謎なアイテムに、お約束……?
いや、マジパナいよ?
鳳翔さんの食堂2階にある大広間で開催した愛宕班の子供たちとの夕食会。ジュースで乾杯の後は千歳や千代田に持ってきてもらった食事を楽しく平らげ、腹八分目もそこそこに、まったりとした空気が漂っていた。
「ふぃ~、食べたねぇ~」
「お腹が一杯ですね、北上さん」
ポンポンとお腹を叩く北上に寄り添う大井がニッコリと笑う。小さいながらに夫婦みたいな雰囲気をかもしだしているのは、少々問題がある……と思うべきなのだろうか。
「ふぅ……、ごちそうさま」
「暁もごちそうさまね。
鳳翔さんの料理はおいし過ぎちゃって、ついつい食べ過ぎちゃいそうになっちゃうわ」
響と暁は行儀良く両手を合わせ、お箸を揃えてテーブルに置いた。
この辺りは幼稚園で教えている甲斐があって、マナーも問題なさそうだ。
「はぐはぐ……」
「もぐもぐ……なのです」
姉の2人は終えたが、妹である雷と電の2人は未だ食事中。どう見ても食べ過ぎのような気がするのだが、大丈夫なのだろうか。
「な、なんだか今日は、多く食べているんじゃない……?」
「そうだね。
少し食べ過ぎのように見えるけど、大丈夫かな……?」
心配になった姉の2人が声をかけるが、雷と電は気にせず食べ続ける。その勢いたるやお弁当を食べる昼食の比ではなく、表情も若干苦しそうに見えることから、無理をしているのは明白なんだけれど。
「こ、これくらい……も、問題ないわ……」
「そ、そうなのです……。
もっといっぱい食べて大きくなって、先生好みになるのです……」
そう言った2人は余った料理に箸を伸ばそうとするものの、
「げ、げふ……」
「く、くるしい……のです……」
手がプルプルと震え、どう考えても限界ギリギリだ。
これ以上食べようとすれば間違いなく危険だろうし、早く止めなければいけない。
「こらこら。
そんなに無理をしてまで食べなくてもちゃんと成長するんだから、それくらいで止めておきなさい」
「で、でも……」
「い、電は早く大きくなりたいのです……」
首を左右に振ろうとする2人だが、徐々に顔色が青くなってきた。
どう考えてもリバース寸前です……って、そんな余裕をかましている場合じゃなくてだなっ!
「お、おい、大丈夫か!?」
俺は慌てて辺りを見回し、受け皿にできそうな物を探す。
「あー、なんだかやばそうな雰囲気になっちゃってるねぇ~」
「もう……、せっかくいい気分だったのに……」
雷と電の様子に気づいた北上と大井が、けだるそうに寄ってくる。ポケットをゴソゴソとあさって小さな筒状の物を取り出した北上と同時に、大井がテーブルにあったミネラルウォーターをコップに注いで2人に渡した。
「はい、これ胃腸薬。
高速修復材が含まれているから、グイッといっちゃってー」
「ただしものすごく苦いですから、水で流し込んでくださいね」
一瞬ためらいそうになった雷と電だが、さすがにこの場でリバースするのは……と思ったのか、すぐに両方を受け取って口に含む。
「……っ!」
「苦いのです……っ!」
「ほらほら、さっさと水で流し込まないと、もっとやばいよー」
「「んぐ……んぐ……」」
2人は涙目を浮かばせながらコップの水を一気に流し込み、全部を飲みきった。
「ぷはぁ……」
「……なのです」
カンッ! と大きく音を立ててコップがテーブルに置かれ、なぜか頭の中に発泡酒のCM映像が浮かび上がる。
だがしかし、俺は炭酸が飲めないので美味しそうだなぁとかは思わないんだけれど。
気づけば雷と電の顔色は良くなり、吐き気を催している感じはない。北上は胃腸薬に高速修復材が含まれていると言っていたが、万能過ぎて声も出ないぞ。
……って、普通はドッグで破損を修復する際に使うはずなんだけど、飲んじゃっても大丈夫なんだろうか?
なんか別の意味で怖くなってきたんだけれど、今のところ雷と電に問題らしいところは見受けられないが……。
「ふぅ……、助かったわ」
「ありがとなのです」
2人は揃って北上と大井にお辞儀をする。
「良いって良いって。
困ったときはお互い様だからねー」
「北上さんの神聖なるご好意に感謝しまくってくださいね」
気軽に手をパタパタと振っている北上は問題ないが、大井の発言は色んな意味で怖い。
下手をすれば北上教みたいな名前の宗教を立ち上げそうで、気が気でないんだけれど。
「あ、あはは……」
困った表情ながらも笑みを浮かべる雷に、どうして良いのか分からないといった風な電だが、俺も当事者だったらそうなっちゃうんだろうなぁ。
しかしまぁ、これでなんとか危機は去ったと言えなくもない……と思っていたところで、あることを思い出す。
北上に大井、暁と響は食事を終え、雷と電もこれ以上食べられないだろう。
これで全員だと思いきや、もう1人忘れているような気がするんだけれど。
「もぐもぐ……、もしゃもしゃ……」
なにやら可愛らしい声とともに、箸と皿が触れる音が時折流れ、テーブルの上に残っていた料理が消えていく。
「………………」
どこからどう見ても、霧島の姿です。
そして霧島の付近に積まれている皿の数は、明らかに他の子よりも多いんですが。
目視でおおよそ倍……。いや、下手をすれば3倍か。
いくら元は普通の艦娘だとはいえ、現在は子供の大きさのはずなのに。
いったいどこに、それらの料理がおさめられているのだろうか……。
「……ふむ。
お腹具合はちょうど半分というところですけど、あまり料理が残っていませんね」
キョロキョロとテーブルの上を見回し、霧島はゆっくりと立ち上がる。
「き、霧島、どこに行くんだ……?」
食事中にトイレへ行くのはお行儀が悪いぞと言いたいところだが、
「追加の料理を鳳翔さんにお願いしようと思うのですが、他の方々はどうされますか?」
「い、いや……、俺はもうお腹がいっぱいだけど……」
冷や汗をかきながら左右を向き、他の子供たちに視線を配る。
「「「………………」」」
揃いも揃って、首を左右に振りました。
ええ、もちろん引きつった笑い顔を浮かべながらね。
「そうですか。
それじゃあ3人前程度で大丈夫そうですね」
言って、霧島はスタスタと歩き、階段へ続く襖を開けるや否や、
「鳳翔さーん。
3人前の料理を追加でお願いしますー」
大きめの声で、注文していた。
……うん。行儀が悪いので厨房に下りてから言いなさい。
「鳳翔さーん、千歳さーん、千代田さーーーん……」
だが霧島は叫ぶのを止めない。
むしろ徐々に声が大きくなってきているんですが。
「………………」
……黙っちゃったね。
なにや眉間にシワが寄って、頭の上に怒っているマークのようなモノが見えそうな感じなんだけれど。
これって、やっぱりマズイ……よな?
「すぅーーー……」
大きく息を吸っているだけだと深呼吸に見えるが、これはどう考えても……、
「マイクチェックの時k」
「ちょっと待ってストーーーーーップ!」
「もがっ!?」
俺は慌てて霧島に近寄って後ろから羽交い締めにし、両手で口を塞ぐ。
「大声を出したら厨房のみんなに悪いだろ。
俺が行ってくるから、霧島はテーブルについて待ってれば良いよ」
「も……、もがもが……」
「……って、ああそうか。
俺が口を塞いでいたら返事もできないよな」
これは失敗失敗。
俺は苦笑を浮かべながら両手を離し、後頭部を掻いたのだが、
「せ、せ、先生っ!
こ、こういうことは、あまり……その……」
振り向いた霧島が顔を真っ赤にして恥ずかしげに……って、なんだこれ?
「今のは羨まし……ではなくて、ちょっと問題だね」
「あ、一人前のレディである暁は別に気にしないんだから!」
「ちょっと先生!
雷の前で浮気なんて、すこーしばかり許せないんだけど!」
「ず、ずるいのです……」
そして背中に突き刺さる声と冷たい視線。
ヤバいと思いながらも、ギギギギギ……と音を立てるかの如く振り返ってみるが、
「あーあー。
また先生がやっちゃったねー」
「完全に性根が悪いのよ……。
あ、いえ、なんでもないですよ?」
白い目を浮かべた北上と大井も加わり、完全にアウェーな感じになっちゃっているんですが。
これは……その、久しぶりに詰みってやつですよね……?
「うーん、やっぱ難しいよねー、この空気」
北上がやれやれといった風に両手を広げて上に向け、首を振ったところで膝から崩れ落ちてしまった俺だった。
「ところでそろそろ、本題に入った方がよろしいと思うのですが」
3人前の追加を食べ終えた霧島が俺に問う。
なお、俺は他の子供たちによる糾弾により、身も心も朽ち果てかけていた状態で正座をしているんだけれど。
特に雷と電から半泣きになりながら両手をグルグルと回すパンチを喰らい続けたために、身体中が痛いんだよね。
端から見たら可愛らしく思えるかもしれないが、子供だといっても艦娘。普通の人間よりも半端じゃないほど威力が高いです。
「本題……って何かな?」
「今日、ここで夕食会を開いたのは理由があるということです」
響の問いに霧島が手を合わせ、ごちそうさまをしながら答えた。
「なるほどねー。
いきなり夕食会に誘われるなんて何だろうと思っていたけれど、そういうことねー」
「私は北上さんと一緒にご飯を食べられればどこでも良いと思っていましたけど……って、まさか!?」
「ひっ!?」
大井が俺のすぐ前に来て、ダムッ! と大きな音を立てた足踏みをする。
「こ、こら。
ここは2階で、下には厨房やお客さんがいる食堂なんだから、そんなに音を出したら……」
「うるさいです!
私や北上さんを集めて嫌らしいことを企む先生に、鉄槌を食らわせてやるのだから問題はありません!」
「い、いやいやいや!
そんな考えなんて、微塵も持ってないよっ!」
「それじゃあどうしてさっき、霧島を羽交い締めにして手込めにしようとしたんですか!」
「あれは大声を出そうとしていた霧島を止めるためであって、やましい考えなんかは……」
「問答無用です!」
「うおっ!?」
急に大井が俺の顎を狙って蹴りを繰り出したが、なんとか身を引いて避けることに成功した。
「ちょこざいな!」
「ま、待て、大井!
これ以上は足が痺れて……」
「つまり好機ってことですね!」
「嘘ーーーっ!」
大井は蹴り上げた足を下ろして床を踏み締め、身体を捻って重心を移動する。おそらくこれは俺の顔面を狙った横蹴りだが、今の体制では避けることは難しい。
このままではクリーンヒットが確実で、下手をすれば昏倒もやむなし……と思ったところで、
「落ち着きなよ、大井っち。
なんか良いことでもあったのかな?」
「き、北上さんっ!?」
横蹴りを繰り出そうとした大井の手を引っ張った北上が、ニッコリと笑みを浮かべていた。
「ど、どうして止めるんですか!?」
「もし大井っちが先生の顔を蹴っちゃったら、本題について聞けないじゃん」
「そんなの、北上さんにいやらしいことをしようとするに決まっています!」
「いやいや、それだったら先に霧島が止めるだろうし、分かっててみんなを集める訳がないでしょ?」
「そ、それは……、そう……かもしれませんけど……」
表情が曇った大井は横蹴りの体制を崩し、不満げにしながら俺の方を見る。
「き、北上の言う通り、俺にそんなやましい考えはないから、話を聞いてくれると嬉しいんだけど……」
「………………」
大井はいぶかしげに俺の顔をジロジロと見つめ、「はぁ……」とため息を吐いた。
「……分かりました。
北上さんの顔を立てて、話だけは聞くことにします」
話『だけ』というのは気になるが、蹴られるよりは随分とマシである。
「それじゃあ改めまして、お聞かせいただけますか?」
「それは構わないんだけれど、どうして霧島は助けてくれようとしてくれなかったのかな……」
「それは……色々と理由があるんですが」
言って、霧島は一呼吸を置き、
「比叡姉様を助けるために必要だからとみんなを集めましたけど、なぜそうするのかの理由を聞かされていませんでしたので」
「………………」
ああ……、そういえば言っていなかった気がする。
でも、助けてくれるくらい、良いと思うんだけどね……。しくしく。
次回予告
大井をなんとかなだめ、子供たちに本題の話をする。
愛宕のことをどう思っているのか。そして、それらは比叡に関係があるのか。
打ちのめされたり、話が逸れそうになるのを修正しつつ色々と聞いているうちに、なんだか嫌な予感がしてきたんだけれど……?
艦娘幼稚園 第三部
~幼稚園が合併しました~ その14「有り得たかもしれない現実」
乞うご期待!
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