天龍&時雨、雷&電のラーメンは思っていた以上に美味しかった。
続けてヲ級&金剛が作るラーメンにも期待を寄せる先生と元帥だが、はたしてどうなるか。
そして、最後には……。
「ソレジャア次ハ、僕タチノ出番ダネ」
「イエース!
全力投球でまいりまショウ!」
雷と電のラーメンを食べ終わったところで、ヲ級と金剛が隣の部屋からやってきた。
立て続けに2杯を食べたとはいえ、中華そばのサッパリとした感じに胃の中が厳しい感じはない。それどころか少しお腹が減ったんじゃ……と思えてくるのはどうしてなんだろうか。
「うーん、このサッパリ感がたまらないですよねー」
スープのみが残った丼にレンゲを落とし、味わっているしおいが感想を言う。
笑顔ながらも若干涙目が見えるのはかなり辛いものがあるので、次こそはちゃんと分けてあげられるように自重しておかなければならない。
……というか、子どもたちもどうして2杯分しか作っていないんだろうか。
この際、元帥に食べさすんじゃなくて、しおいにあげちゃったほうが良いんじゃないかなぁ。
「ヨイショット」
「こぼさないように、運ばないとネー」
お盆を持ちつつこちらへ向かってくる危なっかしい2人の様子に、少々嫌な予感がするのは気のせいだろうか。
まさかとは思うが、テーブルに丼を置く寸前につまずいたりして、中身をぶちまける……なんてことは勘弁願いたい。
……ただし、元帥に向かってなら両手を上げて喜ぶが。
でもまぁ、せっかく作ってくれたラーメンをふいにするのはもったいないので、やっぱり無事に到着してほしいです。
「さてさて、次のラーメンはどんなのかなー」
俺の気も知らずにウキウキ気分の元帥だが、ここで少し気になることがある。
今から食べるラーメンも、おそらくヲ級と金剛の2人1組で作ってきたのだろう。
1杯目のラーメンは天龍と時雨だったが、鳳翔さんから教えてもらったこともあって非常に美味しい出来だった。更には時雨という完璧超……じゃなくて園児が作ったと考えれば納得できてしまう。
2杯目のラーメンは雷と電。姉妹のコンビネーションに、こちらも鳳翔さんから教えてもらって作ったということから、充分な出来だったことも分かるのだ。
しかし、この2人はどうなのだろう。まず、ヲ級が人に教えを請うということをあまり聞いたことがない。小さい頃を知っている俺は、ヲ級が料理をしていたという記憶が全くないのだ。
更に偏見も混じってしまうが、金剛の方にも気がかりがある。まず、金剛が料理好きだとか上手いだとかは聞いたことがない。それを言えば子どもたちの大半に当てはまってしまうかもしれないのだが、ヲ級とのコンビという点が不安感を煽っているのだ。
そんなことを考えているうちに、テーブルの上に2杯の丼が置かれた。
「ほほー、これはこれは……」
元帥が前のめりでラーメンに視線を向けると、俺の鼻に磯風味の香りが漂ってきた。
いや、これは風味ではなく、明らかにこれは魚介のはず。
それも、かなりの特濃で。
「オ待タセー」
「ヲ級と金剛の合作ラーメンが登場デスヨー!」
その言葉を聞き、俺は前に置かれた丼に視線を落とす。
スープの色は黄金色。野菜とエビ、イカ、ホタテなど魚介類の具がドッサリと真ん中に重鎮し、真っ白な湯気を立たせている。
「うんうん、これもなかなか美味しそうだねー」
元帥は我慢できないとばかりにお箸を持ち、真ん中の具を口の中に入れた。
せめて頂きますくらい言えば良いのに……。
ジト目を向ける俺だが、元帥は気にせず食べ進める……と思いきや、
「……ん?」
頭の上に疑問符を浮かばせながらも、元帥は麺をすすっていく。
「こっちは……うん、大丈夫……だよね。
でも、ん、んー……これは……その……」
徐々に曇っていく表情に先程の嫌な予感が実現してしまったのかと思いながらも、食べないで感想を言う訳にもいかないとスープを口にしてみた。
「……ふむ」
色と香りから想像できる通り、これは塩ラーメンだ。
魚介のエキスがたっぷりと染み込んだ出汁に、玉葱らしき甘みが感じられる。これだけならなんの問題もない……と思えるのだが、口の中に感じる雑味がなんとも言えなくさせてくれた。
「これは……おそらくこれか……」
俺はつぶやきながら真ん中にドッサリと乗った具を箸でつかむ。白菜にもやし、キクラゲにエビやイカなどを炒めたもので、ちゃんぽんの具と言えば想像しやすい。
それらをまとめて口の中に入れて咀嚼する。塩コショウなどでシンプルに味付けしてあると思いきや、素材の味が感じられない。それどころか、とてつもなく食感が最悪なんだけど。
言っちゃあ悪いが、具が完全にラーメン全体をダメにしてしまっている。これは流石にいただけないのだが、どうしてこうなったのだろうか。
「こ、この具はどうやって調理をしたんだ……?」
「それは私が担当したデース!」
ふんぞり返るくらいに胸を張って答える金剛を見て、なぜか待機している時雨からため息が聞こえてきた。
「えっと、金剛……。
この……具は、味付けをどうしたのかな……?」
「料理の好みは人それぞれデース!
だからもちろん、味付けはナッシングネー」
「そ、それじゃあ、調理方法は……?」
「生は寄生虫とかが危険デスから、あつーいお湯で茹でまくりましたデース!」
「な、なるほど……」
焦げ目がついていなかったから焼いていないと思っていたが、茹でるにしたって限度がある。
これは金剛の今後を考えて、助言をしておいた方が良いんじゃないだろうか。
ヲ級から冷たい視線を浴びせられているのにも構わず、「私の料理で先生が喜んでくれたら、ハッピーハッピーデース!」と叫びながら目を閉じ身体をクネクネさせているのは色んな意味で恐ろしい。
「あぁ、そっか……」
「ど、どうしたんですか、元帥?」
「金剛ちゃんってさ、イギリス出身……だったよね」
「そ、そういえば、確かに……」
俺と元帥は納得しつつ大きなため息を吐く。
油で揚げたおすとか、食感を気にすることなく茹でるとか、そういうことなら聞いたことがあったかもしれない。
これは、要練習……といったところだな。
思わず2人揃ってため息を吐く。そんな反応を見て、ガックリとうなだれるヲ級。
想像するに、麺とスープはヲ級が作って、具を金剛が担当したということなのだろう。
そして最大の失敗は、味見していなかった点だろうか。
スープだけなら、十分美味しいとは思うんだけどね……。
「あー……これはそのー……」
お腹が減っていたしおいだが、俺から受け取ったラーメンを一口食べてから冷や汗をかき、一向にお箸が動く気配が見えなかったため、ここで金剛とヲ級のラーメンは断念となってしまった。
その様子を見た金剛が「それはいくらなんでもあんまりデース!」と叫んだが、元帥から「味見はしてみたのかな……?」との指摘を受けて一口食べたところ、首を左右に振った。
……まぁ、ヲ級がしていないんだったらそうなるよね。
ということで金剛に俺の残したラーメンを渡したところ、「ワーオ! 先生と間接キッスデース!」と訳が分からないことを言いながら一気に口へ放り込む。
「………………ホワイッ!?」
すると途端に青冷めた表情を浮かべた金剛がプルプル震えだしたので、これはマズイと思って吐き出させようとしたのだが、
「誰デスカ!
こんなマズイラーメンを作ったのハ!?」
「ドコノドイツダーイ……ッテ、オ前ダヨ!」
見事なヲ級の飛び蹴りが金剛にクリーンヒットし、突っ込みが完成してしまった。
ううむ……。さすがに暴力はマズイんだけれど、ヲ級の気持ちを考えるとやむを得なく……って、やっぱりダメである。
それに、これが切っ掛けで2人の中が悪くなってしまったらと思うと……、
「ワーオ!
ここでヲ級がそのツッコミをするなんて、想像していなかったデース!」
「フッフッフ……。
ドルフィンキック&SMボンテージノダブルコンボガ決マッタネ」
「「HAHAHA!」」
うん。前言撤回。
そんな心配、全くしないで良かったです。
……というか、ドルフィンキックってプロレスとか……だよね?
間違っても、は◯ぴーとかじゃないよねぇっ!?
「さて、ついに私たちの出番ですね!」
別の意味で心配しまくっていた俺を救うかの如く、隣の部屋から現れた比叡が元気よく声をあげた。続いてきた霧島がお盆に乗せた2杯のラーメンをテーブルの上に置き、こほんと咳払いをする。
「お待たせいたしました。
これが霧島のラーメンになります」
立ち込める湯気にスパイシーな香り。
………………。
スパイシー?
「これは……カレーかな?」
俺と同じように丼を覗き込んでいた元帥から出た言葉に、霧島がコクリと頷く。
「ご名答です。
それではのびないうちに、お召し上がりください」
小さく笑みを浮かべた霧島に、なぜかゴクリと唾を飲む俺。
先程のラーメンが少々残念だっただけに、今回は美味しければ良いんだけれど。
しかし、なんだろう。
とてつもなく、妙な予感がしているのだが。
「へえー、カレーとラーメンだなんて珍しいねー」
「確かに鎮守府近くのラーメン屋にはありませんし、メジャーという感じではないですが……」
俺はそう言って、注意深くラーメンを見る。
スープは紛れもなく黄色で、とろみがあるようだ。
そして元帥も俺と同じように、珍しくお箸を持たずにマジマジと丼を見ている。
珍しいこともあったもんだ……と言いたいが、やはり金剛とヲ級のラーメンが尾を引いているのだろう。
しかし、元帥の額には大粒の汗が浮かんでいる。表情は明らかに固く、戸惑いが隠しきれていない。
いくらなんでも変な気がするんだけれど、これっていったい……?
「ほほぅ……。
スパイシーなスープに合わせて縮れ麺を使っている点は好感が持てるな」
とりあえず元帥のことは放っておいて、俺はラーメンに箸を入れた。麺をほぐしながら具材が何かを確かめる。よくある家庭でのカレーに入っているじゃがいもやにんじんは見えないが……、
「……なるほど。
丼の真ん中に鎮座する刻みネギとチャーシューだけと思いきや、他の具材をミキサーにかけてスープと一体化させているんだな」
「さすが先生ですね。
おっしゃったとおりです」
霧島は驚きつつも嬉しそうな表情を浮かべていたが、もう1人の比叡は少し残念がっているようだ。
「さあさあ、冷めないうちにズズイッと食べてください」
「うん。
それじゃあ、いただきます」
俺はお箸を持ったまま合掌をし、丼を持ち上げてスープをすすろうとする。
「………………」
だが俺の隣からジッと見つめてくる視線に、なんだか食しにくいんですが。
「元帥……、食べないんですか?」
「あー、う、うん。
少しばかりお腹が膨れてきたかなー……なんて」
「がっついて食べるからそうなるんですよ……」
「そ、そうだねー。
あ、あははは……」
歯切れの悪い言葉に乾いた笑いを上げる元帥の顔は、やっぱりどこかおかしい気がするんですが。
まぁ、そんなことは置いといて、早く食べないと麺が伸びるからな。
さっそくスープからいただくとしよう。
箸で麺をほぐしきった俺はレンゲを持ち、とろみのあるスープを救って口に近づける。
ズズズ……。
………………。
「……むっ!」
「せ、先生、大丈夫!?」
「こ、こ、こ……」
「やばいと思ったらすぐに吐き出し……」
「これは美味いっ!」
「………………へ?」
あまりの美味しさに思わず叫んでしまった俺だが、すぐに箸を動かして麺へと向かう。
掴んだ麺を勢い良く吸い込み、歯で噛み切ってからゴクリと飲み込んだ。
「スープに絡みやすい中太縮れ麺はやや固めに仕上げてあり、熱々のスープと相性がグッドだ!」
素晴らしいバランスの取れたカレーラーメンに、俺は感嘆の涙を流しそうになりながら霧島に感想を述べ続けた。
「刻みネギがアクセントになりつつ、厚めのチャーシューを炙ってあるとは何たる所業!」
「せ、先生……?」
「なによりこのスープのスパイシーさが泣けてくる!
辛さの中にもほんのりと感じる甘さ!
そしてこの刻みネギは……九条ネギだな!」
「さすがですね、先生。
おっしゃる通り、新鮮な九条ネギを刻んでたっぷりと入れました。
ですので、見た目を気にせず全部を……」
キラリとメガネを光らせた霧島の言葉を待たずに、俺は箸で麺をガッチリと掴んでネギに被せ、丼内全てをかき混ぜる。
「こうすることで完璧になる!
凄い、凄いぞこのカレーラーメンは!」
ズゾゾゾゾ……と麺をすすり、レンゲを使ってスープを飲む。刻んだ九条ネギが新たなアクセントになって、口の中から胸いっぱいに幸せが舞い込んできた。
先程の元帥をクドクド言う資格なんて俺にはないという風に、俺は一心不乱に食べる。ものの数分経たずに、丼の中は空っぽになってしまう。
「……ふう。
ごちそうさまでした」
お箸を置いて顔の前で合掌する姿は、どこぞの探偵のような感じかもしれない。しかし、そんなことはどうでもいいと、俺は満足しきっていた。
「せ、先生の顔が……菩薩のように見えちゃいます……」
「あ、あの食べっぷりを考えると、大丈夫なんだよねぇ……?」
しおいが何かブツブツと言っている横で、首を傾げながら迷う元帥。
そして好奇心に負け、ゆっくりと箸を進めたところ、
「うまっ!
何これ、うまっっっ!」
大きく目を見開いた元帥も一気に麺をすすり始め、俺よりも早いペースで完食していた。
「ぷっはー、ごちそうさま!」
「お粗末さまでした」
スープを飲み干した元帥が丼をテーブルに勢い良く置くと、霧島が満足そうに笑顔を見せた。
ただ、その隣でやっぱり浮かない顔をしていた比叡がいたんだけれど、どうしてなんだろう……?
「いやー、このラーメンならもう2、3杯はいけちゃうねー」
ポンポンと自分の腹を叩く元帥だが、さっきと言っていることが間逆なんですが。
「うぅ……、しおいも食べたいです……」
そしてガックリと肩を落とすしおい。
しまった。さっきに続いて、また食べ損ねてしまっている。
ヲ級と金剛のラーメンは断念していたから、ほとんど食べられていないよなぁ……。
「ねえねえ、霧島ちゃん。
もし材料が余っていたら、私の分も作ってもらうなんてことはできないかな……?」
しおいのことを心配してか、それとも分けてあげなかったことに良心が傷ついたのか、元帥が霧島に問いかけた。
「え、えっと、それは……ですね……」
元帥の頼みに顔をしかめる霧島が、どうしようかと迷っている。
すると、さっきまで浮かない顔をしていた比叡の顔がパアッと光り、右手の拳で胸をドンと叩いた。
「それでしたら大丈夫です!
早速用意いたしますね!」
「うんうん。
よろしく頼むよー」
「あっ、今度はしおいの分もお願いね!」
「い、電も食べたいのです!」
「雷の分もお願いするわ!」
「ヘーイ、比叡!
私のもよろしくネー!」
「俺様の分も頼むぜ!」
「それじゃあ、僕のもお願いね」
俺と元帥の食べっぷりを見ていたしおいや子どもたちも便乗し、比叡にお願いする。
「わっかりました!
この比叡にお任せください!」
やっと出番がきたという風にテンションを上げた比叡が、満足げな表情で隣の部屋に向かう。
「そう言えば、先生は追加を頼まないの?」
「あー、そうですね。
なんだかんだで4杯も食べちゃうと、お腹がいっぱいですし……」
実際には3杯とちょっとだけれど、続けて食べると流石にちょっと厳しいよね。
それにどう考えてもカロリーオーバーだし、いくら美味しかったと言っても5杯目はきつい。
「あわ、あわわわ……」
そして何故かうろたえまくっている霧島が、あたふたとしていたのはなんでだろうか。
まぁ、俺はここまでにしておいて、みんなが幸せになってくれればいいかな……なんてね。
それ後のことなんだけど。
なんというかまぁ、大惨事という言葉がよく似合う状況になってしまったのは想定外だった。
比叡が満面の笑みで作ってきたラーメンは、俺と元帥が一気に食べてしまったものとは全く違っていたのである。
後で霧島から聞いた話によると、比叡が作ったスープなどはかなりやばかったらしい。そこで危険を察知した霧島が比叡を上手く言いくるめたらしい。
つまり、俺と元帥が美味いと言って食べていたラーメンはすべて霧島が作ったもので、比叡はノータッチだった……ということだ。
そしてその後に出てきたラーメンは全て比叡産。それはもう、どう言葉で表現していいのかわからないレベルの出来だった……らしい。
なにせ、隣の部屋から比叡がラーメンを持ってきたところ、頭にとんでもない痛みが走る匂いにやられた俺は、座ったまま気絶しちゃったんだよね。
その後、何が起きたかは不明瞭のまま。子どもたちやしおい、そして元帥は一切語らず、聞かないでほしいと言われてしまった。
そして、時を同じくして全員がラーメンとカレーを控えたとか。
おそろしき比叡の料理にムドという言葉がなぜか付け加えられたのは、仕方がなかったのかもしれない。
お後はよろしくないけれど、これにて休日のちょっとしたイベントはお終いでしたとさ。
完
長くお休みさせていただきましたお詫びも兼ねて、プレゼント企画を開始いたしました。詳しくは活動報告にて、よろしくお願いします。
次回予告
舞鶴鎮守府にパスタの国から視察がくると聞いた先生。
その中には小さな子どもがいるということで、白羽の矢がたったのだった。
そして当日、出迎えに向かう先生の前に見知った艦娘が現れて……。
艦娘幼稚園 第三部
~パスタの国からやってきた!〜 その1「出迎えは忠犬と共に」
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