それでは幼稚園の案内を……と思っていた主人公だったが、金剛はある事を妹たちに告げるのであった。
そして更にはビスマルクもが暴走しだして……
感動の再会? を玄関前で済ませた金剛4姉妹と、五月雨、ビスマルクを連れて、幼稚園の中を案内する事にした。愛宕は俺が抜けている間、他の子供達を見なければいけないという事で別行動となったのだが、その話を聞いた途端に全員が安心した表情を浮かべたのを俺は見逃さなかった。
「それじゃあ、中にお入りください」
俺はそう言って、玄関の扉を開ける。玄関ロビーにある下駄箱からスリッパを取り出して、みんなの前に綺麗に並べた。
「あら、ありがとう」
笑みを浮かべて礼を言うビスマルク。冗談を言わない時は全くもって問題無いのだけれど――って、これだと元帥と一緒じゃないかなぁ。
そんな事を考えていると、スリッパを履いている子供達が小さな声で話しているのが聞こえてきた。
「ところで、金剛お姉さまはこちらの幼稚園でどういった事をされているのですか?」
「私は他のお友達と一緒に勉強をしたり、運動をしたり、毎日楽しく過ごしていますネー」
「ちっちゃい金剛お姉さまが……ちっちゃい机に向かって勉強を……萌えます……」
「やはり、ボール遊びなんかをされるのでしょうか……萌えます……」
「な、なんだか比叡と霧島の目がちょっとだけ怖いネー……」
「「気のせいですよ?」」
「そ、そうなのデスカー……?」
比叡と霧島の返事に少し不安げな表情を浮かべた金剛だったが、それ以上に3人に会えた事が嬉しかったのか、すぐに笑顔を浮かべて口を開いた。
「佐世保とここでは色々と勝手が違うでしょうケレド、分からない事があったら気軽に私に聞いてくださいネー」
「「「ありがとうございますっ、金剛お姉さまっ!」」」
3人は一斉に金剛に頭を下げて、大きな声で返事をしていた。微笑ましい姉妹愛の会話を聞いた俺は少し嬉しくなって、顔をほころばせる。
「Oh、そう言えばひとつ言い忘れていた事がアリマース。ちゃんと聞いてくださいネー」
「なんでしょうか、金剛お姉さま?」
すぐに返事をした榛名と、コクリと頷いた比叡と霧島が金剛の声に耳を傾ける。
「先生に手を出すのはダメですからネー」
「「「「「え……?」」」」」
比叡が、榛名が、霧島が、俺が、そしてなぜかビスマルクまでもが驚きの声を上げる。
「この間の争奪戦では負けちゃいましたケド、先生は私の未来のハズバンドになる予定ですからネー」
「「「「「「………………」」」」」」
その言葉に完全に固まってしまった俺は、大きな目を金剛に向けたまま、その場に立ち尽くした。さっき声を上げた4人も同じようにしていたが、今度は更に五月雨までもが驚き、真っ赤になって金剛と俺の顔を交互に見る。
「そ、そそっ、それってつまり……金剛ちゃんと先生はラブラブってことですかっ!?」
「その通りデース!」
「「「「「な、なんだってーーーっ!?」」」」」
慌てふためく比叡、榛名、霧島、ビスマルク、五月雨の5人は絶叫にも似た大きな声を玄関に響かせる。
「あー、いやいや、ちょっと待ってください。今のは金剛の間違った思い込みで……」
「ひ、酷いデース! 今まであれだけ抱き合ってキタのに、まさか私に飽きたって言うのデスカー!?」
「人聞きの悪い事を言うんじゃないっ! そもそも抱き合うって言うよりも、金剛が勝手にタックルをかましてくるから受け止めてやってるだけじゃないかっ!」
「アレは愛情表現デース!」
「過度にも程があるんだよっ! どれだけダメージを負っているのか分かってるのかっ!?」
「す、凄いです……これが夫婦喧嘩なんですねっ!」
「ちょっ、それは完全に五月雨の勘違いだっ!」
「ま、まさか先生がロリコンだったとは……それで私にはときめかなかったという訳ね……」
ガックリと肩を落としたビスマルクは苦悶の表情を浮かべていた――って、なんでそうなるんだっ!?
「という事ですカラ、間違っても先生に手を出すのはノーなんだからネー!」
「勝手に話を終わらせるんじゃないっ!」
「そ、そうですよ金剛お姉さまっ! 榛名は納得ができませんっ!」
「もちろん比叡も納得できません! いったいどういう事なんですかっ!」
「霧島も同意見ですが……なぜ金剛姉様は先生がお好きなでしょうか?」
眼鏡の縁をクイッと上げて霧島が金剛に問う。
「それはもちろん、抱き着きがいがあって、とても優しくて、誰の事も分け隔てなく見てくれるからデース!」
右手を妹達に突き出すように向けて、笑みを浮かべながら今後はキッパリと言い放った。
「なるほど……分かりました。比叡姉様、榛名、ちょっとこちらに……」
小さくため息を吐いた霧島は2人を呼び、輪になってコソコソと話し始めた。何を喋っているのか気になってくるが、近づこうとすると比叡が威嚇するように怒った顔を向けてきたので、仕方なく後ずさる。その雰囲気が、まるで小さな犬に吠えられたような感じに思えてしまい、俺は苦笑を浮かべて金剛の方へと視線を向けた。
「HEY! 先生ー、こういう事は先にちゃんと言っておかないとダメですヨネー!」
「いや、まず情報は正確に伝えないと意味が無いんだけどな……」
「それじゃあ先生は、私の事が嫌いだって言うのデスカー?」
「そ、そうとは言わないけどさぁ……」
さっき自分で分け隔てなくって言ってたはずなのに……と思いながら、俺は大きくため息を吐く。争奪戦に参加したのだから金剛の気持ちは分かっているつもりだけれど、さっきの説明では完全にロリコン先生のレッテルを貼られてしまうじゃないか……
「先生、ちょっと良いかしら?」
「え、あ……はい。なんでしょうか?」
声をかけられたので振り向くと、不機嫌そうな表情で俺を見つめていたビスマルクが口を開いた。
「金剛ちゃんの言ってる事……どこまでが本当なのかしら?」
「どこまで……と言われても何ですけど、俺は子供達を差別する事なく接しているつもりです。そりゃあ、少々過度にアタックしてくる子もいますけど、俺は先生として節度を持って触れ合ってますし、間違いなんて起こした事はありません」
ビスマルクの目をしっかりと見ながら、俺はハッキリと言い放つ。
「なるほど……分かったわ」
言って、ビスマルクは微笑を浮かべながら目を閉じた。
どうやら俺の真意をしっかりと汲み取ってくれたみたいである。これで少しは安心だと思ったのだけれど……
「やっぱりその目……ゾクゾクするモノがあるわね……」
ニヤリと不適な笑みを浮かべるビスマルクを見て、俺は心の中で思いっきり叫び声を上げた。
海底でも地上でも貞操の危機かよっ!?
「私達3人は金剛姉様の言葉に従います」
輪が解けた途端に霧島が言った言葉がこれだった。比叡と榛名も不機嫌そうな表情から一転して笑みへと変わり、コクコクと何度も頷きながら金剛の顔を見つめていた。
「分かってくれればOKデスネー! 分かってくれて嬉しいデース!」
「結局俺の話は誰一人として聞いてくれなかった感じなんだけど……」
ガックリと肩を落として呟く。すると急に服の袖が引っ張られる感じがして振り返ると、五月雨が俺を見上げていた。
「わ、私はちゃんと分かってますから……」
「そう言ってくれるのは五月雨だけだよ……ありがとな……」
「つまり先生はロリコンで金剛ちゃんとラブラブなんですよねっ!」
「だから違うって言ってるのにっ!」
「あ、あれ……違ったのですか……?」
「俺は先生だから子供達に手を出したりしないのっ! 金剛がいっつも俺にタックルをかましてきたりするけど、怪我をしないように受け止めてるだけで、やましいことは何一つしてないんだっ!」
「そうだったんですか……という事は、先生はとても優しい方なんですねっ」
「え、あ……う、うん……ありがと……」
満面の笑みを浮かべてそう言った五月雨に、俺は少し戸惑いながら礼を言った。そういう風に理解してくれると非常に助かるのだけれど、なぜか五月雨の笑みが神々しく見えてしまって、その顔を直視することができない。
べ、別にやましいことは考えてないんだけどなぁ。
ほ、本当だよ。愛宕のおっぱいに誓って言い切れるよ。
………………
あ、もしかしてこの考えがダメだったりするのか……?
「今、私のセンサーにビビッと何かを感じたのだけれど……」
「それは気のせいです」
キッパリとそう言った俺だけれど、内心ドキドキだったりする。
だけどそれ以上に気になるのは、まずビスマルクのセンサーって何だ。電探か何かなのか? そして、何で俺の心を読めたりするんだよ。どれだけ高性能なんだよ……って、よく考えたらヲ級も似たような事をやってくるよなぁ。
もしかして、単純に俺の顔に出ちゃってるのか? それなら気をつけなきゃいけないんだけれど、そもそもそんな簡単に読み取られるほど表情豊かじゃないと自覚しているのだが。
「先生ー、今さっきエロい事を考えてませんデシタ?」
読まれてたーっ! もの凄く顔に出ちゃってたーっ!?
「やっぱり金剛ちゃんも気づいたの?」
「もちろんデース! 先生の事ならなんでもお見通しなんだからネー!」
「あら、それは将来有望ね。それじゃあ、今から色々と特訓してあげようかしら」
「それは助かりマース!」
いや、頼むからマジやめてください。
さっきみたいな不適な笑みを金剛が浮かべてたら、俺の心が耐えられそうにないですからっ!
「と、とにかく、幼稚園の中を案内しますので、俺について来てください!」
話を切り上げてうやむやにしようと、俺は早足で廊下を歩く事にしたのだが……
「ロリコン先生なんかについて行きたくありませんね」
蔑んだ目でそう言ったのは、腕を組みながら仁王立ちした比叡だった。
「な……っ!?」
さすがにその言い方は無いだろうと思ったが、同じように榛名と霧島も睨みつけるように俺を見ていたので、思わず後退りしてしまう。
「金剛お姉様のお願いはちゃんと聞きますけど、榛名も比叡お姉様と同じ意見です」
「そういう事です先生。私達3人は、先生の事を認めるわけにはいきませんから」
「な、なんで……」
そうは言ったものの、先ほどの話をまとめて考えれば俺の印象は最悪だろう。やっと会う事ができた姉に自分達よりも好意を向けている相手がいて、その相手がロリコンであると知ればその気持ちも分からなくもない。そのロリコンというのが完全に誤解であるのだが、すでに聞き耳持たずの3人に納得させる方法は浮かんでこず、俺は途方に暮れるように立ち尽くしていた。
「比叡、榛名、霧島ッ!」
「「「……っ!?」」」
急に響き渡った金剛の大きな声に驚いた3人は、ビクリと身体を震わせる。
「こ、金剛お姉様……?」
見れば、金剛が怒った顔で3人を睨んでいた。
「先生に手を出さないでとは言いましたケド、虐めて良いとも言ってませんDeath!」
ちょっ、語尾が恐過ぎるって!
「で、ですが、金剛お姉様に手を出そうとする悪の先生を見逃す訳には……」
比叡はそう言って、俺の顔をチラッと見たのだけれど……悪って何だよ悪って。
なんだか特撮ヒーローにやられてしまいそうな役柄なんだけど、どちらかと言えば恐怖の進学校で素っ裸で戦う正義の味方に倒されそうだ。
想像したら悪くはないので、配役は愛宕でお願いします。おっぴろげジャンプで昇天したいです。
………………
あっ、この思考が元々の発端……?
「Shut up! 聞き分けのない妹達とはもう話したくないデース! 少し頭を冷やしてきてクダサーイ!」
「あっ、金剛お姉様っ!」
慌てて榛名が呼び止めるも、金剛は頭の上に蒸気が吹き出しそうな勢いで顔を真っ赤にさせて、ズンズンと通路の先へと歩いていった。
「ま、待ってください金剛お姉様ーっ!」
比叡が走り出し、榛名も後を追う。一人残された霧島は、キッと俺の顔を睨んでから3人の後を追いかけていった。
「………………」
早々からとんでもない状況になってしまったのだが、これはやっぱり後を追いかけないとダメだよなぁ。
「さて、そろそろ幼稚園の中を案内してもらえるかしら?」
「今の状況を見てそれを言っちゃいますっ!?」
「でも、後を追いかけて話そうとしても、あの子達は全く聞かないと思うわよ?」
「そ、それは……」
言葉に詰まった俺に向けて、五月雨もコクコクと頷きながら見上げていた。
まぁ、金剛の後を追っていったのだから迷う心配もないだろうし、暫く時間を置いた方が話し易いかもしれない。冷静になったところで話し合えば分かってくれるだろうから、まずは当初の目的通りにビスマルクを案内する事にしようと、歩き出した。
次回予告
金剛が怒り、後を追う妹たち。
しかし、しばらくは様子見の方が良いという事で、ビスマルクと五月雨を連れて幼稚園を案内する。
Q.ところで、これほどまでに情報が行き届いてなかったら、どうなるか分かるよね?
A.――もちろん。アイツが登場です。
艦娘幼稚園 ~佐世保から到着しました!~ その4「↑X↓BLYRA」
乞うご期待!
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