艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 慌てる千代田から鳳翔さんが何かを奪い取る。
それは、俺が一番恐れていた物――だった?

 恐ろしき内容に主人公がついにキレる!?
しかしこれだけで終わるはずが無いっ!
本を見つけただけでは、主人公の災難は終わらないのだっ!


※リクエスト開始しました。詳細は活動報告にてお願いします!


その7「発見しました」

「あ……あら、これは……まぁ……」

 

 釘付けと言わんばかりに、鳳翔は視線をガッツリと千代田から奪った物――少し大きめ本へと向けていた。B5サイズの大判で、厚さが非常に薄い本。表紙がテカテカと光っていて遠目では少し見難いけれど、綺麗な色合いで描かれているようだった。

 

「あ、あの……鳳翔さん……」

 

 申し訳なさそうに千代田は声を上げるが、鳳翔はまるで聞こえていないかのように本の表紙を眺めていると、急にパラパラと本を開いて中身を読みだした。

 

「まぁ……まぁまぁまぁ……」

 

「あぁ……う……ど、どど……どうしようっ!」

 

 頬を染めながら少しずつ笑顔になり、顔の周りがキラキラモードになる鳳翔と、慌てふためきながらその姿を見つめ、顔の周りに黒い縦線を漂わせて疲労していく千代田の姿があった。

 

 何というか、対照的すぎる2人なんだけど、嫌な予感がどんどんと大きくなってくる感じが、俺の背筋を凍らせるかのようだ。

 

「あ……あの、鳳翔さん……。その本って、いったい何なのでしょう……か?」

 

 いたたまれなくなってきた俺は、鳳翔に問いかけてみる。だが、千代田の時と同じように全く聞こえていないのか、本を読みふけるのに必死という感じで、ひたすら視線を手元へと向けていた。

 

「鳳翔さん、いったいどうしたんですかっ!?」

 

 さすがにその姿を不審に思った千歳が鳳翔に近づいていく。

 

「なんで、その本に……って、これ……ぇ……え、えっと……これは……その……もしか……して……?」

 

 鳳翔の横に立って覗き込んだ千歳は一瞬驚いた表情を浮かべたが、急に頬を真っ赤に染めると本に見入るように顔を近づけたまま、身動きひとつしなくなった。

 

 鳳翔が本のページをめくり、千歳も一緒に食い入るように、舐めまわすように、中身に必死になっている。気づけば、恐る恐るといった感じで近づいていった千代田も、頬を染めながら、2人の隙間から覗き込んでいた。

 

「……えっと、これは……つまり……?」

 

 俺1人が置いてけぼりを食らった感じに、ため息を吐きたくもなるが、それ以上に気になるのは本の中身である。

 

 いや、実際には3人の様子が余りにもおかしいので近づいていったのだが、本の表紙が徐々に明確に見えてきて、作者の悪意を完璧なまでに感じ取った。

 

 いや、作者本人は悪意なんてものは無いのだろうが、俺にとってはその塊でしかない。

 

 そんな、俺を不快にさせた本の表紙には、きらびやかな色合いで男性の姿が2人描かれ、キラキラとラメが入ったような加工がされている。

 

 両方が頬を染め、片方が両手で、もう片方の顔を優しく掴んでいる。

 

 まるでそれは、今からキスをしようと言わんばかりに。

 

「……っ!」

 

 そういう本があるのは知っていた。

 

 別に、それについてとやかく言うつもりはない。

 

 ただ、どう見ても、

 

 2人の男性のうち、1人が、

 

 俺らしき外見的特徴を押さえていたということだった。

 

 

 

 

「ちょっと待てええええええぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 

「「「ひゃいっ!?」」」

 

 食堂の外にまで響いたであろう俺の大きな叫び声に、さすがに驚いた鳳翔と千歳と千代田は、肩をビクンと震わせて、顔をこちらに向けた。

 

「今すぐ、その本を、こちらに、渡して、頂きたい」

 

「あ……えっと、それは……」

 

 鳳翔は一筋の汗を垂らしながら言う。

 

「止めておいた……方が……」

 

 千歳は少し顔をひきつらせながら言う。

 

「良いと……思うよ……先生……」

 

 千代田はブンブンと顔を左右に振ってから、俺に言った。

 

「良いから、早急に、渡して、下さい!」

 

「「「は……はい……」」」

 

 自分でも分かるくらいの鬼のような形相に3人は身の危険を感じたのだろう。鳳翔は手に持っていた本を、出来るだけ腕を伸ばして、俺から距離を取りながら、プルプルと震えつつ手渡した。

 

「………………」

 

 無言のまま受け取った俺は、表紙をまず一瞥する。遠目で見た通り、片方の男性は俺に似ている気がする。

 

 だから、千代田が本を持って厨房から来た時に、俺の顔を見て驚いたのだろう。

 

 つまり、確信犯ってことで、後々話をしないといけないだろうね。

 

「あ、あうぅぅぅ……」

 

 そんな俺の気持ちを読み取ったのか、千代田は千歳の腕に抱きつきながら、ガタガタと震えている。

 

「………………」

 

 そんな千代田を全く気にしないで、俺は本のページをめくっていく。

 

 初めの数コマで話の流れが描かれていたが、どうやら今ここにいる鎮守府を舞台とした恋愛マンガのようだ。いかにもという感じの少女マンガのタッチで描かれる男性(俺っぽい)が尿意を催してトイレに向かって走っていると、ベンチに座った真っ白い軍服の男を発見し、何故か心の中で呟いた言葉が「ウホッ、良いおと……」

 

 ビリビリビリッ!

 

 俺は、渾身の力で、本を引き裂いた。

 

 

 

 

「ああああああああああああああああああっ!?」

 

「な、なななっ、何をするんですか先生っ!」

 

「私の本が……頑張ってゲットしたのにっ!」

 

 鳳翔たち3人は引き裂かれていく本を見て驚き、口々に大声を上げた。

 

「ふぅ……」

 

 修復不可能なほどに破きまった俺は、スッキリした表情で額を拭う。

 

「やりきった顔で恍惚した表情を浮かべるなんて……っ!」

 

「先生っ、あなたはそれでも人間ですかっ!?」

 

 ふむ、もの凄い言われ様なのだが、良く考えてから言って欲しいものだ。

 

「じゃあ、あなた達に問います。明らかに俺っぽい人物が出ている漫画で、間違いなくやおい系な内容で、俺の意図しない流れが描かれている。それを見た本人は、一体どう思うと考えますか?」

 

「う”っ……そ、それは……」

 

「内容自体がすでにパロディな挙句、この後の展開も間違いなくアレでしょうね。それが分かっていて、素直に返すと思います?」

 

「でも、いきなり破かなくても……」

 

「じゃあ逆にですね、千代田さん」

 

「えっ、わ、私ですかっ!?」

 

「あなたが主役の漫画と仮定しましょう。深海棲艦に捕まったあなたが、ことごとく凌辱されていく漫画があったとして、それを千歳さんや鳳翔さんがニヤニヤしながら黙々と読んでいて、呼びかけても反応が無かったら――いったいどうします?」

 

「サーチアンドデストローーイ!」

 

「ですよね。そう言うことです」

 

 うんうんと頷く俺。

 

「よ、よく……分かりました……」

 

 がっくりとうなだれた千代田は、肩を落としてバラバラになった本を悲しそうに見つめていた。

 

「そして、鳳翔さんに千歳さん」

 

「「は、はいっ!?」」

 

「とりあえず、この本については無かった事にする方がお互いの身の為だと思います。なので、早急に記憶から消し去って下さい」

 

「そ、そうですよね……致し方ありませんね……」

 

「わ……分かりました……」

 

 千代田と同じようにうなだれた2人だったが、じっと見つめる俺の視線に負けたのか、掃除道具を手に取り、床に散らばった紙屑をちり取りに集めだした。

 

「あうぅ……家宝にしようと思ってたのに……」

 

 1人呟きながら床に膝を突く千代田。

 

 いや、マジで止めて欲しいんだけど。

 

 つーか、やおい本が家宝ってどうなんだ……

 

 ひと通り散らばった漫画の破片を集め終わった2人を眼で追う千代田は、悲しそうな表情を浮かべたまま、ゴミ箱に捨てられていく場面を眼の辺りにし、両手を床につけて礼拝のように崩れ落ちた。

 

 ううむ……さすがになんか、悪い気がしなくもない。

 

 だけど、やっぱりあの本が出回るのは避けたいからなぁ……

 

「千代田さん」

 

「うにゅう……」

 

「いや、そんな可愛い声を出しながら礼拝しても、あまり意味は無いと思いますけど……」

 

「だってぇ……折角の本がぁ……」

 

「いや、さっき納得しませんでした?」

 

「でもぉ……手に入れるの、大変だったんですよぉ……」

 

 月の礼拝におけるチャイルドポーズを取ったまま顔だけをこちらに向けた千代田は、涙をボロボロと流しながらそう言った。

 

 泣くほどまでに悲しかったのかよ……

 

「ごほん……とりあえず、ひとつ聞かせて欲しいんですけど」

 

「……なんでしょう」

 

 やはりそのままのポーズで、千代田は俺の問いに答える。

 

「あの本ですけど、どこで手に入れたんですか?」

 

「……そ、それ……は……」

 

「言えないんですか?」

 

「………………」

 

 俺の問いに千代田は答えない。

 

 固まったまま、額から汗がたらりと流れ落ちている。

 

「作者に関しては、ほぼ、誰かは掴んでます。なのに、言えないんですか?」

 

「えっと……それは……その……」

 

「つまり、買う側に条件がある……そう言うことですか?」

 

「……っ、先生は……どこまで知っているんですか……」

 

 正直なところ、作者が秋雲であるということ以外全然知らないんだけれど、それを素直に言ってしまっては意味がない。しかし、言葉を上手く選ばなければ、ハッタリは通用しないだろう。

 

「さて……どこまでと言われると、難しいですけど……そうですね。漫画の題材になったのが、青葉の写真から……と言うことくらいなら、とっくに調べ上げています」

 

「………………」

 

「もちろん、青葉の方は対処済みですけど……もしかして、千代田さんも同じ目にあいたい……とかですか?」

 

「そ、それは……」

 

 ビクリと身体を震わせて、千代田は焦った表情を浮かべる。何を想像したのかは分からないけれど、効果はあったみたいだった。

 

 しかし、同じ目にあわせるとなると、壁ドンして、告白されたって勘違いさせないとダメなのだろうか。

 

 いや、全然しなくていいんだけどさ。

 

「わ、分かりました……だから、そ、その……」

 

「それじゃあ教えてくれますよね?」

 

「は、はい。ですから……ドックの掃除だけは勘弁して下さいね……」

 

 申し訳なさそうに、千代田は俺に謝りつつそう言った。

 

 ……ドックの掃除って、そんなに嫌な罰なの?

 

 さすがにそれを聞くことが出来なかった俺は、礼拝のポーズから立ち上がる千代田を見ながら、心の中で呟いた。

 




 リクエストの募集を開始しました。
活動報告にて詳細を書いてありますので、是非宜しくお願い致します。



次回予告

 千代田から秋雲の情報を聞いた主人公。
その情報から恐ろしい考えを浮かんだ時、主人公に声が掛けられる。
目の前に現れた艦娘から、更に嫌な予感を感じる主人公なのだが……

艦娘幼稚園 番外編? ~青葉と俺と写真と絵師と~ その8


 乞うご期待っ!


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