艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 ザラとポーラのお試し愛宕班は終了し、次の班へ行くことに。
こう班にはヲ級という天敵が。それだけでも嫌な予感しかしないのに、初っ端から固まったザラとポーラを見た先生は、冷や汗まみれになりまがら……。

 同盟を組んだ深海棲艦が居るのは知っているよね……?


その4「エンカウント」

 

 ザラとポーラのお試し愛宕班は終了し、次の班へ行くことに。

 

 結局大井の風評被害という誤解を解くことが上手くできず、若干距離を置かれてしまっているのを感じるのが非常に辛い。

 

 だがしかし、だ。

 

 ここでめげたら俺じゃあない。今まで色んな問題に立ち向かい、なんとか乗り越えてきた経験を活かそうではないか。

 

 次にザラとポーラを臨時加入させるのは、港湾が担当する班だ。

 

 ここには朝礼時に子どもたちが騒ぐ切っ掛けになった、超危険生物であるヲ級がいる。生まれ変わりとは言え、自分の弟に超危険生物なんて単語を付けるのはどうかと思うのかもしれないが、今までの経緯を考えれば仕方がないことだ。

 

 問題なのは、ヲ級の性格やその他諸々だ。昨日ポーラを探している最中にヲ級と出会った際、ザラと俺がくっつかないかを危惧していたのは既に朝礼で分かっている話であるものの、以前から言っている通り、俺は子どもたちに手を出すなんて全くもって考えていない。

 

 このことは耳にタコができるくらい説明しているはずなのだが、未だに誰1人信じてくれていないのはどういうことだろうか。そりゃあ、子どもたちに好かれるのは幼稚園の教員にとって非常に喜ばしいことであるからして、嬉しくないはずがない。

 

 ……とまぁ、これらは随分と前から俺を悩ませている問題なのだが、そもそもザラとポーラに出会ったのは昨日だ。一目惚れならまだしも、2人にそういった雰囲気がないどころか、朝礼以降好感度がだだ下がりしている状況は少々辛いものがある。

 

 しかし考え方によっては、この機会を利用すればヲ級も分かってくれるのではないだろうか。

 

 つまり、今がチャンスだと思いながら、次の授業に向かった訳なんだけれど……、

 

 

 

 

 

「「………………」」

 

「「「………………」」」

 

 えー、現状を報告すると、ザラとポーラを教室に連れて入ったところで完全に立ったまま固まっているという感じです。

 

「い、いったい、どうしたんだ……?」

 

 俺はザラとポーラ、そして港湾たちの方へと顔を何度も行き来しながら、冷や汗混じりに問いかける。

 

「イヤ、私タチモ分カラナインダケド」

 

 港湾はそう答え、首を左右に振った。ほっぽやあきつ丸、五月雨も首を傾げた状態でこっちを見ている。

 

 しかし、一向にザラとポーラは反応がない。流石に心配になった俺は、ザラの両肩を掴んで軽く揺さぶりながら「大丈夫か?」と聞いてみたところ、

 

「……はっ!?」

 

 我に返ったのか、目をパチパチさせてから見上げ、俺と視線を合わすザラ。

 

「なんだか立ったまま気絶していたみたいだったけど、調子が悪いのか?」

 

「い、いえ、そ……、そうじゃないんですけど……」

 

 ザラはそう言って、俺から視線を逸し港湾たちの方を見る。

 

「………………」

 

 そしてまたしても無言になったザラに心配する俺だったが、今回はその間もそれほど長くはなく、ギギギギギ……と軋んだ音が鳴りそうな感じで首を後ろに向けてから、ポーラに話しかけた。

 

「ポ、ポーラ……、あれってやっぱり、間違いないよね……?」

 

「朝礼の時に気になっていましたけど……、間違いなさそうです……」

 

 コクコクコク……と、何度も頷くポーラ。そして、額にビッショリと汗をかくザラの身体は小刻みに震えている。

 

 近くで見る限り、2人は何かに怯えている感じがするのだが、いったい何が原因なのだろう。

 

 教室にいるのは港湾、ほっぽ、ヲ級、レ級、あきつ丸、五月雨。前の授業で臨時加入した愛宕班との違いは深海棲艦である4人がいることだが、これについては前もって話が済んでいるので問題ないはずだ。

 

 いや、しかしそうだったとしても、目の前にすれば恐怖がこみ上げてきた……というのも考えられなくはない。同盟が組まれ、舞鶴鎮守府では既に日常として受け入れられているものの、パスタの国が同じだという保証はどこにもないのだから。

 

 艦娘にとって、深海棲艦とは戦うべき相手。ここにいる港湾やほっぽ以外の深海棲艦とは未だに戦闘が繰り広げられているので、そのことをリットリオやローマから聞いていたとすれば、ザラとポーラが恐怖を感じるのも仕方がないのだろう。

 

 くそ……。こういう状況になり得るかもしれないってことは思いつけたはずなのに、なんて馬鹿だったんだよ俺は!

 

 自分自身の不甲斐なさに心が締め付けられるのを感じながら、どうにかして2人の恐怖を取り除いてあげられるのかと、頭の中で考えを張り巡らそうとしたところ……、

 

「……っ!?」

 

 いきなりザラが俺の手を跳ね除け、港湾たちの方へ走り出した。ポーラも後に続くが、とっさのことに慌ててしまった俺は、反応が遅れてしまう。

 

 ま、まさか、恐怖に駆られて攻撃に……っ!?

 

 いくらなんでもそれはダメだ!

 

 俺は2人を止めようと両手を伸ばしながら追いかけるが、既に港湾たちとザラの間隔はほとんどない。それならばと、大きな声で静止を求めようと口を開けた瞬間……、

 

 

 

「「大ファンです! サイン下さい!!」」

 

 

 

 ダッシュからのジャンピング土下座で港湾の前に着地したザラとポーラに、今度は俺が完全に固まってしまったのであった。

 

 

 

 

 

「実は動画サイトで見た、歌って踊る港湾先生とほっぽちゃんに一目惚れしちゃいまして……」

 

「そうなのです〜。舞鶴で会えれば良いなぁと思っていたら、まさか幼稚園に通えることになったので……とても嬉しいんですよね〜」

 

 間宮で甘味を食す艦娘のように、顔の周りをキラキラとさせたザラとポーラが満面の笑みで説明してくれた。

 

 ちなみに2人の手にはサイン色紙があるのだが、いったいどこに持っていたんだろうか。

 

 しかしまぁ、なんだ。2人は恐怖を感じていたんじゃなくて、嬉しかったのね。

 

 俺はホッと胸を撫で下ろしつつ、以前サポート担当になって港湾班の授業にきた際、動画のことを言っていたのを思い出した。

 

 那珂とコラボをして歌を動画サイトにアップしたら人気が出た港湾に、ほっぽがダンスを踊って同じようにブレイクし、いつの間にか有名になってしまったとか。

 

 そんなことがあって、一般市民にも深海棲艦でも怖くないのがいるよってことが広まったのは嬉しいことなのだが、まさかザラとポーラにも伝わっていたどころかファンだったなんて思いもしなかったよ……。

 

 いやしかし、考えようによっては2人を加入させる班の有力候補になったのではないかと思いつく。ヲ級の初見はともかく、ザラとポーラが港湾やほっぽを慕っているのであれば、上手く行く可能性は高いのではないだろうか。

 

 そんな風に安心しかけた俺だったのだが、ふと視線の隅に人影が映った。

 

 この班で1番の要注意人物こと、ヲ級である。

 

 しかもなぜか、そのヲ級がドヤ顔気味に2人に近づいてきているのだ。

 

 俺は一抹の不安を感じながらも、様子を伺ってみることにする。

 

 もちろん、すぐに対応できる距離でだ。

 

「ソレダッタラ、僕トレ級ノ漫才モ見テイルハズダヨネ?」

 

 言って、触手で持ったマジックを空中でスラスラと動かしていたが、ザラとポーラは首を傾げた。

 

「えっと、漫才……ですか。

 ポーラ、知ってる?」

 

「いいえ、全然知りませ〜ん」

 

「ゴフ……ッ!」

 

 胸を押さえ、よろめくヲ級。同じようにレ級も手で口を押さえて吐血しているようなポーズを取っていた。

 

 ナイスなリアクションだな……と感心しつつも、気を許してはいけない。

 

「……それよりも、あなたって私が先生を狙っているとか言っていましたよね?」

 

「ポーラもちゃんと聞いてました。

 飲んだくれじゃないですよ〜」

 

 先ほどとは打って変わって、険悪な表情になるザラとポーラ。

 

「オ兄チャンニ頼マレテ探シテヤッタノニ、ナンテ言イヨウダヨ!」

 

「ポーラを見つけてくれたことには感謝してますけど、それとこれとは話が別です!」

ポーラは飲んだくれじゃありません〜!」

 

 売り言葉に買い言葉。ヲ級も険悪になり、睨み合う3人。

 

 せっかくいい感じだと思っていたら、いきなり転落しちゃったよ!

 

 やっぱりヲ級がいると、こいうなっちゃうのかなぁっ!

 

「そもそも、なんで私と先生が付き合うみたいな話になってるんですか!?」

 

「ナッ……!

 ソンナコト言ッテナイデショ!

 僕ハ、オ前ガオ兄チャンヲ狙ッテイルンジャナイカッテ……」

 

「それがおかしいって言ってるんです!

 教師と生徒が付き合うだなんて、漫画のお話じゃないですか!」

 

「甘イ、甘イネ!

 今ヤ漫画ノ世界ハ現実ニ存在シテルノダヨ!」

 

 ズビシッ! と、効果音が背中に浮かび上がっているかのごとく、ヲ級が触手と手を合わせて決めポーズを取る。

 

 しかし言わせてくれ。

 

 どう見ても、悪役のそれにしか思えないことを。

 

「ポーラは飲んだくれなんかじゃありません〜!

 ちょっとぶどうジュースが好きなだけの、美少女戦士なんです〜」

 

 いや、なんか後半色々とおかしいんだけれど。

 

 自分に美少女と付けるのもアレだが、戦士ってなんだ。

 

 なんか惑星の名前が付いちゃったりする、アニメか何かのやつなのか!?

 

 それと、ポーラが飲んだくれて幼稚園の前で寝ていたのをしっかりと見ている俺としては、前半の発言も見逃せないんだけどね!

 

「何ダカ、白熱シチャッテルノ……」

 

「青春でありますなぁ……」

 

「こ、これって、青春なのかな……?」

 

 ヲ級とザラの言い争いに、遠目で見ていたほっぽやあきつ丸、五月雨がボソリと呟く。

 

「トックニ授業時間ハ始マッテイルンダケレド、コレヲ見ルノモ楽シイワヨネ……」

 

 そう言って、椅子に座りながらほっこりと眺めている港湾棲姫。

 

 それを聞いてすっかり忘れていたけれど、今って授業時間じゃん!

 

 そして普通はそれを止めるべく、俺というサポート役がいるんですけどね!

 

「ストップだ、ストップ!

 これ以上の言い争いは止めなさい!」

 

「ナンダヨ、オ兄チャン!」

 

「そうですよ!

 元はと言えば、先生がちゃんと否定してくれないからこんなことになっているんじゃないですか!」

 

「いやいやいや、俺もちゃんと否定したよっ!」

 

「ポーラの飲んだくれについて、否定してくれませんでした〜」

 

「それは本当だから仕方ないよね!」

 

「なっ!?

 先生までポーラに酷いことを言うんですか〜!」

 

「あっ、いや、今のはなんと言うか……その……」

 

 しまった。つい勢いで本当のことを言ってしまった……。

 

「こうなったら仕方ないです……。

 ポーラが飲んだくれじゃないことを、今ここで証明するしかありません〜!」

 

 そう言ったポーラが、どこに隠し持っていたのか大きな瓶を取り出して蓋を開けようとする。

 

「こ、こら!

 今は授業中なんだから、ジュースを飲もうとしない!」

 

「は〜な〜し〜て〜く〜だ〜さ〜い〜!

 ポーラは今、ぶどうジュース分が足りないんです〜!」

 

 いや、それってただ単に飲みたいだけじゃんっ!

 

「ポーラ!

 なんであなたはいつもいつも、ぶどうジュースを隠し持っているの!」

 

「やめて下さいザラ姉様〜!

 早くぶどうジュースを飲まないと、手がプルプル震えてくるんですよ〜!」

 

 いやもうそれ、禁断症状と一緒だよねっ!?

 

 つーか、その瓶の中身って、本当にぶどうジュースなのかっ!?

 

 変なクスリとか入ってないですよねぇーーーっ!

 

 

 

 ……とまぁ、港湾班の臨時加入も、初っ端から踏んだり蹴ったりだった。

 

 結局騒動を止められなかった俺が、1番悪いってことなのかなぁ……。

 





次回予告

 ヲ級を止められないどころか、ザラやポーラまで白熱しちゃったよ……。

 しかしまぁ、まだ授業は始まったばかり。どうなるかは分からない。
港湾とほっぽのファンだと言うし、可能性はまだあるはず……と思っていたら?


 艦娘幼稚園 第三部
 ~ザラとポーラはどの班に?〜 その5「機密事項」


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