しかし、ここで諦める訳にもいかない。頑張らなければならないのだ。
自らを守るために、そして愛宕のご褒美をもらう為にっ!
参加者が準備する為に集まっていた遊戯室にて、すでに戦いは始まっていた……
それから参加者である俺や子供達が待機していたのは遊戯室の中だった。参加しない子供達と愛宕はバトルの準備をするということで広場に出て行ったのだが、午前中の授業などは全てキャンセルになったことを時雨から聞き、改めて驚いてしまった。
どんなに大事なんだよバトルって……と言いたいところだが、賞品として俺自信が関わっている以上、弱音を吐く訳にもいかないし、愛宕のご褒美を絶対にゲットしたいので、全力を尽くすためにも最大限の準備をしておきたかった。
ついでに時雨が教えてくれたのだが、この遊戯室にあるモノはどれを使っても良いことになっているらしい。子供達が使用する専用の艦装もこの部屋に置かれていたし、それ以外にも使えそうなモノがいくつか目に付いた。多分、愛宕が前日のうちに用意しておいてくれたのだろうけれど、これほどの準備を短時間で済ませるとは、やっぱり愛宕は侮れない……と、つくづく感じさせられた。
さすがは俺が先生として配属されるまで、1人で幼稚園を切り盛りしていただけのことはある。さすがは愛宕先生。そこに痺れる憧れる――だ。
「ところで先生は、何か良いモノでも見つかったのかな?」
唐突に時雨が俺に話しかけてきた。――が、これは明らかに敵情視察であり、そう簡単に手の内を晒してしまう訳にはいかない。
「さぁ、どうだろうな。時雨は艦装があるだろうから大丈夫だろうけれど、俺にはそんな装備はないから、かなり厳しいと思うぞ」
「へぇ……そう言う割りには、表情は諦めて無いようだけど?」
「そりゃあ、やる前から諦めてたらそこで試合終了だからな」
「どこかで聞いた言葉だけど……まぁいいかな。さすがに簡単には喋ってもらえそうにないから、僕はそろそろ集中するためにあっちに行くね」
そう言って、時雨はニッコリと微笑んだまま俺から離れて行った。
ふぅ……やはり時雨は俺の手の内を探りにきていたみたいだな。さすがは幼稚園の名探偵。やることが抜目ない。
俺は他の子供達にもばれないように、手に取ったあるものをポケットの中に忍ばせておいた。これが使える状況が来るかどうかは分からないが、備えあれば憂いなし。仮に使わなくとも、ポケットの中で仕舞えるサイズだから邪魔にもなりにくいしな。
それよりも問題は、ペイントボールの補給方法だった。ここに来る前にいきなり愛宕から聞いたのだけれど、補給する手段はフィールド内にある補給ポイントにペイントボールとペイント弾を設置すると言うのだが、それは余りに問題だろうと、俺は危惧して考えを巡らせている途中なのだ。
補給ポイントに行かなければペイントボールを補給できないということは、逆に言えばそこが一番参加者が集まるポイントということになる。しかも、そこに行くということは、手持ちが少ないと言うことを自ら公言しているのだ。
つまり、絶好の待ち伏せポイントになるのは明白であり、そうそう簡単に補給はさせてもらえないということになるだろう。
それならば、取れる方法は1つ。できる限りのペイントボールを初めから持つのが大事であり、それが出来るアイテム……つまり、鞄のようなモノを手に入れるのが先決である。
もちろん、今までにバトルを経験している子供達は我先にと手に入れていたみたいで、既に身体に装着していた。
天龍や時雨、雷に電は腰に巻き付けたウエストポーチにペイントボールを入れていた。ヲ級は何も持たずといった感じに見えるが、あいつのことだから油断は禁物である。しかし、それ以上に問題だと思えるのは……
「フッフッフッ……真っ先に手に入れたこの大きなバッグ! これで私の勝利は間違いないデース!」
かなり大きな肩下げ鞄を持った金剛は、中に大量のペイントボールを詰め込んでいた。
そんなに入れたら、動きが制限されるんじゃないのだろうかと思っていたのだが、金剛は鞄のチャックを閉めた後、全く気にすることなくひょいっと持ち上げた。
鞄の中に50個以上入れてた気がするんだけど、マジかよ……
子供であっても艦娘。しかも戦艦クラスとなればその力も強いのだろう。実際にバーニングミキサーを喰らった経験を何度もしている俺にとっては、納得出来なくはない事実である。
これで、金剛の弾切れの線は薄くなった。他の子供達も何かしらの方法で複数のペイント弾を持っているだろうから、待ち伏せで倒そうとするのは難しいかもしれない。
しかし、そうだからと言って諦める必要はない。弾数が多ければ多いほど有利であるのは間違いないと思うけど、相手に当たらなければ意味が無いのだ。
とは言え、弾数に余裕があれば精神的に安心できるのもまた事実である。俺は余っていたウエストポーチを2つ取って、中身を満タンにしてから腰の両側に装着した。
全員を相手にするには心許ないが、無いよりは全然マシである。それに、艦装を持たない俺としては、基本的にボールを投げる方法しか持ち得ていない訳だしね。
ちなみに、参加者別にペイント液は色分けされている。どうやら自分のペイント液が付着しても、リタイアにはならないらしい。
もしそうじゃなかったら、金剛を倒すのが簡単になったと思うんだけどなぁ。
細い道なんかに罠をしかけて、転んだ拍子に鞄にダイブ。見事自滅でリタイアッ! なんて方法も考えたんだけどね。
そんな棚から牡丹餅な短絡的思考を振り払うように頭を振り、頬を叩いて気合いを入れる。
さて、これで準備は整った。
後は昼寝の時間の後、バトル開始を待つだけだ。
集中力を高め、最高のコンディションで迎えれば良い。
負けは許されない。負ければ大事なモノを失ってしまう恐れがある。
そして、勝利すれば愛宕からのご褒美が。何が何でも勝たなければならない。
その為にも、俺は失敗をする訳にはいかないのだ。
………………
……あれ?
そこで俺はふと気づく。
バトルを前にして、子供達はスヤスヤと眠れるのだろうか?
昼食を食べた後だから、おのずと眠気は襲ってくるとは思うのだけれど、バトルを前にすれば緊張したり興奮して、いつものように昼寝なんか出来るとは思えないのだけれど……
「すー……すー……」
「むにゃ……うーん……」
「ZZZ……」
普段と同じようにグッスリ眠る子供達を見て、もしかすると俺だけが緊張してるんじゃないのかなぁと不安になってしまったのはここだけの話である。
もちろん、今の俺は先生として寝相の悪い子供の掛け布団を直していたりする。
子供達の余りの図太さに、呆れてため息が出てしまいそうになるのだが、逆に言えはちょっと安心したりもする。
いつもと変わらない風景に、地上に戻って来たという実感が俺の心に沸いてくる。
その嬉しさを噛み締めながら、俺はギュッと拳を握って胸に当てる。
ただいま。
――そして、
みんなの心臓には毛が生えてたりするんじゃないよね?
次回予告
さぁ、バトルの始まりだ!
だけど、まずはやる事がある……そう、入場シーンが必要だよねっ!
誰がやるかだって? そんなの決まっているじゃないか!
誰もが認めるトラブルメイカー……あの艦娘が登場だっ!
そして、戦いの火蓋が切って落とされる……
艦娘幼稚園 ~第一回先生争奪戦!~ その5「口は災いの元」
乞うご期待!
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