続きまして、新章突入ですっ。
テコ入れみたいなバトルが開始っ!?
主人公の所有権? を得るために子供たちでバトルが開催されることになった。
喜ぶ子供たちに驚く主人公。
さすがにこれはやり過ぎだと焦った主人公は愛宕に問い詰めるが、まさかの提案に更に驚く事になった。
その1「賞品、俺、絶対」
「それでは明日のお昼寝が終わった後、広場にてバトルを開催します~」
愛宕の声に盛り上がった子供達の歓声が室内に響き、その余りの大きさに俺は耳を両手で塞いでしまっていた。
「今回の賞品は、そこにいる先生です。参加したい子は、今から明日の朝礼が終了するまでの間に、私に言ってくださいね~」
「「「はーいっ!」」」
一斉に手を挙げて返事をする子供達に、俺の心は既に重傷を負っていた。ヲ級がいらないことを言い出してから、俺のことが好きだと言ってくれた子供達。正直凄く嬉しかったのだけれど、続けざまに何人もの子から告白と変わらない言葉を受け、更にヲ級が火に油を注ぐが如く過熱させ、一触即発の雰囲気の中、愛宕が事態の収拾をつけるために言い出したのは分からなくもない。
だが、バトルの賞品が『俺』自身というのは、いささかやり過ぎではないかと思うのだ。例えば、頭を撫でてもらう権利とか……って、別に撫でて欲しいと言われれば撫でるけど、そのような簡単かつ子供達が喜ぶモノにしてくれたら良いと思うんだけど……
「フフフ……これで先生は俺の……っ!」
「あら~、天龍ちゃんったら鼻血が出てるわよ~?」
「なっ! フッ……俺としたことが、ちょっと興奮しすぎちまったぜ……」
鼻血を垂らしたまま壁に手を当てニヒルに決める幼稚園児。すぐに龍田がティッシュをポケットから取り出して、小さく折り畳んでから天龍の鼻に詰めていたけれど、その間全く身動きせずに、俺に向かってポーズを見せようとしているのは正直どうかと思うのだが……
「今回ばかりは負けられないね。でも、勝利するのが絶対ではないのかもしれないけれど……」
言って、時雨はブツブツと壁に向かって独り言を呟いていた。
さすがは幼稚園の頭脳と呼ばれる程の時雨なのだが、冷静で大人びた時雨がまさか俺のことを好きだと公言したのは本当に驚いた。時雨とは色々と話や相談事をしたけれど、今までそういった感じの話は一切出てこなかったし、予想すら出来なかった。
「こ、今度こそ、先生とチューをするのですっ!」
「雷も負けないわっ! 先生のチューを頂いちゃうんだからっ!」
こちらこちらで盛り上がっている電と雷。幼稚園どころか鎮守府内にまで広がり、根も葉も無い噂になってしまった間接キスの再現は、ハッキリ言って勘弁してもらいたいところなんだけれど、今回は間接ではなく直接と言ってるよなぁ……やっぱり。
「先生のシャツは充分満足できマスガ……今度は中身も一緒に楽しむデース!」
こっちはこっちでとんでもない事を言いまくっているんですけどねっ!
ついでに中身ってことは『俺=モノ』扱いなのっ!?
金剛が勝ったらいったいどんなことをされちゃうのかマジで怖いんですけどっ!
「クックックッ……コレデ誰モガ認メル夫婦ノ仲ニナルンダネ……オ兄チャン……」
それら全てを吹っ飛ばすレベルの発言をしているヲ級に、とりあえずゲンコツ辺りを頭頂部に飛ばしたい。
お前のせいでこんな状況になっちまったんだぞっ!
――と、大声で叫びたいところなんだけれど、これ程までに白熱している子供達のど真ん中で発言してしまえば、下手をすれば袋叩きにあってもおかしくはない。
いのちをだいじに。
いつものように、作戦はこれ一本である。
「それでは、朝礼の時間はとっくに終わってしまっていますけど、いつものように元気で頑張りましょうね~」
「「「はーいっ!」」」
最後をまとめるように愛宕が子供達に向かって声をかけ、朝礼は終了となった。気合いを入れて部屋を出ていく子供達を眺めながら、俺はガックリと肩を落とす。
明日の昼のバトルの結果によっては、俺の色んなモノが危うくなる。どうにかしなければ、笑い事では済まされない事態になってしまう可能性があるのだ。
額に汗をかきながら、ふとあることに気がついた。
「あれ、ヲ級はどこに行ったんだ?」
「ヲ級ちゃんでしたら、天龍ちゃんと一緒に出て行きましたよ~」
「……はい?」
ヲ級と天龍って、一触即発の会話をしていた同士じゃないかっ!
もしかして、今から校舎裏かトイレで個別のバトルでも始まっちゃうんじゃないのっ!?
「くっ、さすがに止めないとっ!」
入園早々に問題を起こすのは非常にまずい。そんなことになったら、せっかくの特例がおしゃかになってしまう。
「先生、どこに行くんですか~?」
「ヲ級と天龍を止めないとっ!」
言って、俺は部屋を出ようと扉の方へと走り出したのだが、
「どうしてですか? もの凄く仲良さそうにお話してましたけど……」
「……え?」
「肩を組み合って、親友みたいに歩いて行きましたよ~」
なんでそんな風になってるんだろ……
さっきは喧嘩寸前だったよねっ!? 殴り合った後に友達になるとか、そういう工程すらすっ飛ばしちゃってるよね!?
いやまぁ、仲が良くなるのはありがたいんだけどさぁ……
「えっと、それじゃあ……」
「はい。次の準備の為、一旦スタッフルームに行きましょう~」
ニッコリ微笑みながら指を立てた愛宕に諭されて、一緒に向かうことになった。
しかし、未だ俺の心は晴れぬまま。それどころかどんどん気分は辛くなっていく。
明日のバトルの結果次第では、一人寂しい逃避行を考えなければならないのかと、俺は重い足取りを引きずりながら部屋を後にした。
◆ ◆ ◆
「どういうことなんですかっ!?」
スタッフルームに入った瞬間、俺は愛宕の背中に向かって大きな声で叫ぶ。
「どういうこと……とはいったい?」
振り向きざまに不思議そうな顔で聞き返してくる愛宕なのだが、事の重大さを分かっていないと言うのだろうか?
勝利した子によっては、俺の……その、なんだ……貞操的なモノが危うくなってしまうし、もしそうなってしまったのなら、元帥がニッコリ笑って軍刀を振り回しまくってきてもおかしくない。この歳で死ぬ気は無いし、初めては愛宕が良いなぁ……とか思っていたりもするのだが、そんなことを口走れるはずもなく、俺は言葉を選びつつ口を開いた。
「なんで俺なんかを賞品にしてバトルを開催するなんてことを言ったんですかっ! そんなことをすれば、一部の子供達が白熱するのは予想できますし、それに……俺の身にもかなりの危険が降りかかるじゃないすかっ!」
「でも、あのまま放っておけば収拾がつかなかったでしょうし、取っ組み合いの喧嘩になる可能性だってありましたからね~。その場合はすぐに止めに入りますけど、目を離した隙に繰り返すことも考えられますから、あの手が一番の最善だと思ったんですよ~」
満面の笑みでそう答えた愛宕だが、良く考えて話を解釈すれば俺に人柱となって騒ぎを収めてこいと言っているようにしか思えない。そりゃあ確かに原因は俺にあるのだから、見て見ぬ振りは出来ないし、天龍とヲ級の言い争いの時には止めに入ったのだけれど、あそこまで人数が増えてしまっては俺のキャパは超えてしまっていた。愛宕が言うように、収拾をつけるにはあの方法が最善と言われればそうかもしれないけれど、俺の気持ちを考えてくれても良いんじゃないかと思ってしまう訳で……
「………………」
こうなったら、今この場で俺の気持ちを伝えるべきだろうか。
初めて会ったときから好きでした! 俺と付き合ってください!
大声で叫んで思いっきり頭を下げて右手を伸ばす。昔の番組で「ちょっと待ったーっ!」などと横槍が入ることも、この場ではまず無いだろう。
「それと、先生が危惧していることに対する対策もちゃんと考えていますよ~」
言って、愛宕は先程と同じように指を立てた。
その言葉によって告白の覚悟を決めようとしていた気持ちが見事に粉砕され、俺は仕方なく聞き返すことにする。
「え? そ、それって……どういう……?」
「参加するのが子供達だけなら、先生はどれらかの子に所有権が渡ってしまいますけど……」
いや、所有権とかマジ止めて。
すでに人として扱われてないことになっちゃいますからっ!
ちっちゃい子供に飼われる大人の図なんて、ぶっちゃけ誰も見たくないよっ!?
性別反転したらアリかもしんないって? その考え方も怖いわっ!
ついでに元帥が軍刀振り回して、俺のアレがちょん切られて性別を変えざるをえなかったって最悪なシナリオが浮かんじまったじゃねぇかっ!
全くもって誰得な話になっちゃうよっ!
ぜぇ……ぜぇ……
心の中のツッコミも、結構疲れるから止めときたいんだけどなぁ……と思っていた矢先、愛宕が続けて口を開く。
「それだったら、先生がバトルに参加して勝利すれば問題ないですよね~」
「……はい?」
いったい何を言ってるんですか?
子供達の中に混じって、バトルに参加する……?
それって、やっちゃって良いことなのっ!?
「いやいやいや、賞品が参加者になるとか普通ダメじゃないんですかっ!?」
「そんな決まりは一切発言してませんよ~?」
確かにそうですけど、普通一般的に考えて……って、人を賞品にする段階でもはや普通じゃないよね。
それに、自分で自分を賞品って言っちゃってるしっ! 慣れって怖いなぁっ!
「なので、先生が参加者に入ることは全くもって問題ないのですよ~。ただ、勝利できるかどうかは先生の腕に掛かってますけどね……」
ニッコリ笑う……ではなく、ほんの少し顔を曇らせた愛宕。何故ここで笑ってくれないのかと、かなり心配になってしまうのだけれど……
「大人と子供の差……と言いたいところですけど、確かに子供達の身体能力は高いですから、愛宕さんが危惧するのは分かります。でもここまできた以上、俺の立場は完全に追い詰められてますから、負ける気は全く無いですよ」
「そうですね~。先生に頑張ってもらわないと私も困りますし~」
え……っと、それはいったいどういう……?
もしかして、もしかしちゃったりするのかな……?
「だって、先生が子供達に手を出しちゃったりしたら完全な不祥事ですし、私の監督責任も問われちゃいますからね~」
「だったら勝手にバトルの賞品にしないでくださいよっ!」
「そう言えばそうでした~」
言って、愛宕はしたをペロッと出しながら、自分の頭をコツンと叩く素振りをしていた。
………………
ちくしょうぅぅぅっ! その仕草は可愛すぎるだろうぅぅぅっ! 反則過ぎて何も言えねぇぇぇぇぇっ!
惚れてまうやろぉぉぉぉぉっ! 既に手遅れですけどぉぉぉぉぉっ!
とまぁ、心の中で声が枯れるくらい叫びつづけてから、俺はもう一つの気になることを聞こうと口を開く。
「それと、バトルについて教えてもらいたいのですが。俺が先生になってから一度も行われてませんから、ルールも何も分かってないんですよ」
「あぁ、確かにそうですね。それじゃあ説明しますので、よく聞いてくださいね~」
愛宕は両手をポンッと叩いてから、バトルについて話し始めた。
次回予告
愛宕から聞かされるバトルの説明。
しかし、その内容に主人公は驚き、自分が不利でないかと焦りだす。
大丈夫だと愛宕が言って、持ち出してきた物は、とんでもないアイテムだった。
艦娘幼稚園 ~第一回先生争奪戦!~ その2「FPSなら基本装備」
乞うご期待!
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