機動戦士ガンダム00 変革の翼 2nd   作:アマシロ

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ごめんなさい、全然進んでないです…。



第5話a:カタロン

 

 

 

 

 

 それから少し時間は遡り、プトレマイオス2は現在マリナ・イスマイールをアザディスタンまで送るための道中にあり、アラビア海からオマーン湾に入ろうとしていた。

 

 

「プトレマイオス、深度三二〇〇で固定します」

「船体に異常なしです」

 

 

 フェルトの声が静かなブリッジに響く。それにミレイナが続き、ラッセが頷く。あと数時間もすればアザディスタン王国から最も近い沿岸地域に出ることができる。

 ブリッジにイアンがやってきたのは、そんな時だった。

 

 

「解析結果が出たぞ」

「ほんとか、おやっさん!」

 

 

 ラッセが振り返りながら尋ね、イアンは大仰に頷いてから言った。

 

 

 

「装甲の形状がガンダムアイシスと一致しおった。おまけに変形機構はキュリオスそのまま――――間違えようがあるまい」

 

 

 ティエリアの「あからさまに不審なので調査すべき」という意見に基いて始められた、フラッグに偽装した所属不明機の解析。その結果が出ていた。

 イアンがコンソールを操作するとブリッジのスクリーンにその結果が表示され、それに次いで―――――パイロットの声の解析結果が映し出される。

 

 

 

「……合成音声、ですか?」

「そうだ、つまるところ何もわからん。ただ、そこまでして正体を隠したいのか――――」

 

 

 やや不思議そうなフェルトに、イアンが頷く。

 ライルからの「何かしらで声を変えているのでは」という意見に基いて調べてみたところ、20~40代の成人男性の声を合成したAIか何かの応答の可能性があることが分かった。つまり実際のパイロットは性別・年齢ともに不明、ということになる。

 

 

 そこでだ、とイアンが僅かに区切ったところでブリッジの扉が開いた。

 

 

 

「―――――だが、あのような射撃をするパイロットはそうはいないだろう」

「ティエリア!?」

 

 

 驚くラッセを尻目に、ティエリアは無言でイアンに続きを促し、イアンは僅かに肩をすくめてから言った。

 

 

 

「ま、結論から言えば、わしらはあのパイロットがセレネではないかと疑っとったわけだが―――――」

「本人が乗っているにしては、操縦が杜撰だ」

 

 

「あれでかよ!?」

 

 

 ティエリアに続いて入ってきたライルが驚きの声を上げるが、ティエリアは僅かに視線を向けただけで話を続けた。

 

 

 

「更に、バレルロールや空中変形などの曲芸飛行を多数使用していたが――――あんな時間あの機動を続けていたら、常人なら片手の指では到底足りないほど気絶している」

 

「セレネならあるいは、と思っとったんだが……もっと可能性の高いものがあった」

 

 

 

 そしてモニターに表示されたのは、『量子シンクロシステム』の文字。その文字をつい最近見ていたライルが、まず口を開いた。

 

 

 

「……確か、あれだろ? 脳量子波による遠隔操作システム、とかいう」

「その通りだ。マイスター、セレネ・ヘイズが考案したシステムであり――――その真骨頂は、中継点を設けることで使用距離を延長できることにある」

 

 

 

 ティエリアは一息に言い切り、それにイアンが続く。

 

 

 

「その中継に必要なのは太陽炉搭載型モビルスーツでな。ダブルオー――――エクシアの太陽炉の中にもプログラムが仕込んであった。……そして、理論上は脳量子波で操作しとる太陽炉搭載型モビルスーツを中継点にして、更に遠くのモビルスーツを操ることも可能だ」

 

「………怖すぎるんだが」

 

 

 シュミレーターの惨劇を思い出して苦々しい顔をするライルを一瞥して、ティエリアが総括する。

 

 

 

「当然ながら、操作する数を増やすだけ操縦者の負担は飛躍的に増加する。が、もし協力者がいるのなら、セレネ・ヘイズならばあれくらいの戦闘はこなしてみせるだろう。更にもしも、ヴェーダのバックアップが得られれば――――…とにかく、可能性は十分にある」

 

「それなら刹那に味方する理由もわかりやすいな」

「じゃあ、セレネは…!」

 

 

 

 ラッセが笑みを浮かべながら頷き、フェルトも久方ぶりに笑顔を浮かべる。

 そして、ほんの僅かに口元を緩めたティエリアが言った。

 

 

 

「セレネ・ヘイズは生きている。―――――そして、恐らく所在は旧ユニオンだ」

 

 

 

 

 

 そこで唐突に、Eソナーが異常を告げる。

 

 高速で接近する6つの物体を感知し―――――ティエリアが即座にブリッジを飛び出し、ライルがそれに続く。ラッセが操艦レバーを動かし、フェルトがコンソールを叩いた。

 

 

 

 

「GNフィールド、最大展開!」

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 ワインレッドの輸送機“リィアン”。ガンダムスローネドライを偽装したその機体に乗る女性――――ネーナ・トリニティは、ヴェーダへのアクセス権の証でもある黄金色の瞳を輝かせながら、画面に映る『ガンダムアイシス零式』の視界と、ウィンドウに表示される同じく黄金色の瞳を輝かせる、未だ幼い容姿の少女に語りかけた。

 

 

 

「それにしても、大胆ね。まさか堂々とヴェーダにアクセスしちゃうなんて」

『私は、“あの子”のお陰で偽装ができますし……それに、あなたもイノベイターとは仲が良くはないと思いますけど』

 

 

 

 あまり言いたくなさそうにしながらも、少女は言う。

 

 なるほど、それは確かにそうだ。

 今はイノベイターに媚を売っている王留美の下にいるとはいえ、“計画”から切り捨てられた私は手駒とも思われていないに違いない。

 

 

 

「でも、アナタにも言われたくないわね――――人類初の半純粋種イノベイターさん?」

『………わたしは、そんな大層なものではありません』

 

 

 

 そうは言っても化け物じみた戦闘センスに反射神経、そしてヴェーダの補助を受けているとはいえ超遠距離でのモビルスーツの操縦と、人間では成し得ないことを軽々と成し得ているのだ。そんなことを考え、なんとなく聞いてみた。

 

 

 

「じゃあ、本物のイノベイターってなんなのかしらね?」

『………人類の革新。大宇宙に飛び出そうとする人類が獲得した新たな力であり、未知なる可能性。どこまでも広く、暗く、孤独な宇宙に適応しうる能力を持つもの――――』

 

 

 そこで一旦区切り、イリアは言った。

 

 

『――――そして同時に、来るべき対話のために求められる不安定な定義でもある、と思います』

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 アイシスの残骸から造った“脳量子波遠隔操作機”――――ヘッドギア式のそれを用いて、イリアは――――セレネ、あるいはレナ・キサラギは、自室から量子の世界へと沈む。

 

 そしてヴェーダにアクセスし、更にそれとは別に中継点としてガンダムスローネドライ、エクシアの太陽炉を利用して通信をつなげ、アイシス零式の操縦を掌握する。

 

 ヴェーダの情報の膨大さとセレネ・ヘイズと同一の脳量子波を利用すれば、イノベイターの趣味が覗きでなければそう簡単にバレることはないだろう。

 同時に、もしバレても今の地球の状況――――太陽炉搭載モビルスーツが増加してGN粒子が増え、挙句の果てに中東への嫌がらせのために粒子がバラ撒かれているこの状況なら、ヴェーダがなくとも最低限の戦闘力は維持できる。

 

 それでアロウズに動かれたとしても、それはそれで望むところ……ということになっている。

 

 

 

 そうしてアイシスを戦場へ―――――刹那の、そして“彼女”のところに向かわせながら、改めて先ほどの話を考える。

 

 

 

 

 “イノベイター”とは『来るべき対話』のために求められる存在。

 いつか来るその時のために……いや、“計画”が始まった以上、もうさほどの猶予はないのかもしれない。きっと、だからこそこの戦いは存在する。

 

 

 

(――――イノベイター、ツインドライヴ、ダブルオー……“計画”の理想は、この戦いで覚醒するイノベイターが現れること。どのような形であれ、この惑星の争いを集結させること……のはずです)

 

 

 

 そして、それはダブルオーのパイロットに選ばれた刹那に期待されている。

 

 

 

 本当は私の“力”が紛い物なのか、あるいは本物なのかも分かりはしない。

 けれども私は、この“力”に苦しんだ。だから刹那には、そんなものを得て欲しくないと思っていた。

 

 それと同時に“私”が望んでいたからこそ生まれたのだろう、平和な暮らしを送るもう一人の“わたし”――――イリアに迷惑をかけていいのか悩んだ。

 

 

 けれど、もう“私”には時間がない。

 だから、だからせめて―――――…。

 

 

 

 

(まだ、まだ早いんです……ツインドライヴを、希望を、刹那に届けられるその時までは、まだ、私は…―――――)

 

 

 

 予想外の誤差か、計画の内か。

 まだツインドライヴは完成していない。刹那はイノベイターになっていない。……にも関わらず、既に戦いは始まっている。

 

 最終的に“イノベイター”は必ず勝利するだろう。そのはずだ。何故ならばそのための筋書き。そのための計画。イノベイターが何を考えているとしても、未だにソレスタルビーイングが、刹那たちが存在している以上は計画から逃れることはできていない。

 

 

 そして、刹那がイノベイターになれたその時こそ、初めてどちらが人類を導く“革新者”に相応しいのかを決める戦いのステージに上がることができる。

 

 

 

 これが全て勘違いの妄想でもいい。

 けれども、ヴェーダを掌握したイノベイターが未だに計画に従っているのなら。あるいは真の意味で掌握などできていないのだとしたら。

 

 

 刹那が真のイノベイターとして覚醒……革新したその時こそ、この戦いの勝者は決するだろう。元々、イノベイターを生み出すための計画であるはずなのだから。そうでなくとも、刹那が生き残れる確率はグッと上がる。

 

 

 

 

(刹那なら……きっとこの“力”にも、負けない。だから――――…)

 

 

 

 

 

―――――私も戦おう。刹那の、未来のために。

 

 

 

 

 そう心に刻み込み、再び引き金を引く――――!

 

 全力で風を切り、戦場へ向けて空を駆けるアイシス零式――――時間の都合から、4年前には造られなかった、キュリオスの変形をも取り入れた、全てのガンダムを併せ持つ存在――――本来のガンダムアイシスが放った粒子ビームが、戦場を切り裂く。

 

 

 

「―――――そこまでです……っ!」

 

 

 

 その声は、通信では流さない。

 その代わりに、たまたま作っていたジョークグッズ“ブシドーくん”の、その声を少々弄ったものが高らかに名乗りをあげた。

 

 

 

『―――――はじめましてだな、ガンダム…ッ!』

 

 

 

 …………ぁぅ。

 

 つくったときは楽しいと思いましたけど、これは、ぜったい、おそとで、つかうものじゃ、ない、です…っ!

 

 

 顔が一気に火照るけれど、たいじょうぶ。だれにもバレてないから。

 はずかしくない、はずかしくないです…っ。

 

 そう心のなかで何度も呟きながら、HAROとヴェーダの補助を受けつつ機体をお兄ちゃんのアヘッドに向けて突進させ、お兄ちゃんがアイシスに向けて叫ぶ。

 

 

 

『何者だっ!』

(お、お兄ちゃんノリが良すぎます―――)

 

 

 

 実のところお兄ちゃんは“知っている”のだけれど、この“ブシドーくん”のキャラからして何かしらの返答はしないといけない。……ぇ、えっと。こんなこともあろうかと!

 実はブシドーくんには傾向があって、ブシドーくんAIが好きなセリフならそんなに変えずに喋ってくれるのです―――!

 

 

 

「名乗るほどのものではありません…っ!」

『ならば! あえて言わせて貰おう―――――私が、ガンダムだッ!』

 

 

「―――――…ふぇっ?!」

 

 

 

 ………あ、あれ? あれぇ……っ? 今明らかに余計なこと言いましたよね!?

 

 あ、ひょっとしてブシドーくんに搭載してあるAIがお兄ちゃんとアレルヤさんの『その程度、ガンダムを名乗ろうなど――――』っていう会話を聞いていましたか……?

 なるほど、“ブシドーくん”なら高らかに名乗りを上げますよね。ええ……。

 

 す、すごいですっ、作者として……鼻が、高………ぁぅぅぅぅっ。

 

 

 し、視界がなぜだか滲んできました……っ。

 視線が、戦場の視線がすごく痛いような気がします……っ!

 

 

 で、でもっ! べ、べつにわざわざ追加装甲を脱ぐ必要なんて―――――。

 

 

 そう考えたその瞬間。

 何故か刹那の顔が脳裏をよぎる。そして、一言。

 

 

 

『――――貴様が、その機体が、ガンダムであるものか!』

 

 

 

 

 いや、これはきっと勘違いに違いない。

 けどもし、このまま何もしなかったらそんな未来が来てしまうような気がした。

 

 

 

 

 ………………ぐすっ。

 

 気が付くとアイシス零式はその装甲をパージしていて、背中のブースター以外はまっさらな、ナドレと同じような状態でアヘッドに斬りかかり、互いの剣が交錯して激しくスパークする。………もう、なるようになって…っ。

 

 

 

「……うぅぅ~っ! ガンダムアイシス零式……っ、目標…をっ、駆逐します……っ!」

『ガンダムアイシス零式、目標を駆逐する――――!』

 

 

 

 涙声は反映されなくて本当に良かった。そんなことを考えながら、激しい“剣舞”を踊るアイシスが、アヘッドが空を舞った。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

『――――私が、ガンダムだッ!』

 

 

 

 通信に響くその声とともにモビルスーツが装甲を脱ぎ捨て、ガンダムアイシスに変わるのを、セレネ・ヘイズ――――黒いアイシスを駆る少女は少々の困惑とともに見た。

 

 

 

「………誰、です?」

 

 

 オリジナルが生きているとは思わないけれど、白いアイシスはあまり見ていて気分がいいものではない。けど声的に男の人みたいだからどうでもいいのではないだろうか、と思う。生きていられると困るだけでオリジナルが嫌いなわけじゃないし、アイシスをヘンなのに乗られるのは少々イラッとするけれど、今は刹那がいる。

 

 どうやら刹那もようやく戦ってくれる気になったみたいで、激しく剣を交える度に、心が満たされていく感じがする。

 

 終始攻め続けたアイシスの剣でもダブルオーに傷をつけることはできず、それがたまらなく嬉しい。

 

 

 

――――――はじめて、“わたし”をみてくれたヒト。

 

 

 4年前のあの戦いで剣を交えた相手。

 “セレネ・ヘイズ”という“自分”を手に入れるために戦って、勝って。それでも何も得ることができなかったと気づいて絶望した私と戦ってくれた人。その時の言葉を、いつだって覚えている。

 

 

 

 

『生きる意味は、与えられるものではない…っ!』

 

 

 私を叱ってくれた。それは違うのだと、教えようとしてくれた。

 “私”を、みてくれた。

 

 

 

『お前のその歪み――――この俺が、断ち斬る!』

 

 

 

 

 感じたことのなかったものを感じた。

 あの時は分からなかったけれど、それからはずっと刹那のことを考えていた。目的を失っても、もう苦しくはなかった。

 

 

 そしてようやく、理解した。私は、うれしかったんだ。

 そう! だから今度こそ、誰にも邪魔なんてさせない。

 

 

 刹那がいれば、もう苦しくない。

 刹那のために生きる、歪んだ存在。きっとそれが、私だから。

 

 

 そして“わたし”を殺した、決して実らない恋だから。

 だからせめて、私は――――…っ。

 

 

 

 

 

 

 そして、唐突に飛来したリニアライフルの弾丸が、私と刹那の間を切り裂いた。

 

 

 

 

「………死にたいのです?」

 

 

 

 雑魚は消えて、と自分でも驚くほどに冷たい声が出た。

 

 GNウイングの砲門の一つを向け、刹那から目を離すことはせずに一斉射。

 たった9機の、反政府勢力のものであろう旧式モビルスーツ群。ユニオンリアルド、AEUヘリオン、AEUイナクトの混成部隊に、吸い込まれるように粒子ビームが―――――。

 

 

 

「――――なっ!?」

 

 

 命中、しなかった。

 ガンダムアイシスの構えた二丁のビームライフルと、ブースターの粒子砲が、冗談のように私の放ったビームと激突し、その機動を逸らす。恐らくは、向こうの方が対処が早かったために起こった現象だろうが、偶然にしてはできすぎている。

 

 

 そして一瞬、脳裏を走ったこの感覚は―――――。

 

 

 

「………う、そ…………そんなの、ありえない……」

 

 

 

 

 自分と全く同じ、脳量子波。

 それを持つ人物は、1人しかいないはず――――!

 

 

 

 反政府勢力の介入に水をさされ、どちらの勢力も撤退を始める。

 

 それに半ば反射的に従いながら、離れていってしまう刹那を追うこともできず、呆然と呟く。

 

 

 

「――――…生きて、いるの…? セレネ・ヘイズ……」

 

 

 

 

 

 




次回予告
coming soon...



*小難しいセレネの説明の要約。


「私には時間がないので、せめて刹那のためになにかしたいです…っ!」


イノベイターが全力で刹那たちに攻撃しないのは”計画”から抜け出せていないからだと判断。「舐めてるだけなんて、そんなナンセンスなことありえないのです…!」



*予想外に恥辱なブシドーくん翻訳機


(だ、だいじょうぶ…っ、私だってバレてないからはずかしくないです…っ!)


注:ほぼ全員にバレてます。





せつめい、むり。
バトルか、ギャグか、にちじょう、かきたい。わたし。



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