挨拶を済ませた一行は案内に。
途中、リットリオや赤城と別れ、ザラとポーラを連れて練り歩く。
お腹が減ったらもちろん、あの食堂へ。
赤城の案内で埠頭から鎮守府中心部へと進み、各施設を案内しながら元帥の執務室がある建物の前にやってきた。
「それでは先生、私とリットリオさんは元帥のところへ向かいますので、子どもたちをよろしくお願い致しますね」
「はい、お任せ下さい」
俺は軽く胸を拳で叩きながら大丈夫だとアピールし、2人の子どもたちに笑顔を向ける。
ザラはそんな俺を見て少し恥ずかしげに微笑んだが、ポーラはキョロキョロと辺りを見回していた。
ぐむむ……。ちょっと残念と言うかなんと言うか。
まぁ、会ってまだ少ししか経っていないんだし、初めてくる場所ってこともあるから仕方ない。むしろザラが笑みを返してくれた分、良好と捉えられるだろう。
「ザラ、ポーラ。
私はここの元帥に用事があるので2人と別れますが、その間はしっかりと先生の言うことを聞いてご迷惑をおかけしてはダメですよ」
「はい、分かってます」
真面目な顔でしっかりと頷くザラ。
「ほ〜い」
それに対してポーラはマイペースに返事をし、視線はあっちこっちへ向いたままだ。
「………………」
思わず眉間辺りを指で摘み、頭痛を我慢する仕草をするリットリオ。
そんな様子を見て、俺と赤城は苦笑を浮かべるしかなかったんだけれど。
「それでは時間ですので、そろそろ……」
「は、はい。
分かりました」
そう言って、リットリオはポーラに厳しい視線を向ける。
「ほわ〜……。
ここの鎮守府はポーラたちのとこと全然違いますねぇ〜」
「ポーラ」
「はいは〜い。
ちゃんと分かってますよぉ〜」
「はぁー……」
ポーラのやる気のない返事にリットリオは深いため息を吐いたが、時間が押しているので仕方なく肩を落としながら赤城と一緒に建物へと入っていく。
まるで佐世保にいる俺と同じような境遇だな……と思いつつ、その背を見送る。
そして、子どもたちに向かって一言発しようとしたところ、
「ポーラ!」
「ひゃいっ!?」
「こっちに来るときにちゃんとしなきゃダメって何度も言ったでしょ!」
「痛い痛い痛い!
ザラ姉さま、そんなにやったらちぎれちゃうーーーっ!」
ザラがポーラの真正面に立ち、悪鬼のような表情で両方の耳を引っ張っていた。
「ちょっ、そ、それ以上はやばいって!」
涙目で悲鳴をあげるポーラがあまりにも痛がっているし、なによりザラの表情が半端じゃない。このまま放っておけば耳に怪我を負ってしまいかねないので、すぐに止めるよう言ったのだが、
「ダメです!
ポーラにはこれくらいしなきゃ、お仕置きにならないんです!」
「し、しかし、本当にこのままじゃ……っ!」
ポーラの顔から耳が分離しかねないと思った俺は、ザラの後ろから両手を掴む。
「邪魔をしないで下さい!」
「邪魔もなにも、ポーラが大怪我しちゃうんだぞ!」
「そうですよザラ姉さま!
このままじゃ、ポーラの耳がー」
「そんなに言うんだったら、耳じゃなくてこっちです!」
耳から手を話したザラだったが、今度は両頬をつねって思いっきり引っ張った。
「むにょおおおおおーーー!?」
ポーラのびろーんと頬が伸び、再び大きな悲鳴があがる。
「いい、ポーラ!
ちゃんと反省したの!?」
「そ、それもダメだって!」
俺は慌てて止めさせようとザラの両手を掴むも、とんでもない力で歯が立たない。
「は、はんしぇいしましゅたっ!
だひゃら、はにゃしてーーーっ!」
「本当に、本当に反省したの!?」
「みょうかっふぇなこちょひゃ、しましぇんかりゃーーーっ!」
駄々泣きしながら反省の弁を述べるポーラに納得したのか、それとも自らのストレスが発散できたのか、ザラは大きく息を吐いてから再び強く睨みつけ、手を離した。
「痛い……痛いですよぉ……」
「ポーラの自業自得でしょ!
これに懲りたら、自分勝手な行動は慎みなさい!」
「うぅぅ……」
ガックリとうなだれたポーラが涙目で俺の方を見ると、メソメソとしながら口を開いた。
「か、勝手なことをして、ごめんなさい……」
「い、いや、俺は大丈夫だからさ……」
さすがにいたたまれなくなった俺はポーラを慰めようと、頭に手をのせて優しく撫でる。
「ほわ……」
続けて引っ張られていた頬に触れ、癒やすようにナデナデと。
「ほわわわ……」
さっきまで泣いていたのが嘘かのように、ほんわかとした表情を浮かべだすポーラ。
「なんだか先生の手が……気持ちいいです〜」
喜んでいるみたいなので、もう少しだけ続けてみよう。
「ほわわわわ〜ん……」
ナデナデナデナデ。
「なんだかぶどうジュースを飲んだ後のように気持ちいいですねぇ〜」
ポーラはそう言って、リラックスしきったかのように力の抜けた表情を浮かべている。
ただ、なんというか、今の言葉はどうなんだろう。
ぶどうジュースを飲んで、気持ち良く……なっちゃうのか?
それって、アルコールが入っているんじゃないんだよね……?
間違っても、すでに飲酒を嗜んでいるってわけじゃないんだよねぇっ!?
「も、もう、先生!
あまりポーラを甘やかさないで下さい!」
「わわっ!?」
ちょっとばかり撫で過ぎたのか、ザラが苦情を言いながら俺とポーラの間に割り込んできた。
「せっかく気持ちよかったのに……ザラ姉さまったら〜」
頬をプックリ膨らませたポーラがザラにジト目を浮かべ、音量を控えて愚痴を言う。
……が、それを聞き逃さなかったザラは、キッと厳しい視線をポーラに向け威嚇した。
「……ひっ!」
慌ててポーラが俺の背に隠れ、覗き込むようにザラの方を見た。
「うぅ……、ザラ姉さまが怖いです……」
ガクガクと膝を震わせるポーラがそう言うと、ザラは再び大きなため息を吐く。
「もういいです……。
先生、案内をお願いします」
「あ、あぁ……」
不機嫌そうに俺とポーラからプイッと顔を背けたザラが歩き出すのを見て、非常に前途多難な案内が始まってしまったと、ため息を吐きそうになった。
案内するとはいえ、2人は子どもだ。だとすれば、鎮守府の施設を視察する場所は限られており、真っ先に浮かんでくるのは幼稚園である。
しかし今日は休日。幼稚園に子どもたちはいない。できれば授業を行っているところを見せたかったが、ザラとポーラは今日中に舞鶴を発つらしいので、その願いは叶いそうにない。
それならばと、俺は愛宕に許可を貰って鍵を預かり、幼稚園の中を案内した。教室で座学の授業をしているとか、休み時間は遊戯室で遊んでいる子どもたちがいるとか、大部屋で布団を敷いて全員が揃って昼寝をしているとか、色々と説明しながら回っていく。
最初の方は想像するのが難しかったザラやポーラも、次第に表情が楽しそうになっていった。幼稚園のいたるところを回り尽くし、案内が終わる頃には2人とも残念そうにしていたので、少しばかり心が痛みそうになる。
ならば……と、今度は別のところへ行く。ちょうど時間もピークを過ぎて良い頃合いだろうと、入り口の引き戸を開けて中に入った。
「わぁ……」
ポーラが嬉しそうな顔を浮かべ、ポーラは今までどおりキョロキョロと辺りを見回す。
「いらっしゃいませ、先生。
それと……初めましてかな」
「あっ、ど、どうも、初めまして。
パスタの国から来ました、ザラです。
よ、よろしくお願いいたします!」
出迎えてくれた千歳にペコリとお辞儀をするザラ。初めて会ったときと同じように礼儀正しく、良くできた子……なんだけれど、
「こっちから良い匂いがします〜」
「こ、こらっ、ポーラ!」
フラフラと厨房の方へ歩いていこうとするポーラを見つけたザラが、急いで止めようと腕を掴んで阻止する。
こちらも同じというか、反省の色が全くないんだけれど。
これじゃあまた、ザラの雷が落ちちゃうんじゃないかなぁ……。
「あはは。
ここは料理を作っているから、そうやって入っちゃいそうになるのも仕方ないよね」
千歳は慣れたようにポーラの前に行って屈み込むと、ニッコリと笑って言葉を続ける。
「そこの椅子に座って待っていてくれれば、とっても美味しいのを作ってあげられるから、我慢できるかな?」
「美味しい料理ですか〜?」
「うん」
間を置かずに頷いた千歳を見て、ポーラは人差し指を口元につけながら「う〜ん……」と考え込む。
そしてパンッと手を叩くと、満面の笑みを浮かべて口を開いた。
「それじゃあポーラ待ちます。
それと〜、ぶどうジュースを一緒にお願いできますでしょうか〜」
「ぽ、ポーラ……」
「ええ、ぶどうジュースね」
怒り出そうとするザラより早く頷いた千歳は姿勢を戻し、厨房へと向かっていく。
「はぁ……、スミマセン……」
厨房に消えた千歳に謝ることができなくなったザラは、俺に向かって謝罪する。
「大丈夫、大丈夫。
千歳さんに任せておけば問題ないよ」
俺はそう答え、ザラとポーラを座らせるために椅子を引く。2人とも大人しく席に着き、しばらく談笑することにした。
「ここではやっぱり、和食が食べられるんでしょうか〜」
早速と言うかなんと言うか。ポラーは目をキラキラと光らせながらテーブルに置かれたお品書きを手に取り、色々と目を凝らしている。
「鳳翔さんの食堂は色んな料理が食べられるけれど、その中でも和食は絶品だな。
昼食はランチメニューがあって、日替わりや決まった定食が人気なんだ」
「ふむふむ〜」
「日替わりは中華だったり洋食だったりと色々だけど、和食が良いなら単品も頼めるんだが……」
俺はそう言いつつ厨房の方を見る。すると千歳が両手を使い丸を作ってくれたのを確認できたので、ニッコリと笑いながら2人の方を向いた。
「今日は2人のために特別メニューを頼んでおいたから、もうちょっとだけ待ってくれるかな」
「特別メニューですか?」
「ああ。
ザラやポーラの口に合うかどうかは分からないけれど、たぶん気に入ってくれると思うぞ」
「それは楽しみですねぇ〜」
首を傾げながらも期待するザラに、嬉しそうな顔で頭を動かして小さな円を描くポーラ。
俺はこの日のためにと鳳翔さんに連絡を取り、スペシャルランチセットをお願いしておいたのだ。
料理の内容はおまかせだが、基本的には和食メインで頼んである。せっかくこの国に来たのだから、思い出に残る料理を食べて欲しいよね。
もちろん俺もお腹が減っているので、同じものを食べられるという期待もある。いったいどんな料理が出てくるのか、正直楽しみで仕方がない。
「もうちょっとでできるから、先にこれを飲んで待っててね」
すると千歳がお盆に載せた3つのコップと1本のジュースを持ってきた。どうやらポーラがさっき頼んだ、ぶどうジュースのようだ。
「あっ、すみません。
ありがとうございます」
わざわざ椅子から降りて頭を下げるザラに、千歳はニッコリと笑いながら首を左右に振り答える。ザラが席に戻ったのを確認してからコップを置き、ジュースを注いでから厨房へと戻っていった。
「それじゃあまずは、コレで乾杯といくか」
「わーい。
ぶどうジュースですぅ〜」
「もう、ポーラったら……」
即座にコップを持ったポーラを見たザラは、呆れながらも肩を落とし俺に苦笑を向ける。
「えーっと、初めての出会いに……かな」
「そう……ですね」
「ポ〜ラは〜、ぶどうジュ〜スが飲めればなんでも良いですぅ〜」
飲んでもいないのに呂律がまわっていない気がするんだけれど、もしかして匂いだけで酔っちゃったのか……?
いや、それ以前になんでジュースで酔うって話なんだが……。
「じゃあ、乾杯」
「乾杯」
「乾杯です〜」
チーンとコップをぶつけ合った俺たちはジュースに口をつけ、ホッと一息……と思いきや、
「んぐ、んぐ、んぐ……」
ポーラだけが、完全に一気飲み状態なんですが。
「ぷはー、もう一杯〜」
そして即座にジュースをコップに注ぎ、またしても一気にあおっていた。
「ふぃ〜、良い気持ちです〜」
「ちょっと、ポーラ!
そんなに一気で飲んじゃったらダメじゃない!」
「大丈夫ですよ〜ザラ姉さま〜。
これくらいじゃ酔いませんってぇ〜」
「そういう意味じゃないってば!」
怒ったザラがコップを取り上げようとするが、ポーラは素早い身のこなしで逃げる。それどころかジュースの瓶まで奪い去ろうとしたのだが、収拾がつかなくなるのは勘弁してほしいので、先読みしていた俺がしっかりと確保した。
「はわっ!
ポーラのぶどうジュースが……」
「はっはっは。
残念だけど、料理がくる前からガバガバ飲んじゃったら食べられなくなっちゃうだろう?」
「うみゅぅ……。
それくらい飲んでも、大丈夫なのにぃ……」
ガックリと肩を落とすポーラ。
そしてなぜかザラが尊敬の眼差しみたいな視線を俺に向けていたんだけど、すぐに戻ったから気のせいだよね?
……とまぁ、そんなこんなで料理がくるまで、もうちょっとだけ待つことにする俺たちだった。
長くお休みさせていただきましたお詫びも兼ねて、プレゼント企画を開催中です。詳しくは活動報告にて、よろしくお願いします。
次回予告
鳳翔さんの食堂で昼食を取る3人。
先生は遠い国からやってきた2人にプレゼントとして、スペシャルなランチを予約していた。
おいしい料理に舌鼓で、うまくいったと思いきや、やっぱり何事も起きないなんて保証はなく……?
艦娘幼稚園 第三部
~パスタの国からやってきた!〜 その4「新たな火種?」
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