがれ、と言う暇もなく、とても狙いを定めたようには見えないフラッグが何もない青空に向けて引き金を引いた。

 

 

 

『――――――…狙い撃つ!』

 

 

 いや、狙ってねぇだろ!

 思わず叫びそうになったライルの耳に、よく聞くと何かで加工しているらしい声の呟きが聞こえた。

 

 

 

『……外したか』

「当たり前だ!」

 

 

 今度こそ我慢できずに思わず叫んでしまったライルだったが、フラッグが適当に撃ったあたりから突如としてビーム砲撃の雨が降り注ぎ、慌てて岩の影に飛び込んだ。

 

 

 

「な、なんだぁ…っ!?」

『HARO、回避行動任せる!』

 

『シャーネーナ! シャーネーナ!』

 

 

「くそっ! なんだってんだ…!」

 

 

 その言葉とどことなくグレた電子音声とともにフラッグが宙に浮き上がり、右へ左へと不規則に動いてビームの雨を掻い潜る。その間にライルもスコープシステムを用いてビームの発射点を拡大し―――――青空を凄まじい速さで飛ぶ黒い点が見えた。

 

 無論、もっと拡大することは可能だが、そうすると視界に黒いモビルスーツを捉え切れない。恐らくは狙撃されないように高速で機動しているのだろうが、速すぎるのだ。

 少なくとも、まだガンダムに乗ったばかりのライルにできる芸当ではなかった。……今後もできないなどと言うつもりは全くなかったが。

 

 

 

『狙撃は不得手なのだがな――――…ッ! ……そんな機動は! 甘い…っ!』

 

 

 

 その言葉とともに放たれたビームがモビルスーツ――――この間見たばかりの黒いガンダムアイシスとやらが急降下しようとした瞬間に、その片翼を撃ちぬいて見せた。

 

 

「う、嘘だろ…っ!?」

『派手な機動をすればいいというものではない。狙ってくれと言っているようなものだ』

 

 

 そう言いながら放たれたビームがアイシスの右足を削り、更に頭部を掠める。

 

 

 

『私の誘いを無碍にするには、未熟! 先に行きたくば押し通るがいい!』

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

――――なにが起こっているの。

 

 

 それが、ライセンスによるゴリ押しでプトレマイオス2……もとい、刹那を単身追撃してきたセレネ・ヘイズが、地球に降下して最初に思ったことだった。

 

 

 GNフィールドを利用して大気圏に突入し、目的地である収容施設が見えてきた。今回の目標はアレルヤ・ハプティズムの救出に向かっているはずの刹那に会うこと―――――できれば少しお話をして、無理なら銃撃戦をすること。

 

 そんな考えに淡い期待をふくらませ、少しだけ頬を緩ませていたら殺気もなく飛んできた狙撃と思われる粒子ビームに、左肩につけていたGNキャノンを吹き飛ばされた。

 

 

 

 理解できない。

 しかし流れ弾ということはありえない。ということは、この距離を狙い撃った―――?

 

 

 データで見た4年前のロックオン・ストラトスならば、現在のソレスタルビーイングの技術力と適正な装備さえあればこの距離で狙い撃ち、かつコクピットに直撃させて見せるだろう。ただそれは、ここに“いる”と知らなければ無理なはずだ。

 

 センサー圏外の敵を狙い撃つ芸当など、できるのはエスパーか。あるいは“知っていた”者だけだ。戦闘中にスコープで空を眺めている阿呆はいないだろう。

 

 

 

「――――こっち“にも”、裏切り者が…っ!?」

 

 

 

 何にしても、刹那に会いに行く邪魔をされていることに変わりはない。

 装備しているGNパックがウイング、フォートレス、ソードだけ――――刹那と超遠距離戦をするつもりはなかったから――――ということに歯噛みしつつ、再度の狙撃を回避するために急加速した。

 

 

 

「GNウイング、砲撃(キャノン)モード……フル、バースト…っ!」

 

 

 粒子砲を兼ねる特殊スラスターが変形して前方を向き、右肩だけになったGNキャノンと共に一斉に火を噴く。

 しかしアイシスの高度を下げたことではっきり視認できるようになった敵機――――武者のようなフラッグもどきはそれを容易く回避し、向こうに一撃撃たせた隙に刹那のところに向かいたいセレネを嘲笑うかのようにロクに狙いを定めずに空を仰いでいる。

 

 そして、セレネには切実な問題があった。

 

 

 

「――――せ、刹那が帰っちゃう…っ」

 

 

 

 既に作戦開始から30秒以上が経過している。

 刹那ならアレルヤ・ハプティズムを3分もあれば余裕を持って救出できるだろう。一応他にもマリネだかマリモだとかの王女がいるらしいけれど、アテにはならない。

 

 今すぐに降下して、アイシスはGNフィールドを張りながら適当に脳量子波で操作して逃げ回らせる。それが“目的”のための最適――――いや、最善策。

 

 そう判断し、やる気のない狙撃手は無視して急降下しようとし―――――視界が真っ白になった。

 

 

 

「―――――…きゃぁっ!?」

 

 

 

 機体が激震し、錐揉みになる。

 瞬間的に視線を走らせてコンソールをチェックすると、GNウイングの一部が不具合を訴えている。

 

 

 

「な、なんでっ!? 殺気はなかった、のに…っ!?」

 

 

 まさに急降下のための加速を始めたその瞬間を狙われたために、ガンダムといえども体勢を崩すことは避けられない。必死で立てなおそうとする間に立て続けに放たれた第三射、第四射が右足と頭部を掠め、声にならない悲鳴をあげる。

 

 

 

 

「……ぅ、ぅぅ…っ! 刹那以外のヒトなんかに…っ!」

 

 

 

 何処の誰ともしれない相手にいいようにしてやられるのは許せない。

 それにこれ以上邪魔されたら、刹那に会えない。だから、排除する。

 

 そう考え、意識して怒りで思考を染めていく。カチリ、と頭の中のギアを切り替える。瞳の黄金がその輝きを増し、光が広がる。

 

 

 

 

「―――――…もう、逃さない。ガンダムアイシス、目標を駆逐する……―――」

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

『――――――来るか!』

 

 

 

 フラッグのパイロットはそう呟くとともに唐突に狙撃の体勢を止め、スナイパーライフルをこちらに向けて無造作に放り投げる―――――放り投げやがった!?

 

 

 

『協力、感謝する!』

「うおおおぉぉぉっ!? あ、危ねえ!」

 

 

 

 不幸中の幸いというべきか、投げ捨てられたスナイパーライフルは正確にケルディムガンダムの真正面に落ちてきたためになんとか落とさずにキャッチすることができた。

 協力なんかしてねぇよ! と是非とも叫びたいところだったが、フラッグは即座に変形し――――やけに不格好な、重装甲の飛行機になったが――――瞬間、豪雨のごとく降り注いだ粒子ビームの嵐が着弾し、視界を煙と光で埋め尽くした。

 

 

 しかしフラッグはそれを回避し――――いや、よく見れば肩の追加装甲の一部が吹き飛び、その下にあったらしい純白の装甲が露わになっていたので命中したのかもしれない。

 いずれにせよ無事らしいフラッグは、再度の射撃が来る前に離脱する算段なのか一気に加速していく。

 

 

 

『その、程度では…っ! バースト!』

 

 

 

 真紅の尾を引きながら凄まじい加速で障害物のない海上に飛び出したフラッグに対し、オレンジに輝く粒子の翼を広げた黒いガンダムが凄まじい速度で追撃する。

 おまけとばかりに放たれた多数の――――少なくとも10基以上のビットがビームを乱れ撃ち、海面バレルロールというヘンタイ回避をするフラッグを掠める。

 

 そのたびに命中した箇所の追加装甲が自ら弾け飛ぶことで損傷を軽減し、邪魔なものを捨てたと言わんばかりにフラッグの速度があがっていく。……あの追加装甲は必要だったのだろうか。

 

 

 と、そこでフラッグはいきなり宙返りを決め、ビームを乱射しながら一気に黒いガンダムの頭上を取り――――変形する!

 

 

 

 

『―――――人呼んで…ッ! グラハムスペシャル!』

『甘い――――消し飛べ……っ』

 

 

 

 どこかで聞いたことがあるような、全くの別人のような、底抜けに冷たい少女の声が響き、その翼が粒子の輝きを帯びる。――――さっきの、翼からの砲撃か!

 完全に不意を突いただろう一撃。背後を取り、まさに剣で斬りかかろうとするフラッグに避けられるタイミングではない。

 

 一応味方に当たるのかもしれないフラッグに、ライルは間に合わないと知りつつ咄嗟に叫ぼうとし―――――。

 

 

 

 

『―――――アンド、フレア!』

 

 

 

 瞬間、フラッグから眩い真紅の粒子が煙幕のようにバラ撒かれる。

 原理的にはGNフィールドに近いものがあるそれは、恐らくある程度のビームであれば軌道を逸らす効果があるだろう。あるいは目眩ましとしての役割もあるのかもしれないが、超近距離で放たれる高出力の粒子砲を防ぐことはできないに違いない。

 

 

 間髪入れずに煙幕を突き破って粒子砲が放たれ―――――。

 

 

 

 ライルの目に映ったのは、赤い粒子の煙幕の中から飛行形態で飛び出すほぼ無傷のフラッグと、海面に叩き落とされる黒いガンダムの姿だった。

 

 

「………はぁっ!?」

 

 

 

 理解を超えるナニカを目にしてしまった気がする。

 中で何が起こったのか全く理解できない。呆然とするライルの耳に通信が入る。

 

 

 

『何をしている、アレは放っておけ! ライフルが返ってきたのなら当てなくてもいい、アロウズを牽制しろ!』

「お、おうっ!? りょ、了解!」

 

 

 

 正直に言って、あの戦いを見ていてマトモに戦える自信など全く持てず―――――手に汗握りながら放った一射目がセラヴィーと戦っていた一機の頭を撃ち抜き、思わず大きく息を吐いた。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

『―――――刹那、アレルヤ、限界時間だ!』

 

 

 携帯端末からティエリアの声が響く。それをちょうどマリナ・イスマイールをダブルオーのコクピットの押し込みつつ聞いた刹那は、即座にコクピットハッチを閉じてダブルオーを浮き上がらせる。

 

 そして目に入ったのが、ところどころ純白の装甲が露わになったフラッグ―――――いや、頭部や追加装甲で誤魔化しているが、飛行形態のあの形状はフラッグにしては明らかにおかしい。

 

 

 

「――――キュリオス…? いや、あれは……!?」

 

 

 刀のような実体剣を二刀で振るう所属不明機(フラッグもどき)と、怒涛の勢いで攻めかかる黒いアイシスが幾度も交錯する。明らかに機動性が違う。

 

 粒子の翼を用いた凄まじい機動性を誇るアイシスに対して、フラッグもどきはギリギリのところで攻撃を防ぎ、受け流し、時折目眩ましに粒子をバラ撒き、あるいは変形して距離をとる。

 

 

 

 漠然と、「知っている」という思いが込み上げる。

 

 

 気にはなる。しかしそう簡単には撃墜されないだろうと判断し、フォーメーションでGN-XⅢ部隊を撃破するべく、アレルヤの背後につき、その牽制で散開した敵のうちの一機の動きをライフルモードのGNソードⅡで制限してやり、その隙にアレルヤが斬り捨てる。

 

 刹那はそれに気を取られた一機を背後から両断し―――――ティエリアが砲撃で残った二機を纏めて消し飛ばす。

 

 

 あっけないほどに素早く片付いた敵機に、連携の重要さと仲間たちの力を再確認する。

 

 そして――――――…。

 

 

 

 

 

 

『りゅ、粒子残量が…――――う、うそ……刹那――――…っ!?』

 

 

 

 どういうわけか通信回線をオープンにしていたらしい黒いアイシスから、セレネの声がした。恐らく聞こえた通りに粒子残量が危ういのだろう。突如として動きを止めたアイシスに、フラッグもどきは空気を読んだのか黙って踵を返すと、一目散にどこかへ飛び去っていく。

 

 そして、棒立ちのアイシスだけが残った。

 

 

 

『………ど、どうしよう。これじゃ、なにも……っ』

 

 

 

 

 おろおろしているアイシスに今のうちに攻撃したほうがいいのでは、という考えが浮かばないこともなかったのだが――――…。

 

 

 

『……ふぇ……ぐすっ、こ、こんかいは、様子見です…っ! ……すんっ、こんど、会ったら―――――…………か、覚悟するのです…っ!』

 

 

 

 

 泣きながら逃げていった。

 声が声だからか、何もしていないのに何故か無性に悪いことをしてしまった気がする。

 

 

 

 

『どうする、刹那』

 

 

 

 ティエリアから通信が入る。

 刹那はそれに僅かに逡巡してから、答えた。

 

 

 

 

「………撤退する」

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………………

 

 

 

 

 

 

 プトレマイオスに帰還した刹那は第一格納庫でダブルオーから降り、キャットウォークの上でマリナ・イスマイールと軽くこれまでの事情を説明し合い、その表情に僅かな翳りを宿らせながら言った。

 

 

「…………俺が関わったせいで、余計な面倒に巻き込んでしまった。……すまない……」

 

 

 

 マリナはそれに何と答えればいいのかわからず、しばし黙りこんでから言った。

 

 

 

「………刹那。なぜなの……? なぜ、あなたはまた戦おうとしているの……?」

「それしかないからだ」

 

 

「――――嘘よ!」

 

 

 きっぱりと、淡々と言い切る刹那に、決然とした表情でマリナは言った。

 

 

 

 

「戦いのない生き方なんて、いくらでもあるじゃない」

 

 

 

 戦いのない生き方は、いくらでもある。

 戦うことで、他人を傷つけることでしか生きられないなんてことはない。それでは誰かの温もりも、傷ついた時に癒してくれる言葉もない。

 

 自分で冷たい生き方を選んでいるのではないか――――そんなマリナに、刹那は真っ直ぐな瞳で返した。

 

 

 

「――――戦わなければ手に入らないものが、守れないものがある。だから俺は……俺達は、戦うと決めた」

「……そんなの………」

 

 

 

 それはきっと、マリナの考えとは遠く離れたものだった。

 平和を求める心は同じなのに。争わないで平和を手に入れたいマリナと、争わなければ守れないものがあるという刹那は、あまりに遠かった。

 

 

 

「………そんなの、悲しすぎるわ……」

 

「そうかもしれない。――――…だが、俺にも守りたい人がいる。それで十分だ」

 

 

 

 世界は歪んでいる。戦いがあり、人は死ぬ。

 そんな歪みの中で生まれた者は、平穏には生きられないのかもしれない。

 

 けれどそんな刹那も、やさしい、ただの少女を守りたいと思えた。

 そんな小さな変化でも、刹那の世界は確かに変わった。

 

 

 

―――――だから、そんな少女の世界を変えてあげたいと願った。

 

 

 

 少しだけでも、小さな変化でも。

 もう“彼女”がいないのだとしても、それでも。

 

 やさしい少女が苦しまなくていい、そんな世界に。

 

 

 

 

「破壊の中から生み出せるものもある。世界の歪みをガンダムで断ち斬る――――…未来のために」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回予告

未定だよ。ただ、未来は僕の手の中にあるのさ。(リボンズ声)
次回、新機動戦記リボーンズガンダム『戦う理由』。さぁ、変革を始めようか…!


*始めません


というわけで更新が滞ってしまい、真に申し訳なく…っ。
増量したので許してください…。


Q「アレルヤさんの出番は?」
A「小説版機動戦士ガンダム00が好評発売中です! なんと7ページで9回も『マリー』と言うほどアレルヤの活躍ぶりが盛りだくさん! あられもない拘束シーン(?)もあります!」


Q「つまりどういうことだってばよ?」
A「アレルヤは更新速度アップのための犠牲になったのだ」



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