艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 長くお休みさせていただきましたお詫びも兼ねて、プレゼント企画を開催中です。詳しくは活動報告にて、よろしくお願いします。


 相変わらずの不幸っぷりな先生もいつものこと。

 視察の到着時刻に見えた輸送船。そして現れるパスタの国の艦娘。
あいさつもそこそこに案内をするつもりだったのだが、なにやらトラブルが起こったようで……?


その2「正反対な姉妹」

 

 なんだかんだあったが埠頭に着いた俺は、赤城と一緒に視察に来る艦娘を待ちながら佇んでいた。

 

「あっ、来たみたいですよ」

 

 手をおでこに当てて日差しを作る赤城が声をあげる。かなり遠くの方に小さな粒のようなものが見えるが、おそらくそうなんだろう。

 

 さすがは艦娘。ましてや空母となれば、その目の能力は尋常じゃない。

 

 うん、さっきは何もなかったんだ。俺の隣にいる赤城は、鎮守府を代表する一航戦の赤城なんだから。

 

 自分に言いきかせた俺は、小さく息を吐いて携帯電話取り出し画面を見る。時刻は予定時間の5分前。おそらくここに到着するのはピッタリなんだろう。

 

「さて、いったいどんな子が来るのかな……」

 

「ふふふ……、先生ったら、凄く目がキラキラしていますよ?」

 

「えっ、そ、そうですかね……」

 

 唐突に言われて驚いたが、別にやましいことじゃないから大丈夫だ。

 

 ビスマルクたちとは違う国の小さな子。どんな姿なのか、どんな性格なのか、気にならない方がおかしいってものだろう?

 

「やっぱり先生は小さな子が好きなんですね」

 

「いや、その言い方だと完璧に危ないヤツに聞こえますから、マジで止めて下さい」

 

「あら、褒めたつもりなんですが……」

 

 キョトンとした顔で答える赤城が首を傾げるが、どうやら本当に分かっていないのだろうか。

 

 1歩間違えたら社会的に死んじゃう言葉なんだけど。リーチ一発死んじゃうツモなんだけど。

 

 ただでさえ色んな噂がドラみたいに乗っちゃっていて大変なんだからさぁ……。マジで勘弁してくださいよぉ……。

 

「けれど、実際に先生は非常に嬉しそうでしたから」

 

「そりゃあ、初めて会う子ですからね……」

 

「そうして新たな被害者を増やしていくんですね」

 

「いやいやいや、とんでもない発言は止めてくださいよっ!

 というか、これってさっきのお返しだったりするんですかっ!?」

 

「いえいえ、そんなことはありませんよ?」

 

「それじゃあなんで視線を逸らすのかなぁっ!」

 

「ふー……ふぅー……」

 

「口笛吹けてないしっ!

 むちゃくちゃ下手だしっ!」

 

「ふーんふーんふーん、ふっふふーん、ふっふっふーん♪」

 

「なんで暗黒面に落ちたジェ●イの登場曲を鼻歌で歌うんですかーーーっ!」

 

 絶叫する俺を尻目に、赤城は含み笑いをしながら海を見つめる。

 

 気づけば小さな粒はそれなりの大きさになっており、到着するのはすぐだと知らせてくれていた。

 

 

 

 

 

 埠頭にゆっくりと横付けする小型の輸送船。そしてその前に、先導してきたのであろう艦娘が備え付けられているはしごを使って上がってくる。

 

「おぉ……」

 

 ウエーブがかった金髪を後ろにまとめ、真っ白なカチューシャがアクセント。肩を露出しつつも白い袖が腕を包み、胸元の赤、白、緑を使った3色のネクタイがキリッと全体を締めているような服装。

 

 大きな艤装にはたくさんの砲塔があり、重圧感とともに信頼を寄せられる。こちらもネクタイと同じように3色のカラーで染めており、どこの国に所属しているのかがすぐに分かった。

 

「Buon giorno!」

 

 ニッコリと笑って俺と赤城に手を振る艦娘が近づいてくると、握手を求めてくる。

 

「ど、どうも」

 

 俺も笑みを浮かべながらその手を握り、小さくお辞儀をした。

 

「ワタシはパスタの国からやってきました、ヴィットリオ・ヴェネト級戦艦2番艦、リットリオです。

 本日は無理なお願いをきいていただき、本当にありがとうございます」

 

 おぉ……、無茶苦茶流暢な日本語じゃんか……。

 

 開口一番が向こうの言葉だったから若干焦っていたけど、これなら普通に会話ができそうだ。

 

「私は元帥の部下で第一艦隊の旗艦を務めさせていただいています、一航戦赤城です。

 本日の視察では私が鎮守府を案内いたしますので、よろしくお願い致しますね」

 

 赤城も同じく自己紹介をし、ニッコリと笑みを浮かべた。

 

 さっきとは全く違う雰囲気だけれど、これは猫を被っているんだろうなぁ。

 

 それともう1つ。小さいながらも、お腹から音が鳴っていますよ赤城さん。

 

 さすがはブラックホールだね!

 

 ……と、先ほどやり返せなかった分を心の中で呟いていると、赤城が俺に手を向ける。

 

「そしてこちらが、舞鶴鎮守府にある艦娘幼稚園の先生です」

 

「あ……ど、どうも、よろしくお願いいたします」

 

 唐突すぎて若干どもてしまった俺だったが、なんとか挨拶をしようと再び頭を下げた。

 

「あなたが聞いていた先生ですね。

 早速、同伴してきた子を紹介したいのですが……」

 

 そう言って、船の方へ顔を向けるリットリオ。

 

 小型船から出てきた作業員らしき人たちが、埠頭へタラップを設置し終えている。

 

「………………」

 

 しばらく待つリットリオ。

 

「………………」

 

「………………」

 

 無言で佇む俺と赤城。

 

「………………あれ?」

 

 いつまで経っても誰も降りてくる気配はなく、リットリオの表情が少しばかり焦っているように見える。

 

「おかしいですね……」

 

 さすがにこのまま待っていてもダメなのかと思ったのか、リットリオが小型船へ歩を進めようとしたところ、

 

「……っ、………………っ!」

 

 なんだろう。なにか言い争いをしているような感じの声が聞こえてくるんだけれど。

 

「Oui……?

 また、何かあったのでしょうか……」

 

 頭の上に疑問符を浮かべるように傾げたリットリオは、タラップを進んで小型船へと入っていく。

 

 気のせいでなければ、『また』という言葉が聞こえたんだけれど、それってどういう意味なんだろうか。

 

 もしかして、やってきた子どもたちはちょっとした問題児とか……?

 

 そんなの、うちの園児たちとかち合ってしまったら……ヤバイじゃないか!

 

 こっちにはヲ級や龍田、それにビスマルク……は園児じゃないけれど、厄介どころが満載なんだ。

 

 もし仮に気でも合ってしまったら最後、俺の平穏は完全に消え去ってしまうじゃんかよぉーーーっ!

 

 ………………。

 

 まぁ、既に手遅れ感はあるけどね。

 

 それと、今日は幼稚園が休みなので出会う可能性も少ないのが助かるってところかな。

 

「遅い……ですね……」

 

 赤城も心配になったのか、少し緊張した面持ちで小型船を見つめながら呟く。

 

 するとしばらくして、リットリオがタラップを降りてくるのが見えた。その後ろには2人の子供がいて、金髪でウエーブがかった子供が、もう1人の手を繋いでいるんだけど……、

 

「ザラ姉さま〜、そんなに〜引っ張らないで〜ください〜」

 

 なんだろう。手を引っ張られているグレーでウエーブの掛かった髪の子は、もの凄くフラフラしているように見えるんだけれど、頬の辺りが真っ赤で、律が回っていないみたいなんだが。

 

「なんだか夜の鳳翔さん食堂にいる、隼鷹みたいに見えるんですが……まさかですよね?」

 

 そうーー俺に問いかけてくる赤城だが、俺に分かる訳がない。

 

 うん。本当に分からないが、見た感じは間違いなく……酔った状態ですよね、あれ。

 

 ………………。

 

 いやいやいや、見た目からして子供だよね?

 

「あんまり引っ張ると〜、酔いが回っちゃいますよぉ〜」

 

 それって船酔いってことだよねっ!

 

 お酒が入っちゃっているって訳じゃないんだよねっ!?

 

「うぅ……、なんだか暑くなってきちゃいました……」

 

「こらっ!

 こんなところで服を脱ごうとしないの!」

 

「ええ〜、でも暑いですし……」

 

「言うことを聞かないんだったら、手じゃなくてほっぺを摘むわよ!」

 

「そ、それはイヤですぅ〜」

 

 ブンブンを激しく顔を振りまくるグレー髪の子。

 

 そしてその動きの後、余計に酔いが回ったかのように「おぇぇ……」って下を向きながら顔を青くしている。

 

 うん。これ、あかんやつや。

 

 完全に、酔いどれです。だって、足がおぼつかないというより、千鳥足なんだもん!

 

 パスタの国ってまさか、本当に子供の頃から飲酒がOKなの!?

 

 俺の心配をよそに、埠頭に降り立った3人が近づいてくる。もちろんグレー髪の子は半ば強制的に連行されている状態なんおだが、突っ込んだら負けな気がするので黙っておく。

 

「お待たせしてすみません。

 この2人が一緒に連れてきた子なんですが……」

 

 リットリオがそう言って視線を向けると、金髪の子が俺を視界に入れ、グレー髪の子を引っ張っていた手を離し、おへその辺りで組んでからペコリと頭を下げた。

 

「Bu……Buon Giornov!

 私はザラ級重巡の1番艦ザラです。

 よ、よろしくお願いいたします!」

 

 元気よく挨拶をすると笑顔を浮かべたザラ。リットリオと同じく流暢な日本語で驚きつつ、俺と赤城も同じように頭を下げて「よろしくね」と挨拶を返す。

 

「………………」

 

 そしてなぜか間が空く。

 

「………………?」

 

 無言で俺を見るザラの顔が、徐々に険しくなってきた。

 

 はじめは眉間にシワが寄り、続いて頬が赤くなり、しまいには両目を閉じて拳を握り込み……、

 

 どう見ても完全にお怒りモードである。

 

 しかし、俺も赤城もザラを不機嫌にさせるようなことはしていないのだが……と思ったところで、視線をずらした。

 

 あー……、うん、そういうことね。

 

 俺が理解したところで、ザラが我慢の限界といった風に顔を後ろに向ける。

 

「くぅー……すぴー……」

 

 そこには、漫画くらいしか見ることができない大きな鼻提灯を作ったグレー髪の子が、立ったまま眠っている。

 

 す、凄いな。

 

 立ったまま眠っているのって、初めて見たかもしれない。

 

「あ、あらあら……」

 

 赤城も気づいたようで、微笑ましいような、気まずいような、なんとも言えぬ顔を浮かべていた。

 

 なんとなく分かっていたんだけれど、船から降りてくるのが遅かったのはこの子が原因なんだろうなぁ……。

 

「ポーオーラーーー!」

 

「……ふにゅうっ!?」

 

 ザラに鼻を引っ張られて起こされたグレー髪の子が、涙目になりながら声を上げる。

 

「ザッ、ザラ姉さま、痛い、痛いっ!」

 

「どうして挨拶しないで寝ているのっ!

 第一印象が大事なんだから、ちゃんとしなさいって言ったじゃない!」

 

「うぅ……、分かりましたよぉ〜……」

 

 これ以上怒られるのは勘弁したいという風に、グレー髪の女の子が俺の方に向かってジロジロと顔を見ると思いきや……、

 

「………………」

 

「………………」

 

 うん。目がトロンとしているね。

 

 こりゃあ、数秒後に寝てしまうのは間違いないぞ。

 

「ポオラァァァァァーーーッ!」

 

「ひゃわっ!?」

 

 眠るのを阻止しようとザラが耳を引っ張って自らの口元に引き寄せ、大声で怒鳴りつけた。

 

「ザ、ザラ姉さま……、なにをする………………う”っ」

 

「………………」

 

 両腕を組んでガンを飛ばすザラに気圧されたようで、観念した風にガックリと肩を落としながら俺に顔を向ける。

 

「ザラ級重巡三番艦……ポーラです……」

 

 そう言って頭を下げるが、まだ眠たいのか右手で目をこすっていた。

 

「きょ、今日はよろしくね」

 

 苦笑を浮かべながら挨拶を返す俺に、隣の赤城も笑いながら頭を下げる。

 

 様子をうかがっていたリットリオに表情を見て判断した赤城は、「これで挨拶は済みましたし、それじゃあ行きましょうか」と言ってぽんっと手を叩き、先導する形で歩き出すことになった。

 




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次回予告

 挨拶を済ませた一行は案内に。
途中、リットリオや赤城と別れ、ザラとポーラを連れて練り歩く。
お腹が減ったらもちろん、あの食堂へ。

 艦娘幼稚園 第三部
 ~パスタの国からやってきた!〜 その3「案内とご飯」


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