艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 佐世保から到着した子供達とビスマルク。
初っ端から元帥が倒れ、主人公一人で幼稚園まで案内する事になった。
そして、ついに金剛姉妹の感動の再会――となるはずが?


その2「全員、敬礼ッ!」

 

 俺はビスマルクと子供達を連れて埠頭を抜け、レンガ造りの建物の側を歩いていた。

 

「改めて聞きたいのだけれど、先生は今回の私たちがここに来た理由について何も知らないと言うのかしら?」

 

「いえ、子供達が幼稚園に編入する事は聞いています。ですが、それ以外は何も……」

 

「……そう。ある意味高雄らしいと言えばそうなのかもしれないけれど、このままじゃ話にならないわね」

 

 ビスマルクはそう言って、小さなため息を吐く。

 

 うーん、俺が悪い訳じゃないのだけれど、結果的にビスマルクの機嫌が悪くなっているのはあまりよろしくないなぁ。

 

 なぜ高雄は俺に詳しい事を言ってくれなかったのだろう。ビスマルクが言うように、間接的な嫌がらせをする為だったのなら、俺は噛ませ犬という立場になってしまうのだけれど。

 

「まず、子供達が艦娘幼稚園に編入するというのは正解よ。だけどその話には続きがあって、まず1つ目に、子供達の中で純粋に子供として見つかったのは榛名だけ。他の比叡、霧島、五月雨については、元は正常な艦娘だったの」

 

「……はい?」

 

 いや、ビスマルクが言っている事がよく分からない。

 

 元は正常という事は、急に子供に縮こまったとでも言いたいのだろうか?

 

「先生の目は完全に疑っている……と言う風に見えるのだけど、その表情が歪む事を考えると……ドキドキするわね」

 

 言って、何故か頬を赤らめるビスマルク……ってなんでやねん。

 

 いったい俺のどこに頬染めポイントがあったのだろう。それに言葉の後半部分がとてつもなくやばい感じにしか思えないし、もしかして高雄に対する鬱憤が俺に向かってきているんじゃないのかっ!?

 

「話は戻るけど、さっき言った3人は、本当に元は私と同じ普通の艦娘の姿をしていたわ。だけど、佐世保鎮守府が深海棲艦の攻撃にあった際、瀕死の重傷を負ってしまって緊急の治療を行ったの。その結果、轟沈は免れたのだけれど……」

 

「まさか、榛名と一緒の小さい身体になるとは思わなかったわねー」

 

「ええ、その通りです。まさか霧島までもが子供になってしまうとは……明石さんの技術は色々な意味で恐ろしいですね」

 

 ビスマルクの言葉に続けるように、後ろを歩いていた比叡と霧島が口を挟んできた。

 

「え……えっと、今の話は本当に……?」

 

 俺はそう言いながら後ろを振り返って比叡と霧島、そして五月雨の姿を見てみるが、どこからどう見ても幼稚園にいる子供達となんら変わっているようには思えない。

 

「そんな嘘を言ったところで、私達に得する事は無いと思うのだけれど?」

 

 しかし、ビスマルクにキッパリとそう言われてしまっては、何も言い返す事ができなかった。

 

「あれ……という事は、別に榛名以外の3人は幼稚園に編入する必要が無いと思うんですけど。艦娘幼稚園は、小さな子供達に艦娘として部隊に入る前に様々な経験を積ませる事によって、様々な効果を試す試験的な施設なのですから、あまり意味が無いような……」

 

「ええ、確かに3人に幼稚園の施設で学ぶことは少ないかもしれないわね。でも、同じ子供の姿でありながら経験を積んでいる子が編入する事は、そちらにとって利点があると思うのだけれど?」

 

「なるほど……そういう事でしたか」

 

 つまり、今の幼稚園の中に新たな存在――艦娘としての経験がある3人を編入させる事によって、他の子供達の刺激にしようという考えなのだろう。その効果がどういった風になるかは分からないけれど、試してみる価値はあるという判断で、今回の編入が決まったのかもしれない。しかしそうであれば、何故俺に詳しく説明が無かったのだろうと気になってしまうのだが……

 

「それに、彼女たちの姉である金剛がここに居るという事が大きいわ。通常の姿の時の比叡や霧島も、こちらに行きたいと転属願いを出していたのよ」

 

「ええ、ビスマルクの言う通り、比叡は……いえ、私達はできるだけ早く金剛お姉様に会いたかったの」

 

「榛名も同じ気持ちですっ!」

 

 生き生きとした声をあげた比叡と榛名、そして笑みを浮かべた霧島がコクリと頷きながら俺の顔を見上げていた。

 

「あ、あの……私は佐世保で一人残るという訳にもいかなかったですから……え、えへへ……」

 

 そんな3人の後ろで申し訳なさそうに言った五月雨は、苦笑を浮かべながら頬を指で掻いていた。

 

「なるほど……事情は分かりました。ですが、それだけでは無い……ですよね?」

 

「へぇ……勘が鋭いのね、先生って」

 

 そしてまたもや頬を赤らめたビスマルク――って、マジで何だろうこの気持ち。

 

 俺はまだ愛宕の事を諦めた訳ではないのだけれど、それとは違ってなぜか嫌な予感がしてしまうのは、何かしらの経験が関係していると思うのだが。

 

「いや、だってさっき、1つ目って言ってましたからね」

 

「あら、そうだったかしら。でも、それを聞き逃していなかった先生も流石よ?」

 

「そ、そこまで褒められると……嫌な気はしないですが……」

 

「素直に褒められるのは嫌いなのかしら? もしかして、先生ってマゾとか……それならやっぱり……」

 

「いやいやいや、そんな事は絶対にありませんからっ!」

 

 そのネタは色々と気まずくなったり嫌な思い出が蘇ってくるから、避けていただきたいですっ!

 

 それにやっぱりってなんですかっ!?

 

「そう、それは残念だわ」

 

 言って、本当に残念そうな表情を浮かべたビスマルクだった。

 

 いったい何が残念なんだよっ! さっきから会話の所々で怖い発言があるんだけれど、真性のSだったりするのっ!?

 

 ――って、それだったら俺、狙われちゃったりするんですかーーーっ!?

 

 そして思い出すこの気持ち……これはまさか、海底でなんども襲われかけたあの忌まわしい記憶が……っ!

 

「本当に……残念……」

 

 ペロリと舌なめずりをして頬を赤く染め、俺を見つめるビスマルクの瞳が……ル級に見えてきたんですけどっ!

 

「じょ、冗談は止してくださいよっ! ほ、ほら、早いところ幼稚園に急ぎましょう!」

 

 俺は貞操の危機かもしれないという思いで、足を早めて幼稚園へと向かう。

 

 お願いだから思い違いでありますようにと心で念じながら、建物の角を曲がったのだった。

 

 

 

 

 

「ところで先生、さっきの話はまだ終わってないわよ?」

 

 背中越しに聞こえてくるビスマルクの声に、俺は背筋が凍りつくような感覚に陥りそうになった。しかしここで黙ったままだと機嫌を損ねかねないので、俺は仕方なく歩きながら半身を振り向かせて返事をする。

 

「え、えっと……冗談話はもう勘弁して欲しいのですが……」

 

「そっちの話じゃないわ。私がここに来た理由についての事よ」

 

「あ、あぁ……その話ですね。榛名を除く3人が元は普通の艦娘だった……って話でしたけど、それ以外にまだあるんでしたよね?」

 

「そうよ。私がここに来たもう一つの理由は、佐世保にここと同じような幼稚園を作ろうかどうかを考えているからよ。突発だったとはいえ子供化してしまうという現象が起こった以上、これからもそうなる艦娘が出てくる可能性があるわ。そして、榛名以外の子供が佐世保近くで発見された場合、こちらまでの輸送の心配も無くなるわよね」

 

「確かに、その通りですね」

 

 深海棲艦に襲われて海底に沈んじゃった人がここに居ますからね――とはさすがに言えないけれど、海路が未だ安定しない以上、毎回護衛をつけての航海は色々とお金がかかってしまう。幼稚園の施設を作るコストも安くは無いだろうが、一度作ってしまえば後は運営費だけで大丈夫だろうから、長い目で見ればそちらの方が良いのだろう。

 

 そんな会話をしているうちにいくつかの角を曲がった俺達は、幼稚園の建物がすぐそこに見えるまでの距離にたどり着いた。

 

「あそこに見えるのが幼稚園の建物です」

 

 俺はそう言って、幼稚園の建物を指差す。

 

「遂に……金剛お姉さまにお会いできるのですね……」

 

「まだ終業時間になってないからね。たぶん中で他の子供達と一緒に居るんじゃないかな」

 

 榛名に振り向いてそう言った俺は、再び幼稚園の方へと視線を向ける。すると玄関の前に2人の人影が見え、こちらに向かって大きく手を振っていた。

 

「……っ、も、もしやっ!」

 

 榛名はそう言って急に走り出した。続いて比叡と霧島も後を追って走り出す。そんな様子を見てから、俺はビスマルクの顔を窺ってみる。すると、優しげな笑みを浮かべて頷いたので、小走りで後を追いかける事にした。

 

「お姉さまっ! 金剛お姉さまっ!」

 

 榛名は大きな声で叫びながら、幼稚園の前に立っている人影に向かって走り、その勢いのまま抱きついた。

 

「ハーイ、榛名! やっと会えたデスネー!」

 

「榛名は……榛名は金剛お姉さまに会う事ができて、とても嬉しいですっ!」

 

 満面の笑顔を浮かべる金剛の胸に顔を埋めて嬉し泣きをしていた榛名は、何度も金剛の名前を呼んでいた。

 

「あらあら、榛名ったらあんなになってしまって……ねぇ、比叡姉さ……ま……?」

 

 そう言って、追いついた霧島が比叡に話しかけたのだが、

 

「な、何をしているのですか……比叡姉さま?」

 

 なぜか金剛と榛名から少し離れた位置で立ち止まった比叡は、その場でしゃがみ込んで片膝をつき、両手の平を地面につける。

 

 それはまるで――陸上選手の短距離走で行う、クラウチングスタートのように見え、

 

「金剛お姉さまーーーっ!」

 

 榛名以上のテンションで叫び、2人に向かって駆け出した。

 

「ちょっ、今の状態でそれはやばいだろっ!」

 

 金剛は榛名の身体を抱き締めながら比叡の声に気づき、顔を前に向けた。しかしすでに間隔は殆どなく、両手を広げて抱きつこうとする比叡の身体が宙に舞う。このままだと比叡は確実に、榛名の背中か金剛の顔面に体当たりしてしまう事になる。子供とはいえ、戦艦級である金剛のタックルを何度も食らっている俺は、その強さを痛いほど良く知っているのだ。

 

「さ、避けるんだっ、金剛、榛名っ!」

 

 大きな声で叫んだ瞬間、全てがスローモーションのように見えた。このままでは危ない。確実に怪我をしてしまう。急いで3人の元へと向かおうと地面を思いっきり蹴るが、とてもじゃないが間に合いそうに無い。

 

「く……っ!」

 

 俺はもうダメだと思いながらも腕を伸ばす。しかしどう足掻いても届かない距離に、歯を食いしばった瞬間だった。

 

 パシン……ッ

 

「……え?」

 

 呆気にとられた声を上げた俺は、目の前で起こった状況に全く理解できずに固まってしまった。

 

「あらあら~。いきなり飛びかかっちゃ危ないですよ~」

 

 いつもと変わらない優しい声が俺の耳に入る。

 

 金剛と一緒に手を振っていた愛宕が、どうやったのかは全く分からないのだけれど、比叡の足首を右手で掴んで逆さ吊りにしていた。

 

 そしてその右手を高く上げた愛宕は、自分の顔と逆さになった比叡の顔が同じ高さになるところで止めて、ニッコリと笑みを向ける。

 

「おいたをしちゃ、ダメですよ~?」

 

「ひっ!?」

 

 声も笑顔もいつもと同じ。だけど、閉じた目と背中の辺りから、明らかにソレとは違うオーラのようなモノが感じられた。

 

「分かりましたか~、比叡ちゃ~ん?」

 

「わ、わわわわわっ、分かりましたっ!」

 

「それじゃあ、ゆっくり感動の再会をしてくださいね~」

 

 言って、愛宕は比叡の身体を両手を使ってクルリと回転させ、両足を地面へ着地させた。

 

 ………………

 

 怖ぇぇぇぇぇっ! 愛宕マジ怖ぇぇぇっ!

 

 完全に今のは脅しじゃないかっ!? 比叡ってちょっと前まで普通の艦娘だったのに、今ので完全に委縮しちゃってるぞっ!

 

 さすがは第一艦隊の裏番長と呼ばれた事のある愛宕……その通り名は伊達じゃないぜ……

 

「先生、お帰りなさい~」

 

「あ、ただいま帰りましたっ!」

 

 俺は叫ぶようにそう言って、愛宕に向かって反射的に敬礼をしていた。

 

「あらあら~、いったいどうしたんですか先生~?」

 

「あ、いや……すみません。なぜか分からないんですが、咄嗟に身体が敬礼を……」

 

「そんな事があるんですかねぇ~」

 

 ――と、不思議そうな表情で呟いていた愛宕だったけれど、金剛も、榛名も、霧島も、五月雨も、そしてビスマルクまでもが、顔を引きつらせて敬礼をしていたのは紛れもない事実だった。

 

 ちなみに、比叡はその場でガタガタと震えて動けなかったみたいだけどね。

 




次回予告

 愛宕の機転? で事なきを得、感動の再会? を終えた金剛姉妹。
それでは幼稚園の案内を……と思っていた主人公だったが、金剛はある事を妹たちに告げるのであった。
 そして更にはビスマルクもが暴走しだして……

艦娘幼稚園 ~佐世保から到着しました!~ その3「暴走+喧嘩=白い目」


 乞うご期待!

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