そう……提督ならおなじみの妖怪猫吊るし!
しかしその手にはいつものアレが無い。
なぜコードEの発令があったのか。
そしてまたもや鳴り響く放送の声。
恐ろしきヤツに立ち向かうためにはどうすれば良いのか!?
頑張れ主人公! 頑張れ艦娘幼稚園!
「き、君は通路にいた……」
「ああ、そうだね。声をかけてくれたのは分かってたんだけど、少し忙しかったから無視させてもらったのさ」
堂々と『無視』と言われた俺だったが、返す言葉も無いどころか、腹が立つことさえ思いつかないほど、目の前の少女の言葉の圧力に飲み込まれていた。外見に似つかわしい可愛い声なのに、口調は正反対と言って良いほど大人びて、威圧感を感じてしまう感じに俺は思わず数歩後ずさってしまっていた。
「やっぱり……やっぱりそうだったんだね……」
「……し、時雨?」
小さく呟く時雨の声に、俺は振り向いて顔を見る。その表情は辛く険しく、額には汗がにじみ出していた。
「先生、この子は……見た目で判断して良いような子じゃないんだ……」
「凄い言われ様だね。まぁ、そう思われても、そう言われても、私が行っていることを考えれば仕方ないのかもしれないけどね。でも、私だって好き好んでやっている訳ではないんだよ。もちろん悪いとは思っているけれど、謝って許してもらおうとは思っていない。だけど……」
目の前の小さな子が、口早に喋っていた時だった。
急に、部屋に取りつけられているスピーカーから「キーン!」と甲高い音が鳴り響き、子どもたちが一斉に耳を押さえて表情を曇らせた。
ガガッ……キーーーーン……ガッ……ガガガガッ……
マイクがノイズを拾い、不快な音が何度も聞こえてくる。
これがパニック映画や漫画なら、悲鳴が上がり、辺りにゾンビが溢れかえるようなシーンになるかもしれないが、そんな現実はご免被りたい。
「あー……あーあー……マイクテス、マイクテスですわ」
聞き覚えの無い女性の声がスピーカーから聞こえ、不快なノイズが消え去った。耳を塞いでいた子どもたちは耳から手を離し、どんな言葉が発せられるのかと、耳を済ませてスピーカーの方を見た。
「緊急連絡、緊急連絡です。秘書艦の高雄に代わりまして、私、熊野がお伝えしますわ。鎮守府内にいる全員は、ただちに白い猫を探してください。発見した場合、至急大会議室に連れてくるように。繰り返します。至急全員で白い猫を探し出して大会議室まで連れてくるのですわっ!」
熊野と名乗った女性の声が、部屋中に響き渡っていた。多分、この放送は鎮守府内の至る所に流れているのだろう。
そしてその中で、もっとも重要視される『白い猫』という言葉に、俺は額から汗を流しながら時雨と小さな子の顔を見た。
「ご想像通り。あなたと、そして君が今思っている通りの事だよ」
「あ、いや……すまない。俺はまだハッキリと分かっているとは……」
「おや、あなたは頭が賢くないのかな? それとも、能ある鷹は爪を隠す的なアレなのかな? それともアレかい、ガ●ダムハンマーって訳かい?」
「いやもう何言ってるかさっぱり」
所詮ロボットアニメ……なんて言う訳無いです。
どっちも名作だと思ってるし。
「そうだね、それじゃあ順を追って説明してあげよう。そうすれば、ノールスだろうが、干からびて音が鳴っていようが、理解できない年齢でもあるまいし」
もはや例えが全然分からないのだけれど、突っ込みを入れるのも後々怖いので、俺は素直に頷いた。
「うむ、素直は良いことだよ。話を聞かない人は酷く嫌いでね。――さて、どこから話していいかな」
そう言って、小さい子は顎に手を当てて「うーん……」と考え込んだ。
その間、じっとしているのも何なので、子どもたちの様子を窺おうと辺りを見回してみると、夕立が何かに気づいたかのようにきょろきょろと顔を動かし、暫くして金剛と会話を始める。
「ねぇ、金剛ちゃん」
「ハイ、なんデスカ?」
「先生と時雨ちゃん、どこいったっぽい?」
「アレレ? 本当デスネー。さっきまでその辺にいたと思ったデスけど……」
「急に消えちゃったっぽい」
「フムー、この一大事に、どこをほっつき歩いているのでショウ」
やれやれ……と、両手を上に向けてお手上げのポーズを取った金剛だが、その言葉には非常に引っかかるモノがある。いや、モノと言うか、今この時点で金剛に呼びかけている声が、まったく伝わっていないのだ。
「金剛! 夕立! 俺はここにいるぞっ!」
「……無駄だよ、先生。多分ここは、みんながいるトコロじゃないんだ……」
「……は? な、何を言ってるんだよ時雨。目の前に、みんながいるじゃないかっ!」
「空間を捻じ曲げてるとか、そんな感じじゃないかな……。僕も初めて体験したけど、未だに信じられないよ……だけど」
そう言って、時雨は小さな子の顔を見た。先ほどと同じように唸り声を上げながら考え込んでいるようで、俺たちには全く見向きもしないといった感じだった。
「この子なら、それが出来ると思う。現に、先生の前でも消えたんだよね?」
「い、いや……実際には通路の曲がった先で見失ったのだから、目の前で消えたのを見た訳じゃないけど……」
「それでも、普通じゃ考えられない状況だったんだよね?」
「そ、それは……」
確かに時雨の言う通り、あの場所で俺の視界から離れた時間はほんの数秒だったから、普通であれば考えられない事が起こったと言わざるを得ない。だけど、時雨が言っていることは、漫画やアニメの中でしかありえないレベルの話であり、素直に信じるにはまだ早いのではないかと思えてしまうのが、普通なのではないだろうか。
「うん、よし。大体はまとまったかな」
そう言った小さい子は顎にあてていた手を離し、胸の前でパンッ! と両手で音を鳴らすと、急に耳に違和感を感じた。
「うっ!?」
慌てて両方の耳を手で塞ぐ。時雨も同じようにして、苦悶の表情を浮かべていた。
「あれっ、先生いたっぽい!」
「本当デース! 今までどこにいたのデスカー?」
「えっ、い、いや……俺はずっとここに……」
そう言いかけた途端、時雨が俺の服の裾を掴み、ぐいぐいと引っ張った。
「先生、説明しても難しいと思うから、今は……」
「あ、あぁ……そうか」
俺は小さく時雨に頷いて、夕立と金剛の顔を見る。
「すまんすまん、ちょっとトイレに行ってたんだよ。急にお腹の調子が悪くってな」
「大丈夫っぽい?」
「ああ、心配かけてすまなかった」
そう言って頭を撫でてあげると、2人は納得した表情を浮かべてこくりと頷いた。
「これで、半分は理解したかな?」
小さい子が俺に問う。順序も何もあったものじゃないけれど、俺は頷くしか出来なかった。
「うん、それでいいよ。それじゃあ、あとは今の現状だけど――それは、今さっき流れた放送の通りなんだ」
「放送って……それは時雨も言ってた白い猫のことだよな?」
「……やっぱり、そうだったんだね」
「そこの君は気づいていたみたいだけど、ご察知の通り、私は白い猫を探しているのだよ」
「し、しかし、それがなぜ――鎮守府内にコードEってやつが発令されるような事態になるんだっ!?」
「それにしてもあなたは察しが悪いね。それも若さゆえの過ちと言うヤツかな」
坊やだからさ――なんて言った覚えは無いのだけれど。
「まぁいいさ、説明してあげるよ。私が探している猫は、エラーを起こす猫でね。ヤツがここ数時間、この鎮守府近辺で悪さをしているのに気づいた私が、捕まえようとやってきたという訳なのさ」
「え、エラーを起こす――猫っ!?」
「そう――その猫は近くにある様々な電子機器に問題を起こし、空間のひずみを発生させる特殊な猫。数多の提督を混乱と悲鳴の渦に陥れた、憎きヤツなのだよ」
「そ、そんな猫が……この鎮守府に……っ!?」
「そして、今もほら――」
小さな子はそう言って、スピーカーの方にくいっと首を傾けた。
ガガッ……ギッ……ガガーーッ!
「げ、元帥っ、お待ちになって! 放送は私、熊野が……きゃあっ!」
ガタン、バタンと大きな音が鳴り、続けて聞き覚えのある男性の声がスピーカーから流れてきた。
「は、早くっ! 今すぐに猫を……白い猫を持ってきてくれ! 誰でもいいっ、頼むっ、頼むから――ひっ!? く、来るなっ、出てくるなぁーーっ!」
「だ、誰か元帥を早くタンカにっ!」
「ぎゃあああっ! また出たっ、もういい加減にしてくれぇっ!」
「こっ、こっちもタンカをお願いっ!」
「ダメよ、タンカはもう無いのっ!」
「ひいぃぃっ! やめろっ、やめろおぉぉぉぉっ!」
ブツンッ……ガッ……ガガガッ……
「………………」
俺の喉が無意識に唾を飲み込み、ごくりと音が大きく聞こえた。部屋の中には物音1つすることなく、恐怖に顔を染めた子どもたちがガタガタと身体を震わせながら、スピーカーをじっと見つめ続けていた。
「こういうことだよ。さすがにあなたの頭でも、大体のことは理解できたんじゃないかな?」
「こんな……こんなことが……」
俺は茫然と呟きながら隣にいる時雨を見ると、周りの子供たちと同じように身体を震わせていた。いくら頭が良く頼りになる子どもであっても、時雨は年相応の少女とほとんど変わらない。俺は安心させようと、時雨の身体を包み込むように抱き締めて、「大丈夫……大丈夫だよ、時雨……」と耳元で呟いた。
「せ、先生……うん……ありがとう……」
「へぇ……」
小さな子はそんな俺たちの姿を見て小さく呟き、ため息を吐いた。
「どうすれば……どうすれば、この惨劇を終わらせることが出来るんだ」
「それはさっきも言ったけど、白い猫を捕まえて私の元に渡せばいいんだ。それでいつもの鎮守府に戻るよ」
「なら……その白い猫はどこに……」
「それが分からないから困っているんだ。まぁ、大体の位置は分かっているんだけれど……」
「なら、すぐにその場所を……っ!」
「話は最後まで聞いてくれないかな?」
凄みを利かせた言葉が、俺に突きつけられる。だけど、腕の中で震える時雨や、周りでガタガタと震えている子どもたちの為にも、ここで引く訳にはいかない。
「早く、猫がいそうな場所を教えてくれっ!」
「へぇ……そんな顔が出来るんだね。まぁいい、ここはあなたに免じて教えてあげるよ」
そう言って、小さい子は精神を集中させるように眼をつむり、両手をゆっくりと開いた。
「ふむ……結構近くにいるみたいだね。さっきから私がこの建物の中を探していたのだから、もう遠くに行ったと思っていたのだけれど……」
「正確に、どこの辺りだっ!?」
「ん――これは、右の方――?」
「右っ!?」
すぐさま言われた方へと振り向いた俺は、視線のある先にあるモノを見つめる。そこにあるのは、この部屋を出入りする為の、1枚の扉がある。
「あの扉の向こうだなっ! 時雨、悪いが少しだけ我慢していて……」
「いや、もうこのまま待てば良いよ」
「……えっ!?」
ガチャリ
俺の上げた声と同時に開かれた扉から、1人の子どもの姿が見えた。
「あら~、みんなどうしたの~?」
やっぱりと言うか、なんと言うか、オチもしっかり龍田の出番だった。
次回予告
妖怪猫吊るしの言葉によって入ってきた龍田。
その手には、誰もが待ち望んだアレが抱えられていた!
艦娘幼稚園 ~かくれんぼ(コードE)大作戦!?~ その12
今章は次回で終わりっ!
もおぉぉぉにんぐぅぅぅすたああああああああっ!
乞うご期待っ!
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