そんな先生の苦難もいつものこと。恐怖?のビスマルク班授業はまだ続く。
しかし、なんでこんな授業内容になっているのか。その答えとは……?
ガックリとうなだれ、床に膝を着く男がいた。
実はそれ、俺だった。
ビスマルクの狙いを回避したと思いきや、ろーの発言によって見事なまでに突っ込んでしまったことにより、蓄積されていた精神的ダメージが限界を超えてしまったからである。
……まぁ、これもいつものことと言えばそうなのだが。
「結局のところ、ビスマルク姉様は勝負に負け、ろーちゃんが勝ったってこと……?」
「そうなるんじゃ……ないかな」
「ろーのひとり勝ちですって!」
「くっ……!」
勝ち名乗りを上げたろーを見ているビスマルクが、非常に悔しそうな表情で小指を噛んでいるが、どう考えても教育者の態度じゃないです。
というか、それ以前に……だ。
授業が完全に、放置されまくっているんだけれど。
さすがにこのままでは問題があり過ぎなので、俺は歯を食いしばりながら立ち上がり、みんなに声をかける。
「どうしてこんなことをしていたのかはさておくが、授業の時間はとっくに始まっているんだ。
無駄な時間を過ごさないために、今から教科書を……」
「先生、それは違うわ」
マックスが手を上げ、俺の言葉を遮る。
……ふむ、珍しいな。
俺が真面目な会話をしている時、マックスが口を挟んでくるのは滅多にないんだけれど。
「どうしたんだ、マックス?」
俺は少し考えてから話を聞いてみようと問いかけると、マックスはゴホンと咳払いをしてから口を開いた。
「どうやら先生は勘違いしているようだけれど、ビスマルクがやっていたことは一種のお手本よ」
「お、お手本……?」
いったい何が、お手本だったというのだろうか。
ドアにホワイトボードのマーカーを挟むことなのか、俺に突っ込まさせることなのか、それとも自爆することなのか……。
どれを取っても良い大人の手本にはなりえないと思うのだが、冷静沈着に話してくれたマックスが嘘をついている風にも見えない。
………………。
ううむ、考えてみたけれど、まったく分からない。
仕方ないので聞いてみようと思ったところ、俺の考えを表情から汲み取ったのか、マックスが再び喋り始めた。
「そう……お手本。
ビスマルクは私たちに、先生がツッコミを入れる状況を作り出そうとしていたの」
「いや、だからなんでそれが、お手本なんだよ……」
やっぱり意味が分かりません。
まず、ツッコミを入れさせようとすることが意味不明だ。
その次に、それをなぜ授業にするのだろうか。
そして最後は、根本的に意図が読めない。何がしたいのかサッパリなんだよね。
「それはもちろん……」
そんな俺の思いをよそに、マックスはなぜか間を大事にするかのような話し方をする。
それはまるで、テレビで見た落語家のような身動きに思えてしまい、俺は目をゴシゴシと擦る。
椅子に座っているはずのマックスの手に、なぜか扇子のような物があって……って、あれ?
本当に、扇子……だよな、あれ。
「ふぅ……」
いつの間にか開いて、パタパタと仰いでいるし。
………………。
つーか、間が……長くね?
パシンッ。
あ……、マックスが扇子で机の上を軽く叩いて、少しばかり口元を釣り上げたぞ……?
「これは、お笑いの授業なのよ」
「………………」
「………………」
「「………………」」
「「「………………」」」
マックスが、俺が、ザラとポーラが、そしてビスマルクを含む他の子どもたちが、無言だった。
ただし、俺とザラとポーラは、一瞬だけ白目を剥いていた気がするけれど。
「イヤイヤ、ナンデヤネーン」
「ツッコミが甘いわね」
「はぁ……」と、肩を落としたマックスが落胆した表情を浮かべて俺を見る。
しかし、敢えて言わせてくれ。
いくらなんでも、難易度が高過ぎやしないだろうかと。
そしてやっぱり、
まったくもって、意味が分からないんですけどね!
「催し会……?」
「そう……今月の末に、舞鶴鎮守府の体育館で行われるイベントよ」
意味不明のまま固まっていた俺とザラ、ポーラに分かるよう、マックスが色々と説明をしてくれた。
「つまり、その催し会にみんなが出るから、そのお手本としてビスマルクが変なことをしていたってことだな?」
「ええ、その通りよ」
なぜか満足げなマックスがコクリと頷き、開いていた扇子を閉じる。
なんか……それ、気に入っているみたいだな。
「ちょっと待ちなさい。
なんかさっきの言葉に、違和感があるんだけれど」
「それは気のせいだから、黙っていていいぞ」
「なによその態度!
なんだか冷た過ぎやしないかしら!」
「それは気のせいじゃないけど、黙っていていいぞ」
「ムキー!
どう考えても、面倒臭いから無視をしているって感じじゃない!」
癇癪を起こしているビスマルクだが、まったくもってその通りである。
絡めば絡むほど厄介になるんだからってことも理解してくれると、助かるんだけどなぁ。
「やっぱり先生が相手じゃ、ビスマルクには荷が重たいみたいだね」
「さすがはカンサイジーンですって。
本場の人には、簡単に勝てないですって!」
「でもろーちゃんは、先生にツッコミを入れさせたじゃない」
「そこはろーも、ビックリでしたって!」
そう言いながらも胸を張る、ろー。
一緒に話をしていたレーベとプリンツは、パチパチと手を叩きながら笑顔を浮かべている。
ただまぁなんと言うか、関西人のイントネーションだけはなんとかして欲しいんだけれど。
みんな、いつも通りの日本語だったら問題なく発音できるはずなんだけどなぁ……。
「私はこれを見れば分かると思うけれど、催し会に落語で挑もうと思っているわ」
言って、マックスは少し開けた扇子をピシャリと閉じ、自信満々な笑みを浮かべた。
「なるほど……。
しかしそれでも……だ」
色々と言いたいことはあるけれど、まずはこれを言わなければ気が済まない。
なので、少々どころかかなり面倒くさいが、ビスマルクの方へと顔を向ける。
「なんで催し会に関係することを授業でやろうとするんだよ!」
「………………へ?」
「いや、何を言っているのか分からないと思うがって感じの顔で、頭を傾げるんじゃねぇよ!」
「別に私、スタンドの攻撃を受けた訳じゃないわよ?」
「その返しができるんだったら、さっきの態度は必要ないよね!?」
「いや……だから、あなたの言っていることがおかしいと思うから、首を傾げたんだけど」
「あるぇー……?」
ダメだ。どうやらビスマルクには、日本語が通じていない。
「失礼ね。
ちゃんと通じているわよ!」
「喋ってもいない俺の心を読めるんだったら、ちょっとくらいは空気を読みやがれ!」
「なによ!
ちゃんと読んでいるじゃない!」
「どこのどいつがそんな口を聞いているんだよぉぉぉっ!」
「どこのドイツって言われても、私の生まれ故郷だから問題ないじゃない!」
「なんでそんな話になるのか、まったくもって分からない!」
「そう!
これが俗に言う漫才よ!」
「だーかーらーーーっ!」
えっへんと胸を張るビスマルクに、本気でど突き漫才という名のツッコミをかましたい。
しかしそれをやったら完全に俺の負けな気がする。
だからここは、グッと堪えて話を進めなければ……っ!
「先生、もう1つ良いかしら?」
「………………はい?」
またしても横槍を入れてきたマックスに、今度は俺が頭を傾げる。
「さっきと同じく、先生は勘違いをしていると思うのだから言うけれど……」
パシャリ……と再び机を扇子で叩いて音を鳴らし、マックスは言う。
「催し会には幼稚園の子どもたち全員が出るのだから、そのための授業は当たり前じゃないかしら?」
「………………Why?」
マックスの、言ってる意味が、分かりません。
字余り。
「……いや、なんで英語なのかしら」
「す、すまん。
どうやら俺は今、スタンド攻撃を受けたのかもしれない……」
「なるほど……。
それなら仕方がないわね」
なぜか納得するマックス。
「ここでビスマルクが振ったネタを自分のものにするなんて、さすが先生だね……」
「カンサイジーンは、奥が深いですって!」
そして同じようにレーベとろーも、納得しまくりに頷いていた。
「くぅっ!
まさか、私のネタを奪い取るどころか、子どもたちを感心させるだなんて!」
ギリリリリ……と小指を噛むビスマルクは悔しそうな顔で俺を睨みつけると、
ブオンッ!
「ちょっ、いきなりハイキックを繰り出すんじゃねぇよっ!」
「これが私のツッコミなのよ!」
「嘘つけ!
どう考えても殺す気で放っているじゃねぇかっ!」
ビスマルクの重心が一瞬だけ低くなったのを見逃していたら、屈んで避けられなかったぜ……。
そう思いつつ、距離を取る俺。
もちろん追撃を受けないための行動だが、どうやらこれは読まれていたよう……で?
………………。
「フッフッフ……」
いや、なんでビスマルクは、ハリセンみたいな物をも持っているんでしょうか……?
「そ、それをどうするつもりなんだ……?」
「もちろんこれは、あなたの顔面をぶっ叩くため決まっているじゃない」
そう言ったビスマルクは、プロ野球選手も顔負けなスイングを披露してみせる。
「どう考えても全力だよね!?」
「当たり前じゃない。
ど突き漫才は全力でやらないと、意味がないって聞いたわよ!」
「艦娘で戦艦のビスマルクが全力を放ったら、いくらハリセンでも俺の首が吹っ飛ぶだろうがっ!」
「大丈夫大丈夫。
あなたのことだから、首が吹っ飛んでも生きているんでしょう?」
「そんな訳があるかよぉぉぉぉぉーーーっ!」
全力で叫びながらツッコミを放っている時点で俺の負け。
だがしかし、ビスマルクの攻撃だけはマジで避けなければ命がないので、必死で回避行動を取りまくる。
「……くっ、ちょこまかと五月蝿いハエねっ!」
「いやもう、どこをどう突っ込んで良いのか分かんねぇよ!」
殺す気だな! 絶対ビスマルクは、俺を殺す気だよっ!
「はぁ〜。
先生って、やっぱり凄いですねぇ〜」
「紙一重で避けまくる先生……尊い……」
「ポーラはザラ姉様の心境がまったく分かりません〜」
やれやれ……と肩をすくめるポーラが大きなため息を吐くのが聞こえてくる。
「まぁどっちにしろ、先生が普通の人間じゃないってことは、よ〜く分かりましたけどね〜」
「いやいやいや、俺は普通の人間だよ!」
「……ビスマルクの攻撃を避けながらツッコミを入れられる人が、普通だとは思えませんけど〜」
「こ、これはその……、慣れだよ、慣れ!」
そう叫んだが、ポーラは首を左右に振って俺の言葉を全否定していた。
ついでに、ザラを除く他の子どもたちも同じ感じだったのは、ちょっぴり泣きたい気分になる。
本当に……納得できないんだけどね。
次回予告
結局ビスマルクが絡むとこうなっちゃうんだよなぁ……。
ということで全班への臨時加入は終了。
ザラとポーラはどの班に……と思っていたら、新たな展開が!?
艦娘幼稚園 第三部
~ザラとポーラはどの班に?〜 その11「悪魔のプレゼント?」
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