艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 艦娘幼稚園 ~噂の所以は本当か?~

 今作は執筆の手法等の練習により、一人称⇒三人称に変更してお送りいたします。
これは、現在進行中の艦娘幼稚園とは違う別の艦これ二次小説の為のテストタイプになります。

 内容に関しては、学生時代に読んだ英語の教科書を思い出しながら艦これ風にアレンジしてみたSSです。


 とある鎮守府の中にある、とある食堂での出来ごと。
艦娘たちに受け継がれる噂。その所以を、とある彼女が語ります。


~噂の所以は本当か?~
短編


 小さな明かりがスッ……と消える。

 

 それは、暗い部屋で行われた出来ごと。

 

 まるで結界の様に集まる人影に、それぞれが小さな明かりを持っている。

 

 そんな状況の中で、あなたに伝えたいことがある。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 とある鎮守府の中にある、とある食堂での出来ごと。

 

 朝の会議を終えた秘書艦である長門に続き、ぞろぞろと艦娘たちが食堂にやってきた。彼女たちは決まった席に座って肩の力を抜く。すると、小さな妖精たちがテーブルの上に冷たく冷えたお茶の入ったコップを並べていった。

 

 入ってきた艦娘たちが全員席に座るのを見た長門は、頷いてから立ち上がり、彼女たちを見回しながら口を開く。

 

「さて、朝の会議で提督と話しをしてきたのだが、本日の任務は非常に苛酷になる。ましてや資源も底を尽きかけている今、遠征任務に駆り出される者も多く、任務は困難を極めるだろう。しかし私たちは、この鎮守府を代表する艦娘だ。提督の顔に泥を塗る訳にはいかない以上、各自最大限の努力をして頑張ってもらわねばならない」

 

 長門はそう言って、テーブルの上に置かれたコップを持って口をつけた。一呼吸置いて他の艦娘たちの顔を窺いながら、ごほんと咳払いをする。

 

「そこでだ。残り少ないとは言え、腹が減っては戦は出来ん。提督に陳情してギリギリまで出して貰えるように頼んでおいたので、これを食べて各自頑張ってくれるよう頼む」

 

 長門の言葉が終わると、妖精たちがテーブルに所狭しと食事を並べていった。いつもと変わらない食事の他に携帯用食料も置かれ、いかにこの鎮守府が貧しいかを物語っているようだ。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

「あの……すみませんが、少し良いですか?」

 

 そんな中、1人の艦娘が手を上げる。

 

「うむ、なんだ、言ってみろ」

 

「今の話を聞いている限り、どれくらい忙しいか明確に分からないのですが、分かりやすく言うとどういった感じなのでしょう?」

 

「ふむ……そうだな。簡単に言うと、昼食を取る暇は無いかもしれない。とは言っても、現状において昼食分の資材も食糧も尽きかけているのだが」

 

 ハハハ……と、周りに座る艦娘たちが苦笑を浮かべていた。――が、手を上げた彼女だけは真面目な顔でテーブルの上を見つめている。

 

「それなら、お腹いっぱい食べておかないといけませんね」

 

「ああ、その通りだ。皆も動きに差し支えが無い程度に、たらふく食べる事を進めておく」

 

 そう言った長門は目の前にあるパンを掴み、豪快に口で千切りながら食していった。

 

 その姿を見て、真面目な表情を浮かべていた彼女も、お箸を持ってパクパクと食事を取っていく。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

「それじゃあ、私たちは遠征に行ってくるわ。皆のご飯をたくさん取ってくるんだから」

 

「ああ、宜しく頼む。明日の我々の食事は、お前たちにかかっていると言っても過言ではない」

 

「任せておいて。一人前のレディに出来ない事は無いわ」

 

 そう言って、長い髪の艦娘と同じ背丈をした数人の艦娘が食事を終えて立ち上がる。

 

「それじゃあ第六駆逐隊、遠征任務に出撃よっ!」

 

「了解。響も出撃する」

 

「はーい。雷もいっきますよー!」

 

「電も頑張るのですっ」

 

 口々に喋りながら手を上げた4人は、にっこりと頷いて食堂から出ていった。

 

「そう……駆逐艦たちは遠征任務でいないから、私たちが忙しくなるのね……」

 

 それなら仕方無いと、彼女は箸の動きを早めて更に口へと運んでいった。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

「さーって、それじゃあ私たちも演習に行ってくるねー」

 

「うむ。次の海域にはお前たちの開幕雷撃が有効になると思われる。充分に練度を積んで、出撃に備えてくれ」

 

「りょーかい。大井っち、行っくよー」

 

「ああっ、待って、北上さんっ!」

 

「早くしなよ大井っちー。あんまり食べると、お腹周りに肉がついちゃうよー?」

 

「そ、それは……ちょっと困るかも……」

 

 残念そうな表情を浮かべた大井はフォークを置いて、名残惜しそうにテーブルから立った。

 

「まぁ、大井っちは太ったって大井っちだからねー。私と大井っちがいれば最強じゃん?」

 

「も、もうっ……北上さんったら……」

 

 頬を真っ赤に染めた大井は恥ずかしそうにしながら、ツンツンと人差し指で北上を突ついていた。

 

「もうー、大井っち身体を触るのやめてよー」

 

 まんざらでもなさそうな北上は笑いながら、2人で食堂から出ていった。

 

「なるほど……あの2人は雷撃演習の為、任務からは外れるのね……」

 

 それなら仕方無いと、彼女はどんぶりを持ちあげて口へと運ぶ。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

「ふあぁぁ……それじゃあ、私はそろそろ寝てくるねー」

 

 眠たげな眼を擦りながら、食事を済ませた1人の艦娘が立ち上がった。

 

「ああ、川内と神通、那珂は夜戦任務から帰って来たばかりだったな。本日の夜も同様の任務があるだろうから、ゆっくり休んでくれ」

 

「はいはーい……それじゃあ、夜戦までおやすみなさーい……」

 

「そ、それじゃあ、失礼いたします……」

 

「那珂ちゃんもお休みだよー……ふあぁぁ……」

 

 3人は何度もあくびをしながら食堂から出ていった。

 

「なるほど……夜戦任務も並行して行っているから、人数が少ないのね……」

 

 それなら仕方無いと、彼女はスープの入ったお皿を片手で持って口へと運ぶ。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

「さて、それでは我々も出撃するとしよう。戦艦長門、出撃する!」

 

 食事を終えた長門はそう言って立ち上がり、右手を広げて前に突き出した。それに合わせるように周りに座っていた艦娘たちも素早く立つと、長門に続いてぞろぞろと食堂から出ていった。

 

「なるほど……第一艦隊は新しい海域に出撃するから、主力級の人数が少ないのね……」

 

 それなら仕方無いと、彼女はデザートが乗った小さなお皿を素早い動きで口へと運ぶ。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 周りを見渡した彼女は、食堂の中にはほとんど艦娘の姿が無い事に気づいた。

 

 妖精さんたちは忙しなくテーブルの上を動き回り、空いたお皿を片づけていく。

 

「これだけの人数で、出撃できるのでしょうか……?」

 

 人数が足りない分をどうにかして補わないといけない。

 

 そう思った彼女は、再びパンを口へと運んでいく。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

「ふぅ……作戦終了だ。なかなか大変だったが、みんな無事に帰投したぞ!」

 

 任務を終えた長門は、肩をぐるぐると回しながら食堂に戻ってきた。

 

 一緒に続いてきた艦娘たちも、何人かは負傷している様だが大事には至らないといった感じで、にこやかな表情を浮かべている。

 

「聞けば、第六駆逐隊たちの遠征任務は大成功だったようだ。これで資材も食料も回復し、まずは一安心といった所だろう」

 

 パチパチと拍手をし合う第一艦隊の艦娘たちを見て、長門も微笑を浮かべていた。だが席に座って食事を取っている彼女の姿を見て、神妙な顔つきへと変化させながら声をかけた。

 

「今の時間に食事を取っていたとは、遅くまで任務御苦労だったな。それでは私たちも頂くとしよう」

 

 そう言って長門が席に座ると、他の艦娘たちも席に着いた。

 

 彼女はそんな長門の顔を見ながらパンを口に運び、不思議そうな表情を浮かべる。

 

「む、どうした? 私の顔に何かついているのか?」

 

「いえ、そう言うことではないのですが……」

 

 彼女はそう答えながらお箸を持ち、今度はどんぶり飯を平らげていく。

 

「ふむ、そうか。それより飯だ! 早く皆の前に並べてくれっ!」

 

 長門はテーブルの上を忙しなく動きまわっていた妖精さんたちに声をかけると、何故か悲しそうな表情を浮かべて首をプルプルと左右に振り、どんぶり飯を食べている彼女を指差した。

 

「なんだ? どういうことだ?」

 

「簡単な事です。もう資材も食料も、尽きてしまったということです」

 

「……は? 今さっき私が言った通り、遠征任務も大成功して充分に回復したはずだぞっ!?」

 

「はい、それは聞きました。ですが、それ以上に食べてしまえば底をつくのは明確です」

 

「なっ!?」

 

 どんぶり飯を平らげる彼女の横に、同じように食事を取っている青い袴の艦娘は淡々と長門に説明する。

 

 もちろん、箸の動きは緩めることなく。

 

「そ、それでは、任務を終えてからほんの少しの時間で、お前達が全部平らげたというのかっ!?」

 

「いいえ、違います」

 

「な、なんだとっ!? ならば、いったいどうやって……っ!?」

 

 驚きの表情を浮かべる長門を見た赤い袴の彼女は、どんぶり飯を置いて目の前にある壁掛け時計を見ながらゆっくりと口を開く。

 

「そうですね。朝から――ですから、ほんの10時間といったところでしょうか」

 

「赤城の言う通りです。今日は忙しいということなので、いつもより多めに食事を取らせていただきました」

 

「それでは、そろそろ任務に向かうとしましょう。加賀、一航戦出ますよっ!」

 

「ええ、赤城と一緒なら、気分も高揚します」

 

 そう言って、今まで食事を取っていた赤城と加賀が席から立ち上がる。

 

 他の誰もが彼女達を見ながらも、何も言うことが出来なかった。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

「……ということが、あったらしいのよ~」

 

 にこやかな表情を浮かべた龍田が、手に持った蝋燭を吹き消した。

 

「な、なるほど……それが噂の所以か……」

 

 ごくりと唾を飲み込んだ俺は、額に浮き出た汗を服の袖で拭いながら周りの様子を窺って見る。

 

 金剛と夕立は平気そうな表情を浮かべているが、良く見てみると小刻みに身体が震えていた。

 

 潮は今にも泣きそうな顔をして、天龍の手を掴んでいる。

 

 そして、天龍はと言うと、

 

「あら~、天龍ちゃんったら、お漏らししながら気絶しているわ~」

 

 くすくすと笑いながら、どこかに隠し持っていたカメラを取り出して、パシャパシャと写真を取っていた。

 

「ひっ! この音と光って、ポルターガイストじゃあ……」

 

「いやいや、龍田のカメラのフラッシュだから、大丈夫だって」

 

 説明しても怖がり続ける潮をなだめすかしながら、俺は大きなため息を吐く。

 

「天龍の下着……また洗わないといけないな……」

 

 

 

 そんな、とある艦娘幼稚園で行われた、納涼怖い話大会の風景だった。

 

 これって、怪談話じゃなくね?

 

 

 

 艦娘幼稚園 ~噂の所以は本当か?~ 完

 




 うん、やっぱりお前だったんだね。
 --ということで、まさかの連続龍田オチでした。ごめんなさい。


 さて、次回からは主人公を交代した作品が進みます。
俗に言う、スピンオフってやつですが、そもそもそんなに知られてる訳じゃない作品のスピンオフをやっても……とか言われそうでちょっと怖いw

 ですが、明日から更新するスピンオフシリーズは、時系列に沿って進みます。
なぜ主人公が変わった状態で艦娘幼稚園が進んでいくのか……それが、徐々に明らかになっていくと思います。


 ではまず1つ目から。

 タイトルは、
艦娘幼稚園 スピンオフ ~一人前のレディ道~ です。

 タイトルから予想がつくと思いますが、暁が主人公の物語です。
ちっちゃい暁が一人前のレディを目指して奮闘する姿を、まったりとお楽しみください。


 それでは明日の更新を宜しくお願い致します。

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「@ryukaikurama」
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