妖怪猫吊るしの要望通り、猫を渡してコードEを終結させる。
そう……全ては終わったと思われて……いた。
主人公のとある点を除いては。
部屋に入ってきた龍田の両手には、この鎮守府の誰もが探していると思われる『白い猫』がしっかりと抱かれていた。
「先生ったらどうしたの~? そんなに見つめられたら、私、恥ずかしくなっちゃうわ~」
まったくそんな素振りも見せないまま龍田は俺の前へと近づき、「はい」と言って両手で抱えている猫を渡してくれた。
「この白い猫を探しているんでしょ~? さっきの放送でも引っ切りなしに言ってたから、急いで持ってきたのよ~」
見ると、龍田の額には大粒の汗がたくさん浮かんでいた。もしかすると、天龍と組んで俺にドッキリをした後、何かに感づいて探してくれてたのかもしれない。
「すまん……助かったよ龍田」
「いえいえ~、どういたしまして~」
汗をかいたまま、にっこりと笑みを浮かべる龍田の頭を優しく撫で、俺は猫の首元をしっかりと掴んだまま、小さい子の前に立った。
「この猫で――間違いないよな?」
「うん、問題無いよ。これで、エラーは全て収まるはずさ」
「じゃあ、出来るだけ早くお願いする」
「ふぅ……仕方ない。それじゃあ、やるとしましょうかね――っと!」
パチンッ!
両手を叩いた小さい子は、俺の手から猫の尻尾を左手で無造作に掴み、頭の上でそのままぐるぐると振り回した。
「ちょっ、おいおいっ!?」
「ん、これくらいじゃ甘いって?」
「いやいやいやっ! そんなことは一言も言ってない!」
「それじゃあ、黙って見ていればいいさ。――まぁ、もうすぐ終わるけどね」
そう言って、小さい子は頭の上で振りまわしている猫を背中の方へと振り、遠心力を利用してボールを投げるように振りかぶった。
「じゃあ、トップ画面に戻れ――ってね」
「はあっ?」
意味が分からず素っ頓狂な声を上げた途端、急に目の前が真っ白になるほどの光が視界を覆い、続けて子どもたちの悲鳴があがる。
「うわっ!?」
「それじゃあ、もう2度と合わない事を祈る――のかな? まぁ、私はどちらでも良いんだけどね」
最後に聞こえた小さい子の言葉が終わった瞬間、光は目の前から消え、元の部屋が俺の眼に映り込んだ。
いつもと変わらない、平穏な幼稚園の遊戯室が。
「――と、言うことなんですけど」
俺が今居る場所は、鎮守府内に流れていた放送で何度も聞いた大会議室の中だった。部屋の片隅には見知った顔ではないけれど、勲章をたくさん服につけた提督らしき人物が何人も横たわり、呻き声や嗚咽を漏らしている。
「なるほど……そう言うことでしたか。ともあれ、これで当分の間は大丈夫でしょう」
青い軍服で身を包んだ艦娘の高雄が、俺の言葉に頷きながら、ほっとした表情を浮かべた。
「当分の間……ですか?」
「ええ、今までにもコードEは何度も発令されていますけど、毎回白い猫を確保し、先生が出会った白いセーラー服の子に渡していたんです。その度に、もうこんな事は起きないようにと、色々対策は取ったのですが……」
対策を取ろうとしても、超常現象的な猫とあの子の能力? に敵うはずもないと言ったところだろうか。現に、今回もこれほどの事態に陥っているのだから――と、呻き声を上げている提督たちの姿に視線を移す。
まさに、地獄絵図。阿鼻叫喚と言ったところだろう。
「起きる間隔もピンからキリ……いつ発生するか分からず、ノイローゼになった提督も少なくはありません」
「そ、そんなに……」
「ええ、先の世界各国共同で行われた深海棲艦壊滅作戦……あの時も、多数の国家内で同じような事態に陥り……」
「……はい?」
俺は高雄の思いもしなかった言葉に呆気に取られる。
「あ、そうでしたね。一般的にあの作戦では深海棲艦と戦って被害が大きく出たと伝わっていたと思いますけど、実際には戦えたのは半数以下で、ノイローゼになった提督がどんどんと倒れて、作戦どころではなくなったというのが本当なのですわ」
「そ、それって……本当なんですか?」
「こんな性質の悪い嘘なんてつきませんわ。人員不足も、立ち直りきれなかった提督が何人も退職したからなのですよ?」
「そ、それほどまでに……凄い被害が……」
つまりそれは、深海棲艦以上にあの白い猫が強敵であるということなのだろうか。
「まぁしかし、これでひとまず落ち着きましたから……皆には休息するように伝えることが出来ます。本当に、ありがとうございました、先生」
「あ、いえ……俺はそんなにたいしたことは……」
「いえいえ、あの小さい子を見つけただけでも大収穫なのですよ? 普通の人なら、見ることが出来ないのですから」
「そうなんですか?」
「ええ。あの姿を見れるのは、提督の資質がある人物だけと言われているのです。元帥や愛宕の言う通り、先生には資質があるのですわ」
「そう――言って貰えると、嬉しいやら恥ずかしいやら」
「ふふ、そんなところも、愛宕の言ってる通りですわね」
「も、もうっ、からかわないで下さいよっ!」
「あら、ばれちゃいましたか」
くすりと笑う高雄を前に、俺は少しジト目をしながら口を開いた。
「高雄さんったら、人が悪いですよ……」
「ちょっとした息抜きと思って許して下さい」
そう言って、高雄は通りかかった艦娘の一人に声をかけて指示を出した。
「コードEの終息を熊野に放送するように伝えてください。あとは……手が空いた者から休息するように」
「はい、分かりました」
命ぜられた艦娘は、ほっとした表情を浮かべて早歩きで離れていった。
「それでは、先生。愛宕はまだもう少しこちらの方で仕事をしてもらいたいので、申し訳ありませんが幼稚園の方をお願いできますでしょうか?」
「あ、はい。それは俺の方に任せておいて下さい――と、愛宕さんに伝えて下さい」
「ありがとうございますわ、先生。それじゃあ、名残惜しいですけど……」
「えっ!?」
「ふふ、もう少しお話ししたかったのですけどね」
「えええっ!?」
「また、機会があればと言うことで。それじゃあ先生、宜しくお願いいたしますわ」
高雄はそう言って右手で敬礼をし、踵を返して俺から離れていった。
「え、えっと……」
高雄の言葉の意味が計り知れなくて、俺は戸惑いながら部屋を出ることになった。
こうして、俺が初めて体験することになったコードEは終息を迎えた。
被害は思っていたよりも大きく、何人かの提督はカウンセリングなどを受けて、暫く復帰できないという事態にまで陥ったらしい。
もしかすると、提督の地位も以外に簡単に手に入るのかもしれないと、高雄のとの会話から想像出来たりもしたが、俺はやっぱり子どもたちの先生でいたいと、何度も思える場面が今日1日で体験できた。
満面の笑顔を見せてくれる子供たち。
楽しく元気に遊ぶ姿。
俺を気遣い、率先して動いてくれるみんな。
からかったり、励まし合ったり、時には怖がり震えたりもするけれど、俺は子どもたちのそばにいて、過ごしやすいような環境を整える。
そんな毎日を、出来る限り長い時間、過ごしていきたいと。
そう、思える1日だった。
「……ん?」
遠くの方で叫び声が聞こたので俺は耳を澄ませてみると、建物の裏から走っていく天龍の姿が見えた。
「やったーーっ! 遂に先生の寝姿&風呂上がりの牛乳瓶一気飲みポーズ3枚セットをゲットしたぜーーっ!」
辺りに撒き散らすように、天龍の大声が鎮守府の中を響き渡っていった。
「………………」
うん、そうだった。
楽しい思い出はここまでにしよう。
今から、青葉をちょっと校舎裏まで呼び出して来なくっちゃねっ☆(キラッ)
コラ写真を含めた危なげなモノを回収すべく、俺は一目散に天龍が走り去った方向の逆へと向かう。
多分、青葉がいる場所はあそこで間違いないだろう。
ドックの大掃除をしているはずだから。
艦娘幼稚園 ~かくれんぼ(コードE)大作戦!?~ 完
さて、これで艦娘幼稚園 ~かくれんぼ(コードE)大作戦!?~ は完了致しました。
どうだったでしょうか? 感想等を頂けると、とっても喜びます。
そろそろリクエストを募っても良いかもと思ってきましたが、
実はストックがまだいくつか残っていたり、スピンオフ作品もあったりと色々と迷い中。
短編もまだありますし……さぁ、どれから更新しようかな……と思っておりますが、
順序通り、番外編で行きたいと思いますっ!
次章予告!
天龍のはしゃぐ声で写真を思い出した主人公は青葉をとっちめにドックへ向かう!
だがしかし、主人公の予想をはるかに上回る状況が、鎮守府を大きく揺るがしかねない事態まで発展する!?
幼稚園という名前なのに園児はほとんど出てこないっ!
代わりに出てくるのは艦娘の数々です!
しかも次章作品は厄介なことに「ボーイズラブ」「R-15」のタグが必要に!?
まぁ、この章だけだから……でも、苦手なら仕方が無い?
大丈夫。ほんの一部だけなので、そこまで深みには入りませんっ!(謎
ただし、オチは最悪です(ぇ
艦娘幼稚園 番外編? ~青葉と俺と写真と絵師と~
乞うご期待っ!
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