ヲ級を止められないどころか、ザラやポーラまで白熱しちゃったよ……。
しかしまぁ、まだ授業は始まったばかり。どうなるかは分からない。
港湾とほっぽのファンだと言うし、可能性はまだあるはず……と思っていたら?
「うぅ……。
どうしてポーラはこんな目にあっているんでしょうか……」
ポーラの暴れっぷりがどうしよもなく、仕方なく1口だけだという条件付きでぶどうジュースを飲んでいいと許可したものの、その1口が瓶1本を丸々飲み干すという暴挙に出たので、現在教室の後ろで立たされている状態です。
正直可哀想ではあるものの、ここで許してしまうと図に乗りかねないと、俺は心を鬼にして我慢する。
ちなみにザラはまったく気にしないどころか、それが当たり前だというような目でポーラを一瞥した後、開いている席に座っていた。
「ソレジャア、授業ヲ始メルワヨ」
ホワイトボードの前に立つ港湾が、マジックを片手に絵や文字を書く。あの爪でよく握っていられるなぁと感心しつつ、俺はポーラの側で目を光らせつつ子どもたちの様子をうかがった。
あきつ丸、五月雨、ほっぽ、レ級の4人は行儀よく席に座り、港湾が書くホワイトボードに視線を向けている。
問題であるヲ級も授業が始まれば静かなもので、真面目に授業を受けている姿にホッとする。
ただし、ときおり頭の艤装についている触手がウネウネと動いたり、急にあさっての方向を指すような仕草をするのはなぜだろうか。
まるで、なにかを察知しているような感じに、嫌な予感しか湧いてこないんだけど。
「サテ、今日ノ授業ハコレナンダケド……」
そうこうしているうちに、港湾がホワイトボードに複数の絵と文字を書ききったようだ。遠目ながらに見てみたところ、なにやら人型のような絵があるんだが……、
「マズハ軽巡ホ級ニツイテダネ。
コイツハ5inch単装高射砲ト、偵察機ヲ装備シテイテ、駆逐イ級ニ比ベテ耐久ガ1.5倍近ク高イカラ、舐メルト痛イ目ニ遭ウワヨ」
どうやら今日は深海棲艦についての知識を高めるようだ。同盟を組み、舞鶴鎮守府に所属しているとはいえ、自分自信が深海棲艦である港湾にとってある意味辛い立場であるにもかかわらず、真面目に取り組んでいるのには頭が下がる。
「ナオ、ホ級ノ多クハ顔ヲ艤装デ隠シテイルケド、美人比率ガ高イワヨ」
なにそれ、超絶初耳なんですけど。
「チナミニ、同ジク隠レテイル胸部モ豊満デアッタ」
なんで過去形!? それってどこかの道場にいるカラテの訓練を積んだ人じゃないのっ!?
いやしかし、これは重要な豆知識として脳内のメモ帳にしっかりと書き込んでおこう。
「ソレト、頭ノ上ニタクサンノ砲塔ガアルケド、チョウド中心ノ部分ヲ攻撃スレバ駆動ニ影響スルカラ、マズハココヲ狙ウベキネ」
………………。
うん。これも初めて聞いた。
一応俺も教員の端くれだし、提督になるため色々と勉強してきたが、書籍などで目にしたことはないんだけれど……、
「……アッ、良ク考エテミタラ、コレッテ機密事項ダッタカシラ?」
おいおいおいおいおい。
色んな意味で危うすぎる発言だけど、マジで大丈夫か港湾よ。
「マァ、痛イノハ私ジャナイカラ、別ニ良インダケドネ」
他人事のように言いながら、港湾は次の絵へ進む。
ところで、機密事項ってやっぱり、深海棲艦側の……ってことだろうなぁ。
つまりそれって、場合によっては港湾の持つ情報欲しさに、大本営が動き出す可能性があるんじゃないだろうか?
いくら同盟を組んでいるとはいえ、港湾とほっぽは深海戦艦の一部でしかない。未だ世界各地の海域で戦闘が行われている以上、港湾が持つ機密事項は喉から手が出るほどの価値を持つはずだ。
だがしかし。
よくよく考えてみれば、地上とはいえ港湾を相手にして力任せに情報を得ようとするのも難しい訳で。
そりゃあ、薬か何かで自白させれば不可能ではないかもしれないけれど、下手に怒らせる方が危険だろうし、なによりそういったことは元帥や高雄が上手くやってくれていると思う。
ヲ級の時もそうだったし、なんだかんだで数多くの皆が守ってくれているんだよね。
……まぁ、動画サイトで人気が出るほど周知されているのは、色んな意味でどうかと思うのだけれど。
これもまた、悪いことではないので止める必要はないのだが。
「次ハ戦艦ル級ニツイテダケレド……」
それっぽい絵を赤いマジックで囲った港湾が、なぜか俺の方を見る。
……なんだか、嫌な予感がするのですが。
「コイツニツイテハ、先生ガ説明スル方ガ良インジャナイカシラ?」
港湾の発言を聞いた子どもたちが、一斉に俺へ視線を向ける。
いや、ちょっと待って。マジで勘弁して欲しいんですが。
俺は全力でお断りだ! と言わんばかりに首を思いっきり左右に振るが、
「ソレデハ、先生ノッ、時間ダヨー」
「なんで歌のお兄さんっぽく言うですかっ!?」
「モチロン、ソノ方ガ面白イカラヨネ」
「ル級の影響を受けた港湾マジパネェッ!」
裏手で突っ込みを入れるも、そこは空気であって誰もいない。
そして向けられる多くの冷ややかな目に、俺の背筋は冷や汗まみれである。
「冗談ハサテ置イタトシテモ、実際ニル級ト会ッタコトノアル先生ダッタラ、アル程度ノコトクライ分カルデショウ?」
「会ったことがあるとはいえ、あの変態はどう考えても特異個体としか思えないですから!」
「アー……、マァ、確カニ……ソウネ」
そこで納得する港湾に一言以上申したい。
「デモマァ、先生モサポートラシク働イテモラワナイト」
「サポートという名にかこつけた、全振りですよねっ!?」
「ソンナコトハナイワヨ?」
「首を傾げて可愛らしく言ってもダメですからーーーっ!」
「ジャア……コレナラドウカシラ?」
そう言って、港湾は両手をおへそ辺りに置きつつ前傾姿勢に。
いわゆる、だっちゅーのポーズである。
つまりそれは、胸が強調されまくる訳で。
ぱ、パネェ……ッ!
「チッ……、愚兄ガ……」
「さすがは先生。
おっぱい星人ならぬ、おっぱい魔神の名は廃れていないであります」
「あ、あはは……」
ヲ級の突き刺さる視線に、あきつ丸の問題発言。そして苦笑を浮かべた五月雨。
「レ級ノ胸……ペッタンコダネ……」
「ホッポモ同ジ……ペッタンコ……」
なぜか2人でガックリと肩を落とすレ級とほっぽ。
「はぇ〜。
先生の変態さんレベルは、とんでもないみたいですねぇ〜」
「さっきの授業もそうだったけど、先生ってどうしようもない人にしか見えない気が……」
そしてポーラとザラの好感度は、既に底辺へと落ちきっていた。
……うん。今回ばかりは自業自得だから仕方ないね。
ちっくしょーーーーーうっ!
「気ヲ取リ直シタトコロデ、先生ノ時間デス」
パチ……パチパチ……。
子どもたちから数少ない拍手を受け、俺は仕方なくホワイトボードの前に立った。
「あー、えっと……、取りあえず戦艦ル級についての情報というか知識なんだけれど……」
港湾からバトンを強制的に渡されたが、授業を進めるため投げる訳にはいかない。
しかし、いったいル級の何を伝えれば良いのだろうか。
まずは提督になるため勉強していた知識から、当たり障りのない基本的なデータを書いていくか。
「艦種が戦艦だから、基本的にかなり強い深海棲艦だ。
16inch三連装砲に、12.5inch連装副砲、それに偵察機を装備していて、射程は長いな」
「ほほぅ……。
この情報は陸軍にいた時に学んだのと、同じでありますな」
感心したような眼差しを浮かべたあきつ丸の声が聞こえ、俺は少しホッとしながら言葉を進める。
「戦艦ル級より強いエリートや、フラグシップ、改造したフラグシップも確認されていて、後半になるほど固くて強い。
気をつけなければいけないのは、制空権を奪われると2回攻撃を行ってくることがあるから、編成は空母が重要になるぞ」
「うんうん。
制空権は本当に大事ですよね!」
何度も首を縦に振った五月雨が、目をキラキラとさせながらメモを取っていた。
「ちなみに戦艦ル級は鎮守府近海でも見かけられるので、偵察任務だからと気を抜かないようにな。
それと対空値もかなり高いから、生半可な艦載機では落とされる危険性があるぞ」
俺はそう言いながら、ヲ級を見る。
この班の中で唯一の空母はヲ級だけ。まぁ、艦載機を発艦できるという点で言えば、レ級やほっぽ、あきつ丸に港湾といるのだが。
「オ兄チャンノソノ目……、何ガ言イタイカ僕ニハ分カルヨ」
コホンと咳払いをし、席を立つヲ級。
「艦載機ハ、タコヤキマシマシ。
モシクハ赤オーラデ、バッチコーイ」
言って、触手をブンブンと振り回したが、俺が言いたいことは全く伝わってなかった。
あとついでに言っとくと、イベント時のトラウマだからマジで勘弁して下さい。
特に空母おばさん。マジで出てくんな。
「フムフム。
先生モ何気ニ、知ッテイルノネ」
心の闇を出しかけていた俺に、港湾が頷きながら俺の横に立った。
「デモマダマダ甘イワ」
「……と、言うと?」
「戦艦ル級ノ特徴ハ、ソレダケジャナイワヨ」
港湾はそう言って俺から赤色のマジックを奪い、ホワイトボードに描かれた絵の一部を円で囲う。
その場所は……、
「戦艦ル級ハ、軽巡ホ級ヨリモ胸部ガ豊満デアッタ!」
「だからなんで胸ばっかり強調するんだよっ!?」
「ダケド私ニハ、敵ワヌノダワ!」
「人の話、聞いてなーーーいっ!」
全力で叫ぶも糠に釘。だが、ここで諦めたら授業は脱線するばかりである。
「そ、それじゃあ次の絵だ!
これが分かる子はいるかな?」
「はい、であります!」
話を逸らすために問題を投げかけた途端、あきつ丸が元気良く手を上げた。
「あきつ丸、答えてくれ」
「その絵はもちろん、井戸の中からコンニチワ!
恐怖のホラー映画、リンg……」
「違うからそれ以上は止めて」
確かに髪型とか似ているから間違えるかもしれないけれど、今は深海棲艦の授業だからね!
つーか、言葉にされた途端、夜の海が怖くなっちゃったじゃないかよぉっ!
「そ、それじゃあこれは……分かるかな?」
ダメだ、このままでは悪い流れになってしまう。
どうにかして真面目な授業にしようと、俺は黒いマジックで新たな絵を描いて問題を出したのだが、
「闇堕チシタ那珂チャン」
「ブッブー!
これは軽巡棲鬼でーーーすっ!」
答えたヲ級に間髪入れず、ツッコミを入れてしまった俺。
「闇堕チシタ神通オ姉サンカナ?」
「確かにそれも、軽巡棲鬼ですけどっ!」
レ級まで感染してしまい、マジでやばくなってきた。
「悪雨《わるさめ》……でありますか?」
「駆逐……棲姫って言うんだよ……覚えようね……」
あきつ丸まで……。いやもう、本当にちゃんとした授業になってくれよぅ……。
間違いじゃ……間違いじゃないんだけどさぁ……。
「サテ、先生ガ程ヨク凹ンダトコロデ、オサライナンダケレド」
ホワイトボードの前でうずくまりかけた俺をよそに、港湾が子どもたちへ声をかける。
「ブッチャケタ話、最モ強イノハ誰カシラ?」
その問いに、子どもたちは……、
「……愛宕ダネ」
「愛宕先生カナァ」
「あ、愛宕先生であります……」
「や、やっぱり、愛宕先生かな……?」
「港湾オ姉チャンモ、強イケド……」
「いやいや〜、高雄さんも強かったですよ〜?」
「昨日のアレは……凄かったわよね……」
とまぁ、全員一致にならずとも、おおよその答えは揃っていたようで。
愛宕と高雄、マジパナイってことでまとまりましたとさ。
現在仕事が忙しすぎて執筆時間が取れにくいため、更新速度が遅くなる可能性があります。申し訳ありませんが、気長にお待ちいただけますと幸いです。
次回予告
港湾班の授業が終わった。
正直、ザラとポーラは港湾班で良いと思うのだが、朝に決めた通り次の班に臨時加入させなければいけない。
そうーー、これからが本番である。
艦娘幼稚園 第三部
~ザラとポーラはどの班に?〜 その6「しおい班へ向かいましょう」
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