それはさておき、遂に最終結果が発表される。
果たしてどうなったのか。主人公の未来は明るいのかそれとも……?
『それでは改めまして、子供たちの行動についての議論した結果をお伝えいたしますっ!』
色々あったが仕切り直しとなった発表に、観客一同は固唾をのんでスピーカーの方へと視線を向ける。
もちろん俺の今後が決まる大事な内容なので、一字一句聞き逃さぬようにと集中した。
『さて、それではまず、議論をする理由となったポイントですね』
『ことの発端は第5ポイントの後半戦、ヲ級ちゃんが艤装を使った超加速を行ったことですわ』
説明を聞くうちに、ヒソヒソと観客から内緒話をしている声が聞こえてくる。堂々とではなく小さい声で話しているところが、如何に高雄の影響力が高いかを物語っているだろう。
まぁ、さきほどの反応を見ていたらすぐに分かっちゃうけどね。
本当に、姉妹揃って恐ろしいったりゃありゃしない。
……そんな妹に惚れちゃっている俺もどうかと問われれば、言葉を返し難かったりするんですが。
『これにつきましては、直接他の子に妨害をするために艤装を使用した訳ではないということで、ペナルティは科されないとなります』
『発動時にマックスちゃんが少し影響を受けましたが、回避できなかった訳ではありませんからですわ』
この発表を受けて、1部の観客たちが喜びの声を上げた。おそらくヲ級のファンと思われるが、対して不機嫌そうな顔を浮かべているのはマックスのファンだろうか。
『続いて、超加速を行ったヲ級ちゃんにぶつかった金剛ちゃんですね』
『これに関しては明らかに正面から向かいましたし、妨害しようとした意思が見受けられましたわ』
すると今度は、観客からそこそこ大きなざわつきが上がる。
「お、おいおい、まさか金剛ちゃんが失格なんてことになっちまうのか……?」
「確かに直接妨害しようとしたのは丸分かりだったからなぁ……」
「し、しかし、ここまで頑張ってきて失格ってのは、さすがに可哀相じゃない……?」
徐々に金剛を擁護する声が大きくなり始め、またしても高雄が切れるんじゃないか……と不安になりそうになった途端、タイミングを見計らったように青葉の声がスピーカーから流れてきた。
『みなさん、ご安心下さい。
金剛ちゃんの行動は議論でも問題視されましたが、着順が最下位だったことも考えて失格という判断にはいたりませんでした』
『最後の競技だったのでこういった結果にはなりましたけれど、次の機会で同じことをすれば十分に失格になり得るということはご理解下さいませ』
「「「おぉぉ……」」」
観客たちは安心したように大きなため息や声を漏らし、ホッと胸を撫で下ろす。
金剛は敵チームではあるものの、俺もこれについては同意見であり、失格にならなかったことは素直に喜びたいところなんだけれど、
「そうなると、順位的にはどうなるんだろう……?」
金剛が所属するしおいチームは第4競技を終えた時点で暫定トップだったはず。いくら最後の競技で最下位になったとしても、それまでに貯めた順位ポイントを考えると、俺のチームが優勝するのはかなり厳しいものになるんじゃないだろうか。
それに、さらなる不安がもう1つ、
『そしてその後、北上ちゃんの行動なんですが……』
――そう、俺のチームである北上は、空中にいたヲ級に対して対空技を見事にかましちゃっているんだよね。
つまりは、どう考えても詰んじゃっているってことで。
俺の未来、絶体絶命。
『空中にいるヲ級ちゃんに対して直接攻撃を加えたとして、妨害行為に及んだ……と議論いたしましたわ』
そして熊野が続けた言葉を聞いた瞬間、俺の身体から力が抜けてしまって、その場で膝をつきそうになってしまう。
『金剛ちゃんと違う点は、両者痛み分けという感じになった訳でもなく、一方的に北上ちゃんが攻撃をしたと見られた』
『しかし、北上ちゃんがこの行動を取ったことで、他の子供たちへの被害が少なく済んだ……とも取れたのですわ』
「え……っ!?」
思いもしなかった言葉を聞き、俺はハッと顔を上げる。
『金剛ちゃんと衝突したヲ級ちゃんですが、吹き飛ばされてもなお諦めずに艤装を使ってゴールを目指しました。
しかし、途中で艤装が暴走をした為に危険な状態へとなり、そのまま放置すればヲ級ちゃんを助けようとした雷ちゃんにまで危険が及ぶと考えられたのです』
『それをその場で察知した北上ちゃんが緊急的手段として、ヲ級ちゃんの勢いを弱めるべく対空技を放った……というのが、議論して導き出したのですわ』
「「「ざわ……ざわ……」」」
考えもしなかった答えに驚く観客たち。
その中で1番衝撃を受けているのは俺なんだろうけれど、これってつまり……、
『その結果、北上ちゃんの対空技は妨害行為ではなく、緊急手段として認められました』
『それらをまとめた上、最終的な着順を発表いたしますわ!』
首の皮が繋がった……ということになっちゃうのかなっ!?
『第5競技の1着は、愛宕チームの雷ちゃんです!』
「わ、私が勝っちゃったんだ……」
「「「うお……おぉぉぉぉぉっ!」」」
唐突だった展開に戸惑う雷と観客たちだが、すぐに理解したらしく一気に盛り上がり始めた。
「な、なんだか拍子抜けって感じだけれど、勝利したから結果オーライよね!」
ゴール地点で胸を張る雷が、右手を高々と上げて観客たちにアピールする。
『続けて2着は、先生チームの北上ちゃんですわ!』
「フフフ……、これがハイパーな北上様の……計算どーりだねー」
全く子供らしからぬ言葉と仕種も観客たちを盛り上がらせるのには一役買っているらしく、歓声が人一倍高くなった。
しかし、その言葉が本当ならば、1着を狙ってほしかったんだけど……と突っ込みたくもなっちゃうんだけど。
仮にも優勝できなかったら幼稚園が崩壊してしまうかもしれないという予想をした本人だったのなら、もう少し考えて行動して欲しかったよなぁ……。
それとも、なにか他に別の思惑が……?
『そして3着は、港湾チームのヲ級ちゃんです!』
「「「ヲ級ちゃーん、ナイスファイトーーーッ!」」」
「結果ハ満足デキナイケレド、マァ仕方ナイカナ」
言って、雷と同じように右手を上げ、ついでに触手をブンブンと振るヲ級。
「キャーッ!
ヲ級ちゅわーん、カッコカワイイーーーッ!(≧▽≦)」
少し離れた観客の中から野太く高い声が聞こえたんだけど、もしかしなくてもコンビニ店長です。
最近見なかったんで記憶から消え去ってしまうくらい薄れていた存在だったけど、ちゃっかり見にきていたのね……。
『4着は、ビスマルクチームのマックスちゃんですわー!』
「ふがいない……、ふがいない結果だわ……」
海面に立ち尽くして俯きながらブツブツと呟くマックスが、なんだか病んでいるようで怖いんだけど。
『そして残念ながら最下位となったのは、しおいチームの金剛ちゃんです!』
「オーゥ……、非常に残念な結果デース……。
だけど、弥生お姉ちゃんに言われた通り、先生のことを諦める気は全くないですカラネー!」
大声で叫んだ金剛は、右手を拳銃のような形にして俺に向け「バキューンッ!」と言った。
ついでに右目でウインクした後に、左手で投げキッス付き。
それを見た瞬間、付近の観客たちから殺意の篭った視線がぁぁぁ……。
「元帥もアレだけど、そこにいる先生もやっとくべきじゃないのか……?」
「ああ、正直に言ってうらやま……げふんげふん。
子供たちに危険が及びそうだからな」
し、視線だけじゃなくて、ヤバすぎる会話まで聞こえてくるんだけど。
争奪戦の結果前に、命を落としてしまうんじゃないんだろうか……。
「やっぱり早めにオシオキしておいた方が良いんですかね~?」
……なんてことを思っていたら、1番ヤバい相手からとんでもない言葉が飛び出してきたーーーっ!
つーか、さっき夕張のとこに行くって言ってたんじゃなかったのっ!?
「ちょっぴり脅したらすぐにゲロしちゃいましたから帰ってきちゃいました~」
「心の中を呼んで返答しないでーーーっ!
ついでに夕張は大丈夫なんですかーーーっ!?」
「2、3日ほど寝込めば大丈夫ですよ~?」
「それって大丈夫じゃない気がするんですけどーーーっ!」
ニコニコと笑みを浮かべながら答えるヤン……艦娘に突っ込みを入れつつも、背中はビッショリと冷や汗をかきまくる俺。
これって1歩間違ったら本当に消されてしまうんじゃないかと思うんだけど、マジで今日が俺の命日なんじゃ……。
『さて、これにて全競技が終了し、総合得点から優勝チームが決まりますっ!』
『果たしてどのチームが勝利したんですのっ!?』
いや、お前も知らないんかい!
……と、突っ込みを入れたくなるような熊野の言葉に、近くにいた観客数人が裏平手をかましていた。
ただまぁ、それによってなのかは分からないが、ヤン……艦娘の姿がいつの間にか見えなくなっており、俺の近くにも居る気配はない。
もしかすると命の危機は過ぎ去った……とは早計かもしれないけれど、少しは心に余裕が持てそうだ。
『それでは、全チームの競技結果と得点を発表いたしましょう!』
『泣いても笑っても、これでおしまいですわーーーっ!』
「「「うおぉぉぉぉぉっ!」」」
煽る熊野に乗りまくる観客。
俺の内心は冷や汗まみれで同じようには盛り上がれないが、それでも心のどこかで楽しみな部分もあるのだろう。
胸の高鳴りは早くなり、次の言葉が待ち遠しくなっていた。
『まずはビスマルクチームの結果です!
第1競技は1着。
第2競技は5着。
第3競技は1着。
第4競技は4着。
そして第5競技は4着になります!』
『その結果、5点、1点、5点、2点、2点の合計で、15点となりましたわー!』
「「「おおおぉーーーっ!」」」
5つの競技の合計が15点ってことは平均3点になるんだから、ビスマルクチームはなかなかの検討だったといえるのだろうか。
1着が多いと見せかけて4着や5着も取っているので、不安定なチームといえなくもない。
まぁ、メンツがメンツだからムラがあるって感じなんだよね……。得に教育者であるビスマルクがさ……。
『続いて愛宕チームの結果です!
第1競技は3着。
第2競技は4着。
第3競技は5着。
第4競技は2着。
そして第5競技は1着になります!』
『その結果、3点、2点、1点、4点、5点の合計で、15点となりましたわー!』
「な、な、なんですってーーーっ!?」
結果が流れた瞬間、遠くの方から聞き覚えのある叫び声が……って、ビスマルクだよね。
おそらく勝利を確信していたんだろうけれど、いくらなんでも気が早過ぎるだろうに。
しかし、愛宕チームの前半は厳しい展開だったものの、よくぞ後半でここまで盛り返したよなぁ……。
『続きまして、しおいチームの結果です!
第1競技は4着。
第2競技は3着。
第3競技は2着。
第4競技は1着。
そして第5競技は5着になります!』
『その結果、2点、3点、4点、5点、1点の合計で、15点となりましたわー!』
「あらあら~、どうやら他のチームと同じ点数みたいですね~」
「私が最後で失敗しなければ……。
本当に申し訳ないデース……」
「げ、元気を出して下さい、金剛お姉様!
最後まで結果は分かりませんし、そうじゃなくてもまだチャンスは……っ!」
「そ、そうですよネ!
いざとなったら、力こそ正義で頑張りマース!」
愛宕チームの待機場所とゴール地点の金剛とで会話を交わしているんだけれど、それってそれどこの世紀末なんだよ……。
『次は港湾チームの結果です!
第1競技は5着。
第2競技は1着。
第3競技は3着。
第4競技は3着。
そして第5競技は3着になります!』
『その結果、1点、5点、3点、3点、3点の合計で、15点となりましたわー!』
「ナルホド……、可モナク不可モナクナ結果ニナッタワネ」
「これって、4チームで同点ってことですよね……?」
「ソレジャアツマリ、先生チームノ結果次第ッテコトダヨネ」
「クッ……、僕ノ本気ガ完璧ニ決マッテイレバ……」
対して港湾チームは落ち着いているようだが、最終走者のヲ級だけは悔しそうに海面をバシャバシャ叩いていた。
「「「ざわ……ざわ……」」」
そしてこれらの結果を受けて、観客たちのざわめきが非常に大きくなってくる。
「い、今まで4チームの結果が出たけどさ……」
「ぜ、全チームが同点だよな……」
まさかの展開に驚きを隠せないのか、ほとんどの観客が顔色を曇らせていた。
………………。
いや、なんでそうなるんだろう。
別に子供たちの運動会の結果が出ただけで、己の運命が変わる訳じゃないよね?
まぁ、俺の場合はそうでもないですけど。
おもいっきり人生がかかっちゃってますからーーーっ!
『さあ、これが最後のチームの発表です!』
『先生チームの結果で優勝が判明いたしますわーーーっ!』
そして更に煽り立てる熊野の声で、付近の観客が両手を組んで「アーメン……」と祈り始めたと思いきや、
「お、大穴の先生チームに注ぎ込んだんだ……。
頼むからきてくれ……っ!」
………………。
……おいこらちょっと待て。
やっぱりトトカルチョが絡んでいたのかよぉぉぉーーーっ!
そういえば元帥の財布が崩壊したとか聞いたような気がするし、以前のことを考えればこの答えが導き出されてもおかしくはない。
しかし、やっぱり子供たちの運動会を賭けの対象にするのはどうかと思うんだよなぁ……。
『それでは最後、先生チームの結果です!
第1競技は2着。
第2競技は2着。
第3競技は4着。
第4競技は5着。
そして第5競技は2着になります!』
『その結果、4点、4点、2点、1点、4点の合計で、15点となりましたわー!』
「「「え……、ええええええええーーーっ!?」」」
結果を聞き、盛り上がるどころか辺り一帯に大絶叫が響き渡る。
おそらくこれらは全て、賭けをしていた者たちってことですよね……?
『つまり全チームが同点っ!
まさかの展開に、青葉もビックリですっ!』
『あまりにも出来過ぎた展開に、なにかの力を感じてしますわーーーっ!』
同じく絶叫レベルの声で放送する2人と、半ば阿鼻叫喚状態の観客たちが落ち着くのはしばらく経ってからのことだった。
次回予告
全チーム同点なんですが。
予想がついていたならナイス読み。次回で今章、第二部が終了です。
そして同点の結果、先生の立場とか色んなモノはどうなっちゃうのか……次回で判明?
艦娘幼稚園 第二部 その80「ハッピーエンド……?」(終)
舞鶴&佐世保合同運動会!
乞うご期待!
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