機動戦士ガンダム00 変革の翼 2nd   作:アマシロ

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どうしようもないので、オリジナル要素は徐々に増える予定です。


第1話a:天使再臨

 

 

 

 

 

――――西暦2307年、それまでの世界は“破壊”された。

 

 

 無論、あくまで比喩ではあるが……ユニオン、AEU、人革連の三大勢力による無意味なゼロサム・ゲーム(すなわち利益のない争い)が続いていた世界に、“全ての戦争行為の根絶”を掲げる私設武装組織『ソレスタルビーイング』が宣戦布告したことが全ての始まりだった。

 

 世界の全てを敵に回すと言って過言ではないその行為だったが、彼らはただ何も出来ずに消える存在ではなかった。―――圧倒的な力を持つ機動兵器ガンダム。たったの5機投入されたそれらは、冗談のように三大勢力を圧倒した。

 

 紛争への武力介入、そして紛争幇助と判断された国への攻撃。

 それらに耐えかねた三大勢力は遂に協力してガンダムと、ソレスタルビーイングと戦うことを決意する。それこそがソレスタルビーイングの目的の第一段階、世界統一への第一歩だったのだが―――。

 

 

 その舞台である合同軍事演習、世界そのものとの一騎打ちとも言えるその戦いにおいて、ガンダムとそれを操るガンダムマイスターたちは圧倒的な物量の前にあわやガンダムを鹵獲される寸前まで追い込まれてしまう。

 

 しかし、その窮地を救うかのように表れたのは“セカンドチーム”―――ガンダムスローネを駆る『トリニティ』だった。

 

 

 一時は彼らに救われたソレスタルビーイング、プトレマイオスチームのマイスターたちだったが、彼らの容赦も見境もない過激な武力介入に対して疑問を抱く。

 そして、スローネの一機が民間人を虐殺した事件をきっかけにプトレマイオスのガンダムマイスターたちはトリニティと決別。彼らを紛争幇助対象として武力介入をするに至った。

 

 

 しかし事態は更なる急展開を迎える。

 ソレスタルビーイング内に『裏切り者』が現れ、ガンダムのガンダムたる所以であり、圧倒的な性能の源であった最高機密“太陽炉”の劣化量産品といえる“擬似太陽炉”を三大国家群に流したのである。

 

 それにより三大国家群は“国連軍”を結成。世界は打倒ソレスタルビーイングの下で一つとなり、ソレスタルビーイング掃討作戦である“フォーリンエンジェルス”を発動。

 ガンダムは全て掃討され、ソレスタルビーイングの壊滅という犠牲の下に世界は一つに。そして平和になった―――――。

 

 

 

 

 その、はずだった。

 

 

 

 

 

 

(―――同じだ……)

 

 

 

 黒いパイロットスーツの男が、スペースコロニー“プラウド”内部の金属質な、入り組んだ通路を駆け抜けていた。

 いくつもの死体が転がり、その全てが無数の銃弾によって無残に殺されていた。機械である軍用オートマトン――――キルモードで放たれたそれらは無差別に、一切の慈悲もなく、抗う力を持たない者たちを蹂躙したのだろう。

 

 

 

(変わって、いない……)

 

 

 

 何の価値もないもののように、ゴミのように、人の命が消えていく。

 自らの意思で戦場に赴くことを選択したわけでもなく、ただそこに、避けられない場所にいたというだけで。

 

 

(あの頃から、何一つ……)

 

 

  ラグランジュ1における最後の戦闘が終わり、ソレスタルビーイングが世界の表舞台から姿を消して既に4年。あれで、世界が変わると信じていた。

 

 たくさんのものを失った。たいせつな人を喪った。

 それはきっと、理想を追い求めて自覚のあるところでもないところでも他人の大切なものを奪ってきた自分に対する報いなのだろうと思っている。

 

 けれども純粋に世界が変わることを、少しでも悲しみを減らすことを望んだ彼らの、彼女の行いが全くの無駄であったなどとは認めたくはない。

 

 

 大きな変化である必要なんてなかった。

 統一政府が生まれた世界が、ほんの少しでも“やさしい”ものになっていれば、きっと彼女はそれを喜んだだろうから。

 

 そうだと信じたかった。その確証が欲しかった。

 だからソレスタルビーイングに戻らず、世界を巡った。……しかし、世界の歪みは消えなかった。

 

 

 石油輸出規制制度は継続され、反発する中東諸国は連邦への不参加を表明。そしてそれに対する地球連邦政府による過激な政策。反連邦勢力の結成と、独立治安維持部隊“アロウズ”の台頭と暴挙の数々―――…。

 

 

 

 

(……こんなもの、求めてはいない……!)

 

 

 

 今なお続く統一のための虐殺。犠牲になるのは何の“力”もない人々だ。

 そんなもので為された統一に、そんな世界に何の意味があるだろう。ソレスタルビーイングのメンバーたちは決して“世界を一つにする”ために戦ったのではない。そんなものは手段でしかなかった。彼らは、俺たちは、“ほんの僅かでもやさしい世界”のために戦ったのだ。

 

 自分と同じ境遇の者を生み出さないために、悲しみを繰り返させないために。

 一方的な、独善的な平和ではなく本物の平和を。紛争を根絶し、対話による相互理解を。

 

 ……あの頃の自分たちが本当にそれらを理解していたかはわからない。

 ただがむしゃらに紛争を終わらせようとしていたとも思う。だからこそ、この4年間は必要に駆られなければ進んで戦いはしなかった。

 

 

 だからこそ今、はっきりとわかる。

 

 

 

(こんな事のために、戦っていたのではない……!)

 

 

 

 『世界は、変わらなければならない』――――ソレスタルビーイングの創始者たるイオリア・シュヘンベルグが言った言葉だ。確かに4年前に世界は変わった。しかし、擬似太陽炉の流出やその他の状況からも明らかなように何者かの悪意が介在していた。

 

 

 俺たちは世界の変革に、失敗したのだろう。

 『世界を変える』こと。何者かによって本来の計画以上に強引に変えられた世界が歪み、その“ひずみ”が浮き上がっている。

 

 

 

 この世界もまた、歪んでいる。

 この世界もまた、変わらなければならない。

 

 そう、こんな世界など望んでいない。

 

 

 

 

(……ロックオンも、俺も、“彼女”も……!)

 

 

 

 

 

 通路を駆け抜けた先、宇宙空間へ出るための隔壁ブロックに、黒いパイロットースーツの男が飛び込んでいく。資源衛星に隠してあった“ソレ”には、既に自動操縦を命じてあった。後ろについてきている、虐殺の中から救助した青年――――沙慈・クロスロードにヘルメットのバイザーを閉めるように命じて男……いや、青年は隔壁を解放し。

 

 

 

『せ、刹那……きみはカタロンなんじゃ―――…』

「違う」

 

 

 

 隔壁の先に待っていたのは顔面の右半分を破損し、失った左腕を隠すようにボロ布を纏い、片翼の大きく抉られた蒼の翼を背負った、青と白のモビルスーツ――――ガンダムエクシア。最も、GNソードの他にGNウィングとGNスナイパーライフルを装備するその姿は、知らない者の目には別の一機のようにも映っただろうが―――。

 

 

 

 

 

 

「俺はソレスタルビーイングのガンダムマイスター、刹那・F・セイエイだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「なんだ、中で何が起こっている!?」

 

 

 

 スペースコロニー“プラウド”の反乱分子殲滅作戦を行っていたアロウズのジニン大尉が異変に気づいたのは、まさにミッション終了時刻を迎える直前だった。

 既にカタロンの部隊は全滅し、残りは内部の殲滅にあたらせていたオートマトンを回収するのみだったのだが、サブモニターに映っていたオートマトンの反応が次々と消滅していったのである。

 

 

 そして先程、一瞬だけだが青白いGN粒子を見たように思えた。

 

 

 まさか、とは思う。

 しかしそれならばオートマトンが一気に葬られたことも納得がいくのだ。

 

 

 

(―――武力介入をしようというのか、ここに!)

 

 

 

 

『大尉、上から!』

 

 

 アラッガ中尉の悲鳴のような声が聞こえた瞬間、眼前を閃光が通過していた。

 爆発的な青白いGN粒子の奔流。それに目が眩んだ瞬間には、アラッガ中尉の乗っていたGN-XⅢの右腕は切り落とされ、襲い掛かってきた何かは既に視界から消えていた。

 

 

「アラッガ中尉!」

『平気です!』

 

 

 短いやりとりで無事を確認しつつ、既に影も形もない敵機の残滓、資源衛星の陰へと続くGN粒子を目で追い――――恐らくそれはただの幸運だったのだろう。反射的にその場を離れるように機体を、アヘッドを動かしつつ咄嗟に背後に向き直らせた。

 

 

 

「――――なんだとぉっ!?」

『大尉っ!?』

 

 

 

 冗談のような速度で飛来した何かを反射的にGNシールドで受け止めた瞬間、前方からの凄まじい衝撃に揺さぶられて瞬間的に意識がブラックアウトする。さらに一拍遅れ、今度は背後からの突き上げるような衝撃で無理矢理に意識を覚醒させられると、ジニンのアヘッドは資源衛星に強かに打ち付けられていた。

 

 しかしそれでも、眩む視界で即座に襲撃者の機影を追ったのはアロウズに配属されるエースパイロットとしての経験と誇りのなせる業か。

 

 

 

「あ、あれは……っ」

 

 

 今度は隠れる場所がないためか、あるいはその必要がないと考えているのか。アヘッドから見て天面に当たる位置で青白い粒子の翼を広げ、何度もメディアや資料を通して目にしたその機体が、ガンダムが悠然と佇んで――――いなかった。

 

 余裕をもって見下しているわけでも、そうせざるを得なくなったのでもない。

 そのガンダムは長距離狙撃を得意としたガンダムの持っていた武器、スナイパーライフルを構えてジニンを狙っていたのだ。

 

 

 

「――――っ!?」

 

 

 

 心臓を鷲づかみにされるような恐怖を味わいながら、反射的にアヘッドを全力で資源衛星から離脱させ――――飛来した粒子ビームの光がアヘッドの左腕、その関節部に直撃し、衝撃で揺れる視界に回転して宙を舞うアヘッドの左腕が見えた。

 

 

 

(―――バ、バカな…っ!?)

『大尉ぃぃッ!』

 

 

 

 右腕とともに抉り取られたGNランスを左手で回収したアラッガ機のGN-XⅢが粒子ビームを乱射しながらスナイパーライフルを構えるガンダムに突進する。

 しかしガンダムは再び粒子の翼を煌かせ、かなり離れた位置にいるジニンからでも見失いかねない速度で急降下。瞬間的に弾幕の外に抜け出して見せた。そして恐らくガンダムを見失ったのであろうアラッガ中尉は、無防備にも直進したままガンダムを探すような挙動を見せ――――。

 

 

「下だ、中尉っ!」

『―――なっ!?』

 

 

 

 

 必死な思いで叫んだその瞬間、ジニンの頭を占めているのは無数の疑問だった。

 なぜ、今になってソレスタルビーイングが現れたのか。なぜ、自分たちはこんなにも押されているのか。アロウズからすれば旧型とも言えるモビルスーツに。

 そして、何故――――。

 

 

 

『うっ………うわああああああっ!?』

 

 

 

 アラッガ中尉のGN-XⅢと急上昇した粒子の翼のガンダムが交錯し、爆発と共にオレンジのGN粒子の光が宇宙に瞬き、そして消えた。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

(……破壊する……)

 

 

 ただ、破壊する。

 世界統一を、ソレスタルビーイングの宿願を歪んだ形で掲げる者たちを。

 

 

 

「この俺が――――駆逐する!」

 

 

 

 目まぐるしく流れる星空と、機体のG制御能力を機動力が大きく超えたために身体にかかる強烈なGを感じながら刹那はGN-Xの後継機であろう機体をGNソードで切り裂き、爆散させる。次いで隊長機らしき機体の反撃の火線をGNウィングによるGNフィールドの展開で弾き、悲鳴を上げるエクシアの全身の駆動部をサブモニターで確認して顔を顰めた。

 

 

 4年という歳月の間、十分とは言えない整備でもガンダムは……エクシアはよく動いてくれた。しかし機体性能において劣り、数でも劣るこの状況ではこうでもしなければ勝利を掴むことは難しかっただろう。

 

 

――――ガンダムアイシスのGNパック、および装備の流用。

 

 

 4年前の最後の戦い、無人で起動したガンダムアイシスは刹那が目覚めたときにはいずこかえ消えていたが、その場には大きく損傷した装備が残されていた。

 ガンダムマイスター、セレネ・ヘイズの遺した装備。

 

 隔絶した反射能力を持つ彼女のために造られ、彼女自身も設計に参加したという多目的大型粒子ブースター・GNウィングは、刹那だけでなく疲労したエクシアにも大きなダメージを強いるものだったが、その機動力はアロウズの最新鋭機とくらべても何ら劣るものではない。

 

 

 とはいえ、エクシアの駆動部がスクラップ同然の状態になってしまっている現在の状況は、全く余裕などないようなものなのだが。

 太陽炉の出力のほどんどをGNフィールドの展開に回すことで四年前の戦いで中破しているGNウィングでも辛うじて敵の火線を防げている。が、下手を打てば即座に四肢のいずれかをもぎ取られてもおかしくはない。当然、これ以上の負荷を機体に強いるトランザムなど論外である。

 

 

 敵のうちの一機が何かのトラブルなのか全く動きがないおかげでなんとか勝機がある、といったところだろう。

 

 そして敵の隊長機もエクシアの異変に気づいたのか、狙撃を避けるためにジグザグに動きながらも槍のような得物を構えてこちらに突っ込んでくる。

 高速機動に問題が起こっていることを察し、接近戦で決着を付けようと言うのだろう。しかし刹那は焦ることもなく、冷静にGNスナイパーライフルを背後に放り出してGNソードを構える。

 

 

 

 

 接近戦にならば自信がある――――いいや。

 エクシアはそんなにヤワではないし、自分とエクシアならば―――そして“彼女”の翼があれば、間違いなく切り抜けられると確信していた。

 

 

 

「ガンダムエクシア、刹那・F・セイエイ……――――目標を駆逐するッ!」

 

 

 

 瞬間、不規則にGN粒子の光を噴射したエクシアが最小限の動きで―――かつ紙一重でGNランスの一撃を回避し、装甲に火花が散る。

 至近距離で槍を突き出したような格好になったGN-Xに、当然ながらエクシアの反撃を回避する術は無い。擦れ違いざまにコクピットに一撃を叩きこむ――――…かと思われたが僅かに逸れ、先程の時点で既に左腕を失っていたその機体の右腕を切り裂くだけに留まった。

 

 

 

「――――…くっ」

 

 

 

 仕留め損ねた―――が、両腕とともに武器を、継戦能力を失った敵機は泡を食ったような動きで先程から動きの無い一機を体当たりするような形で回収しつつ離脱に移っており、戦闘に勝利したのもまた事実だった。

 

 

 

――――危ない戦いだった。

 

 

 

 既にエクシアのほぼ全身がアラートという名の悲鳴をあげており、仕留め損ねたのもエクシアの右腕の関節がおしゃかになったからだろう。

 刹那は油断なく周囲を警戒しつつも、僅かに詰めていた息を吐き――――。

 

 

 

 鳴らないはずの、通信の受信を告げるアラート。

 目を見開いた刹那が反射的にコンソールを操作すると、サブモニターに見知った顔が映し出された。

 

 

 

 

 

 

 

『――――久しぶりだな、刹那・F・セイエイ。……相変わらず無茶をする』

『ティエリア・アーデ……!?』

 

 

 

 四年前から変わらぬ、しかしあの頃よりもほんの僅かだけ柔らかい雰囲気の、“仲間”の顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

「エクシア。ガンダムエクシアが遂に現れたようだよ――――セレネ・ヘイズ?」

 

 

 

 部屋の中央で樫材の椅子に座る、少年にも青年にも見える者――――リボンズ・アルマークの声に、その背後に立つ少女は小さく笑みを浮かべた。

 

 

 

 

「そう、ですか。やっぱり生きていたのですね、刹那……」

 

 

 

 雪のように白い髪に、黄金色の瞳を持つ少女。

 妖精のようにも見える彼女は恋する乙女のように頬を僅かに赤らめて、とてもとても楽しそうに語る。

 

 

 

「――――……ふふっ。今度こそ、絶対に墜としてあげます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




戦闘、むずかし、たいへん。


人物設定


セレネ・ヘイズ

 みんな大好きセレネ・ヘイズ(?)
 1stの最後を頑張って思い出して頂くと少しだけ疑問が解ける……かも?

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