そこで声をかけてきたのは、少し前に出会ったあの艦娘だった。
べったりべたべたなネタですが、楽しんでもらえると幸いです。
声を聞いて俺が振り返るよりも早く、夕立は立ち上がりながら手を振っていた。「あっ、お姉さんたちー、こっちっぽいー」
「お待たせしてごめんね、みんな」
「う、ううん、そんなに待ってないよ」
「姉さんたちのお風呂が長いのはいつも通りだからなー」
「これでも、急いだ方なのですが」
「仕方ないわよ~。ドケチなてーとくのせいなんだから~」
「なにはともあれ、これで揃いましたネー」
部屋に入ってきた2人の艦娘と子供たちが、和気藹々と言葉を交わしていた。そんな光景を見ながら、俺の額には一筋の汗が流れ落ちていく。記憶違いでなければ、この部屋に入ってきた2人の艦娘は、この間、元帥と会話をしていた際に後ろから近づき、とんでもないオーラを身に纏いながら、泣き叫ぶ元帥をどこかに連れ去っていった4人のうちの2人で、しかもその中でも主力級だった気がする。
「やっほ~」
そんな俺の焦りを知らずに、愛宕は気軽に手を振りながら2人に手を振っていた。同じように手を上げた2人は、ちょうど俺の座っている向かい側の席に座り、ぺこりとお辞儀をした。
「あ、えっと……こんばんわ」
内心焦りながらも頭を下げて挨拶を返した。正直な話、この間のことは俺に一切関係なく、元帥に対して怒っていたのだから恐れる必要はないのだけれど、あんな光景を見てしまった後に、どんな話をすればいいのかと思えば、それも仕方のないことである。
「こんばんわー。この間はありがとうございました」
「えっ、あ、いえいえ……俺は別に何も……」
手を左右に小さく振って、会釈を返す。実際、連れ去られていく元帥の姿を見て立ち尽くしていただけなのだから、お礼を言われてもちょっぴり困ってしまう。
「ところでですね」
「え、あっ、はい」
「自己紹介はしていなかったですよね?」
「あ……そう言えばそうですよね」
元帥との会話で名前を聞いてはいたので、たぶんではあるが2人の名は分かっている。が、会話を交わすのは初めてなので、ここはしっかりと自己紹介をするのが筋ってものだろう。
「えっと、それじゃあ俺から……。艦娘幼稚園にこの春から先生として配属されました。他には、んっと……趣味は読書と戦艦ゲームかな」
「せ、先生、それじゃあなんだか合コンみたいですよ~」
「え……ああっ! た、確かに趣味とかはいらないですよね!」
「くすくす……面白い先生なんですね」
「い、いや……その、すみません」
頭を書きながら苦笑を浮かべる俺を見て、周りのみんなが一斉に笑い声を上げた。「せんせー、照れてるっぽいー」と、指を指す夕立に、お腹を抱えながら笑い転げる金剛が「本当デース」と、声を上げていた。
「そ、それじゃあ、私の番ですね」
笑いの壷に入ったのか、未だくすくすと笑い続けながら「舞鶴鎮守府、元帥指揮の第一艦隊旗艦を勤めています、一航戦の赤城です。……趣味はそうですね、間宮さんのアイスを食べることかしら」と、答えると、更に周りのボルテージが加速するように大きな笑い声が上がった。
「あ、赤城さんまでそれは……くすくす……」
「やっぱりここは、同じようにした方がと思ってね……くすくす……」
「うぅ……まさか、こんなにいじられるとは……」
「あ、あはは……せんせー、いじけないでください~」
俺に向かって慰めの言葉をくれた愛宕だが、笑い声を我慢しているのが用意に分かるくらいに、今にも崩れ出しそうな表情をしているのが見えて、更にへこむ俺。
「それじゃあ、私の番ですね」
そんな俺を余所に、もう一人の艦娘が自己紹介を再会した。「私は赤城さんと同じく第一艦隊に所属している航空母艦、加賀型一番艦の加賀です」
周りとは対照的にまったく笑顔を見せず、ポーカーフェイスで淡々と話し終えた。そんな加賀を笑い声を我慢しながら赤城がじいぃぃぃと見つめ続けると、耐えかねたようにため息をこぼしながら「趣味は……部屋でお茶を飲むことです」と、頬を少し赤くしながら恥ずかしそうに語った。
「ぷっ……くくくくく……っ!」
「なっ、あ、赤城!」
「あ、あははははっ! だ、だって、そ、そんなにマジメに……あははははははっ!」
大きな声を上げてお腹を抱えながら転げ回る赤城に、顔を真っ赤にしながら反論する加賀の姿。更に周りが大笑いを上げ、もはや収拾がつかなくなっていた。
ことの発端は俺なので、まったくもって笑うこともできず、部屋の隅で体育座りをしながら暫くいじけていたんだけどね……。
周りのみんなが暫く笑った後、座卓に置かれたジュースを飲みながら雑談を交わしていた。
「愛宕さん、お久しぶりです。そちらの方は順調ですか?」
赤城がが愛宕に声をかけると、愛宕はニコッと笑顔で「ええ、まだ色々と大変だけど、何とかやってるわよ~」と、返した。
「愛宕さんが艦隊から離れてから、火力が少し落ちてしまいました」
「でも、その代わりに翔鶴ちゃんと、瑞鶴ちゃんが入ったじゃない~」
「五航戦……知らない子ですね」
「あ、あはは……相変わらずなのね、加賀ちゃんは……」
苦笑を浮かべる愛宕を前に、まったく表情を変えないポーカーフェイスの加賀はちびりとコップに口をつける。
「うー、飯はまだこないのかー」
ぐぅぐぅと鳴り続けるお腹を押さえながら、天龍は階段の方を見つめていた。同じように他の子どもたちも限界みたく、まだかまだかとソワソワしながらジュースを飲んでいた。
階段を上がる前に通った厨房には、大量の料理が並べてあったのに、1つも届かないというのはいささか不可思議なような気がする。1階が満席だったとしても、あれだけあればこと足りると思うのだが……
「あっ、きたっぽいー!」
階段の一番近くに座っていた夕立が声を上げると、確かに上がってくる足音が聞こえてきた。やっと到着する料理に期待して、口の中には唾液が溢れ出そうとしていた。
「お、おまたせしましたー!」
千代田が大きなお盆を両手に持って部屋に入ってくる。お盆の上には大量の料理なのだけれど……
「え、えぇぇぇっ!?」
どれもが同じ、焼き鳥セットのお皿だった。しかも、続いて入ってきた千歳のお盆にも、同じように大量に乗っている。その数実に30皿。座卓に座っている人数は9人なのに、何故こんなにも同じ料理を持ってきているのだろう?
「あ、千歳さん、千代田さん」
座卓に並べられていく料理を見ながら、赤城が2人に声をかけた。にっこりと微笑む赤城の顔とは対称に、ぎょっとした表情を浮かべる2人。
「は、はい、なんでしょうか……?」
「追加で20人前ほどお願いできるかしら?」
「に、にじゅうにんまえ……ですか……」
焦りの表情を浮かべる千歳に、千代田が何かを耳打ちしながら首を左右に振っていた。
っていうか、更に20人前追加って、食べきれるとは到底思えないんだけど――と、思っていた俺の脳裏に、腹ペコ赤城と呼ばれる噂と、元帥の言葉が思い浮かんだ。
『たださぁ……先月のデートで夕食の時にさー、あの食欲は無いわー』
単純に考えれば、見た目以上に食べるという事だろう。だが、よく考えてほしい。腹ペコ赤城という噂は誰もが知っていると言っていいほどで、もはや都市伝説に近いものがある。それを知ってなお、元帥はデートで夕食に誘ったという事である。つまりは、予想を絶する食べっぷり――いや、財布が崩壊するレベルなのかもしれない。
そう考えたならば、先ほどの20人前追加も赤城にとっては普段通りなのだろう。実際に、追加の言葉を聞こえただろう俺以外の人物は、一切驚いていないどころか、まったく気にもしていない感じだし。
「ふむ……そうですね。材料が足りないというのであれば、天ぷらの盛り合わせを追加で30人前くらいでもいいのでは?」
澄ました顔をして、あっさりと言い放つ加賀。もしかすると、赤城以上なのではと思ってしまうんですけど……。そうだったのなら、2人とデートに行った元帥の財布は……考えない方がいいかもしれない。
「そうねぇ。いろんな料理を食べるのもたまには悪くないかしら。みんなもそれでいい?」
周りに確認する赤城に首を縦に振る子どもたちだが、その表情は気にしていないというよりも、呆れきったという感じだった。
「それじゃあ、加賀の言う通りでお願いするわ。よろしくお願いね」
千歳にそう告げた赤城はにっこりと微笑んだ。「あ……うぅ……」と、千歳は言葉を詰まらせていたが、暫くして「分かりました……」と、頷きながら肩を落として、千代田と一緒に階段を下りていった。
し、しばらくは厨房には行かない方が良いかもしれない。たぶん、さっき以上の戦場と化していると予想できるし。
「それじゃあ料理がきたことだし、お食事会を開始しましょうか」
「そうですね。まだ量は全然足りませんが」
いや、十分お腹いっぱいレベルです。
むしろ、追加分を想像するだけで胸焼けしそうです。
「ではでは、一緒に合掌しましょう~」
愛宕は幼稚園で子供たちに、昼食前の合掌号令をかけるように声を上げた。
「それでは、いただきま~す」
「いただきまーす」
「いただきっぽいー」
「い、いただきます……」
「いただくぜー」
「いただきます~」
「いただきますデース」
一斉に手を合わせて声を上げる子供たちを見ながら、赤城と加賀は小さな声で「いただきます」と、言いながら目を閉じ、頭を下げながら合掌した。礼儀作法も完璧で、まさに大和撫子といった感じなのに、これから大食い大会に出場する選手に変貌するとは、未だに信じられない。
厨房の3人に南無……と、心の中で拝みながら、合掌して頭を下げた。ご馳走になる感謝と共に、戦場を戦い抜く戦士へのせめてもの餞別の意味で。これからも鳳翔さんの料理は食べたいので、できるだけ生き残って下さい――と。
「んんんーっ、おいしい~」
頬に手を当てながら満面の笑みを浮かべて焼き鳥串を食べる愛宕を見て、一緒に来れて本当に良かったと思えたのだが、
「さすがは鳳翔さんのお料理ねぇ~」
「そうですね。さすが……と、言ったところです」
赤城と加賀はそう呟きながら、お皿にある串を目にも止まらない速度で口へと運び、瞬時に消し去っていく。
……ってか、食べ終わった串すら消えている気がするんですが。
まさかとは思うが、食べてるんじゃないだろうな――と焦ったが、座卓の中心に置かれている串入れの中身が、いつの間にか増えていることに気づいて、ほっと胸をなで下ろした。
あまりの食べっぷりに少し胸焼けを感じたが、お腹を減っているのは事実であって、お腹はぐぅぐぅと鳴っている。お皿から焼き鳥串を一本手に取って口へと近づけると、甘いタレの香りが鼻孔をくすぐり、一気に食欲が沸き上がり、口内が唾液まみれになった。我慢が出来なくなった俺は、鶏肉とネギを1セットにして口へと入れる。想像以上の旨味のあるタレと炭火焼きの香ばしさが、口から鼻を一気に突き抜け、脳髄をかけ巡るかのように幸福感が身体中へと行き渡った。
「う、美味すぎる……」
大量に作ったにも関わらずこのクオリティである。前にも言ったが、本当に鳳翔さんの料理は素晴らし過ぎる。
「極上っぽいー!」
「めちゃくちうめぇー!」
「最高デース!」
「う、うん、おいしいね!」
「天龍ちゃんより上手よね~」
子どもたちも口をもぐもぐと動かしながら絶賛の嵐だった。嫁にもらうならここまでとは言わないけれど、料理の上手な人にするべきだよな! と、心の中で強く思いながら、次の串へと手を伸ばす。
「つ、次は、若鶏の唐揚げですー!」
額を汗でびっしょりにした千歳さんが、息を切らしながら部屋に入り、料理を座卓へ並べていく。
「やっときましたね」ふぅ……と、ため息をつきながら箸を構えて皿へと伸ばす加賀。同じように箸を持った赤城も続き、唐揚げを頬張った。もぐもぐと同じように口を動かす赤城と加賀。そんな2人の前には、焼き鳥串の皿が10枚ずつ積み上げられている。
まだ俺の前にあるお皿には、2本ほど残ってるんですけど……
子どもたちの方も、まだ何本か残っているお皿もあれば、すでに食べ終わって座卓の中心に寄せてあるお皿もあった。
「……あれ?」
よく考えてみると、赤城と加賀が10皿ずつ食べて、子どもたちと俺が食べかけがあるとはいえ1皿ずつ食べた。すると、残りの3皿は……?
「うふふ~、本当に美味しいわ~」
ちゃっかり、愛宕が3皿頂いていた。赤城や加賀にはかなわないかもしれないが、それでもその速度は速い気がするんだけど……やっぱり、その大きな胸の方にいくのだろうか。
まぁ、さすがにそれは聞けないし喋りもできない。セクハラで訴えられたら色々と大変だしね。
「とはいえ、本当に美味しいよなぁ……」
とりあえずはお腹を満たすべく、前にある料理に専念することにした。現実逃避というのかもしれないけれど、あまり深く考えると胃に穴が開いてしまう。世の中には、知らなくて良いこともたくさんあるんだしね。
「次は唐揚げを……って、鳥が続くのか」
焼き鳥に続いて若鶏の唐揚げ。このままいくと、鳥づくしになるんじゃないかとも思ったが、さっきの追加注文を聞いた限りそれはなさそうである。まぁ、焼き物が続いたわけではないし、鳥が嫌いなわけでもないので、そんなに気にするようなことではないのだけれど……と、思いながら、箸で唐揚げを1つ摘んで頬張った。
まずは一噛み。その瞬間、熱々の肉汁がジュワァァァと溢れ出す。口内がやけどしそうになって、条件反射で吐き出そうとするが、それ以上の旨味が口の中いっぱいに広がり、更に味わいたくて、何度も口を動かして噛み続けた。プリプリの弾力がある鶏の胸肉の触感が、肉汁と合わさってハーモニーを奏でる。衣のサクサク感が更に食欲を増幅させ、喉へと送る寸前に次の唐揚げを口へと入れる。動き出した箸は止まらず、一心不乱に食べ続ける。
周りのみんなも、同じだった。食事会だというのに、コミュニケーションは完全に放置し、目の前のお皿を舐めつくすくらいの勢いで、箸と口を動かし続けていた。
「しっ、シーザーサラダに、お豆腐のサラダになりますー!」
叫びながら部屋に入ってきた千代田がお皿を並べる。だが、誰一人として会釈も声も上げず、置かれたお皿へと箸を伸ばす。
ちなみに、サラダだけで20皿あるんですけど。
すでに、座卓の上は料理だらけになり、空いたお皿は畳の上へと置かれている。
「鰹のタタキとマグロの刺身、ヒラメのお造りです!」
更に追加されていく料理の数々。一見座卓の上には置けないと思ったのだが、
「あっ、このお皿下げてもらえます?」
「は、はいっ、ただいま!」
今さっき届いたサラダの皿が、すでに平らげられて跡形も無かった。
一口すら頂けなかったんですけど……俺。
千代田が空いた皿を回収して、千歳が料理を並べ変えていく。置いた料理のお皿に無数の箸が一気に集中し、瞬きする一瞬の間に、鰹のタタキが消え去った。
「こ、このままでは……食べれない……っ!?」
俺の前に置かれた皿ですら、目を離すと消えて無くなってしまう。もはや弱肉強食の世界なんて生やさしいものじゃあない。すでにこれは、怪奇現象のたぐいなんだ!
「こ、こうなったら、俺も……やるしかないっ!」
箸をビシッと構えて近くのお皿を睨む。料理が残っているのは――愛宕の近くのヒラメのお造りっ!
ボクシングの右ストレートの如く、最速で箸を伸ばす。だが、一足先にヒラメの身は消え去ってしまい、俺の箸には横にあった紫蘇の葉が掴まれていた。
「……もぐもぐ」
取ったものを返すことは出来ないので、お行儀よく口へと運んで食す。紫蘇の香りが口いっぱいに広がるが、同時に悲しい気分になる。
ちなみに、愛宕が「ヒラメ美味しいわ~」と、満面の笑みを浮かべながら口を動かしていた。しくしく……
「くっ、まだだ! まだ終わらんよ!」
次こそはメインを食べるべく、座卓を見回す。
「……あれ?」
だが、座卓に並べられたお皿には、ほとんどと言っていいほど、料理は残っていなかった。
「……え、終わり?」
合掌をしてからまだ30分も経っていない。しかし、積まれた皿はすでに50を越えているし、一度は下げてもらっていた。
「……こ、これが……噂の……所以なのか……」
腹ペコ赤城……。その名に恥じぬ、食べっぷりであった。
いや、赤城だけじゃなくて、加賀の方も凄かったんだけど。
「しかし……俺の腹はまだ……」
腹部に手を当ててみるが、空腹を訴える音は鳴りやまず、まだ腹3分目程度といったところ。こんな状態で食堂を出るなんてことは、肉体的にも精神的にも厳しすぎる。
「つ、追加の天ぷら盛り合わせです……」
疲れきった表情を浮かべた千歳と千代田の2人が、お盆を両手に部屋に入ってきた。まさに天恵、神様仏様鳳翔食堂の皆様である。
あ、追加したのは加賀なんだけど、さすがに感謝は出来ないです。食べれない理由筆頭なんで。
「よし、今度こそ……」
並べられていく大量の天ぷらを前に、箸を構えて照準を合わせる。30人前とはいえ、油断は出来ない。目の前にお皿が置かれた瞬間、今度こそは俺が頂く!
「ふぅ……それじゃあ、そろそろ……」
赤城が、ため息を吐いて呟く。
「そうですね。ここまでは、前菜ですし……」
加賀のあり得ない呟きに、一瞬固まってしまう俺。
「「改めて、いただきます」」
赤城と加賀がそろって箸を持ちながら合掌をし、座卓に置かれた料理が瞬時に消えていく。
「もぐもぐ……あ、千歳さん、追加で海鮮春雨スープを20人前とお願いしますー」
「はむはむ……それなら私は、鮭茶漬け10人前と1人鴨鍋を20人前で」
「加賀、それだったらいっそのこと、大鍋の方がいいんじゃない?」
「それもそうですね。それじゃあ、大鍋を10人前で」
「か、かしこ……まりました……」
涙をボタボタと流しながら階段を下りる千歳と千代田の2人。多分、鳳翔さんも同じように泣いているのではないだろうか。
ちなみに、俺は泣くなんてレベルではなく、真っ白な灰へと化していた。今までの量が前菜なんて、もはや狂気の沙汰としか思えない。元帥が言っていたことも今では頷ける……いや、元帥だからこそ、笑って話せたんだなぁ……と。
腹部から鳴っていた悲鳴はとっくに静まり、俺の胃は見膨れしていた。とてもじゃないが、食事を取る気はさらさら無い。
「噂は……信じちゃいけないな……」
腹ペコ赤城なんて生やさしいものではない。
ブラックホール赤城&加賀……とでも、命名しよう。
そして、腹ペコの名を受け継ぐのは、
「んんん~っ、キスの天ぷらも美味しいわ~」
愛宕でいいのかもしれないと、俺は肩を落としながら呟いた。
次の日の午後、鎮守府の方から聞き覚えのある男性の悲鳴に似た叫び声が聞こえた気がしたので、愛宕に聞いてみた。
「ん~、そういえば昨日の請求書がそろそろ届いている頃じゃないかしら~」
「あ、あぁ……なるほど……」
どうやら、昨日の食事会の請求書が、元帥へと送られたらしい。
ごちそうさまでした、元帥。と、俺は鎮守府のある方へと頭を下げた。
艦娘幼稚園 ~子どもたちとの食事会!?~ 完
以上で~子どもたちとの食事会!?~は終了です。
引き続き、艦娘幼稚園シリーズは続きますので、宜しくお願い致します。