そしてやったきた待望の艦娘は、初っ端からかましてくれちゃいました。
更には、すっかり忘れ去られていた艦娘まで大暴れで……?
俺たちに少しだけ待ってほしいと伝えたポーラは、懐から取り出したぶどうジュースを片手に晩酌? を開始し始め、早2時間。
その間、リットリオと元帥のイチャつきは止まることなく続けられ、正直考えるのも面倒くさくなってくる。
もうこの際、放っておいて退出したら良いんじゃないだろうかと思ってみたものの、赤城のお願いを無視する訳にもいかないのでそれはできず。
更に言えば、未だに高雄が倒れたままなんだけど、マジで大丈夫なんだろうか。
でも、何か触れてはいけないような雰囲気がするんだよなぁ……。
それがリットリオの威圧感なのか、それとも別のモノなのかは分からないけれど。
……まぁ、赤城が黙っている以上、俺から何かをするのは止めておいた方が良いと思う。
とまぁ、そんな感じで時間を持て余しつつ、ポーラから少しばかりぶどうジュースを分けてもらったりしていたところで、急に扉が開いた。
「失礼するわ」
やや低めの声が聞こえ、女性が部屋に入ってくる。舞鶴鎮守府で見たことのない姿だが、リットリオによく似た服装をしているところから、ポーラが呼んだであろう艦娘なんだろう。
ただ、気になるのは……、
ドオォォォンッ!
艤装を装備したままなんですが……って、いきなり砲弾発射したんですけど!?
「うひゃあっ!?」
リットリオとイチャついていたところ、いきなりすぐ側に放たれる砲弾。爆音と共に大きな穴とひび割れが壁にできる。
そして大声をあげた元帥と、驚愕した面持ちで固まるリットリオ。
もちろん、俺と赤城も同じように固まっているが、なぜかザラとポーラは若干呆れぎみ表情を浮かべていた。
「姉さん、いったい何をしているのかしら?」
「ろ、ろ、ろ、ローマ!
ど、どうしてここにいるの!?
と言うか、なんでいきなり撃ったの!?」
「どうせ話しかけても気づかないだろうと思ったからよ」
「「………………」」
固まるリットリオの口は開いたままで、元帥も身動き一つできないでいる。
もちろん先ほどと同様に俺や赤城も同じだが、1つ言わせてくれ。
問答無用にもほどがあるんですけどーーーっ!
つーか、自分が所属している鎮守府ならともかく、いきなり他所……どころかここの最高司令官である元帥の真横で砲弾をぶっ放すなんて、正気の沙汰じゃないぞ!?
そして、「やれやれですねぇ〜」とお手上げのポーズを取っているポーラも、分かっていたのなら止めるくらいのことはしてくれないかなっ!
「とりあえず何だか分からないけど、妙にむしゃくしゃするから全弾発射して良いかしら?」
「それはマジでヤバイので勘弁して下さい!」
このままでは本当に元帥が死んでしまうかもしれないので、俺は慌てて暴走しようとする艦娘を止めようと声をあげた。
「……なに?
私に用でもあるのかしら?」
「こんな状況で用事がないって方がおかしいでしょうがーーーっ!」
いつ俺に向けて砲弾が飛んでくるか分からない状況にビクビクしながら止めに入ったところで、艦娘の眉がピクリと動く。
「とにかく、物騒な艤装を構えず、話を聞いて下さい!」
「………………」
俺の言葉に艦娘はすぐに返事をせず、なぜか頭から爪先まで見下ろした後、
「仕方ないわね……。
良いわ、話してちょうだい」
気だるそうな顔をしながら腕を組んだところで、俺はホッと胸を撫で下ろした。
「なるほど。そういうことだったのね」
赤城から聞いた経緯を話し、ついでに簡単な自己紹介をしたところ、目の前の艦娘がリットリオの妹であるローマだと知った。
そんなローマは俺の説明を聞いて組んでいた腕を解き、眉間のシワを右手の指で摘みながら深いため息を吐く。
「つまり姉さんは視察と言いながら、実際は元帥に会いにきた。
そしてひと目で惚れ、秘書艦の高雄さんをぶちのめして、その座を奪ったと」
「う”っ……」
「視察という言い訳を成立させるため、ザラとポーラまで巻き込むなんて、何を考えているのかしら……」
「そ、それは……その……」
明らかに気まずいです……といった風にローマから視線を逸らそうとするリットリオ。しかし、ローマの眼力の前にそれも叶わず、ビクビクと身体を小刻みに震わせることしかできないようだ。
ただし、元帥の身体に抱きついたまま。
地味に羨ましいと思ってしまうが、状況が状況なだけに心の中に秘めておくしかできない。
「弁明はあるのかしら?」
「え、えっと、うーん……」
言い訳が浮かばないのか、リットリオは頭を捻りながら何度も元帥とローマの顔に視線を行き来させる。
しかし一向に言葉は出てこず、ローマが「そう……」と言って、もう1度ため息を吐いた。
「姉さん、いっぺん……死んでみる?」
「……っ、……っ!」
とんでもないローマの発言に、激しく首を左右に振りまくるリットリオ。
実際のところ、開口より先に砲弾をぶっ放しているローマを見た俺にとっては、本当にやりかねないと冷や汗ダラダラだ。
ちなみに元帥はリットリオに抱きつかれいる力が強まったのか、場所が悪いのか、首がだらんとなって気絶中。口から泡を噴いているのはいつものことだから大丈夫だろう。
しかし……なんだ。
簡単な自己紹介だったので想像も絡むのだが、姉であるリットリオに対して妹のローマが圧倒的に強すぎるというのは、いったいどういうことなのだろう。
俺の横でやや疲れ気味な表情を浮かべているザラと、緊張感なくぶどうジュースを飲みながらくつろいでいるポーラとの姉妹とは、正反対の立ち位置というのは、色んな意味で面白いと言うかなんと言うか。
………………。
でもまぁ、親交があるとはいえ、いきなり他国の鎮守府……ましてや最高司令官の元帥がいる執務室で砲弾をぶっ放すなんてことは、軍法裁判待ったなしだと思うんだよね。
………………うん。
やっぱりこれって、マジでやばくないか……?
あ、でも、秘書艦の高雄を救うためと言えばなんとかなるかもしれないけれど。
いやしかし、その場合はリットリオが裁判行きか。
………………。
どっちにしても、詰んでいるとしか思えないんだが。
「ふぅ……」
そんな俺の気を知ってか知らずか、ローマは何度目か分からないため息を吐く。
そしてなぜか、俺の方に顔を向けた。
「姉さんがマイペースなのはいつものことだから、どうでも良いのだけれど」
「……へ?」
俺に向けられる真剣な眼差し。そのまま歩み寄ってくるローマ。
「え、え、え……っ!?」
狼狽えているうちに、目と鼻の先に立ったローマが俺に視線を合わせる。
身長差はほとんどなく、水平に絡み合う視線。これが恋愛沙汰ならまだしも、つい先ほど砲弾を発射した艤装を装着したままのローマなのだから、怖いったらありゃしない。
「あなたが……先生ね」
不機嫌そうな顔で、ローマが俺に問う。
「は、はい……。そ、そうですけど……」
思わず答えたが、俺はローマと面識がない。それなのに、なぜ俺のことを知っているのだろうか?
「この前の試合、しっかりと見させてもらったわ」
「し、試合って……まさか……」
「ええ、そう。
観艦式の合間に行われた、鎮守府最強トーナメントの決勝戦よ」
「………………え?」
あれってただのお遊びだったんじゃ……。
あっ、そういえば変態作業員が、なにやらごちゃごちゃと言っていた気もしなくもないけれど……。
いや、しかしそうだったとしても、初戦が決勝ってどういうことなのさ!?
「………………(ぶくぶく)」
問い詰めようと思って元帥の方を見たが、未だ気絶しっぱなし。
普段なら即座に復活するはずなのに、リットリオに締め続けられているからなんだろうか。
いくら不死身だと言われていても、ちょっとばかりヤバイ気もしなくもないのだが。
……まぁ、元帥だから別に良いか。
「あの試合、本当に見ごたえがあったわ。
人間同士とは思えない戦いに、思わず血潮がたぎったもの」
「は、はぁ……。ありがとう……で良いのかな……?」
どう反応して良いのかわからないけれど、褒められたとは思うので小さく頭を下げよう……と思った瞬間、
ブオンッ!
「うおっ!?」
唐突に嫌な感じがした俺は、半ば無意識に体重を後ろに倒してローマから距離を取る。
下から上へ、目の前を過ぎ去っていく一筋の線。それは、ローマのつま先だった。
そして俺の視界には、めくれ上がったスカートの中身が……。
………………。
純白だった。
「この程度の蹴りなら余裕で避けるとは、さすがね」
「いえいえ……って、謙遜とかそんな場合じゃなく、なんで蹴ったの!?」
叫んではみたものの、気づけば俺の身体は構えを取っており、軽くステップを踏んでいた。
これもまた、ビスマルクとの闘争が身に染み込んでしまった弊害。マジでいったい、どうしちまったんだよ俺は。
「もちろんそれは、先生の実力を知るためよ」
言って、ローマもまた構えを取る。
「なんでいきなりバトルを起こす気満々なんですかっ!」
「そんなことも分からないのかしら?」
小刻みなステップを刻みながら、ローマは小さく息を吐き、
「私より強い相手を……探しているからよ」
そして、一気に俺との距離を縮めるため、足に力を込めた……が、
「はあっ!」
「ぐうっ!?」
いきなり横方向へ吹っ飛ぶローマ。
「………………えええっ!?」
そして驚く俺。同じく固唾を呑んで見守っていた赤城やザラ、ポーラの目が大きく見開かれ、完全に固まっていた。
「ふぅ……。狸寝入りも楽じゃありませんわね」
「た、高雄……さんっ!?」
執務室に入ってきてからずっと床に倒れていた高雄が、いつの間にか復活していて首をゴキリと鳴らしながら、元帥とリットリオの方を見る。
「元帥がどういう態度を取るのかをしばらく観察するつもりでしたけれど、気絶しているだけで面白くもなんともありませんでしたわ」
「そ、それじゃあ気絶していたフリだったんですか……?」
「リットリオのラリアットは少々効きましたが、アレ1発でノックアウトする方が馬鹿め……という感じですわ」
視線を強めてリットリオを見ていた高雄だったが、まずはやらなければいけないことがあるという風に、吹っ飛んだローマの方へと向かう。
「……くっ」
痛みに顔を歪ませたローマが立ち上がろうとしているが、どうやら身体が思うように動かないようだ。すぐ横の壁には激突した衝撃で大きなヒビが入っており、高雄の攻撃がどれほど凄いものだったかを物語っている。
「しかしそれでも、さすがはパスタの国の戦艦と言うだけはありますわ。
私の一撃を受けてもなお、気絶しないのですから」
フンッ……と鼻で笑った高雄は、ローマの胸元を掴んで無理やり起こす。
今回の原因を作ったのはリットリオだが、ローマもまた元帥に向かって砲弾を発射した艦娘。まずは脅威を排除しようとしたのは分からなくもないけれど、高雄も同じく問答無用って感じだよね!?
「元帥に直撃させなかったのは残念ですが、先生に危害を与えようとするのはいただけません」
……と思ったら俺のためだったらしい。
なんだかちょっと嬉しいけれど、元帥の立場はどれだけ弱いのだろうか。
「まだ……やりますか?」
「……当たり前でしょう。
不意打ちを食らって寝ていられるほど、私はそんなに……」
ゴッシャアッ!
「〜〜〜〜〜ッ!」
再び吹っ飛ぶローマが、壁に背中を激しく叩きつけた。
先ほどよりも大きなヒビが生まれたが、それ以上に俺が驚いたのは、
「い、いったい高雄は、何を……」
見えなかった。
高雄がローマにはなった攻撃が、いったいなんであったのか、サッパリ分からなかったのだ。
プロレスの時、安西提督が放ったマッハ突き。
元帥に幾度となく叩き込まれた10連コンボ。
今まで見てきたいくつもの打撃より速く、そして強烈だった。
そして……高雄は再びローマの胸元を掴み、無理矢理起こす。
「まだ……やりますか?」
「……も、もう……さすがに……」
そりゃそうだ。
ローマのダメージが大きいのは一目瞭然。
いくらなんでも、その状況から再び戦おうなんて……、
「……っ!?」
無理だーーと思っていた俺の視界に、ローマの動きが映り込む。
もはや瀕死と言っても過言ではないのに、高雄に一矢報いようと、
「やられたままじゃ、いられないわっ!」
目を光らせ、渾身のアッパーカットを放つ。
「……で、しょうね」
……が、それも無駄に終わっていた。
まるで興味がないといった風な表情で、ほんの少し顔を左に逸らす。
たったそれだけで、ローマのアッパーカットは空を切っていた。
「……っ!?」
更には、ローマの身体がビクリと大きく震える。
見れば、高雄の拳はローマのみぞおちに吸い込まれており、
……ドサッ。
そのまま、床へと倒れ込んでいた。
「これで、ジ・エンドですわね」
肩をすくめ、ため息を吐く高雄。
気絶した元帥は怯えて震えるリットリオに抱かれたまま。
俺も赤城も、ザラもポーラも、身動きできずに固まっている。
これが舞鶴鎮守府の最高司令官である元帥の秘書艦、高雄の実力なのか……。
ほんの少しの戦いを見ただけで、絶対に歯向かわないでおこうという気持ちが心に刻まれた瞬間であった。
あと、元帥の顔が真っ青なんだけど、マジで死んでないよね……?
後の話。
騒ぎを起こしたリットリオ、そしてそれらを更に大きくしてしまったローマの両名は裁判に送られることもなく、まさかの無罪放免だった。
高雄曰く、お仕置きは済みましたからとのことだが、早々に執務室から退出させられた俺たちに何があったのかを知る由もない。
気絶したローマ、怯えたままのリットリオ、そして気絶しっぱなしの元帥に、鬼神の高雄。
それらがいったい、あの後の執務室でどうなったのかは想像することすらおぞましい。
ザラとポーラも怯えまくってしまった為、さすがに視察を進めることができずじまい。お腹が減りまくっていた赤城と一緒に、やや早めの夕食を食べに鳳翔さんの食堂へ行くことになった。
昼食に引き続いてだったものの、美味しい料理を食べれば怯えも少しは解消できるもの。ザラは中華セットに夢中となり、ポーラは完全におつまみとぶどうジュースの打ち上げモードに浸っていた。
ただ、赤城の食べっぷりを見た2人が、別の意味で怯えていたのは仕方がないことだったのだが。
少しは自重しろと、ブラックホールに言いたい。
たぶん……無理だけど。
その後、2人を宿泊予定場所である艦娘寮に連れていき、赤城とタッチ交代。
寮内に俺は入れないとはいえ、赤城の側に近寄りたがらないザラとポーラが、すがるような目を向けていたのは少々悪い気がしたんだよね。
視察の予定は1泊2日。
後になって分かったとはいえ、リットリオとポーラがどうなるか不明だった以上、場合によっては子どもたちを先に帰すことになるかもと思われていたのだが……、
「不本意だけど、舞鶴鎮守府に所属することになったわ」
次の日の朝。自室がある建物から出たところで、いきなり現れたローマが腕を組みながら鋭い目つきでそう言った。
なんで、そんなことになっているのかさっぱり分からない。
詳しく聞いたところ、今回の騒ぎを聞きつけたパスタの国の提督が命令を下したらしい。
その内容は、負けた相手をギャフンと言わせるまで帰ってくるな。
そしてその原因を作ったリットリオもまた、同じく帰還できないという。
つまりそれは、一緒について着たザラやポーラも同じであり、
結果、艦娘幼稚園に通うことになったのである。
……マジか。
新たなる火種が、ばら撒かれたって感じじゃね……?
艦娘幼稚園 〜パスタの国からやってきた!〜 完
次回予告
執務室の人悶着があった翌日、ローマから知らされた状況により、新たな問題に直面する。
ザラとポーラ、どの班に入れたら良いんだろう?
そして2人を子どもたちに紹介したら、案の定という訳で……。
艦娘幼稚園 第三部
~ザラとポーラはどの班に?〜 その1「新たなイベントもいつも通りに」
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