艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 次の日、僕はいつものように復帰して執務室に戻ると、なんだかんだと言いながらしっかりやってくれた高雄に礼を言いつつある場所へと向かう。
僕もしっかりできることはやっておかなければならないんだけれど、なんだか色んな意味でレアな人物だったんだよね……。


僕が運動会を計画した理由 その2「祭りといえば、アレなんだけど……」

 

「困りましたわね……」

 

 次の日の朝。

 

 朝食を終えた僕はいつものように執務室にやってきたんだけれど、机に突っ伏した高雄が覇気のない声を漏らしているのをしっかりと見てしまったんだよね。

 

「ん、どうしたの?」

 

「役にも立たないクソ元帥が珍しく良い案を出したと思えば、どう考えても予算が足りない現状に悲観してへこんでしまっても仕方がないことですわよね」

 

「ものすごい言われようでこっちがへこみそうなんだけど、状況は良く分かったよ……」

 

 僕は肩を落としながら高雄のそばにある資料に目を落とすと、真っ赤な数字がズラリと並んでいるのが見えて目眩を起こしそうになった。

 

 観艦式の予算はどうにか足りているけど、運動会で必要な道具や飾り付け、それに広報で使用するチラシやポスターの印刷代などのお金が足りないにも程がある。その総額は約1000万円を超えちゃいそうなんだけれど、この金額を臨時支出とか言って大本営に頼んでもすんなりと出してはくれなさそうだ。

 

 まぁ、そもそも舞鶴に幼稚園を設立する際に僕がごり押し気味にやったこともあるので、関連する運動会のイベント経費を申請しても間違いなく無理だろうけれど。

 

「ふむ……、これじゃあ確かに難しそうだね」

 

「どれだけ経費を削ろうとしても赤字になってしまいます。

 やはり運動会を観艦式と合わせるというのは、難しいのでは……」

 

「高雄の言う通り、舞鶴鎮守府の予算を使うのは間違いなく無理っぽいね。

 まぁ、ある程度は分かっていたけどさ……」

 

「……分かっていたのなら先に言っておいて欲しいのですが」

 

「いやぁ、だってどれくらいの赤字か知っておきたいじゃん?」

 

「このクソ元帥……」

 

「さ……、さっきから高雄が曙っぽくなってない?」

 

「そうだとすれば、私の発言は褒め言葉になってしまいますわね」

 

「どういう理論でそうなっちゃうのかサッパリなんだけど、良く考えてみたら高雄は僕のことを完全にけなしちゃっている風に取れるんだ」

 

「それこそ今更ですわね」

 

「しくしく……、秘書艦が酷いよぉ……」

 

 その場でガックリと膝をついてうなだれる僕だが、この程度のへこみっぷりで高雄が優しくしてくれないのは分かっている。むしろ普段なら追い撃ちすらありえるだけに……と思っていたんだけれど、

 

「………………」

 

「……あれ、高雄?」

 

 無言の間に気づいた僕が立ち上がると、机に突っ伏していた高雄の目が閉じられ、小さな寝息を立てているのが見えた。

 

「寝ちゃってる……のかな?」

 

 タヌキ寝入りの可能性があるので、試しにこの場でダンスを披露してみる。

 

 両手、両足をクネクネと動かすこのダンスは、ディスコなどでゴーゴーとか言われていたような覚えがあるが、ぶっちゃけて言えばタコ踊りだ。

 

 鏡で自分の動きを見たら泣いてしまうかもしれないが、生憎この部屋にそんなものはないので大丈夫だろう。

 

「ふむ……、起きないね」

 

 もし高雄が寝ていなかったら僕のダンスを止めようと不沈艦ラリアット辺りを放ってきそうだけれど、そのような動きは微塵も見られない。

 

 いや、場合によっては机の上から雪崩式ジャーマンスープレックスの可能性すら有り得ちゃうかもしれない。

 

 ちなみに過去最大級で痛かったのは、トーキックスプラッシュマウンテンだ。胃と後頭部にとんでもない痛みが走り、3時間も寝込むことになってしまったからね。

 

 そんなことを考えている僕の視線の先には、未だ寝たままの高雄の姿。夜の間に観艦式と運動会の予算を必死に計算してくれたのが、目の下の隈から見て取れる。

 

「普段だったらちょっとした悪戯なんかをしたくなっちゃうけど、今日は止めておこうかな」

 

 呟いた僕は上着を脱いで高雄の背中から被せた。

 

 ゆっくり休んでおいてね……と心の中で思いながら、僕は執務室から出て扉に外出中のプレートをかけ、とある場所へ向かったんだよね。

 

 

 

 

 

 さて、僕がやって来たところは舞鶴鎮守府から徒歩でそれほど遠くないコンビニだ。向かう前に電話をしておいたので到着早々にスタッフルームへ入り、椅子に座ってから出されたコーヒーを飲む。

 

「屋台の用意と人員の確保ねぇ……」

 

 僕と同じようにコーヒーを飲んでから腕を組んだ大柄の男性……このコンビニの店長である聖護院薫は、いぶかしげな表情で首をひねった。

 

「しかしなんでまた、私なんかに相談を?」

 

「この辺りでテキ屋をあげるなら誰……と聞いたら、真っ先にあなたの名前が出てきたんですよ」

 

 そう答えた僕だけど、正直に言って内心は複雑だ。なんせ、目の前にいる店長の見た目と声のトーンや口調が全くもって合ってないからである。

 

 僕ってコンビニのスタッフルームにいると思うんだけど、いつの間にかオカマバーにテレポートしちゃったんだろうか……ってくらい、オネエ言葉が心につき刺さってくるんだよね。

 

「どこで調べたのか分からないけれど、確かにこの一帯を占めてるのは私のトコだから頼まれればやってあげるわ。

 それにヲ級ちゃんの運動会となれば、是非サポートもしてあげたいし……」

 

 そう言った店長はチラチラと流し目を送ってくる。

 

 マジで止めて欲しいんだけど、気を悪くされても困るので愛想笑いを浮かべるしかないのかなぁ。

 

「さすがに貴賓席などに招待するのは難しいですけど、運動会を観覧できる良いポイントの席は確保できるように取り計らいますよ?」

 

「………………その言葉に二言はねぇな?」

 

「え、ええ……」

 

 急に凄みの……というかドスの効いた視線を向けられ、思わずケツが椅子から浮きそうになるのを堪える僕。

 

 さすがはテキ屋をまとめるだけはあると思える一方、どうしてコンビニの店長をやっているのかは謎のままだ。

 

 ついでにオネエ言葉はもっと謎。でも突っ込む気力はまったくない。

 

「おっしゃあ、分かった……わ。

 大船に乗ったつもりで任せてくれれば良いわよん!」

 

 バンッ! と机を激しく叩いた店長は椅子から立ち上がり、ズボンのポケットからスマートフォンを取り出してタップしまくる。おそらく通信アプリで連絡を取っているんだろうけど、目に痛いほどのデコレーションされたスマートフォンのインパクトが強すぎて呆気に取られてしまった。

 

「ああ、そうそう。

 ちなみに人員の確保はどれくらいが必要かしら?」

 

「一応こっちの方でも手が空いている者にはサポートもさせられるし、できるだけ費用は押さえたいんだよね」

 

「ふむふむ……。

 それだと屋台一つに一人で問題なさそうね。

 その場合だとマージンはこれくらいでイケそうだから……」

 

 なんか一部の発音が気持ち悪いがしたが、その辺りも突っ込む気はない。

 

「こんな感じでどうかしら?」

 

「んー、そうだね。

 今回予算が限られてるから、屋台の売上が結構重要なんだけど……」

 

「そこまで切羽詰まっているって少し怖いけど、屋台の種類はなんでもアリかしら?」

 

「風営法に引っ掛からなければ大丈夫だけど……」

 

「それじゃあヲ級ちゃんグッズ専門店も出しましょう。

 ついでにファンクラブ会員もゲットできれば、一石二鳥よ!」

 

「ま、まぁ、別に良いんだけどさ……」

 

 満面の笑みを浮かべる店長が身体をクネクネとさせながら妄想に耽っている姿を見て吐き気が催しそうなのを堪えながら、僕はひたすら乾いた笑い声をあげるのが精一杯だった。

 

 

 

 

 

「これで屋台の方は大丈夫……っと。

 予算の方は厳しいままだけど売上の一部で賄えれば助かるし、なんとかなって欲しいんだけれど……」

 

 高雄が夜通し計算をしてくれたんだから、朝に見た書類に書かれていた必要経費を更に削ることは難しいだろう。その分は僕のポケットマネーで一時的に賄うしかないんだけれど、運動会を終えて赤字にするつもりは毛頭ない。

 

「必要なのは一般のお客さんをたくさん呼んで売上をあげること。

 だけどそれは不安定だろうし、いくつかの手を取るとすれば……やっぱりアレかなぁ」

 

 前回はかなり痛い目にあったし、正直に言えばあまりやりたくはない。結果次第では大赤字からの破産もありえるのだが、成功すればリターンも大きいのがギャンブルなんだよね。

 

 そう――、つまりはトトカルチョ。

 

 以前幼稚園で行われたバトルでかなりの被害を出してしまっただけに止めておきたい所なんだけど、やり方次第ではどうにかなるかもしれない。

 

「そのためにはちょっとした工作が必要だけど、果たして乗ってくれるかどうか……」

 

 僕の頭には打算があるし、成功確率は決して悪くないはずだ。褒められた手ではないだろうけれど、背に腹は変えられない状況でもあるからね。

 

「それにはやっぱり、先生の存在が必要になってくるか……。

 なんだか考えてることとやってることがちぐはぐだよなぁ……」

 

 先生を舞鶴に戻すことを条件に、愛宕に協力を求める。上手くいけばトトカルチョの結果を操作できるだろうし、ウィンウィンの関係が組めるはず。

 

 それに僕が破産しちゃったら幼稚園も厳しい状況になってしまうかも……と言えば、協力せざるをえないだろうからね。

 

 うーん、なんだか僕って非常にあくどいキャラになってる気がする。権力者はこういう感じなイメージがあったりするけれど、できればクリーンな方向で進みたいなぁ。

 

「あまり考えすぎても辛いだけとはいえ、もしもの手も取っておくべきだよね……」

 

 僕はポケットからスマートフォンを取り出して……って、なんだかさっきの店長と同じような感じは避けたい気がする。

 

「佐世保のあの子に連絡……っと」

 

 電話帳から目的の艦娘を探し出し、間違いがないことを確認してから電話をかける。コール音が数回鳴った後、明るい声がスマートフォンのスピーカーから聞こえてきた。

 

「もしもーし」

 

「お久しぶりー。

 今ちょっと大丈夫ー?」

 

「今はお客さんの治療をしている最中ですけど、もう少しで終わりますから大丈夫ですよ……っと!」

 

 その後にゴキャッ! と鈍い音が鳴り、それから男性の悲鳴のような声が聞こえたけれどこれはいつものことだから気にしないで良いだろう。

 

「はいはーい、これで終了ですよーって気絶しちゃってますねー。

 まぁ、この後の予約は少し空きがありますからそのまま寝ちゃってても大丈夫ですよー」

 

「相変わらずっぽいけど、気絶するってあまりよくないんじゃないのかなぁ……」

 

「そんなことないですよー?

 顔は恍惚とした風に見えますし、本人が喜んでいるんだから良いんじゃないですかねー」

 

「本人がそう思っていることを祈っておくよ……」

 

「本気でそう思ってます?」

 

「その人が女性だったらって付け加えておいてくれる?」

 

「やっぱりそうですよねー」

 

 そう言った相手は「あっはっはー」と笑ってから口調を変えた声を出す。

 

「それで、用件はなんですか?」

 

「それなんだけど、ずいぶん前にお願いしていた件を覚えてる?」

 

「んー、それってもしかして……アレですか?」

 

「そう、例の特殊兵装のアレ……だけどさ」

 

 もしもの際に使えれば良いと思って以前に依頼していた件のことを伝え、鎮守府へ帰る道を歩きながら話し合ったんだよね。

 




次回予告

 屋台の手配も済んだ僕は、ある艦娘に連絡を取った。
その後、多少の問題はあったけれど、運動会の準備は着々と進んでいく。

 そしてついに前日になったんだけれど、佐世保からやってきた安西提督が少々腰をやらかしたようで……。

 艦娘幼稚園 第二部 番外編
 僕が運動会を計画した理由 その3「治療という名のサブミッション」


 乞うご期待!

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