艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 サブタイトルの意味は、龍田のセリフ。

 愛宕の提案によりドッキリを仕掛けることになった主人公。
子どもたちの様子を伺いながらヲ級と会話をするのだが、海底との暮らしの差に怒ったヲ級が……


その4「2つを合わせて読んでみてね」

 家政婦は見たかもしんない。

 

 そんな感じの体勢が今の俺です。

 

 正確に説明すると、愛宕と子どもたちが朝礼をしている遊戯室の扉のすぐ側に立ち、俺は中から見えないように隙間から覗き込んでいた。

 

 その横にはヲ級の姿もあり、俺の顔をジッと見上げている。

 

「……何ダカ、オ兄チャンガ凄ク嬉シソウニ見エルンダケド」

 

「久しぶりに子どもたちに会えるんだから、嬉しいに決まってるだろ?」

 

「フウン……ソウナンダ……」

 

 少し不機嫌そうな声が聞こえたが、今の俺は部屋の中を覗き込むので必死なので気にしないでおく。

 

「おはようございます~。本日の朝礼を始めますよ~」

 

「「「おはよーございます」」」

 

 子どもたちが一斉に挨拶をする声が聞こえてきた。しかし、やはりと言うか、声にいつもの元気が感じられない。

 

 これってやっぱり、俺のことを心配してくれてのことなんだろうか……?

 

 そうだったら嬉しいんだけれど、それならば早いところ皆を安心させたいと焦る気持ちが高ぶってくる。

 

 しかし、そんな俺にヲ級がツンツンと背中を指で突きながら声をかけてきた。

 

「オ兄チャン、チョット言イタイコトガアルンダケド」

 

「ん、なんだ?」

 

 直接そう言われれば無視する訳にもいかない。俺は子どもたちの様子を気にかけつつ、ヲ級の方を向いた。

 

「昨日カラ、愛宕ノ部屋ニ住ムコトニナッタンダケド……」

 

「あぁ、そうなったけど……何か問題でもあったのか?」

 

 少し困惑しているような表情に見えたので、俺は心配になって問い掛けてみたのだが、

 

「ウン。マズ……ベットガ駄目ダネ。アレハヤバ過ギルヨ」

 

「は……? 何が駄目でヤバ過ぎるんだ?」

 

「昔、オ兄チャント一緒ニ寝テイタ時ハ布団ダッタケド……」

 

 その記憶は消してくれ。頼むから。

 

「愛宕ノ部屋ニアッタベットハ、ウォーター……トカ言ウヤツデ、フニャフニョノフニフニデ、凄過ギテヤヴァイッ!」

 

 若干興奮しながらヲ級が語り続けていた。

 

「何アノ気持チ良サッ! 海底ニアンナノ無カッタヨ! 天ト地ホドノ差ニ、恨ミサエ抱イチャッタネ!」

 

 そう言って、何故か俺のスネを蹴りだした。

 

「ちょっ、痛いっ! 何するんだいきなりっ!」

 

「話ハ最後マデ聞クッ!」

 

 いや、お前が急に蹴りだしたんだろうがっ!

 

「次ニ愛宕ガ持ッテキテクレル弁当ッ! アレモヤバイ、ヤヴァスギルッ!」

 

「あぁ……鳳翔さんのご飯はマジで美味いからな」

 

「アンナニ美味シイモノ、海底デハ食ベラレナカッタヨ! 毎日魚、魚、焼キ魚ッ! コノ悲シミ分カル!?」

 

 そう言って、更にスネを蹴りまくるヲ級。

 

 洒落にならない痛みなんだからマジ止めてっ!

 

 あと、俺にいたっては食べる前に1回砲撃で吹っ飛ばされちゃったからねっ!

 

「ソレニ最後ハ愛宕ノ胸。アレハ駄目。魔性スギル」

 

 うん。それについては全く持って否定しません。

 

「ウォータート変ワラナイヨンダヨッ! フザケンナッ!」

 

 ちょっ、お前もしかして触ったのかっ!?

 

 な、なんて羨ましい……って、痛えっ!

 

「アレ僕モ欲シイッ! ドウニカシロ!」

 

 そう言って、スネを蹴りまくるどころか1ゲージ消費の必殺技をかましてくるヲ級に涙目になる俺。スネが真っ赤に腫れ上がってしまい、声を上げそうになるのを子どもたちに気づかれないように我慢しながら、ヲ級を宥めすかせるという復帰早々踏んだり蹴ったりな時間だった。

 

 

 

 

 

「痛てて……」

 

 ズボンをまくり上げてスネを確認。うむ、程よく腫れて洒落にならん。

 

「自業自得ナンダカラッ。プンプンッ」

 

 擬音を口で言うなと心の中でツッコミつつ、俺はヲ級にこれからのことを言い聞かせる。

 

「とりあえず、俺が子どもたちの前に復帰の説明をして、それからお前を紹介する手筈なんだけど……」

 

「ウン、ソレハ愛宕カラ聞イテル」

 

「そこで、間違っても変なことを言うんじゃないぞ。深海棲艦だとか、そういうことはおいおい話していくつもりだからな」

 

「ソレモチャント聞イテルヨ。イキナリ喧嘩ヲフッカケル気ハ無イカラネ」

 

 さすがは愛宕――と言ったところだ。昨日の時点でヲ級に説明をしてくれたみたいなので、俺はホッと胸を撫で下ろす。

 

「……それじゃあ、皆さんにちょっとしたお知らせがあります~」

 

「おっと、それじゃあよろしく頼むぞ」

 

 部屋の方から愛宕の声が聞こえ、それが合図だと悟った俺は、ゆっくりと扉の隙間に手をかけてガラガラと開けた。

 

「みんな、ただいまっ」

 

 ニッコリと笑みを浮かべて部屋に入っていく。愛宕の隣に立ち、座っていた子どもたちを見回してみる……が……

 

「……あ、あれ?」

 

 子どもたちは、呆気に取られたような顔を浮かべたまま固まっていた。

 

「え、えっと……か、帰ってきたよー」

 

 両手を広げてピエロのようなポーズをする俺。端から見れば情けなさ満開であるが……

 

「あ、あの……思っていたのと……違うんですけど……愛宕先生……?」

 

 沈黙に耐え切れなくなった俺は、愛宕の方へと顔を向けた……瞬間だった。

 

「バアァァァァァニングウゥゥゥゥゥゥラアァァァァァァァァァブゥゥゥゥゥゥゥゥッ!」

 

「キョンッ!?」

 

 大きな声と一緒に襲いくる下腹部への強烈な痛みに吹っ飛ばされた俺は、部屋の隅までゴロゴロと床を転がってしまった。

 

 やっぱりきたよ、バーニングミキサー。当社比3倍の威力で目の前が赤く見えます。

 

 そして洒落にならない痛みで悶絶中。ピンポイントクラッシュで泡吹けます。

 

 いやもう無理。痛すぎる。

 

「先生っ! この私をこんなに待たせるナンテ、どういうつもりナンデスカ!」

 

 もんどりうっている俺の身体に乗っかって、金剛は両手を振り回して叩いてくる。それ自体に威力は無いのだが、乗っかっている位置がタックルを受けた下腹部なので、痛みが更に倍増してます。

 

 場所が場所だけにエロいことを考える人もいるかもしれないが、そんな余裕がある訳もなく、もはや息も絶え絶え状態なのだ。

 

「どれだけ皆が心配シタカ……分かってるんデスカッ!?」

 

「ぐほおっ!?」

 

 金剛は両手を振り上げて腹部にダブルハンマーを落とし、俺の意識が吹っ飛んでいく。

 

 見事な……溝尾ちへの一撃だ……ぜ……

 

「あれ~、先生落ちちゃったわよ~?」

 

 そんな龍田の声がうっすらと聞こえながら、意識は完全に闇へと落ちていった。

 

 

 

 

 

「ご、ごめんなさいデス……先生……」

 

 申し訳なさそうに頭を下げる金剛を怒る訳にもいかず、俺は小さくため息を吐きながら頭を撫でてあげた。

 

 心配させたのは俺の方なんだから、こうなってしまったのは仕方がないことなのだ。

 

 少々……というか、かなり痛かったけどな……

 

「自業自得よね~」

 

 ニッコリ笑って毒を吐く。うむ、相変わらずの龍田である。

 

「そうだな。今回のことは本当に心配させたから、俺の方が謝らないといけないよ」

 

「あら~、やけに素直なのね~」

 

 そう言った龍田の頭を優しく撫でると、俺を見上げながら小さく口を開いた。

 

「……りゅ……を……せた……つ……」

 

「……え?」

 

 小さすぎて聞こえなかった龍田の声に耳を澄ますが、上手く聞き取れない。しかし、龍田は気にせずに何度も口を開いていく。

 

「てん……ちゃん……なか……み……」

 

「………………」

 

 口元を見ながらガクガク震える俺。言葉は分からない。だけど、龍田の感情が何であるかは、纏うオーラですぐに分かった。

 

 このままでは殺されるっ!

 

「て、てててっ、天龍!」

 

 俺は慌てて天龍を探しながら大きな声を上げた。

 

「な、なんだよ先生。大きな声を出しちゃってさ……」

 

「そ、そこにいたかっ! す、すまん! 悪かったよ天龍っ、許してくれっ!」

 

「い、いきなりなんで俺にだけ謝るんだよっ!? な、何だか気持ち悪いんだけど……」

 

「べ、別に深い意味は無い! 無いが、このままだと俺の命があやう……」

 

 

 

 シュッ……

 

 

 

 首の後ろに感じる微かな温かさに、俺は冷や汗を垂らした。

 

 これ以上喋れば、確実に……消されるっ!

 

「変なことは言わなくて良いのよ……せーんせっ……」

 

 耳元で聞こえる龍田の小さな声。

 

 それは、死刑宣告を言い渡す裁判官と変わらないように感じられた。

 

 モノの例えだから、実際には聞いたこと無いけどさ……

 

 それくらい、ヤバそうに聞こえたんだよ……

 

「と、とにかく、心配させてすまなかったな……天龍……」

 

「ん、あぁ。心配はしたけど、先生が帰ってくるまでに強くなろうって決めたからさ……」

 

 言って、天龍はニッコリと笑みを浮かべた。

 

 以前とは見違えるような大人びた顔に、俺はビックリして息を飲む。

 

 そして思う。少しだけ……いや、ずいぶんと成長したんだな……と。

 

 気づけば首の後ろに感じていた気配は無くなっていた。代わりに何かを啜るような声が聞こえたのでゆっくりと振り向いてみたのだが、

 

「ええ子やぁ……天龍ちゃんええ子やぁ……」

 

 ハンカチを加えながら、龍田がおかんのように泣いていた。

 

 その反応はすでに子どもじゃねえよ……

 

 そんなツッコミは、心の中で留めておく。

 

 もちろん死にたくないからだけど。

 

「せ、先生……お帰りなさい……」

 

 天龍の横で手を繋ぎながら立っている潮が、涙をいっぱいに溜めながら笑みを浮かべる。

 

「先生ったら遅すぎるっぽい! みんないーっぱい心配してたんだからっ!」

 

 そう言いながらも、笑いかけてくれる夕立。

 

「先生、お帰り。僕はずっと待ってたんだからね……」

 

 涙を浮かべる時雨。凄く嬉しそうに、凄く優しく笑いかけてくれる。

 

「べ、別に暁は心配なんかしてなかったけど……お帰りなさい」

 

 片目を閉じて、恥ずかしげに言った暁。

 

「先生お帰り。響も心配したけど……それ以上に……さ」

 

 帽子の鍔を右手で持ちながら、響は目配りで2人を示す。

 

 そこには、身体を震わせながらポロポロと涙を流し、今にも崩れ落ちそうな雷と電が立っていた。

 

「……ごめんな。待たせすぎちゃって」

 

「先生っ! 雷は……ずっと先生が帰ってくるのを待ってたんだからっ!」

 

 両手を伸ばして走りだし、俺の胸元に駆け込んでくる雷をしっかりと受け止める。大きな泣き声を上げながら、俺の胸元を力強く握り締めていた。

 

「お帰りなさい……なのですっ!」

 

 その後に続いて駆け出してくる電……なんだけど、

 

「……っ!? ちょっ、今雷が……」

 

 俺の前には雷がいて、電を受け止めるスペースは殆どない。――っていうか、このまま突っ込んだら雷の背中に直撃コースなんですけどっ!

 

「え……はわわっ!?」

 

 慌てた俺の声に気づいた電だったが、加速した速度を止めることも出来ず……

 

 

 

 ゴンッ!

 

 

 

「いったぁーいっ!」

 

「ご、ごめんなさい……なのです……」

 

 予想通り雷の背中に頭突きという形で突っ込んだ電は、頭をさすりながら何度も謝っていた。

 

 そんな2人を見ながら皆が笑う。

 

 以前と変わらない幼稚園の光景。

 

 それがとても嬉しくて、笑いながら一筋の涙が俺の頬を伝った。

 

 そして――

 

「……あっ」

 

 すっかり忘れていた扉の向こう側のヲ級が、隙間からもの凄いジト目で俺を睨んでいた。

 

 あの辺一帯に黒いオーラが漂っている気がする。

 

 効果音はもちろん『ヲヲヲヲヲ……』。いや、冗談を言っている場合じゃない。

 

 す、スネのガードだけで……大丈夫かな……

 

 

 

つづく




次回予告

 子供たちとの再会を喜びつつ、ヲ級のオーラに圧倒されていた主人公。
今度はヲ級の紹介だと、焦りながら見守る主人公だったのだが……


艦娘幼稚園 ~ヲ級とみんなの許嫁騒動!?~ その5「修・羅・場❤」

 今章は残り2話!
 そして次章は現在も執筆中……そう、今章も次章へ続いてしまう展開だっ!

 乞うご期待!

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