「ダッテ、オ兄チャンハ僕ノ……許嫁ダカラネ」
ヲ級の爆弾発言に、部屋にいたみんなが驚きの声を上げる。
このままでは勘違いされてしまうと、俺は昔の話をみんなにする事にした。
その1「象」
「「「な、なんだってーっ!?」」」
部屋に居たヲ級(弟)以外の誰もが、驚きの表情を浮かべて大きな声を上げた。
「そ、そんな……馬鹿な……っ!」
特に驚いていたのは正面の机に座っている元帥だった。額には汗がびっしょりと溢れ、小刻みに身体を震わせていたんだけど……なんであんたがそこまで驚くのっ!?
「はぁ……」
驚きの後、すぐにため息をついた俺は事態を収集すべく手を上げ、返事を待たずに口を開いた。
「ちなみに、こいつが言ってるのは嘘ですよ」
そう言い放ったのだが、すぐにヲ級が俺の方へ振り向くと、もの凄く不機嫌な表情を浮かべた後……
ゲシッ!
「痛ぇっ!」
おもいっきりスネを蹴られた。
「嘘ナンカジャナイ! チャント約束シタジャナイカ!」
「あれはお前が誘導尋問した挙げ句に、勝手に決めただけだろう!」
「オ父サンモ、オ母サンモ、良イッテ言ッテタジャナイカ!」
「言ってた年齢と状況を考えろっ! どう考えても子供の戯言にしか思ってなかっただろうが!」
「オ兄チャンモ初メハ構ワナイッテ言ッテタ!」
「それはお前が……」
言いかけて、ヲ級が震えながら涙を溜めているのが見えて言葉を飲んだ。
昔から口喧嘩をするとこうなるんだよな……と思いつつ、大きなため息を吐いてから頭を撫でる。
「あー、もうっ。いっつもこういう終わり方しかならないんだよなぁ……」
「ムゥ……」
不機嫌そうに見えつつも、俺の顔を見上げながら撫で続けられるヲ級。
――そう。幼稚園の子どもたちを撫でているときと同じように。
そして、俺が初めて頭を撫でたときと同じように。
「お楽しみのところ悪いんだけど、ちょっと良いかな?」
そんな俺達を見た元帥は、ジト目を向けつつ俺に声をかけた。
別に楽しんでいるわけではないのだけれど、よく見てみると元帥以外も同じような顔でこっちに向いているし、下手な発言は控えておいた方が良いのかもしれない。
「え、えっと……はい、なんでしょうか?」
「結局のところ、先生と弟……ヲ級ちゃんは、そういう関係なの?」
「そういう……ってどういったのか分かりたくもないですが、元帥が思っているのとは全然違います」
「そうなの? じゃあとりあえず、気になりまくりなんで説明してくれないかな? もちろん、言える範囲で良いけど」
「ええ。このまま誤解されっぱなしってのも色々と大変ですからね……」
特に愛宕には誤解されたくないので、ここはしっかりと説明しておかないといけない。
「それじゃあまず、俺と弟の出会いからなんですが……」
そう言って、俺は昔話を語りはじめた。
◆ ◆ ◆
とある土地で生まれた俺の家は、そこそこ裕福でそれなりの家柄だった。
まぁ、そうは言っても、結構田舎の方にある地主といった感じだったので、都会に比べれば対したことは無い。そのことは俺も小さい頃から分かっていたので、勘違いすることは無かったんだけど。
俺が小学校の中学年頃に、年下で可愛い女の子が母親に連れられて家にやってきた。長髪の黒く綺麗な髪に真っ赤な大きいリボン。フリルのついた綺麗なドレスに身を固め、どこかのお嬢様が来客したのだと、子どもながらにドキドキしてしまったんだ。
それからすぐに家族会議。この子は遠い親戚筋に当たる家の出なのだが、ある問題を抱えて一家は離散。両親と一緒に暮らすことが出来ないと知った俺の母親が、見兼ねて連れて帰ってきたのだと言う。
すでに養子縁組も済ませてあったと聞けば、もはや反対することすら難しい。
だけど、俺はそんなことはどうでもいいと思えるほど、突然目の前に現れた女の子に目を奪われていたんだ。
整った顔立ちに、完璧にお似合いのドレス。漫画やゲームの中から飛び出してきたのではないかと思った俺は、女の子を見つめることで必死になり、両親の言葉も殆ど聞いていなかった。
こんなに可愛い女の子と一緒に、これから過ごすことになるんだという嬉しさでいっぱいだったんだ。
――それから事あるごとに、俺は女の子と一緒にいることにした。
初めは少し戸惑っていた女の子も徐々に慣れてきて、数日経つ頃には手を繋いで外に遊びに行くようになっていた。
女の子は俺のことをお兄ちゃんと呼んでくれる。それがとても嬉しくて、俺はこの子の為なら何でもしてあげようって思ったんだ。
そんな俺達を見て、両親もホッとした表情を浮かべていたので、これで良いんだと思っていたんだよな。
――そう。ちゃんと話を聞いていれば、こんな間違いは犯さずに済んだのだけれど。
それは、小さいながらも思春期を迎えていた俺の、完全に失敗……いや、正解だった出来事なんだ。
「ふぃー、つっかれたー」
真夏の日差しの下で走りまくった後、自宅に帰って麦茶をゴクゴクと飲み干した俺は、和室の広間の真ん中で大の字になって寝転んでいた。
「そうだねー。あんなに走ったら、さすがに僕も疲れたよー」
そう言って、俺の隣にゴロンと寝転がる女の子。額には汗がびっしょりと浮かんでいるのに、服装は綺麗なままだった。
――って言うか、この真夏の日差しの下で、ゴスロリチックな黒を基調にしたドレスはどうかと思ったんだけど、似合いすぎているのでツッコミを入れることは出来なかった。
いや、正直なところは目の保養になるからそれで良いんだけど。
更に自分の事を『僕』と呼ぶ言い方も含めて、本当に可愛い。可愛過ぎる。何度も生唾を飲んじまったぜっ。
………………
いや、子どもながらに、この発言は変態ですか?
自重しないと……ジュルリ……
「あら、あなたたちったらそんなに汗をかいて……」
廊下を通り掛かった母親が俺達を見て、呆れた顔を浮かべていた。
「お風呂入れてあるから、順番に入ってきなさい」
「はーい」
「ありがとうございます」
「もう……そんなによそよそしくしなくて良いのよ。あなたはもう、この家の子なんだから……」
「は、はい……あ、ありがとう……お母さん」
「うふふ……それじゃあ、早く汗を落としてきなさい」
そう言って、母親は笑みを浮かべながら歩いて行った。足取りは軽く、スキップしそうになってたから、相当嬉しいんじゃないだろうかと思う。
俺としても、女の子に早く家に馴染んでほしいということもあったから、今の言葉は凄く嬉しかったんだけどね。
「それじゃあ、風呂に行くかっ」
言って、俺は両足を上げ、勢い良く下ろす反動で立ち上がる。
「うん。それじゃあ僕も……」
「じゃあ先に入って良いよ。俺は後で入るからさ」
レディファーストだから……と、言おうとしたんだけれど、
「えっと……その……さ」
俯き気味に俺を見ながら、両手を後ろに組んでモジモジする女の子。
何これ可愛い……と、思いつつも、悟られないように返事をする。
「ん、どうした?」
「お兄ちゃんも、一緒に入ろっ」
「……えっ!?」
「だ、だって……一緒に入った方が効率が良いし……」
何の効率っ!?
そりゃあ、水の消費量は減るかもしんないけどっ!
「い、いや、それはその……色々と……まずいんじゃ……」
本音は今すぐ一緒に入りたいんですけどねっ!
でも、優しいお兄ちゃんを演出するためには、ここは血の涙を流してでも……
「お兄ちゃんと一緒に入りたいじゃ……ダメ?」
黒髪長髪ゴスロリチックなちっちゃい子の上目遣いアタックに、鷲掴みにされた俺の心は……
敢えて言おう! 俺の良心はカスであるとっ!
どかーんどかーんどかーんっ!
お兄ちゃんの心の要塞、一斉砲撃により陥落いたしましたっ!
もう無理です! 止めるものは何も無いっ!
ロリコン王に、俺はなるっ!
――そんな問題発言を心の中で叫びながら、顔を真っ赤にした俺達は風呂場へと向かったのであった。
えー、今俺は湯舟に浸かっております。
「先に入っててね……」との言葉に音速の速さで服を脱いだ俺は、身体についた汗を流すためにかけ湯をしてから湯舟に入ったのである。もちろん体温調節も兼ねてはいるのだが、ぶっちゃけ興奮しまくりの俺としてはお湯よりも体温が高いのかもしれないので意味が無かったり……って、それだと致死レベルの体温じゃねっ!?
そんな一人ノリツッコミをしながら待つこと数分。風呂場と脱衣所を繋ぐ扉がゆっくりと開かれ、俺は大きく目を見開いた。
「ビュ……ビューティフル……」
手ぬぐいと腕で危険地帯は隠しつつ、恥ずかしそうにしながら入ってきた女の子は少し俯き加減でこちらを見る。
「そ、その……見つめられると……恥ずかしいよ……お兄ちゃん」
「あっ、わ、わわっ! ご、ごめんっ!」
俺は慌てて反対方向へと身体を回転させる。自分でも分かるくらいに顔を真っ赤に紅潮させ、心臓はバクバクと高鳴りを上げていた。
そんな様子の俺を見て、女の子はクスリと笑う声が聞こえてきた。続けてかけ湯をする音が何度か聞こえると、ちゃぷん……と、湯舟に入る音が……って、ええっ!?
「お兄ちゃんの背中……おっきいよね……」
気づけば、女の子の両手が俺の背中に触れていた。柔らかい感触がゆっくりと背中全体を撫で回すように動いていく。
「そ、そそそっ、そうかっ!?」
裏返りきった声で返事をしてしまい、更に真っ赤になった俺。恥ずかし過ぎて、このまま湯舟に潜りたい。
「こんな身体だったら……僕も良かったのかな……」
「な、何を言ってるんだ……? 可愛い方が良いに決まってるじゃないか」
「そう……かな?」
そう言って、新たな感触が背中に感じられた。
これは手じゃなくて……ふにふにしてて……ほっぺたかっ!?
俺まだこんな歳ですけど、ここまでやっちゃっていいのっ!?
倫理的というか、色んな意味で怒られたりしないよねっ!?
「うふふ……嬉しいなぁ……」
すりすり……ぷにぷに……って、うわぁぁぁぁぁっ! やばいっ、これやばいよぉっ!
もう我慢の限界じゃあ! 今すぐ振り返って思いっきり抱きしめてやるけんねぇっ!
「お、俺っ!」
口元まで浸かっていた俺はそのまま勢いよく振り返り、女の子の肩を両手で掴んだ。
「きゃっ!?」
ビックリした声を上げ、すぐに俯く女の子。そんな仕種に俺も恥ずかしくなり、俯くように湯舟へと視線を向ける。
「あ、あぅ……」
俺はそのまま女の子を引き寄せようと手に力を込めようとした瞬間………………って、あれ?
湯舟の……中に……何か……
えっと……あれ? 見間違い……?
「………………」
「……お兄……ちゃん?」
お股の部分にですね、毎日見るやつがあるんですよね。
おかしいなぁ……これって見間違いだよなぁ……
あ、そうか。水面って揺らいでるから、俺のがこう……反射とかそういうので……
「ど、どうしたの……?」
「ん、あ、いやいや、ちょっと見間違いしちゃっただけだよ」
「見間違い?」
「ああ。お前のお股にアレがついてるわけが無いよなぁ……なんて」
「アレ……って、これのこと?」
言って、女の子は湯舟から立ち上がる。
そして、目の前には、
俺より確実に大きな象さんがぶら下がっていた。
パオーン。
「………………」
「……? どうしたの、お兄ちゃん?」
ぶくぶくぶくぶく……
「お、お兄ちゃんが沈んでいくっ!?」
真っすぐ垂直に。それはまるでまるゆのように。
俺はそのまま死にたい気分になった。
つづく
次回予告
慌てた俺は、母親の元へと叫びながら駆け込んだ。
しかし、原因は己にあり。すでに手遅れの状況に、母親までもが暴走するっ!?
そして、現在の弟……ヲ級の状態が明らかにっ!?
艦娘幼稚園 ~ヲ級とみんなの許嫁騒動!?~ その2「類は友を呼ぶ」
乞うご期待!
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