艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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※ヤンデル大鯨ちゃんの2話目も更新してますっ。
※後書きに次回情報+α載ってますっ!

 先生が行方不明になってから数日が過ぎた。
雷と電の様子は日に日に悪くなり、もう見ていられなくなっている。
あの時、響は最後まで残された悲しみを知っている。
姉妹だから、そして経験者だからこそ、その苦しみから解放してあげたい。

 そして、みんなで笑えるように。


響の場合 ~響のキズナ~

 やあ、響だよ。

 

 今日はみんなや先生に代わって、響が説明をすることになったんだ。

 

 とは言っても、先生はあれからずっと行方不明のまま。響も心配なんだけれど、日が経つにつれて諦めの気持ちが大きくなってきているんだ。

 

 だけど、愛宕先生や他のお友達はまだ大丈夫だって信じているみたい。そりゃあ、響だって先生のことは嫌いじゃないし、雷や電のことを考えたら帰ってきてくれるのが一番良いんだけどね。

 

 ――そう。

 

 今日、響が説明するのは雷と電の話。

 

 先生が行方不明になってから、2人の様子は日に日に悪くなっている。

 

 原因は勿論、先生が居なくなったこと。生死すら不明の状態のままなので、ずっと心配し続けているらしく、かなり参ってしまっているみたいなんだ。

 

 天龍ちゃんに励まされて少しはマシになったかとは思ったんだけど、それは一時的なものでしかなく、すぐに表情は優れなくなってしまった。

 

 妹である2人をこのまま放って置くわけにはいかない。何か良い方法がないかと、暁に相談することにしたんだ。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

「――と、いうことなんだけど」

 

 夕食を食べて部屋に戻った響は、ベットの上に寝転びながら本を読んでいる暁に、雷と電のことを相談するために現状を説明した。

 

「うーん……そうよね。2人が落ち込んでいるのは暁も知っていたんだけど……」

 

 そう言って、暁は読んでいた本を閉じて本棚に戻した。ズラリと並んだ本棚に入っている本は、どれも暁のお気に入りの漫画で、全て順番通りにきっちりと収められていたね。

 

 ちなみにその中でも響のオススメは、至って普通の商社マンが海賊に誘拐されたのを会社に見捨てられ、傭兵部隊に追いかけられつつも無茶苦茶な方法で撃退し、気づけば水夫として危険な場所で暮らすことになった――というマンガかな。

 

 登場人物に、響と同じような感じに見える人が出てくるのが気になって仕方がなかったんだけど、やっぱりあの国が絡んでいるのかもしれないね。

 

 ――と、話が逸れてしまったけど、暁は少し考え込むように頭をひねった後、響に向かって口を開いたんだ。

 

「やっぱり先生が見つからないことには仕方がないわよね。でも、愛宕先生から何の情報も入ってきてないし……」

 

「そうだね。他のお姉さんに聞いてみたけど、芳しくないみたいだね……」

 

「うーん……そうなると、難しいわよね……」

 

 それからしばらくの間、2人揃って頭を捻りながら考えてみたけれど、良い案は何も浮かばなかった。

 

 先生が行方不明になったのは海の上。輸送船に乗っているところで深海棲艦の襲撃に出会い、いつの間にか姿を消していた。

 

 状況は違うけれど、響にも同じ経験がある。

 

 体がボロボロになって、前にすら進むことも苦しいときに、目の前にいる暁が護衛をしてくれたおかげで命拾いすることが出来た。お姉ちゃんであり、凄く頼りになる存在である大切な暁が、傷を治している響を置いて出撃した後、2度と帰ってくることはなかった。

 

 響はその知らせを聞いたとき、何度も悲しみ、涙を流した。

 

 でも今はこうして響の前に暁はいる。ベットに腰掛けながら、姉妹である雷や電のことを考えてくれている。響にとってこんなに嬉しいことはないんだよ。

 

「……どうしたの、響。暁の顔に何かついてる?」

 

「いや、そんなことはないんだけど……ありがとね」

 

「な、ななっ、何よいきなりっ!?」

 

「なんでもないさ。ただ、ちょっと言いたくなっただけなんだ」

 

「そ、そう……ま、まぁいいけど……」

 

 ちょっぴり顔を赤くした暁は、恥ずかしげに顔をプイッと背けていた。なんだか少し面白くなって、つい笑みを浮かべていたんだけど……

 

「わ、笑わないでよっ!」

 

「別にからかうつもりは無いんだけどね」

 

「むぅーっ、暁は一人前のレディなのよっ! 笑われるようなことなんてしないんだからっ!」

 

 ぷんぷんっ……と、効果音を頭の上の方に浮かび上がらせた暁をなだめすかしつつ、響はもう一度、雷と電について考えていたんだ。

 

 2人は響と同じ思いをしてほしくない。

 

 響以外が海で沈み、一人ぼっちになるのはもの凄く辛いこと。

 

 そんな思いは、ほんの少しであっても感じてほしくないんだ。

 

 雷にも、電にも、暁や響がいる。幼稚園にはたくさんの友達がいる。

 

 先生がいなくなったことはとても悲しいことだけど、2度と会えないと限った訳じゃないんだ。

 

 響はここで、みんなに会うことが出来たのだから、先生とだって会うことが出来るかもしれないじゃないか。

 

 それはとても少ない確率かもしれないけれど、奇跡は起こるから奇跡と言うんだからね。

 

「もうっ、響ったら聞いてるのかしらっ!?」

 

「あ、あぁ、ゴメン。ちょっと考え事をしていたかな……」

 

「……雷と電のこと? それとも先生のこと?」

 

「両方かな。でも、どうすれば良いか、分かった気がするよ」

 

「そっか……それじゃあ、2人は響に任せるわね」

 

「任せてくれて良いよ。不死鳥の名は伊達じゃないからね」

 

 自分に言い聞かせるようにそう言って、暁に笑いかけた。正直、ここで不死鳥と言ってもあまり意味は無いのかもしれないけれど、なんとなく納得できてしまう雰囲気があるんだよね。

 

「……そう。それじゃあ暁は続きでも読もうかなー」

 

 言って、本棚からさっきの本を手に取った暁は、再びゴロンとベットに寝転がった。

 

 端から見れば、お姉ちゃんならもうちょっとなんとか……と、思うかもしれないけど、響には分かっているよ。

 

 2人が悲しんでいる姿を見た響が、過去を思い出して苦しんでいることを暁は分かっているから。

 

 だからこそ、響が2人と話さなければならないって……全部、伝わっているから。

 

「それじゃあ、ちょっと隣に行ってくるね」

 

「うん、いってらっしゃい」

 

 本に視線を落としたまま返した暁の言葉に頷いて、響は部屋から出ることにしたんだ。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 隣にある雷と電の部屋の扉の前に立って、息を飲んだ。どうやって切り出しながら話をすれば良いだろうか。落ち込ませないようにするにはどうすれば良いだろうか。

 

 そんな心配が響の頭をよぎったけれど、それ以上に放ってはおけない気持ちが手を動かし、扉をノックする。

 

 

 

 コンコン……

 

 

 

 乾いた音が聞こえ、1秒、2秒と時間が過ぎていく。返事が返ってこず、心配になってもう一度ノックをしようとしたところに、小さな声が聞こえてきた。

 

「どちらさま……なのです?」

 

 電の声が聞こえて、響は少しホッとしたんだ。

 

「響だよ。ちょっと良いかな?」

 

「はい……なのです」

 

 電はすぐに扉を開けて、響を中に入れてくれた。だけど、その表情は暗く、とても疲れているように見えたんだ。

 

 そして、部屋の中に居た雷も……

 

「………………」

 

 ベットに腰掛けたまま、雷は俯いていた。その手には小さな長方形の紙が握られていて、虚ろな目でそれを眺めているみたいだった。

 

「雷……」

 

 余りにも辛そうな表情をしているので、響は雷に声をかけた。だけど返事は無く、それどころか瞳からポロポロと大粒の涙が溢れ出てきて、どうして良いか分からずにうろたえてしまったんだ。

 

「先……生……どうして……なの……よぉ……」

 

 流れ落ちた涙が手に持った紙に落ちていく。見ればそれは先生が映った写真であり、何度も握りしめたようなシワと、涙で濡れたシミがいくつも見えた。

 

 そんな雷を見て、電も同じように悲しんでいた。吹けば飛ぶような弱々しい姿に堪らなくなって、電の身体を優しく抱きしめてあげた。

 

「響……ちゃん……」

 

 少し驚いた表情を浮かべた電に「大丈夫だから……」と声をかけながら頭を撫でてあげる。

 

「うっ……わぁぁぁ……」

 

 雷の手前、我慢していたんだろう。電の目から涙が溢れて止まらなくなり、響の胸の中で声を上げて泣いたんだ。

 

 そしてまた、響も同じように涙が溢れてきた。大切な妹達が悲しんでいるときに上手く慰めてあげられない自分のふがいなさに、とても悲しくなってしまったから。

 

 もう二度とこんな思いはさせたくない。その為にも響がしっかりしないといけないのだと、何度も電の頭を撫で続けた。

 

 

 

 

 

「響ちゃん……ありがとなのです……」

 

 暫く泣いていた電は、泣き疲れた顔を上げながら響にそう言ってゆっくりと離れた。

 

 離れ際に少しだけ、笑みが零れるのを見れて響は胸を撫で下ろしたんだけど、ベットにいる雷は先ほどと同じように俯いたまま、ずっと涙を流し続けている。

 

「雷……隣に座るよ?」

 

 声をかけてベットに腰掛ける。だけど雷は何の反応もないまま、じっと写真を見続けていた。

 

「雷ちゃん……」

 

 電も雷に声をかけたけど、やっぱり反応は無かった。ぽっかりと心に穴が空いた人形のように、俯いたまま身動き一つしない姿が、とても痛々しかった。

 

 そんな雷を見ているのが我慢できなくなって、ゆっくりと雷の頭に手を乗せて優しく撫でる。すると、一瞬ピクリと身体が反応し、ゆっくりと顔を響の方へと向けた。

 

「先……生……?」

 

 光の無い虚ろな目が響に向けられる。涙で濡らし充血した大きな目を半開きにし、力の無い笑みを浮かべた雷は何度も「先生……」と呟いていた。

 

「……っ!」

 

 響は何も言わずに膝で立って、雷の顔を胸に押し付けるように思いっきり抱きしめた。これ以上悲しまないでくれと、これ以上泣かないでくれと、これ以上心を壊さないでくれと何度も願いながら、強く、強く抱きしめる。

 

「う……ぁ……い、痛いよ……先生……」

 

「先生じゃない……先生じゃないんだよ、雷っ!」

 

「……?」

 

「私は響だ! 雷のお姉ちゃんであり、とても大切に思っている響だよっ!」

 

「ひび……き……?」

 

「お願いだから、そんなに悲しまないで、戻って来てほしいんだ。いつものように元気で明るい雷に……頼むから……」

 

 ポロポロと流れ落ちる涙が、響の頬を伝って雷の頭に落ちていく。そんな響の姿を、電も悲しそうに見つめていた。

 

「響ちゃん……」

 

 溢れ出る涙をグッと我慢しながら近づいてきた電は、響の反対側に回って雷の挟み込むようにし、優しく頭を撫で始めた。

 

「雷ちゃん、早く元気にならないと響ちゃんが大変なのです。このままだと、雷ちゃんを強く抱きしめすぎて痛くなっちゃうかもですよ?」

 

 冗談混じりにそう言った電は、笑みを浮かべながら響を見た。雷を慰めると同時に響も慰めてくれる電に感謝しながら、涙を止めて笑みを浮かべる。

 

「そうだよ雷。このまま泣き続けるんだったら、ベットに押し倒してでも正気を取り戻させるよ?」

 

「……な、何をするつもりなのですか、響ちゃん?」

 

「あっ! ……え、えっと……これはその……言葉のあやなんだけど……」

 

「ほ、本当……なのです?」

 

「べ、別に怪しげなことをするつもりは……」

 

 電のジト目を受けて、あわてふためきながら雷の身体から離れて両手をブンブンと振る。

 

 ひ、響としたことが、ちょっと誤解を招く言い方をしてしまったよ……

 

 海より深く反省しないといけない……けど、本当になんであんな言葉が出てしまったんだろう……

 

「……ぷっ、あはっ、あははははっ!」

 

「「えっ!?」」

 

 急に笑い出した雷に驚いた響と電は、大きな目を見開いた。

 

「な、何それっ! 響ったらなんでそんなに慌ててるのっ!?」

 

「い、雷……?」

 

「電も電よ。大井じゃないんだから、響がそんな変なことをする訳が無いじゃないっ!」

 

 そう思ってくれるのは嬉しいんだけれど、大井については余り触れないほうが良いみたいだね。

 

 ま、まぁ……あんな風に接する気は無いけどね……色々と怖いし……

 

「雷ちゃん……大丈夫……なのですか?」

 

「う……うん。ちょっと心配かけてたみたいだけど……響の慌てる顔を見てたら面白くなっちゃって……もう大丈夫よ!」

 

「良かった……なのです……」

 

「こ、こらっ、泣かないでよ電! そんなんじゃ、雷も……」

 

「そうだね。ここは笑わないといけないね」

 

「笑えば良いと思うよ……なのです?」

 

「「な、なんでここで……?」」

 

 響と雷のツッコミを受けてペロリと舌を出した電を見てクスリと笑う。

 

 たぶん、それは暁のマンガのせいなんだな……と、思いつつも、ちょっとだけ感謝することにしたんだ。

 

 

 

 

 

「心配かけてごめんね」

 

 雷は改まって響と電に頭を下げた。ちょっと恥ずかしげにしていたんだけど、すぐにいつもの明るい笑顔を見せてくれたから、響はほっとしたよ。

 

「雷ちゃんが元気になってくれたから、それで万事おっけーなのですっ」

 

「そうだね。響も嬉しいよ」

 

 帽子の鍔を持って位置を直しながら、雷にそう返した。まぁ、ちょっとばかり恥ずかしかったって言うのもあるんだけどね。

 

「でも……響ちゃんは悲しくないのですか?」

 

 少し不安そうな表情をした電は、ふと、響にそう言ったんだ。

 

「雷や電が悲しんでいる姿を見て、どうしようもなくなってきたから、こうやって会いに来たんだ。

 昔の記憶に、響だけが生き残ってしまった辛い過去がある。あんな思いはもうしたくない。こんな気持ちを雷や電にしてほしくない。

 だから、少しでも癒してあげれるようにって思ったんだけど……」

 

 響は胸の内を2人に話し、本音を打ち明けたんだ。あんな思いはもう懲り懲りだし、姉妹の誰かが同じことにならないように、できる限りのことはしたいと思ってるんだ。

 

 だけど、電は首を左右に振って「違う」と言った。

 

「そうじゃないのです。響ちゃんは、先生が居なくなってしまって悲しくないのですか?」

 

「……え?」

 

 電の言葉を聞いて、思わず声を上げてしまった。

 

 そりゃあ、先生が居なくなってしまったことは悲しい。だけど、2人がそれを悲しんで、壊れてしまいそうになっていたのが、響には耐えられなかった。

 

 だけど、電が言っていることはそうじゃない。

 

 先生が居なくなって、響自身が悲しくないかって聞いている。

 

「そ、それは……」

 

 そう呟きながら、響は思い返してみた。

 

 頭を優しく撫でてくれた先生の笑顔を。

 

 響たち姉妹を、見守ってくれていた先生を。

 

 雷や電のことを思い、コンビニに何度も付き合ってくれていた先生を。

 

 そして……

 

 そんな先生が大好きだった、響自身の思いを。

 

「ひ、響……?」

 

 雷が驚いた表情で響を見ながら声を上げていた。

 

 気づけば、響の目には大粒の涙がポロポロと流れ落ちていたんだ。

 

「響ちゃん……」

 

 電が響の身体を優しく抱きしめてくれた。

 

 その気持ちが嬉しすぎて、響の感情はどんどん高ぶってしまったんだ。

 

「ぅ……うぁ……」

 

「今度は響ちゃんの番なのです。電たちは姉妹なのですから」

 

「そうよね。今度は雷が頭を撫でてあげるわ」

 

「電……雷……ぐすっ……」

 

「だから、いっぱい……いっぱい泣いちゃってもいいのです。響ちゃんがしてくれたように、お返ししたいのです」

 

「うっ……うわあぁぁぁぁぁ……っ!」

 

 姉としてしっかりとしなければいけないというタガが外れた今、響の涙を止めるものは何も無い。心の奥に隠してきた感情が一気に溢れ、嗚咽となって部屋に響き渡っていったんだ。

 

「先生……先生っ! なんで居なくなっちゃうんだよっ! 雷や電や暁……それに響もこんなに心配しているのに、早く……早く帰ってきてよ先生っ!」

 

 雷の胸に抱きしめながら何度も叫んだ。響たちにはどうしようも出来ないことは分かっている。だけど、声にして叫ばないとこの気持ちは押さえきれなかった。

 

 そんな情けない姉を、電は優しく何度も撫でていてくれた。雷も同じように寄り添っていてくれた。

 

 姉妹でいて、そして再び同じ場所に居れることを、なによりも嬉しく思いながら、涙を流し続けた。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

「ありがとう。電、雷」

 

 響は2人に向かって頭を下げた。ふがいない姉という気持ちではなく、純粋に姉妹で良かったという気持ちをしっかりと言葉に詰めて、笑顔を見せる。

 

「どういたしまして、なのです」

 

「たまにはこういうのも悪くないわよねっ」

 

 電も雷も同じように笑顔を浮かべてくれた。目を真っ赤に腫らしながら、涙で濡れた頬を拭いながら、3人は頷きあったんだ。

 

 もう大丈夫。心配することはない。

 

 これで後は先生が帰ってくるのを待つだけだ……と、思えばそれで楽になれたのかもしれない。

 

 だけど、響には一つの考えがあった。

 

「電、雷……ちょっとだけ、響の考えを聞いて欲しいんだけど……良いかな?」

 

「なんなのです?」

 

「全然構わないわよ」

 

 コクコクと頷く2人に今までの響の経験を踏まえた、正直有り得ないだろうという考えを話し出したんだ。

 

「先の戦いで……響は最後まで残ってしまった。とても辛い思いの中、故郷を離れた遠い地で響は沈むことになった」

 

 その言葉を話した瞬間、2人の表情は曇ってしまった。だけど、響は口を閉じずに言葉を続ける。

 

「それまでの間、響はずっと悲しい時を過ごすことになったんだ。響を守ってくれた暁を、消息が不明になった雷を、持ち場を交代した瞬間沈んでしまった電を、何度も何度も後悔しながら思い返していたんだ」

 

「ご、ごめんなさい……なのです」

 

「ううん。謝らないで欲しいんだ電。これは仕方がないことで、響たちには防ぎようがなかったかもしれないのだから」

 

 みんなを攻める気は全くない。それを伝えながら、言葉を続ける。

 

「そんな思いは二度としたくないし、してほしくない。だからこそ、響は自身の思いを胸に秘めたまま、2人を慰めに来たんだけど……」

 

 結果、自分が大泣きするとはね……と少し自虐混じりに言う。

 

 そんな響にクスリと笑いつつも、2人は真面目に聞き続けてくれた。

 

「だけど今、暁も、雷も、電も……姿は変わったけれどここにいるんだ。それは紛れも無い事実で、とても嬉しい奇跡なんだと思っている」

 

「電も同じ気持ちなのです」

 

「雷もよ。みんなにまた会えることが出来て、本当に嬉しかったんだからっ」

 

「うん。もちろん響も嬉しかった。そして……今回先生が行方不明になったことで、こんな考えが頭をよぎったんだ」

 

 それは全くと言っていい程、有り得ないだろう。

 

 だけど、そうなってほしいという気持ちが、言葉となって表れていく。

 

「だけど、まずは現実的な話を先にしておくね。

 先生はまだ行方不明になっただけで、死んだとは決まっていない」

 

「そ、そうなのですっ! 先生はまだ生きているのですっ!」

 

 電は大きな声でそう言った。だけど、その可能性が薄いと分かっているのが表情から読み取れた。

 

 反対に、雷は黙ったままだった。理解しているからこそ、言葉にすることの辛さに耐えられないのかもしれない。

 

「でも、行方不明になってからもう日がかなり経っているにも関わらず、何の情報も入ってきていない。これがどういう意味か……言わなくても分かっているよね?」

 

 言いたくはない。だけど言わなければならない。

 

 言葉に詰まった電。黙ったままの雷。2人はガックリと肩を落とし、俯いた。

 

 そして、響は一番言いたかったことを……2人に告げる。

 

「だけど……響たちが艦娘としてもう一度この世に来れたのだから、先生も戻ってこれる――そんなことは起こらないのかな?」

 

 馬鹿げた考えだと、普通なら一笑されるところだろう。

 

 だけど、実際に私たちはここにいる。再びこうして会うことが出来たのだ。

 

 それは、戦艦だったからなのだろうか?

 

 それとも、人間だとしても同じようなことが起こるのだろうか?

 

 その場合、先生も艦娘に? 生まれ変わって別の人間に?

 

 もしかすると、もの凄いイケメンになって生まれ変わるかもしれない。

 

 もしかすると、もの凄い美人の艦娘になって配属されるかもしれない。

 

「そ、そうだったら……電は先生を目指して牛乳を飲みつづけるのですっ」

 

「雷としては、今よりもっとイケメンになってくれる方が嬉しいわっ」

 

 初めはビックリした表情だった2人も、いつしかそれが本当に起こりえるかもしれないといった風に会話に参加していた。

 

 表情は明るくなり、いつもと変わらない雰囲気で会話を楽しむ響たち。

 

 これが普通なんだ。こうじゃないとダメなんだ。

 

 だから、先生も、

 

 響たちの元に、帰ってきてほしい。

 

 そんな気持ちを胸に秘めながら、響たちは夜更けまで話し続けていたんだ。

 

 

 

 

 

 気がつけば時計の短針は12の数字を越えていた。電の目は虚ろになり、時折カクン……カクン……と、落ちかけていたので、そろそろ寝ようということになり、響は自室に戻ろうとしたんだけれど……

 

「今日は一緒に寝よう……なのです……」

 

 ウトウトしながら喋る電の言葉に、響はニッコリと笑みを浮かべて頷いたんだ。

 

 たまにはそういうのも良い。

 

 いや、どちらかと言えば、今日のような日だからこそ……なんだよね。

 

「それじゃあ、失礼するよ……」

 

 先にベットに入っていた電と雷の間に潜り込む。一人では味わえない温もりが、身体全体を包み込んでくれる。

 

 今ある奇跡を確かめようと、電と雷の手を握る。

 

 うっすらと笑みを浮かべて見つめ合う。

 

 あぁ、本当に……

 

 もう一度出会えて良かったと。

 

 響たちは、そう実感しながら……眠りについた。

 

 

 

 コンコンッ……

 

 

 

「……ん?」

 

 乾いた音が聞こえる。

 

 この音は……扉をノックする音だろうか?

 

 こんな時間に、来客なんて来るのだろうか?

 

 もしそうだとしても、ちょっと常識がなっていないんじゃないかな?

 

 ふぅ……と、ため息を吐きながら起き上がり、扉の方へと向かう。

 

「誰かな……?」

 

「………………」

 

 返事は無い。もしかすると悪戯なのかもしれない。

 

 質が悪すぎるよ……と、もう一度ため息を吐いてベットに戻ろうとしたんだけれど、

 

 

 

 コンコンッ……

 

 

 

「………………」

 

 またも聞こえたノックの音に、少し不機嫌な顔を浮かべながら、扉を開けたんだ。

 

 すると、そこに立っていたのは……

 

「な、なんで戻ってこないのよぉ……」

 

 うるうると泣きながら枕を持った、暁の姿だった。

 

 ………………

 

 ごめん……すっかり忘れてたよ……とは言えないよね。

 

「ごめんごめん……電や雷と一緒に寝ることになってね」

 

「それならそうと言ってよねっ。あっ、べ、別に寂しかったとかそういうのじゃないんだからっ!」

 

「ふふ……そうだね。それじゃあ……暁も一緒に寝るかい?」

 

「そ、そそ、そうよねっ。それじゃあ、お姉ちゃんも一緒に寝てあげようかしらっ」

 

 慌てながらもそう言う暁に少し笑みを浮かべながら、部屋の中へと招き入れる。ここは自室じゃないけれど、姉妹なんだから問題はないよね。

 

 それに、4人が一緒に寝ることも、もの凄く久しぶりのような気もするし。

 

 暁は枕を持ったまま、ベットにいそいそと入り込む。

 

「暁ちゃん……なのです?」

 

「ちょっとだけ……お邪魔するわ」

 

「久しぶりに、4人一緒ね」

 

 眠たいながらもニッコリと笑いながら、布団の中で手をつなぐ。

 

 響も同じように中には入り、温もりを感じながら目を閉じた。

 

 温かい。

 

 ここは、海の底なんかじゃなく、ひとりぼっちでもない。

 

 4人が一緒に居るのが、一番の幸せ。

 

 この時間を大切に、できる限り長く感じていたい。

 

 今ある幸せを噛み締めながら、窓の外を見た。

 

 真っ暗な夜空に三日月が見える。キラキラと小さな星が瞬いている。

 

 先生は、この明かりが見えているのかな……?

 

 いつか、きっと先生は戻ってくるよね?

 

 それまで、響が3人を守るから。

 

 たとえ、生まれ変わっても。たとえ艦娘になったとしても。みんなは先生を笑顔で受け入れるんだよ。

 

 だから、早く帰ってきてほしいな。

 

 それが、今の響の心からの願い。

 

 そして、ここにいる4人の願いでもあると思うから。

 

 いつまでも、いつまでも待っているからね。

 

 

 

 

 艦娘幼稚園 スピンオフ 響の場合 ~響のキズナ~ 完

 




※ヤンデル大鯨ちゃんの2話目も更新してますっ。

 響編、いつもより長かったですが、お読み頂きありがとうございました。
今回の作品はどこかで分けるのではなく、一気に読んでいただきたかったのです。
響の苦しみ、悲しみを。そして、思いやる心を分かって欲しかったのです。
上手く伝わったかどうかは分かりませんが、別れとは辛く悲しいものであり、
またそれが、新たな出会いになる……そんな繰り返しの人生を歩んでいくのが人間なのでしょうね。


 ……って、なんだこの最後までシリアス感たっぷりな後書きはっ!
いつものやつじゃない! ビシッと行きますよ!

 次回はついに本編へ戻り、主人公は先生です。
時間軸では時雨編であった、先生が出張する事が決まった夜からになります。
なぜ先生が行方不明になったのか。そしてどこに辿り着いたのか。
スピンオフで置きまくった伏線が、どのように回収されていくかをお楽しみくださいっ!

 艦娘幼稚園 ~沈んだ先にも幼稚園!?~

 タイトルでもはやバレバレ展開っ! 更に今回はこれっ!

【挿絵表示】


 表紙絵まであるよ!
 なんで表紙かって!? 書籍化したからだってばよっ!(ぇ
 印刷費見てマジ引いた。少数印刷単価やばい。

 乞うご期待!

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