艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 長くお待たせいたしました。
艦娘幼稚園の最新話を更新いたします。
前回まで続いておりました、運動会の番外編となります『元帥スピンオフ』を数話ほど更新する予定です。


あらすじ

 なぜ舞鶴&佐世保合同運動会が行われることになったのか。
その理由を、僕ーー元帥が語ろうと思う。
なんだか毎年年始だけ出番がある気がするのは気のせい……だよね?


~元帥スピンオフ~
僕が運動会を計画した理由 その1「よし、運動会をしよう」


 

 やあ、久しぶり。

 

 僕が語るのなんておそらく1年ぶりくらいだろうけれど、たまにはこういった趣向に付き合ってくれるとありがたい。

 

 一応自己紹介をしておくと、僕は舞鶴鎮守府で一番偉い元帥だ。しかし、ここ最近は秘書艦の高雄にやられっぱなしだけでなく、佐世保鎮守府にいる安西提督から頼まれて左せ……じゃなくて異動を命じた先生の影響があるのか、僕の影が薄い感じなんだよね。

 

 呉にいる瑞鳳ちゃんや雪風ちゃんの方に集中しすぎたのは僕がいけなかったんだけれど、せっかく頑張って作った舞鶴鎮守府ハーレムが消えてしまうなんてことは、なにがあっても回避しなければいけない。いや、いっそのこと先生がいないこのチャンスを利用して拡大を狙おうじゃないか。

 

 そうと決まれば前は急げ……なんだけれど、あまり露骨にやり過ぎると高雄にフルボッコされてしまうのは目に見えている。呉ならなんとかなっても、膝元である舞鶴では高雄の目は至るところにあるといっても過言じゃないからね。

 

 それじゃあ、高雄が演習に出ている間にしっかりと策を練ろうと思っていたところで扉の音がノックされたのに気づき、僕は「どうぞー」と声をかけたんだ。

 

 

 

 

 

「失礼しまーす」

 

「おや、青葉じゃないか。

 どうしたんだい、こんな時間に」

 

 新規写真が手に入った場合、交渉などは高雄が夕食を食べに行く時間と約束してあるのだけれど、今の時間は昼を少し過ぎた辺り。更には青葉の表情が若干気まずそうに見えることから、嫌な予感が僕の背筋にヒンヤリと這うように襲ってくる。

 

「いやー、実はちょっとばかりお願いがありましてー」

 

「僕にとって都合が悪いお願いならば、聞きたくないんだけれど」

 

 そう言って両手で耳を塞ぐジェスチャーをすると、青葉は懐から数枚の写真をちらつかせてきた。

 

「その代わりと言ってはなんですけど、新しい写真を無料でお譲り致しますよー?」

 

「そういうのはいつもの時間でお願いと言っているだろう」

 

 僕は真面目な顔で青葉を諌めつつ……、

 

「……で、どんな写真が入ったのかな?」

 

 気になるのは隠しきれないので、小さめの声で問い掛けた。

 

「それは見てのお楽しみってことで、青葉のお願いを先に聞いてほしいんですよねー」

 

「まぁ、聞くだけならタダだから良いけどさ」

 

「いやいや、ちゃんと実行してくれなければ写真は譲りませんよ?」

 

「それはお願いの内容次第だよねー」

 

 軽い口調で答えつつ青葉の顔を見つめると、どうやら根負けといった風に両手を広げて大きなため息を吐いた。

 

「わかりました。

 それじゃあとりあえず話しますけど……」

 

「だが断る」

 

「まだ何も言ってないんですが……」

 

「だって、嫌な予感しかしないんだもん」

 

「じゃあ、写真はいらないってことで良いですね?」

 

「それも断る!」

 

「気合いの入り方が全く違うんですけど!」

 

「僕は欲望に忠実だからね!」

 

「堂々と言える元帥が恐ろしいです!」

 

「高雄の前では言えないけどねー」

 

「その辺りも含めて元帥らしいですよね……」

 

「まぁ、色々と懲りてるし」

 

「それじゃあ話くらいちゃんと聞いてくださいよ……」

 

 ガックリとうなだれる青葉に愛敬笑いを振り撒いてから、僕は耳を傾けることにした。

 

 ちなみにお願いというのは青葉からだけではなく他の艦娘たちからの要望も含まれていると前置きを聞き、僕の不安が大きくなる。そしてその内容を耳にした途端、僕の口から重たいため息が流れていくことになった。

 

 

 

「……以上のことから、一部の艦娘と幼稚園にいる園児たちの士気が低下しています」

 

「とどのつまり、先生を佐世保から舞鶴に復帰させろってことだよね?」

 

「簡潔に言えばそうなりますね」

 

「ちなみに心を込めて言うとどんな感じ?」

 

「さっさと先生を戻さないと、元帥の悪い噂を流しまくりますって言ってるのが数人いますねー」

 

「どんな噂か知らないけれど、それって懲罰覚悟ってことでファイナルアンサー?」

 

「それは本人でない私に聞かれても分からないんですけど……」

 

「噂を流すのが得意な青葉に、そんなことを言われてもなぁ」

 

「私の場合は取材が得意なだけであって、噂を流すのは別なんですが……」

 

「その言葉、僕の目をしっかりと見ながら言ってみて?」

 

「ワ……、ワタシ、ナニモシラナイデスヨー」

 

「動揺し過ぎにもほどがあるんだけど……、まぁ良いか」

 

 言って、僕は再度大きなため息を吐きながら腕組みをする。

 

 先生を佐世保に異動させてから数ヶ月。密かに活動しているという先生のファンクラブから苦情が出るだろうとは思っていたけど、青葉を介して僕の耳に入ったのはどういう魂胆なのだろう。

 

「と、ともあれ、このまま放置しておくとあまり良いとは思えないんですが……」

 

「まぁ確かに、先生の異動は一時的なモノだと考えてはいるんだけれどねー」

 

 安西提督との約束もあるので、それじゃあすぐに戻ってこいとも言えない。まずは佐世保の状況を判断しつつ僕のハーレム拡大計画も念頭にいれないと、せっかくのチャンスを不意にしてしまうことになりかねないからね。

 

「とりあえず青葉のお願いについては理解したけれど、異動先になる佐世保の担当者である安西提督と話をしないことには首を縦に振れないなぁ」

 

「その辺りについても青葉がどうこうできることではないですから、元帥にお任せするしかありませんね」

 

「やけに聞き分けが良いんだけれど……、他になにかあったりする?」

 

「いえいえ。

 ただ、良い返事が聞けるまでは写真をお渡しできないだけです」

 

「……むう。

 それはちょっと残念だけど、そもそもその写真は本当にお宝レベルなのかな?」

 

「ええ、それはもちろんです。

 なんたって、呉にいるとある軽空母の中破写真ですからねー」

 

「………………」

 

 ……あれ、僕の耳がおかしくなったかな?

 

 今さっき、青葉がなにか変なことを言っていた気がするんだけど。

 

「ちなみに、物凄く幸運な駆逐艦が珍しく魚雷を受けて半泣きになっている写真もありますよ?」

 

「……ど、どこからそんな情報が漏れ……じゃなくて、手に入れたのかな?」

 

「その辺については、秘書艦に聞いてみると良いと思われますねー」

 

 そう言って含み笑いを浮かばせる青葉から目を逸らした僕は、今日一番のため息を吐くのであった。

 

 これ、既に詰んじゃってるんじゃないのかな……。

 

 

 

 

 

 さて、非常にまずいことになった。

 

 呉の情報が漏れていた(というよりも、よくよく考えると元々僕が無意識に喋っていた気がする)ことにより、高雄からの圧力は今まで以上に厳しいものとなるのは予想するに難しくなく、なんとか状況を改善できる手を考えなければならない。

 

 そこで悔しいのだけれど、青葉からのお願いを聞くことにした。すんなり受け入れては圧力に屈したと思われるかもしれないが、そもそも青葉が他の艦娘から聞いたという段階で高雄の耳にも入っていると考えられるのだから、それらを解決させるのは鎮守府を治める元帥としての役割であり、そうすることで周りの評価が良くなる可能性を見越してなのだ。

 

 先生が帰ってくることによって舞鶴鎮守府ハーレム拡大計画に支障をきたすかもしれないが、それをする前にフルボッコを受けては意味がない。ましてや高雄が警戒している状況を生み出してしまえば、僕の計画を即座に察知して阿修羅のごとく破壊するだろう。

 

 しかし僕としても、はいそうですか……と言うには釈なので、なにかしらの理由と共に新たな計画を考える。そして頭の中でしっかりと構築してから、帰ってきた高雄に提案することにした。

 

「……運動会、ですか」

 

「そう、運動会。

 先生が佐世保に行って向こうの幼稚園運営を安定させたみたいだから、交流をかねたイベントをどうかな……と思ったんだ」

 

「なるほど……。

 元帥にしては珍しくまともな計画を立てましたわね……」

 

 いぶかしげな目を僕に向けながらブツブツと呟く高雄だが、そんな視線でボロを出すなんて失敗はしない。少しばかり背筋に嫌な汗をかいているが、これは気のせいなんだろう。

 

 ちなみにこの計画を立てるに至って真っ先に安西提督に連絡を取り、現在の佐世保幼稚園における運営状況を確認しておいた。どうやら先生は苦労しつつも奮闘しているらしく子供たちの成長は著しいようで、安西提督に運動会の計画を伝えると二つ返事で了解を得ることができたのだ。

 

「すでに先方には連絡も済んでるし、後は設営の準備を進めれば問題ない。

 この機会に先生をこっちに戻して舞鶴幼稚園に復帰させることで、寂しがっていた子供たちも喜ぶだろうね」

 

「ええ、何人かの子供たちが落ち込んでいると愛宕からも聞いていましたし喜ぶことでしょう……って、そこまで考えているとはますます怪しい気が致しますわ」

 

 威圧感が増した視線がガッツリと僕の顔につき刺さり、独りでに身体がガクガクと震えてしまう。背中はすでにビッショリと汗にまみれ、気持ち悪いったらありゃしない。

 

「そ、その辺は僕も色々と考えててさ……。

 時折部下から先生が帰ってこないのかと聞かれたりしたし、向こうの話を聞いたら頃合いだと思ったからだけ……だよ?」

 

「そう……ですか。

 まぁ、どういう企みがあったにしろ、先生をずっと佐世保に置いとく訳にもいきませんわね」

 

 そう言った高雄は小さく息を吐きながらも納得するように頷き、鎮守府運営のスケジュール表をペラペラとめくる。

 

「運良く再来週の週末が空いているようですし、ここで運動会を催すのがベストですわ。

 ただ、日程は良くても予算の方は……」

 

「ああ、それについてなんだけれど、同時に観艦式も開こうかと思うんだよね」

 

「観艦式も……ですか?」

 

「うん。

 来月予定の観艦式を早めるのは可能だし、その予算を使えば一石二鳥でしょ」

 

「し、しかしそれでは、観艦式にお招きしている他の鎮守府の方々に運動会を見せることになるのですが……」

 

「それも問題ないでしょ。

 観艦式の後に運動会をやって、全部見てもらえば子供たちのアピールにもなるし、ついでに地域住民も呼んじゃってお祭り騒ぎにしちゃえば良いと思うんだ」

 

「ほ、本気で言っているのですか!?」

 

「そんなに驚く方が僕としてはおかしいと思うんだけど、運動会って親御さんたちが見に来るイベントだし、観艦式も似たようなもんでしょ。

 同時にやれば予算の削減になって、更に屋台も並べれば収入もゲットできちゃうんじゃない?」

 

「………………」

 

 信じられないといった風に、あんぐりと口を開けたまま固まる高雄。おそらく僕の考えた案に驚いているのだろうが、やるときはやるんだって所を見せることができて若干満足だ。

 

「し、信じられませんわ……。

 まさか元帥がこれ程までに鎮守府の運営を考えているなんて……」

 

 ふふふ……、もっと驚きつつ褒めたたえるが良い。

 

「ま、まさか目の前にいるのは元帥の皮を被った別の生き物ではっ!」

 

「いやいや、さすがにそれはないって」

 

 僕は顔の前で手の平をパタパタと振りつつ、ふとあることを思いつく。

 

 僕の皮を被った別の……か。

 

 それって、面白そうだよね。

 

「いいえ、いくらなんでもこんな案を計画するなんていつもの元帥ではありません!」

 

「どこまで僕の評価が低いのさ!

 たまには良いところを見せるべきだと思って頑張ったのに!」

 

「それは日頃の行いが悪いからですけれど……」

 

 高雄はそう言いながら僕の方に近づいてきて、右手の平をピタリと僕のおでこにつける。

 

「熱は……ありませんわね」

 

「至って体調は普通なんだけれど」

 

 さっきの仕返しとばかりに、いぶかしげな目を高雄に向ける僕。

 

「むしろ、死んでいるんじゃないかと思えるくらい体温が低いのですが……」

 

「いや、さすがにそれはないと思うんだけどさ……」

 

 そう返したものの、なんとなく寒気がするような……。

 

 もしかして、さっきたっぷりとかいてしまった背中の汗で、体温が低くなってしまったとかだろうか?

 

「あら、少しずつ熱が上がってきていますけど……」

 

「低すぎるよりは良いと思うんだけど……へっくしょん!」

 

 くしゃみと同時に鼻水が出てしまい、ズルズルと必死に吸おうとするが急に頭痛が襲ってくる。

 

「うぐ……、頭が痛い……」

 

「これは……、明らかな風邪の症状ですわね」

 

 冷静な声と裏腹に、高雄の表情は心配しているように見える。

 

「運動会と観艦式の同時開催についての計画は私の方でまとめておきますので、元帥はすぐに部屋に戻って休んでください」

 

「そ、そうするよ……と言いたいところなんだけれど、なんだか身体がぎこちないから連れていってくれないかな?」

 

「はぁ……、やっぱりいつもの元帥ですわね……」

 

 呆れたようにため息を吐く高雄だが、心なしか嬉しそうにも見える。

 

「あ、ついでになんだけど、一緒にベッドへ入って温めてくれたら思いっきり感謝するんだけ……」

 

「ええ、分かりましたわ」

 

「え、マジで!?」

 

「ベッドに転がした後、みぞおちに肘を落とせばよろしいのですね?」

 

 ニッコリ笑ってエグいことを言う高雄に「やっぱりいいです……」と答えた僕は、しょんぼりしながら部屋に戻ることにした。

 

 

 

 まぁ、そんなことを言いながらもしっかり部屋まで送ってくれた高雄には感謝してもしきれないんだけどね。

 

 




次回予告

 次の日、僕はいつものように復帰して執務室に戻ると、なんだかんだと言いながらしっかりやってくれた高雄に礼を言いつつある場所へと向かう。
僕もしっかりできることはやっておかなければならないんだけれど、なんだか色んな意味でレアな人物だったんだよね……。

 艦娘幼稚園 第二部 番外編
 僕が運動会を計画した理由 その2「祭りといえば、アレなんだけど……」


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