艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 ヲ級の力を借りて最初に見つけた者はどうでも良かったりしたが、なんとかポーラを発見する。
ただし、その状況はあまりにも……であった。


その6「怠惰の嵐」

 ヲ級が発見したと言い、ゆっくりとこちらを向く。

 

 そして眉間にシワを寄せ、もったいぶるように口を開いた。

 

「ンー……ト、アッチノ方ニアル建物ノ裏手ニ木ガアルンダケド、ソコデロープニ吊ラレテイルヨ」

 

「吊ら……れ……て……?」

 

 何を言っているのかよくわからないといった風に、首を傾げるポーラ。

 

 大丈夫、俺もサッパリ意味がわからない。

 

 つーか、なんでポーラはそんな状況になってんのっ!?

 

「両足ヲククラレテ逆サニナッテルケド……ッテ、コレヨク見タラ元帥ダネ」

 

 

 

「「ズコーーーッ!」」

 

 

 

 てへっ、と舌をペロリと出しておちゃらけるヲ級に、思わずズッコケてしまった俺とポーラ。

 

 というか、いくら話で聞いただけとはいえ、どうやったら元帥とポーラを間違えるんだよぉっ!

 

 そして元帥! なんでそんな状況になっちゃってんのっ!?

 

「ナオ、元帥ノ側ニハ青葉オ姉サンモ釣ラレテマス」

 

「……たぶんそれは自業自得だから放っておけ」

 

「ラジャー」

 

 俺の言葉に戸惑うことなく返事をしたヲ級は、再びポーラの捜索を再開する。

 

「こ、ここの鎮守府で1番のはずである元帥が、ロープで逆さ釣りになっているのに放置されちゃうの……?」

 

 そしてザラが信じられないという感じの表情で俺を見ていたが、詳しく説明すると舞鶴の恥を晒すことになるので、黙っておくことにした。

 

 しかし……だ。

 

 確かリットリオは赤城と一緒に元帥のところへ向かったと思うんだが、どうしてこんな状況になっているのだろう?

 

 いくつか想像がつくが、1番可能性が高いのは……、

 

 リットリオに、色目を使ったんだろうなぁ。

 

 いつもの通りに高雄がお仕置きという名のプロレス技。そして今回は赤城もセットだろうから、手数は倍以上になっているはずだ。

 

 そして見せしめにロープで吊られている。

 

 うん、おそらくこれで間違いないだろう。

 

 どうせなら簀巻にされて建物の屋上辺りから吊られれば良いのに。

 

 更には逃げる元帥が飛行甲板の代わりに、大きなハンマーを持った赤城に追い回されれば良いのに。

 

 デフォルメされたカラスが飛んでいるのが頭の隅っこで浮かんだが、それくらいやってこそ元帥だと思うんだよね。

 

 どうせバズーカで撃たれてもピンピンしてそうだからさ。

 

「ヲ……?」

 

「ん……、どうした?」

 

 ちょっとばかり思考が逸れていたところで、ヲ級が小さな声をあげる。

 

 首を傾げて曖昧な表情をしているが、またしても元帥絡みじゃないだろうな……?

 

「ナンカ幼稚園ノ近クニ、ソレッポイ子ガイルンダケド……」

 

「それはポーラだよな?

 また元帥と間違っちゃったりしていないよな?」

 

 念のために強く問う俺に、ヲ級は視線を逸らさない。

 

 表情も変わっていないし、おそらく嘘をつこうとはしていないだろう。

 

「聞イタ特徴ト合致シテイルカラ、大丈夫ダト思ウンダケド……」

 

 ヲ級にしては珍しく戸惑っているような口調に、俺は別の意味で不安を感じてしまう。しかし、ここで話を打ち切るわけにもいかず、続きを促した。

 

「ナンデ……コンナ時間カラ、地ベタデ寝テイルンダロ……?」

 

「………………寝てる?」

 

「それはたぶんポーラです!」

 

 ヲ級と同じように首を傾げた俺の隣から、強い口調でザラが叫ぶ。

 

 しかし……なんだろう。それだけでポーラと想像できてしまうのは色んな意味でどうかと思うのだが、今まで見てきたことを踏まえてみると納得できなくもない。

 

 ただまぁ、ザラにとっては身内の恥をヲ級にも晒してしまっていることになるんだけれど、すでに手遅れかもしれない。

 

 だって、ヲ級は艦載機を通して見ているんだからね。

 

「周リニ瓶ガイッパイ転ガッテイルケド、深夜ノ飲ンダクレタサラリーマンノヨウニシカ見エナイノハ気ノセイジャ……」

 

「100%ポーラに間違いありません!」

 

 断言しちゃいました。ええ、それはもう、ハッキリと。

 

 さすがのヲ級も困惑したままで、俺の方をおずおずと見てきた。

 

 うん……。お前が言おうとしているのは分からなくもない。

 

 だが、おそらくザラが言う通り、地べたで寝ているのはポーラの可能性が高いだろう。

 

「………………」

 

 俺のアイコンタクトを理解したのか、ヲ級は納得しきれない表情ながらも頷いた。

 

「幼稚園の近くですね。

 ありがとうございますっ!」

 

 そして深々と頭を下げたザラが、急に駆け出して行く。

 

「お、おい、ザラ!?」

 

 さっき幼稚園に行ったとはいえ、ここから迷わずに向かえるのか!?

 

「すまんヲ級、助かった!」

 

「ヲッ、別ニ良インダケド……オ兄チャン」

 

「ん……、どうした?」

 

「コノオ礼ハ、今度ヨロシクネー」

 

「分かった。

 コンビニスイーツでOKだな?」

 

「3ツデヨロシクー」

 

「む……、分かったよ」

 

 若干欲張りな気もするが、ポーラが見つかったので良しとしよう。

 

 ……いや、本当に幼稚園近くにいるかどうか怪しいが、流石に嘘はつかないと思うし。

 

 それより早くザラを止めなければと、俺はヲ級に会釈をしてから走り出した。

 

「ザラ、ストップ、ストーーーップ!」

 

 急に走り出したザラを追いかけながら、俺は大きな声で呼び止める。

 

「ダメです!

 早くポーラのところに行って起こさないといけませんから!」

 

 しかしザラは俺の方へと振り返らず、走る速度を落とさない。

 

 若干距離が離れてはいるが、見失うほどではない。いきなり道を逸れて建物の影に隠れられたらヤバイかもしれないが、幼稚園に向かうという目的があるのだから、そんなことはしないだろう。

 

 とはいえ、俺もこのままザラを放っておくことはできないし、追いかけっこを続ける気もない。

 

 なぜなら、いまザラが走っている道は、幼稚園から離れてしまうルートな訳で。

 

「おーい、ザラー。

 このまま走っちゃうと、幼稚園から遠ざかるんだけどー」

 

「え……?」

 

 あ……、止まった。

 

 そしてゆっくりと俺の方へと振り返るザラ。

 

「えっと、こっちの方向じゃないんですか……?」

 

「うん。

 このまま行くと埠頭の方に出ちゃうよね」

 

「あ、あうぅ……」

 

 ザラは恥ずかしそうに頬を染め、涙目を浮かべながら両手で顔を覆う。

 

「今日始めてここに来たんだから仕方がないって。

 俺がちゃんと連れて行ってあげるから、ほら……」

 

 言って、俺はザラに手を差し伸べる。

 

「え、えっと……、お、お願いします……」

 

 耳の先まで真っ赤にしたザラが俺の手をそっと触れるのを確認してから優しく握り返し、幼稚園へと足を向けた。

 

「はぅ………………」

 

 なぜかザラの方から小さな声が聞こえた気がするんだけれど、おそらくポーラを心配しているからだろう。

 

 

 

 

 

「………………」

 

「………………」

 

 最短ルートを使って幼稚園にやってきた俺とザラの視界に、なんとも言い難い光景が広がっていた。

 

 幼稚園を囲う塀。そして中に入る玄関へと続く門の前で、仰向けになりながらスヤスヤと眠るポーラ。

 

 頭の下には枕代わりのジュース瓶。周りにも複数の瓶やペットボトルが散乱している。

 

 ちなみに銘柄は違えど、それら全部にぶどうに関係する文字が書かれていた。

 

 ……どんだけ好きなんだよとツッコミを入れたい。

 

 そして、この光景はヲ級の言う通り、完全に飲んだくれた深夜のサラリーマンだ。

 

 まさしく終電を逃してしまって眠りこける図。ついでにヅラが外れ落ちていたらフルコンボである。

 

 ……なお、現在の時刻はおよそ14時。完全な昼で、ぶっちゃけあってはならないんだけれど。

 

「………………」

 

 そして冷静に状況を見ていた俺の隣で、両手を強く握りしめたザラが全身をプルプルと震わせている。

 

 ……うん、その気持ちは痛いほどよく分かる。

 

 そしておそらく、これがザラやポーラにとって日常茶飯事じゃないのかなぁとも思ってしまうわけで。

 

「ポーーオーーラーーーーッ!」

 

 激昂したザラが寝ているポーラの耳を掴み、大声で叩き起こし始める。それはもう、埠頭で出会ったとき以上の音量だ。

 

「スヤァ……」

 

 しかしそれでも起きないポーラは……って、マジか。

 

 至近距離で絶叫レベルの声を上げられているのに、そのまま眠り続けられるのってある意味才能じゃないだろうか。

 

 ただし、決して褒められるとは思わないけど。

 

「でへへ……。

 もう飲めませんよぅ……」

 

 寝言を呟いたポーラが、転がっていた瓶を両手で掴んで抱き寄せる。

 

 ううむ、完全に酔い潰れたダメ人間……いや、ダメ艦娘の子どもか。

 

 更に言えば、周りに転がっている飲み物の容器は全てアルコールは入っておらず、なんでこんな状態になっているのかサッパリなんだけれど。

 

「むうううう、こうなったら……っ!」

 

 するとザラは意を決したように締まった表情を浮かべ、懐をゴソゴソと探り始めた。

 

「この手は使いたくなかったですけど、仕方ありません!」

 

 そうして取り出したのは、小さいサイズのペットボトル。自動販売機でよく見ることができる、グレープ味の炭酸飲料っぽいのだが……。

 

「これをこうして……」

 

 蓋を捻ってパキリと鳴り、飲み口をあらわにする。

 

「ん……?」

 

 すると大声を出しても起きなかったポーラが、鼻をヒクヒクとさせながら頭を揺れ動かした。

 

「くんくん……この匂いは……」

 

「ほーら、ポーラの大好きなウェノレチだよー」

 

「ウェノレチッ!」

 

 大声を上げて即座に起き上がるポーラ。

 

 いや、まだ飲む気なのかポーラは。

 

 散らかったままじゃ具合が悪いと思った俺は転がっている瓶とペットボトルを集めていたけど、かれこれ20本近くあったんだが……。

 

 どう考えてもお腹がパンパンになるどころか、どうやって飲んだんだって感じなんだぜ……?

 

 飯を食わせたら舞鶴のブラックホールコンビ。ジュースを飲ませたらパスタの国のポーラ……というところだろうか。

 

 ジュースには糖分も多いから、糖尿病とか大丈夫なのかな……?

 

 せめてゼロカロリーのとかにすればと思うんだけど、ああいうのって数があまり多くないからなぁ……。

 

「ウェノレチ〜……ウェノレチィ〜……」

 

 目をトロンとさせながらザラが持つペットボトルに迫ろうとするポーラだが、半ば眠っているのかフラフラとした足取りがなんとも怖い。

 

 これじゃあ夢遊病状態か映画とかで見るゾンビみたいなんだけれど、色んな意味で他人に見せられないよね……。

 

 ザラが使いたくない手と言った意味がハッキリと分かります。ええ、そりゃもう、見ているこっちも恥ずかしい気がするもん。

 

「うぅ……、ぶどう分が足りません……」

 

 そして禁断症状に陥った患者のように、膝を着いて苦しそうにするポーラ……って、なんでやねん。

 

 もはや病院直行コースじゃないかと思えちゃうんだけど、本当に大丈夫なんだろうか……。

 

「ブドウ糖も良いけど〜……やっぱりぶどうが良いんです〜……」

 

 寝言は寝て言えではないけれど、それって全く別物だからね。

 

「はい、ポーラ。

 ゆっくりと飲みなさい」

 

 ふぅ……と息を吐いたザラはポーラにペットボトルを渡す。

 

 そんな中、俺はふとザラの口元が少しだけつり上がったのを見逃さなかった。

 

「ウェノレチ〜♪」

 

 ペットボトルを受け取ったポーラはそのまま飲み口を咥え、手を離してから頭をクイッと後方に反らして一気に飲む。

 

 お、おいおい……、死ぬぜアイツ……。

 

 そんな言葉が頭の中によぎってきたが、これって本当に大丈夫なんだろうか。

 

 小さいとはいえ、ポーラが飲んでいるのはウェノレチではなく、パッケージに書かれているのはどう見ても有名な炭酸飲料じゃあ……

 

 

 

「ぶふーーーっ!?」

 

 

 

 うわ、ペットボトルが吹っ飛んで、口から噴水のように吹き上がったぞ……。

 

 どう見ても大丈夫じゃないです。

 

 炭酸飲料を一気飲みとか、マジで危険ですからねっ!

 

「げほっ、げほげほっ!」

 

 咳き込みまくるポーラだけど、まぁそうなるな。

 

「ザ、ザ、ザラ姉さま!

 これウェノレチじゃないっ!」

 

 そして怒るポーラは涙目ながらもパッチリと空き、憤怒した表情を浮かべている。

 

「無果汁は嫌いって、いつも言っているじゃないですかーーーっ!」

 

 両手をグルグルと回して抗議するポーラが可愛い……じゃなくて、無果汁ってところが問題なのか……?

 

「起こしても起きないポーラが悪いんでしょっ!」

 

「ザラ姉さまのバカバカバカッ!」

 

「こんな時間からジュースばっかり飲んで眠っちゃうポーラの方がバカなんだからっ!」

 

「バカって言ったザラ姉さまがバカなんですーーーっ!」

 

「先に言ったのはポーラでしょーーーっ!」

 

 

 

「「ムキーーーッ!」」

 

 

 

 そして始まった姉妹喧嘩。

 

 両者ともにグルグルパンチを放っているのがなんとも微笑ましく思ってしまうが、流石にこのまま放置できるはずもない俺は急いでなだめすかせることになったのであったとさ。

 

 

 

 

 

 ……とまぁ、そんなこんなで2人が落ち着いた後、時間も頃合いということでリットリオの元に送り届けようと思っていたところ、

 

 ピリリリリ……。

 

「ん……?」

 

 携帯電話が鳴ったのに気づいた俺は、ズボンのポケットから取り出して画面を見る。

 

「この番号は……いったい誰だ?」

 

 見たことのない番号の羅列だけで、相手の名前が入っていない。登録をしていない番号からなんだけど、出ないわけにもいかないよな……と、通話ボタンを押した。

 

『先生、聞こえますか!?』

 

「この声は……赤城さんですか?」

 

『ええ、そうです!

 すみませんが、視察のお子さんを連れて至急元帥の執務室に来て下さい!』

 

「は、はい。

 分かりました」

 

 明らかに焦っている声で急かされた俺は、急いで2人を連れて執務室へと向かう。

 

 いつも冷静に見える赤城があんな声を出すなんて……と一抹の不安を感じながら。

 

 

 

 まさか執務室であんなことが起きているなんて、このときには夢にも思わなかった。

 




次回予告

 赤城からの電話で呼び出された先生が執務室に到着する。
するとそこでは、とんでもない状況が繰り広げられていた……?


 艦娘幼稚園 第三部
 ~パスタの国からやってきた!〜 その7「まさかの展開」


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