まずは天龍と時雨のラーメンから。
見た目からして想像できそうなラーメンに、先生は食べ始めてみたのだが……。
隣でずぞぞぞっ……と勢い良く麺をすする元帥はさておいて。
一応、ラーメンは色々と食べ歩いてきた俺にとって、少々なりともこだわりがある。
まずはスープを一口頂いて、それから麺や具に行きたいところだが……、
「………………」
「どうしたんだよ、先生。
早く食べないと麺が伸びちまうぜ?」
思わず固まってしまっていた俺に、天龍が急かそうと声をかける。
しかし、俺の気持ちも分かって欲しい。
なぜなら、目の前にある丼の中身は、
とんでもない量のもやしとキャベツ、その上に背脂がふんだんにかけられており、脇に刻みニンニクらしきものが見える。
うん、これはどう見ても二郎系ラーメンだ。
初っ端からこれって結構きついんじゃないかと心配になってしまうものの、せっかく作ってくれたんだから食べない訳にもいかないし、なにより朝飯を抜いて空きっ腹の昼時間帯と考えればどんとこいである。
「よし、それじゃあ改めて……いただきます」
まずはレンゲでスープをすくいたいところだが、具が多すぎてなかなかに難しい。それでもなんとか縁の方からかき混ぜるようにレンゲを丼に入れ、スープを口に入れた。
「ふむ……、この香りは魚介系……。
それに豚骨を合わせたダブルスープに大量の背脂か」
「なっ!
たった一口で当てるなんてマジかよ!?」
俺の言葉に驚きを隠せない天龍だが、それなりにラーメンを食べてきた俺にとってそれほど難しいものでもない。
「次は麺……といきたいところだが、たっぷりの具があるから先にいただこうかな」
お箸でキャベツともやしを掴み、スープにくぐらせてから食す。
茹でた野菜が濃厚なスープに絡み、甘みと旨味が口の中に広がった。
「キャベツともやしは茹でつつも食感を残し、まぶした刻みニンニクがアクセントになっているな。
そして多めに入ったぶ厚目のチャーシューが一層食欲をかきたたせるが……」
肝心の麺はどうなのかとお箸を突っ込み、具材をかき分けながら空気に触れさせる。
「ふむ、麺は極太の縮れ麺。
量も多いところから、おそらく少し固めに茹でてあるな」
麺を口に入れひと噛みする。モッチモチの食感が口の中でダンスを踊るようで、なんとも素晴らしい。
そんな俺を見て、時雨が狙ったかのように口を開く。
「さすがは先生だね。
だけど、それだけじゃ……」
「なるほど。
麺にチーズを少し練り込んである訳か」
「……っ!?」
隠し味として仕込んだのだろうが、そうは問屋が卸さない。
二郎系ラーメンを食べた経験はそれほど多くはないものの、素材の味を判別する味覚はそこそこ鍛えているつもりなんだよね。
「ちなみにスープの魚介はおそらく鯖節。
豚骨はオーソドックスだけれど、時間をかけてしっかりと煮込んだ本格派だな」
「ま、まさか、それをこんなに早く看破されちゃうだなんて……」
膝から崩れ落ちた時雨は地面に膝と手を着き、ガックリとうなだれる……って、なんでそんなにへこんじゃってんの?
しかしまぁ、思っていた以上に出来が良く、普通に美味しいので食す方に集中する。
ずるずる……もぐもぐ……ずるずる……ぱくぱく……。
「うまっ、うまぁっ!」
ゆっくりと食べる俺に、叫びながら食べる元帥。
麺、背脂、スープ、背脂、野菜、背脂、チャーシュー、背脂……。
うん。美味しいんだけど、ちょっと背脂が多い気がする。
やっぱり初っ端のラーメンからこの油っこさはきつい気がするなぁ……。
でも普通に美味しいし、気づけば丼の中身はほとんど残っていない。
「ふぃー、おいしかったーーーっ!」
そして隣の元帥はスープの一滴も残さずと言った風に丼に口をつけて完食し、大きな音を立ててテーブルに置いた。
気持ちは分からなくないが、もう少しお行儀良く食べたほうが良いと思うんだけど。
よく見たら元帥の真っ白い軍服にスープが飛び散っちゃって、完全に汚れてしまっているのはどうなんだろうか。
2回目だけど、元帥だから仕方ないね。
「しかし……、このラーメンを本当に2人で作ったのか?」
俺はテーブルの向かいに立つ天龍と時雨に問う。
「うん。
色々と鳳翔さんに教えてもらって、一通り頑張ったつもりだよ」
「最初は失敗したけど、なんとかできるようになったぜ!」
2人はそう言いながら、少し自慢げに胸を張った。
「いやはや、このレベルを数日で完成させるなんて、思ってもみなかったよ……」
感心しつつ、残っていたチャーシューを頬張る俺。柔らかい肉の塊が口の中に解け、油と肉の旨味が放出される。
うむ、やっぱり美味い。スープや麺もさることながら、このチャーシューが非常に良い味を出しているんだよな。
「うんうん、そうだよねー。
いくら鳳翔さんに教えてもらったとは言え、ここまでのラーメンを作れるのは1つの才能じゃないかな」
俺と元帥の言葉を聞いて、天龍はガッツポーズで喜び、時雨もにこやかな表情を浮かべている。
初っ端から重たすぎるラーメンだったけれど、非常に満足できる一品でした。
「うぅ……、美味しそうだなぁ……」
そして元帥とは反対側に立っていたしおいから、よだれを垂らしながら物欲しそうにしている視線を感じた。
やばい……、すっかり忘れていたぞ……。
「あー、え、えっと、しおい先生の分はあったりするのかな……?」
「残念だけど、2人分しか作ってないんだよね……」
時雨のすまなさそうな声を聞いて、ガックリと肩を落とすしおい。
「も、もし良かったら、少ないですけど俺の残りを……食べますか?」
「えっ、良いんですか!?
食べます!
ぜひ食べさせてくださいっ!」
俺の返事を待たずに丼とお箸を奪ったしおいは、少しだけ残っていたラーメンをガツガツと食べ始めた。
「おいしーーーっ!
結構コッテリだけど、すんなりいけちゃいますっ!」
「だよねー。
僕も最初はそう思ったけど、魚介の感じが程よくて一気に食べれちゃったよー」
「先生の食べ残しってスパイスも効いて、しおい感激です!」
………………はい?
いやいや、流石にそれはないと思うんだけど。
そしてなぜか俺にジト目を向ける天龍と時雨……って、なんでやねん。
椅子に座っているのに針のむしろで正座させられている感じに、いかんせん辛い状況でしたとさ。
「それじゃあ次は雷たちの番よ!」
しおいが俺のラーメンを食べ終えたところで、雷と電がお盆に丼を乗せて隣の部屋からやってきた。
「電たちも頑張ったので、ぜひ食べてほしいのです」
そう言って、俺と元帥の前に並ぶラーメン。どうやら天龍や時雨と同じく、2人1組で作っているようだ。
「どれどれ……」
さっきのラーメンは非常に出来が良かっただけに、雷と電の方も期待してしまう。もちろん過度にするつもりはないけれど、違った味が楽しめるのならば……と、思わずよだれが口の中にあふれてきた。
丼からはたくさんの湯気が上がり、視界が遮られている。しかし徐々に霧が晴れていくかのように現れたラーメンは、天龍と時雨のとはかなり違ったものだった。
「ほぅ……。
これはまた、オーソドックスにきたな」
「見た目は醤油ラーメン……いや、これは中華そばと言った方が良いのかなー?」
元帥の見解は的を得ている。立ち込める湯気を鼻で吸い取り匂いを確かめると、昔懐かしい感じが胸の中いっぱいに広がってきた。
黄金色のスープに浮かぶ麺。そして刻みネギにメンマ、薄めのチャーシューにナルト。
更には丼の縁に竜の絵と四角い渦巻きの雷文柄が、いかにもという感じを醸し出していた。
「さあさあ、のびないうちにどうぞ!」
「早く食べて、感想を欲しいのです」
期待する目で見られては断ることもできず。というか、ここでお預けなんか食らったらへこむことこの上なしなので、ぜひ頂きたいです。
「それでは……いただきます」
「いっただっきまーす!」
例によって俺はまずスープから。元帥はすでに麺を啜っているが、ここは個人の好きにということで放っておく。
「ふむ……、香りからして予想はついていたが、これは鰹と……煮干しかな?」
「はわわ!
さ、さすが先生なのです!」
「スープを一口飲んだだけで当てるなんて、本当に先生はラーメンが好きなのね!」
そう言った雷だが、まだ何かが残っていると言いたげな瞳が俺に向けられていた。
ほほう。時雨に続き、俺をためそうと言う訳か。
さっきも余裕で看破しちゃったが、手加減するつもりは全くないぞ?
「魚介の他に、少し癖のある感じがあるな……」
「はふはふ……うまうま……」
考察している俺の隣で、全く気にすることなく食べ続ける元帥。
とりあえず無視。放っておこう。
「ネギの香りが感じるが、これはあくまで少量だ……」
ほぅ……と言わんばかりに電が小さく口を開けるが、雷の表情に変わりはない。
だがその余裕、一気に崩させてもらうぜ!
「これはおそらくキノコ系……、干し椎茸を戻さずに直接スープに投入したんだな」
「……っ!」
「す、凄いのです!」
少し目を開いた雷に、驚く電。
だが、まだまだ甘いぞ?
「そしてもう1つ。
隠し味に……日本酒を少しだけ入れているか」
「なっ……!?」
愕然とする雷がたたらを踏み、様子をうかがっていたな時雨までもが大きく目を見開いていた。
「完全なる和風という感じだから、これもおそらく鳳翔さんから教えてもらった感じだろう」
「なるほどねー。
和食に調理酒とか入れたりするから、隠し味に使ってたのかー」
そう言った元帥の丼にはスープ以外ほとんど何も残っていない。更には両手で丼を持ってズゾゾゾゾ……とスープを一気飲みしていた。
……いやまぁ、食べ方は人それぞれだけどさぁ。
レンゲもあるんだから、もう少し行儀よくしようよ元帥。
というか、お偉いさんたちの会食とかで問題にならないのだろうか?
「ストレートの細麺はたしかにこのスープに合うし、このナルトが中華そばって感じをより一層高めてくれているな」
心の中で呟きながら、俺は麺をすする。サッパリとしつつも味わい深いスープに浸かった麺は程よい硬さの食感を醸し出し、しっかりと主張していた。
もちろん具もしっかりと味わう。白い部分のみを使った刻みネギは肉厚で、代わってチャーシューは脂身の少ない薄切りだ。メンマも濃すぎず少し甘みを感じる味付けで、柔らかく仕上がっている。
ラーメン全体がシンプルだからこその出来に、一体感という旨味が何とも言えない幸福感を俺に与えてくれた。
やっぱり日本人に生まれたからには、古き良き中華そばも捨てがたいよね。
うどん屋とかでいなり寿司と一緒に食べると、非常に満足できちゃいます。
「うん、美味しかった。
ごちそうさま」
「ごちそうさまー」
すでに食べ終えていた元帥も両手を合わせて雷と電にお辞儀をする。
スープを看破されて落ち込み加減だった雷だが、俺たちの食べっぷりに機嫌を戻したようだ。
「お粗末さまでした」
「ふぅ……、良かったのです」
胸を撫で下ろした電も、嬉しさのあまり笑顔を浮かべている。
しかしまぁ、天龍と時雨のラーメンがこってりだったので、この組み合わせはかなり良かった。
同じタイプが続くと、いくら好きだと言っても飽きがきちゃうしなぁ。
「うぅ……、お腹が空いたよぅ……」
あと、さっきに続いて完全にしおいの分を忘れていた。非常に残念そうな顔をしているので、次は多めに分けてあげた方が良さそうだ。
いやはや、反省反省……って、本日2回目だったりするよね。
次回予告
天龍&時雨、雷&電のラーメンは思っていた以上に美味しかった。
続けてヲ級&金剛が作るラーメンにも期待を寄せる先生と元帥だが、はたしてどうなるか。
そして、最後には……。
艦娘幼稚園 第三部
~子供たちの料理教室!~ その4「お約束はあるのでしょうか?」
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