艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 運動会を終え、後片付けも済ませた教師達はスタッフルームで休むことに。
そこで新たな事実を知り……って、幼稚園の合併なんですが。

 しかしそこで、気になる会話が始まった。
先生の仕事、どうするんでしょうか?


■第三部 ~幼稚園が合併しました~
その1「チョロ先」


 

「ふぅ……、疲れた……」

 

 運動会の締めくくりに子供たちだけでなく色んな艦娘たちにひたすら追いかけ回され、なんとか落ち着かせたと思いきや後片付けの作業が残っていた。

 

 ひとまず子供たちを幼稚園に送り終えてから作業に入ったのだが、観客席の椅子は非常に多くあり、全ての作業を終わらせた頃には空が真っ暗になっていた。

 

 ちなみに屋台などの撤去作業は元帥の指示で行われているそうだが、何度か近くのコンビニ店長の姿が見えたのは気のせいだろう。

 

 やることも終わったから解散を……と思っていたところ、休憩がてら話をしようと言い出した愛宕に頷いた俺を含む幼稚園の教師一同は、スタッフルームに戻ってきたのである。

 

「お疲れ様です~」

 

「オ疲レ様ー」

 

「お疲れ様でしたー」

 

 まずは愛宕、港湾棲姫、しおいと定例の挨拶を済ませ、ホッと胸を撫で下ろすように息を吐いて一安心。

 

 しかし、最後の1人だけは非常に顔色が……というよりは機嫌が悪い様子だ。

 

「……お疲れ様ね」

 

「お疲れ様です……と言いたいところなんだけど、なんでビスマルクはそんなに仏頂面を浮かべているんだよ?」

 

「そんなの当たり前じゃない。

 私のチームが圧倒的強さで勝利してあなたを手に入れる予定だったのに、結果は全チーム引き分けだったのよ」

 

「確かにそうなんだが……」

 

 どこかの元帥みたいに苦情を言いまくったところで結果が覆るわけもないのだが、どうにもビスマルクは納得できていないようだが、俺としては身の安全が確保されたので一安心なんだけど。

 

 まぁ、より一層悪化したとも言えなくはないんだけどね……。

 

「まぁまぁ、ひとまず運動会を無事に終えることができたんですから、乾杯といきましょう~」

 

 そう言った愛宕の手に2つのマグカップがあり、俺とビスマルクに差し出してくれた。

 

「ありがとうございます」

 

「本当は勝利の美酒としてビールが良かったけれど、勝てなかったのだから仕方がないわね……」

 

 なんだかんだと言いながらマグカップを受け取ったビスマルクが、香りを確かめるように顔へ近づける。

 

「あら、これはなかなか良いじゃない……」

 

「ええ、知り合いに頂いた豆なんですよ~」

 

「へぇ……、これは……うん、気に入ったわ」

 

 気づけばビスマルクの表情から不機嫌はどこかへ吹き飛び、ニコニコと笑みを浮かべていた。

 

「それでは改めまして、運動会お疲れ様でした~」

 

「「「お疲れ様でしたー(オ疲レ様デシター)」」」

 

 マグカップを持ち上げながら声を上げ、コクリとひと飲みする。芳醇な香りが鼻を突き抜け、味わったことのない旨味が口から喉へ流れていった。

 

「おぉ……、確かにこれは美味い……」

 

「ですよねー。

 しおいもこの豆に変わってから、毎日頂いているんですよー」

 

「ウム。

 本当ニ、コノコーヒーハ美味シ過ギルワネ」

 

「さすがはヤン……知り合いがくれた豆ですねぇ~」

 

「……はい?」

 

 今なんか、愛宕が言おうとした名前がもの凄く気になるんだけれど。

 

「どうしたんですか、先生~?」

 

「あー、えっと……、いえ、なんでもないです」

 

 問い掛けようと思って愛宕の顔を見た瞬間、無言の圧力という名の笑みを向けられていることに気づいた俺は、即座に撤回する。

 

 ちなみにしおい、港湾棲姫の2人は俺から完全に目をそらしていたので、さすがの処世術と言わんばかりであるが、同じようにしていたビスマルクにビックリした。

 

 まぁこの場合、本能で察知している感じなんだろうけれど。

 

 触らぬ神に祟りなし。

 

 危うきに近寄らずがモットーなのだ。

 

 とは言え、この空気のままコーヒーを飲むのも辛いものがあるので、俺は話題を変えるために質問を投げかける。

 

「ところでなんですけど、愛宕先生の話っていうのは……?」

 

「ああ、それはですねぇ~」

 

 圧力が薄まった笑みに戻した愛宕は、もう一度コクリとコーヒーを口に含んでから一息吐き、なぜか胸元に手を伸ばした。

 

「実はこんなものを渡されたんですけど……」

 

 そう言いながら愛宕は服の隙間に手を入れて……って、どう考えても胸の谷間に突っ込んでいますよね!?

 

 以前にも似たようなことやっていたけど、視線を向けにくくて気まずいじゃないですかー!

 

「……先生ノ視線ガ集中シマクリダネ」

 

「……おっぱい星人ですからねー」

 

「何よ!

 私の方をもっと見なさいよ!」

 

 白い目を浮かべる港湾棲姫としおいに、なぜか逆ギレをするビスマルクが胸を張る……って、あるぇー?

 

 視線をそらしているつもりなのに、なんでそんなことを言われちゃうのかなぁ……。

 

「うふふ~。

 見られるくらいは別に良いんですよ~」

 

 まったく気にするどころか嬉しそうな愛宕に、思わず心の中でガッツポーズをしちゃうんですが。

 

「うぅ……しおいも、もう少し大きかったら……」

 

「気ニシナクテモ良イ。

 ソレハソレデ需要トイウモノガアルシ、大キ過ギテモ肩ガ凝ルカラネ」

 

「そ、そうですよね……。

 しくしくしく……」

 

 自分の胸をさするしおいを慰める港湾棲姫だが、残念ながらどう考えてもとどめを刺しちゃっているにしか見えないんだけれど、当の本人は全く気づいていないようで、首を傾げながら眉間にシワを寄せていた。

 

 頑張れしおい。

 

 だけど俺は、大きい方が好きなんだよね!

 

「だから私を見なさいってば!」

 

「ちょっ、ビスマルク!

 急に押しつけてくるんじゃねぇ!」

 

「あなたのことだから喜んでくれると思ったのに、その態度はおかしいわよ!」

 

「そういう考えに至る経過がサッパリ分からねぇんだよっ!」

 

 俺の頭をガッチリと掴んで胸元に抱き寄せようとするビスマルクを必死で剥がそうと抵抗しながら、俺は大声で叫ぶ。

 

「あらあら、何だか楽しそうですねぇ~」

 

「いやいや、楽しくなんかないですから、ちょっとは助け……て……」

 

「あれあれ~、どうしたんですか~?」

 

「あ、そ、その……、た、助けて……欲しいかな……って……」

 

「助けて欲しいんですか~?」

 

「い、いや、その……」

 

 愛宕の……威圧感が……ガチでヤバい……。

 

 顔はニッコニコなのに、目は閉じられているはずなのに……。

 

 洒落にならないレベルのオーラのようなモノが、半端じゃないほど感じられるんですけど。

 

「……ぶくぶくぶく」

 

 そして真っ先に気絶するしおい……って、こっちもお約束かよ!

 

「……ぶくぶくぶく」

 

「つーか、お前もかよビスマルクッ!」

 

「……ガクガクガク」

 

「ちょっ、港湾先生まで!?」

 

 さすがに口から泡は吹いていないけれど、全身を半端じゃないほど震わせながら固まる港湾棲姫を前にした俺にできることは、土下座をしながら愛宕に謝罪の言葉を続けるしかなかったのであった。

 

 

 

 

 

「それでは皆さんに、ご報告をいたしまーす」

 

 完全謝罪モードを終えることができ、なんとか立ち直ることができた港湾棲姫と一緒に気絶した2人を起こしたところで、愛宕の言葉が再開された。

 

 なお、胸の間から出てきたのは1枚の書類なんだけど、そこってポケットか何かなんだろうか?

 

「主文。

 被告は免許皆伝を受けた忍者より、イヤァァァの刑と処す……って、この紙じゃなかったですねぇ~」

 

 そう言って、それを丸めてゴミ箱にポイッと投げ入れる愛宕。

 

 内容がとんでもなく気になりまくったが、突っ込む気力はすでに失われてしまっているので残念無念。

 

 まぁ、先ほどと同じく無言の圧力を感じた俺たちに取れる行動は聞かなかったフリをするだけなんだけれど。

 

 なんだか舞鶴から佐世保に行っている間に、色んなモノが大きく様変わりしちゃってないですかね……?

 

「ああ、ありました。

 これですね~」

 

 今度は胸の谷間から少し下がったところ……、つまり下乳と呼ばれるところに手を突っ込んで紙を取り出した愛宕だが、しおいがそろそろ白い灰になりそうなんで勘弁してあげて下さい。

 

 ちなみに俺は歓喜を上げたいところなんだけど、土下座を再開するのは勘弁したいので自重しておく。

 

 しかし、さっきの紙っていったい誰に宛てられた文章なんだろう……。

 

「それじゃあ読みますね~。

『現在、舞鶴と佐世保にある幼稚園を合併することとする。

 なお、これによって全ての園児と教職員はこのまま舞鶴鎮守府に所属となり、佐世保にいる関係者も時期を見て異動となる。

 詳細は後の書類にて説明があるが、幼稚園の統括は引き続き愛宕に任せるものとする。

 

 舞鶴鎮守府 元帥

 佐世保鎮守府 安西提督』

 以上になりますね~」

 

 読み終えた愛宕はニッコリと笑い、きちんと紙を四つ折に畳んでから再び胸元に入れる。

 

「………………はい?」

 

 しかし俺としては完全に寝耳に水。

 

 これじゃあ、何のために運動会で必死に策を練りまくったのかと……、

 

「Gut,gut,gut!

 今日はなんて最高の日なの!」

 

「ぐへえっ!?」

 

 またもや唐突に俺の頭を掴んで胸元に抱き寄せるビスマルク……って、お前は少しくらい学べよコンチクショウ!

 

 このままじゃ、また愛宕が威圧感MAXのオーラを吹き出して気絶&怯えまくるじゃねぇか!

 

「はいは~い。

 浮かれるのは分かりますけど、まだ話は終わっていませんよ~?」

 

「う゛っ、そ、そうね……」

 

 案の定、睨みを聞かせた愛宕の言葉によって即座に反応したビスマルクは、残念そうな顔を浮かべながら俺から離れていく。

 

 頬っぺたに感じる柔らかい感触が去ってしまって少々残念だが……って、そんなことは微塵も思っていないよ?

 

「この指令書によって、2つの幼稚園が合併することになりましたので、ビスマルク先生とプリンツちゃん、レーベちゃん、マックスちゃん、ろーちゃんは舞鶴に所属することになります~」

 

 両手を合わせて可愛らしく言う愛宕に、ビスマルクは無言でガッツポーズを決める。しおいも少しばかり疲れたような表情をしながら、ウンウンと頷いていた。

 

 ろーは1度、龍驤と摩耶に連れられて舞鶴に来たことがあるし、しおいに面倒を見てもらっていたと言っていたよな。

 

 その結果、大人しかったユーがろーと改名し、元気いっぱいになったんだけどね。

 

 ……そのついでに、大きな爆弾を何度も爆発させてくれたけど。

 

 今となったら笑い話……ではやっぱり済まされないんだけれど、舞鶴の子供たちまで巻き込んじゃったりしないよね……?

 

「愛宕先生、少シ気ニナルコトガアルノダガ、良イダロウカ?」

 

「はい、港湾先生~。

 どうかしましたか~?」

 

 控えめに右手を上げた港湾に対し、胸を張りながら愛宕が問い返す。

 

 その際、大きな胸部装甲がプルンプルンと揺れたのを、俺は脳内にしっかりと焼きつけておく。

 

「2ツノ幼稚園ガ合併シタノハ分カッタガ、子供タチノ班ト担当ハドウナルノダロウカ?」

 

「ああっ、確かにそうですよねー。

 しおいは先生が佐世保に行った際にそのまま班を受け継ぎましたけど、戻ってきたんだから……どうなるんでしょう?」

 

 そう言ったしおいが顎に人差し指をつけて「うーん……」と悩むように呟き、首を徐々に傾げていく。

 

 その角度がドンドンときつくなっているんだが、そのままだと90度くらい曲がっちゃうんじゃないだろうか。

 

「私がこっちにきたとは言え、佐世保の子供たちをバラバラに分けるのは賛成しないわよ?」

 

「ええ、もちろんそんなことはしませんよ~。

 せっかく担当していた子供たちを分けちゃうと、また1からやり直さなければならないことが増えちゃいますからね~」

 

「ソウダナ……。

 シカシソウナルト、先生ガ余ルノデハナイノダロウカ」

 

「………………へ?」

 

 唐突に呼ばれた俺は疑問の声を上げたが、余る……ってどういうことなんだろう。

 

「確かにそうなりますね~。

 まぁ、運動会の状況から見れば分かるとは思うんですけど、別の班を作って先生に任せるのも少々問題があると思いますから~」

 

「…………………………え?」

 

 あ、あれ、おかしいな……。

 

 なんだかその言い方だと、俺が役立たずって聞こえる気がするんだけれど……。

 

「ですので、先生には今後……」

 

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 

 俺は慌てて愛宕の言葉を遮るように叫び、必死な形相を浮かべた。

 

「それじゃあまるで、俺が戦力外ってことじゃないですか!

 やっと舞鶴に帰ってこられたのに、いくらなんでもそれはないですよっ!」

 

「……ほえ?」

 

 すると愛宕は、地球すらワンパンチで割ってしまう力を持つ小学生くらいの小さな最強ロボットのような声を上げ……って、可愛いぞコンチクショウ!

 

「い、いや……、いきなりそんな声を呟かれてもですね……」

 

「いえいえ、先生がいったい何を言っているのかサッパリでして~」

 

「日本語が通じていなかったっ!?」

 

 両手で自分の頭を抱えて膝をつきたくなる衝動にさいなまれながらも、何とか耐えようとしていたところ、

 

「そうじゃなくて……、先生は勘違いをなさっているんじゃないでしょうか~?」

 

「か、勘違い……ですか?」

 

「はい、そうです~。

 私がさっき言おうとしたのは、

 先生は今後、各班をサポートする担当になってもらおうと思っているんですよね~」

 

「さ、サポート……ですか」

 

 どうやら首ではなかったことに安堵の表情を浮かべたくなるが、少し考えてみると楽観視できることでもないような気がする。

 

 つまり、俺は以前と同じように複数の子供たちを見る班を担当するのではなくなったということで、実質降格してしまったのではないのだろうか?

 

 元帥の命令で佐世保に行き、必死の思いで頑張ってきたのに、いくらなんでもそれはないと思うんだけど……。

 

「そ、それはもう、決定ってことなんですか……?」

 

 できればそれは避けたいところ。

 

 未だに適当感が丸出しのビスマルクよりも下の立場だなんて、正直に言って嫌過ぎる。

 

「できればそうして欲しいなぁと思うんですけどね~」

 

「あ、愛宕先生のお願いは聞きたいところですけど、俺も色々と頑張ってきた訳ですし……」

 

「先生のサポート能力を買ってのことなんですけど……、ダメですか~?」

 

 俺の方にゆっくりと近づいてきた愛宕は、神に祈るシスターのように両手の指を組みながら、ウルウルと潤ませた瞳を浮かばせながら訴えてきた。

 

「え、えっと、そ、その……」

 

「ダメ……ですか~?」

 

 上目遣いで……、そ、そこまで言われては……、

 

「先生には期待しているんですけど……」

 

「そ、それは嬉しいんですが……って、ふおおおお……っ!?」

 

 愛宕の両脇が絞まったことで、大きな胸部装甲をより一層際立たせ、そりゃあもうパナイ状況が目の前にぃぃぃっ!

 

「子供たちもその方が喜んでくれると思いますし~」

 

「そ、そうですかね……」

 

「私たちも助かりますから、みんながハッピーになると思うんですよね~」

 

「そ、それなら……、ふぐっ!」

 

 組んだ手を左右に振ることで、胸部装甲がむにょんむにょんと大きく形を変える。

 

 それはもう、想像することができない神秘の世界。

 

 それが今、俺の目の前にあるのである。

 

 そんな状況に置かれた俺が、奇跡を起こし続けている愛宕からの頼みを断れるはずもない。

 

「お、ね、が、い、し、ま、す。

 せ~ん、せ~?」

 

「りょ、了解しました!

 僭越ながら、愛宕先生のお願いを全身全霊で勤めさせていただきますっ!」

 

 俺は愛宕に向かって敬礼をし、大きな声で宣誓する。

 

「チョロイナ……」

 

「先生、チョロ過ぎです……」

 

「チョロ先ね……」

 

 そんな俺に港湾棲姫、しおい、ビスマルクが白い目を浮かべながら呟いていたが、愛宕の胸部装甲に集中していたので全く持って気づかない。

 

 いや、気づいていないフリだったけれど、これはもう仕方がないよね!

 




次回予告

 各班のサポート役として頑張ることになった先生。
まずはしおい班。以前は自分が受け持っていただけに、思い入れもあると思っていたら……。

 はい。お約束のシーンですよー。

 艦娘幼稚園 第三部
 ~幼稚園が合併しました~ その2「帰ってきたよ!」

 乞うご期待!

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