艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 子供たちとの再会を喜びつつ、ヲ級のオーラに圧倒されていた主人公。
次のヲ級の紹介を、焦りながら見守る主人公だったのだが、まさかの行動に一同が絶叫するっ!?


その5「修・羅・場❤」

「はいは~い。感動の再開も良いんですが、もう一つ皆さんにお知らせがあります~」

 

 愛宕が子どもたちに声をかけ、注目させた。

 

「実は、幼稚園に新しいお友達が増えることになりました~。今日に1人、そして近いうちに4人がきてくれますよ~」

 

 その言葉を聞いて、喜んでいた子どもたちの顔が更に嬉しさでいっぱいになった。どんな子が来るのだろう。自分と関係のある子だろうか? 憶測と希望が入り乱れながら、ワイワイと盛り上がりまくっていた。

 

 そんな状況を見て、少し安心しつつも不安な気持ちが競り上がって来る。

 

 安心したのはヲ級を忘れきっていたのを愛宕がフォローしてくれたことなのだが、不安なのはもちろんヲ級という存在のことである。

 

 艦娘である子どもたちの中に、深海棲艦であるヲ級が入り込めるのか。海底で考えたことや、元帥との会話で大丈夫とは言ったものの、不安であることは変わりはない。ましてや、その中身が弟であるというのならば……更に不安になってしまうのだが……

 

 そうなったらなったで、俺がフォローするしかないんだけど。

 

 守ると決めたのは自分自身だから。

 

 身の危険は元より、もう手を離すのは懲り懲りなんだ。

 

「それでは、入ってきてください~」

 

 愛宕がそう呼びかけると、ゆっくりと扉が開いた。子どもたちの視線が集中する中、全く動じることなく部屋に入ってきたヲ級は歩き出し、そして俺の目の前に立って見上げながらニッコリと笑った。

 

 えっと……もしかしてこれは……スネを蹴られるパターンのやつですか……?

 

 動いた瞬間少しでもガードをしようと、足を上げる体勢を取っていた俺だったのだが、ヲ級は子どもたちの方を全く見ることなく、両手を広げて……

 

「オ兄チャン、ダーイスキッ!」

 

 ギュッと抱きしめられた。

 

「………………」

 

「「「………………」」」

 

 漂う沈黙。

 

 そして漂い出す真っ黒いオーラの数々。

 

「な、なななななっ、何すんだよヲ級!」

 

「何カ問題デモアルノ? オ兄チャン?」

 

 俺はヲ級を無理矢理引きはがしたのだが、頭を傾けながら『なぜ?』という表情を浮かべて再び抱きついてきた。

 

 明らかにこれは態とである。態とでしかありえない。

 

 だって、俺に抱きつき見上げるヲ級の顔は、完全に悪役面だったから。

 

 ………………

 

 明らかに確信犯じゃねえかっ!

 

「ど、どういうことデスカッ、先生っ!」

 

「な、何でいきなり抱きついてるんだよっ! 先生から離れろよっ!」

 

「それより、何で先生をお兄ちゃんって呼ぶっぽい?」

 

「はわわわわっ! 先生をギュッとしちゃってるのですっ!」

 

「あれはちょっと……羨ましいな……」

 

「い、いいっ、雷を差し置いて先生に抱きつくなんて……っ!」

 

「先生~、ちょっと後でトイレの方に来てくれるかしら~?」

 

 一斉に声を上げる子どもたちにうろたえまくった俺は、何とかもう一度ヲ級を引きはがして距離を置いた。しかし、すでに時は遅く……といった風に、子どもたちの表情は明らかに不満そうとは言えるレベルで無いくらいに悪化していた。

 

 だからいらないことを言うんじゃないって予め言っておいたのにっ! ヲ級の馬鹿っ!

 

 こんなのどうやったら収拾がつくんだよっ! あと、龍田の台詞だけ洒落になんないよっ!

 

 お願い助けて愛宕先生っ!

 

 ――と、愛宕の方に振り向く俺。

 

 だがしかし、無言のままこちらを見ていた愛宕の表情は、

 

 ニッコリと笑ったままなのに、悪鬼羅刹のようにしか見えなかった。

 

 

 

 

 

 ガタガタブルブル……

 

 部屋の片隅で命ごいをしながら震える俺の姿がそこにある。

 

 収拾をつけるどころか、全方向から攻撃を喰らった俺は1人四面楚歌状態に陥り、やむなくこうして心を閉ざしていたのである。

 

 とどのつまり、微かに残っていたかもしれない先生としての威厳は粉砕し、惨めな姿を晒すだけになったのだ。

 

 これも全てヲ級のせい……とは言い難いんだけど、余りにも酷い仕打ちに暫く立ち直れそうもなかった。

 

「せ、先生……ちょっと可哀相じゃない……かな……」

 

「少しやり過ぎた……かもしれないね……」

 

 潮と響が俺の方を見ながら呟く。嬉しいんだけど、反応したら他の子どもたちが怖いので、内申点のアップという形で返しておこう。

 

「ところで、本当のところお前はいったい先生の何なんだ?」

 

 天龍は面白くなさそうにヲ級に問い掛けた。その様子を、周りにいる子どもたちも息を飲んで見守っている。

 

「いや、その質問の前に……チョットだけ良いかな?」

 

「ん? なんだよ時雨」

 

「僕の思い違いだったら申し訳ないんだけれど、君ってもしかして……深海棲艦のヲ級……じゃないのかな?」

 

「……へ?」

 

 その問いに天龍が呆気ない声を上げる。

 

 肝心のヲ級は何も答えず、愛宕と俺の方をチラ見した後、ふぅ……と息を吐いた。

 

「深海棲艦に、ヲ級って……あの、お姉さんたちが戦っている……?」

 

 暁がビックリしながら声をかけるが、ヲ級はまだ何も喋らない。

 

「そう……だよね、ヲ級ちゃん?」

 

 時雨が再度問いかける。

 

 これはやばいんじゃないかと思って愛宕の顔を見たが、相変わらずのニコニコ顔である。

 

 頼みの綱は俺しかない。ヲ級を連れてきたのは俺なんだから、全ての責任は俺が取らなければならない。

 

 例え先ほど以上の集中攻撃を喰らおうとも、手を伸ばす弟の手を離さないためには、しっかりと握らなければならないのだから。

 

 ――そう思い、立ち上がろうとした時だった。

 

「ソウダヨ。僕ハ深海棲艦ノヲ級……」

 

 愛宕に頼り、躊躇したのが裏目に出たと焦った俺はヲ級の元に走り出す。

 

 何があっても守らなければ……俺から手を伸ばさなければ……

 

「ソシテ……先生ハ僕ノ大事ナ兄デアリ、許嫁ナンダヨ」

 

「そこまで言うんかいっ!」

 

 大声で叫びながらおもいっきりずっこける俺。顔面スライディングで絨毯をゾリゾリと擦り上げて、反対側の壁まで転がってしまった。

 

「「「………………」」」

 

 完全に固まる子どもたち。ただし表情はさっき以上に険悪になっていた。

 

「おい、ヲ級って言ったよな?」

 

「ソウダヨ。今ノ名前ハヲ級ダネ」

 

「どうして先生がお前の兄になって、許嫁になるんだよ? ハッキリ言って、意味分かんねーぞ?」

 

 ヲ級に向かってメンチビームを飛ばす不良のような天龍の視線に、遠目から見ていた俺が目を逸らしてしまいそうになる状況の中、ヲ級はフッ……と鼻で笑ってから口を開いた。

 

「無イ頭デ考エロ。下等生物ガ……」

 

 火に油注いだーーーーっ!?

 

 既に台詞がラスボス級だぞヲ級っ!

 

「ちょっとストップ! それ以上はマジで駄目っ!」

 

 素早く起き上がってヲ級と天龍の間には入り込み、両手でバツを作って2人に見せた。

 

 このまま放っておいたら、少年漫画みたいに殴り合いの喧嘩に発展しそうだったからねっ!

 

「じゃあ先生が説明してくれよ。いったいどういうことなんだ?」

 

 かなり不機嫌な顔で天龍は俺に問う。

 

「分かった。それじゃあ、俺が佐世保に向かうところから話をするから、よく聞いてくれ……」

 

 言って、俺は子どもたちに分かりやすいように頭の中で整理しながら口を開いた。

 

 

 

 佐世保に向かう途中、はぐれ深海棲艦に襲われて船から転落したこと。

 

 気づいたときには海底にいて、ル級と取引して幼稚園の先生になっていたこと。

 

 ヲ級やレ級、イ級たちを見ながら、人間と艦娘、そして深海棲艦は歩み寄れる存在ではないかと思ったこと。

 

 基地を捨て、北に向かう深海棲艦から解放されるとき、ヲ級が俺について来ると言ったこと。

 

 死に物狂いで協力し、何とか追っ手を振り切って海面まで逃げきったこと。

 

 そして、ヲ級は死んだ弟の生まれ変わりだと知ったこと。

 

 

 

 そのどれもが、信じられないほどの不幸と幸運が重なって起こった出来事であり、俺の考え方を大きく変えたのだと子どもたちに説明した。

 

 初めのうちは余りにも突拍子もない話に、ツッコミを入れまくっていた子どもたちだったが、中盤辺りから固唾を飲むように聴き入り、追っ手から逃げきったときには拍手喝采だった。

 

 ――って、紙芝居や何かじゃないんだけどなぁ。

 

 まぁ、楽しんでいたならそれはそれで良いんだけど……結局のところ、ヲ級のことはしっかりと伝わったのだろうか?

 

「とまぁ、ヲ級は俺の弟の生まれ変わりと知ったのは昨日のことでな……正直まだ信じられない気持ちでいっぱいなんだが……」

 

「ダカラ、本当ダト何度モ言ッタデショ? 一緒ニオ風呂ニ入ッタコトモ、一緒ノオ布団デ寝タコトモ、シッカリ覚エテルンダカラ」

 

「ヒエーーーーッ!?」

 

 金剛が立ち上がりながらムンクのような叫び声を上げて目を回していた。

 

 あと、その台詞は妹のだから取らないようにね。

 

「くっ……これが兄弟の強みかよ……羨ましいぜ……」

 

 やけに聞き分けが良い……と言うか、怒らない天龍にビックリしたんだけど、

 

「………………」

 

 龍田が俺に向かって笑みを浮かべながら、親指を自分の首元に当てて、スッ……と真横にスライドしてるんですが。

 

 それってアレですよね。死刑宣告ですよね。

 

 こーろーさーれーるー……って、マジで冗談で済まないんだからっ!

 

 お願い許してぷりぃぃぃぃずっ!

 

「いやいや、それにしたっておかしいよね、先生」

 

 そんな中、冷静に俺に聞いてきたのは時雨だった。

 

「まず、何で兄弟なのに許嫁なのさ。養子で血縁関係がないならともかく、性別が同じならこの国で結婚できるはずがないよね?」

 

 全く持ってその通りなんだけど、それ以上に時雨の知識が凄すぎる。

 

 そこに痺れる憧れる。艦娘幼稚園の頭脳、名探偵時雨さんである。

 

「時雨の言う通りだよ。許嫁ってのはこいつが勝手に言ってることで、何の根拠もないんだから……」

 

「違ウヨ」

 

「「「……え?」」」

 

 一同が驚いてヲ級を見ると、ニヤリと笑みを浮かべて口を開けた。

 

「確カニ昔ナラ無理ダッタカモシレナイケド、今ハ問題無インダヨネ。ダッテ、昔ノ僕ハトウニ死ンデイテ、ヲ級トシテ生マレ変ワッタンダカラ」

 

「……確かに、血縁関係とかは問題ないだろうね」

 

「ソレニ、性別モ変ワッタカラネ。失ッタモノハ大キカッタケド」

 

 それについてはマジで自重しろ。トラウマもんだから。

 

「つまり、ヲ級ちゃんは昔と変わらず先生のお嫁さんになる……って言ってるんだよね?」

 

「ちょっ!」

 

 時雨の言葉に声を上げて反論しようとしたけれど、ヲ級は俺の服の裾を引っ張って阻止し、更に口を開いた。

 

「話ガ早クテ助カルヨ。ダカラ、邪魔ハシナイヨウニ……」

 

「断る」

 

 言葉を遮ったのは天龍だった。真剣な表情で腕を組み、先ほどと変わらぬ不機嫌な顔をヲ級に向ける。

 

「ナニ……?」

 

 天龍の声にカチンときたのか、ヲ級も不快感をあらわにさせた。しかし天龍は全く気にすることなく口を開いていく。

 

「断るって言ったんだよ。生まれ変わりか何だか知らねぇが、いきなりぽっと出のヲ級なんかに先生を取られちまったんじゃあ、天龍の名が廃るぜ!」

 

「て、天龍ちゃん……」

 

 俺も驚いたが、それ以上に驚いていたのは龍田だった。余りの変わりっぷりに、思わず「天龍ちゃんカッケーーーーッ!」と、叫びたくなったのはここだけの話である――が、

 

「鼻血レベルでカッケーーーーッ! そこに痺れる憧れるぅーーーーっ!」

 

 しっかり叫んでた。しかも俺以上の言葉で。

 

 つーか、龍田までキャラが変わっちゃってるんだけど、俺が居ない間にいったい何があったんだろう……

 

「という感じで先生が心の中で叫んでいるわよ~、天龍ちゃん~」

 

「へっ、そういうことだぜ、ヲ級!」

 

 ………………

 

 前言撤回。いつもの龍田だ。

 

 そして勝手に心の中を読むんじゃねぇ! あと、追加もするなっ!

 

 心の叫びを放った直後、思いもよらない言葉が別の場所から聞こえてきた。

 

「待ってくれないかな」

 

「……え?」

 

 驚き振り向いた俺の視界に入ったのは、先ほどからヲ級を問い詰めていた時雨の、真剣な顔だった。

 

 

 

つづく




次回予告

 時雨の真剣な眼差しと声に驚く主人公。
しかし、天龍は不満げな表情を浮かべていた。
そして時雨が口を開き、事態はさらに悪化する!?


艦娘幼稚園 ~ヲ級とみんなの許嫁騒動!?~ その6「それではみなさんに……」完

 今章は次でラスト!
 そして次章は執筆完了! 続けて更新大丈夫ですっ!
 つまり言いたい事は……今章も次章に続いちゃうよっ!

 乞うご期待!

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